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元公務員の父が退職金と貯金を投げうって始めた賃貸事業は順調だが…それでも50代姉妹が「80歳母の遺産1500万円」の相続に前向きになれない〈ある一家〉の事情【相続の専門家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月17日 10時15分

元公務員の父が退職金と貯金を投げうって始めた賃貸事業は順調だが…それでも50代姉妹が「80歳母の遺産1500万円」の相続に前向きになれない〈ある一家〉の事情【相続の専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

亡くなった母が父親の借入の連帯保証人だった場合、相続はどのように行えばよいのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、連帯保証がある場合の相続の仕方について詳しく解説します。

母親が亡くなって相続に

美佳さん(54歳女性)の母親が亡くなり、「これから相続の手続きが必要だが、相続放棄をしたほうがいいだろうか?」と相談に来られました。

美佳さんの母親は80歳で亡くなりましたが、相続人は父親と子どもが2人。長女の美佳さんと妹の由佳さん(50歳)です。基礎控除は4,800万円です。母親の財産は預金のみ、その範囲内に入ると言います。美佳さんの心配は相続税ではなく、連帯保証人の件だと言うのです。

母親は父親の借入の連帯保証人になっている

父親は20年前に賃貸事業を始めると言って、80坪の土地を購入して、賃貸ビルを建てています。賃貸ビルは1階が店舗4室、2~4階が2LDKの住居12室です。父親が1階の1室をオフィスとして使用し、2階の1室を自宅として夫婦で住んでいました。

父親は別の土地に祖父から相続した自宅がありましたが、そちらは賃貸に出し、別荘感覚で海に近い立地を探したようです。母親は、その建築費の借入の連帯保証人になっているといいます。

建築費は1億5,000万円

父親が土地を購入したのは公務員の仕事を定年退職したときです。退職金と貯金を出して土地は買えたようで、建築費は土地を担保にしたと聞いています。そのときに母親が連帯保証人になったということです。

美佳さんと妹は、2人とも嫁いで実家を離れていますので、父親が土地を買って賃貸ビルを建てることなど決まってから知らされたくらいですので、父親と母親が2人で進めた事業だと言えます。

今回、母親が亡くなったことを機に、確認すると建築費の借入は当初は1億5,000万円あり、25年経過した現在の借入残は5,000万円程です。返済期間はあと5年ありますが、ビルと元自宅の家賃収入で返済できています。

父親の賃貸事業は?

美佳さんと妹は母親の相続について、相続放棄をしたほうがいいだろうか? というのが相談の内容でした。母親の財産は預金1,500万円程。母親独自の借入はないのですが、父親の借入の連帯保証人になっていることが不安だといいます。

借入金の返済は月額、約60万円。家賃収入は自己使用以外の部分が満室稼働している場合は月額、約100万円あり、特に問題なく返済していけるバランスでスタートしています。その上に元自宅の家賃15万円が入っていますので、余裕はあると言えます。

しかし、築25年となり、最近では店舗に2か所空室があり、住居の11世帯でも3室が空室となるなど、賃貸収入が減っていることが不安材料だといいます。

相続放棄をすると自分の子どもや叔父叔母にも巻き込む

美佳さんも妹も、賃貸事業に不安があり、連帯保証を引き継ぐのも不安ということがご相談の内容でした。母親の相続を放棄する選択肢もありますが、そうすると最初から子供がないとなり、自分たちの子どもが代襲相続人となり、相続権が移ります。連帯保証も子どもたちに引き継がれることになるのです。

代襲相続人である自分たちの子どもも相続放棄すると、亡くなった母親のきょうだいである叔父や叔母に相続権が移ります。

よって事情を知らない子どもや叔父叔母にその実情を知らせる必要が出てきます。連帯保証を引き継がないといけない事情がわかると次は相続放棄の手続きが必要となり、費用や時間もかかるということです。よって安易に相続放棄を選択するのではなく、現実的な対処法を選択する方がいいことをアドバイスしました。

連帯保証を解消する方法は売却、住みかえ

連帯保証とは借入をした本人(債務者)と連帯して返済する責任を負う役割のことです。けれども、これは借入金に関しての責任ですので、借入金を返済することで連帯保証から解放されるのです。

