預金と貸出では儲からないので…銀行が「ゼロ金利・ゼロ成長」を乗り切ったビジネス手法【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月19日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
ようやく金利のある世界が戻ってきた日本ですが、長らく続いた「ゼロ成長・ゼロ金利」は、銀行のビジネスにとって非常に厳しいものでした。その間、銀行はどのようなビジネスを展開してしのいできたのでしょうか。これまでの厳しい実情と、インフレ率が上昇しはじめたこれからの展望について、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
経済がゼロ成長だと、銀行の貸出は減る
日本経済がゼロ成長だということは、平均的な一般企業にとっては「去年と同じ売上、去年と同じ利益」ですが、銀行にとっては違います。一般企業が去年と同じ利益を稼ぎ、去年と同じ配当をした残りは、銀行借入の返済に使われるからです。
経済が成長していれば、企業が増産のための設備投資を行うので銀行の貸出は増えるかもしれませんが、ゼロ成長だと銀行の貸出は去年と同じではなく、減ってしまうのです。
古くなった機械を新しいものと入れ替える「維持更新投資」は行われますが、その資金は減価償却で賄われてしまって銀行借入には繋がらないのです。「100万円の機械で100万個の製品を作れるとすると、製品1個作るたびに機械が1円分すり減ることになるので、製品価格に1円だけ上乗せしておく。そうすれば、機械が壊れるまでに100万円の資金が貯まるので、新しい機械が銀行借入なしに買える」といったイメージですね。
貸出の減少を補うため、銀行は貸出金利を引き下げてライバルから顧客を奪って来ようとしますが、ライバルも同じことをするので、結果として貸出金利が低下するだけで顧客は増えません。
牛丼店が値下げ競争をすれば、ラーメン業界から客が流れてくるかもしれませんが、銀行の値下げ競争では他の業界から客が流れてくることは期待薄ですから。
ゼロ金利だと、銀行の預金部門のコストが無駄になる
通常、銀行の預金部門は、低金利で預金を集めることで利益に貢献しています。集めた資金を銀行間金利で他行に貸し出せば儲かりますし、貸出に使うとしても「預金が集まったので、他行から借りて金利を支払う必要がなくなった。そのぶんは預金部門の貢献だ」と考えるのです。
しかし、銀行間金利がゼロだと、預金部門は利益に貢献できないので、コスト分だけ赤字になってしまいます。窓口の銀行員の人件費、通帳の印刷費、等々がそっくり赤字になってしまうのです。
そうはいっても、預金部門を廃止することはできません。廃止してしまうと、将来銀行間金利が上昇したときに預金が集まらないからです。すべての預金客に口座を解約してもらうことになれば、将来再び預金部門を再開したとしても、大勢の客に口座を開設してもらうことは容易ではないでしょう。
客としては、預金口座を持っている銀行に親しみを感じて住宅ローンを借りるかもしれません。そうしたチャンスを自ら放棄してしまうのももったいないですね。
融資先の様子がわからなくなるから、という理由も重要です。銀行は融資先の預金口座を凝視しています。売上代金の入金が最近減っているという場合には、急いで貸出金を回収する必要が出てくるかもしれないからです。他の銀行が先に異変に気づいて貸出を回収してしまうと、自分の銀行が回収する資金が残っていないということにもなりかねないからです。
預金と貸出が儲からないから、投信等の販売に注力
ゼロ成長とゼロ金利のときの銀行は、預金を集めて貸出をしても、あまり儲かりません。そこで、せめて預金部門が集めた情報から利益を得ようとして投資信託や保険の販売に注力しています。
銀行は、誰が余裕資金を持っているかよくわかっていますし、たとえば退職金が振り込まれれば、その情報は他の金融機関より先に掴むことができます。それを利用しようというわけです。
余談ですが、退職金が振り込まれると、銀行から電話がかかり、「支店長室にいらしてください」などといわれることがあります。銀行の支店長室に招かれると気分が舞い上がってしまい、支店長に頭を下げて投信購入を依頼されると断れないような気になる人も多いようです。
投信を購入すること自体は決して悪いことではありませんが、一度に多額の投信を購入するより、積立投資の方が安全です。購入した日がたまたま株価の高い日だった、というリスクがあるからです。
そうとわかれば、とりあえず支店長の依頼は断りましょう。気にすることはありません。支店長が頭を下げているのは、あなたに対してではなく、退職金に対してなのですから(笑)。
日本経済「ゼロ成長・ゼロ金利」脱出へ
上記のように、ゼロ成長とゼロ金利で銀行は苦しい状況にありました。メガバンクは海外で稼げますからまだマシでしたが、地銀は苦しかったようです。各行とも、経費の削減等に努めて苦しい時代を乗り切った、ということでしょう。
最近、ようやく景気も回復し、インフレ率も上がってきたので、銀行間金利もゼロではなくなりました。長期国債の利回りが上がってきたので、預金を集めて長期国債を買うだけでも利益が出るようになっています。この流れが今後も続けば、地銀もひと息つけるでしょう。期待しましょう。
リスクがないわけではありません。長期国債を買うということは、今後10年間の金利収入が固定されるということなので、将来預金金利が上昇しても受け取れる金利は上昇せず、「逆ザヤ」になってしまう可能性は残っています。ただ、預金金利は銀行間金利ほどは上昇しないと思われるので、過度にリスクを恐れる必要もない、ということかもしれませんね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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