父親が賃貸物件を売却し、売却代金で借入残をすべて返済してしまえば、連帯保証はなくなるということですので、売却をお勧めしました。

父親は一人暮らしになったということもあり、介護やサポートが必要になると子どもの美佳さんと妹の役目となるのですが、2人ともすぐに駆け付けられる距離ではないといいます。ならばこの機会にビルを売却し、介護やサポートがついている高齢者住宅に住み替えることでいろいろな不安が解消できます。

美佳さんは、父親と妹と話をして、相続放棄ではなく、借入返済の方向で進めていきたいと言って帰られました。売却することで連帯保証も、介護の不安も解決できます。

連帯保証がある場合の相続の仕方

亡くなった母親が連帯保証人であった場合、その保証債務を相続人である子どもが引き継ぐ必要があるかどうかを以下に説明しておきましょう。

連帯保証債務は原則相続される

1. 基本原則

・連帯保証債務は、被相続人(お母様)の債務とみなされ、通常は相続人に相続されます。

・これは、被相続人が生前に負っていた金銭債務やその他の負債と同様に扱われるためです。

2. 相続する場合の負担範囲

・連帯保証債務も他の債務と同じく、相続人が引き継ぐ負担には制限がありません。保証債務の全額について返済義務を負います。

相続放棄をすれば保証債務は引き継がない

1. 相続放棄の効果

・相続人が相続放棄を行うと、法律上、最初から相続人ではなかったとみなされます(民法第939条)。

・そのため、連帯保証債務も含め、被相続人が残したすべての財産や負債を引き継がなくなります。

2. 手続き

・相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申立てを行う必要があります。

・相続放棄を希望する場合、相続財産や負債の内容を早めに確認することが重要です。

注意点

1. 相続放棄をしない場合のリスク

・相続放棄をしない場合、連帯保証債務を相続することになり、主たる債務者が返済を滞ると相続人に返済請求が来る可能性があります。

2. 複数の相続人がいる場合

・相続放棄をした人は負債を相続しませんが、他の相続人が放棄しなかった場合、その人が連帯保証債務を引き継ぐことになります。

・全員が相続放棄すれば、負債は相続人全体に引き継がれません。

3. 限定承認

・相続放棄の代わりに、「限定承認」という選択肢もあります。

・限定承認を行うと、被相続人の財産の範囲内で負債を返済する義務を負い、それを超える債務については責任を負わない仕組みです。

・ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があります。

子どもが相続放棄をした場合はどうなる?

相続人の子どもが相続放棄した場合の状況を再度、整理しておきましょう。

・子どもが相続放棄する。

・子どもの子(孫)が相続放棄する。

・被相続人には兄弟姉妹がいる。

・被相続人の親(直系尊属)はすでに亡くなっている。

この場合、相続人がどのようになるかを詳しく説明します。

相続順位と相続放棄の影響

1. 第1順位:子ども(直系卑属)

被相続人の子どもが相続放棄をした場合、その子ども(孫)が代襲相続人になります(民法887条2項)。孫も相続放棄をした場合、代襲相続はさらに次の世代には拡大しません(孫以降の子どもがいれば、さらに代襲相続する可能性がありましたが、その場合も相続放棄することで相続人から外れます)。

2. 第2順位:直系尊属(親)

・親がすでに亡くなっているため、直系尊属には相続権がありません。

3. 第3順位:兄弟姉妹

・第1順位(子どもや孫)がすべて相続放棄すると、相続権は第3順位である被相続人の兄弟姉妹に移ります(民法889条)。

最終的な相続人

孫が相続放棄したことで、第1順位の相続人がいなくなるため、相続権は第3順位である被相続人の兄弟姉妹に移ります。

・配偶者は常に相続人として残ります(民法890条)。

・被相続人の兄弟姉妹が相続人として加わります。

相続割合

・配偶者:4分の3

・兄弟姉妹:4分の1(複数いる場合は均等に分割)

重要な注意点

・相続放棄を行った人は、法律上、最初から相続人ではなかったとみなされます(民法第939条)。

・すべての相続放棄が確定した時点で、次順位の相続人に移行します。

・配偶者は相続順位に関係なく常に相続人です。

孫も相続放棄をした場合の相続人

・配偶者:常に相続人(4分の3を取得)。・被相続人の兄弟姉妹:残りの4分の1を取得(複数いる場合は均等分割)。

曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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