わずか3週間で人は獣になる…世界恐慌が露わにした「人間が持つ恐ろしい本性」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月6日 8時15分
安定した情勢が、一気に不安定になり先行きが見えなくなると、人々は強いストレスから通常時には考えもつかないような判断を下すようになります。世界恐慌時には、人々の価値観は瞬く間に激変しました。本記事では、モーガン・ハウセル氏の著書『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方』(三笠書房)より一部を抜粋・編集し、世界恐慌時の人々の価値観の変動について、ご紹介します。
世界恐慌は「人間の本性」をここまでむき出しにした
1929年に始まった世界恐慌は、ただ経済が崩壊したというだけでなく、その結果、人々の価値観が瞬く間に激変したという点で、非常に興味深い。
1928年、アメリカ国民は史上稀に見る圧倒的大差(選挙人団の獲得票数が444票)でハーバート・フーヴァーを第31代アメリカ大統領に選出した。だが、1932年、彼らは圧倒的大差(選挙人団の獲得票数が59票)でフーヴァーを大統領職から退かせた。
そこから、状況は一変した。金本位制が廃止され、実質的に金の所有が禁じられた。公共事業が急増した。
税金で老齢年金を賄おうとする試みはそれまで何十年も進展しておらず、第一次世界大戦後の最も過激化した時期には、公的老齢年金推進の支持者が国会議事堂の芝生で逮捕される事件まで起こった。
世界恐慌は、いわばそのスイッチを切り替えた。非主流派のアイデアが突如として受け入れられたのだ。1935年、下院で372対33票、上院で77対6票で社会保障法が可決された。
一方で、経済危機のもと、1933年に第32代アメリカ大統領に就任したフランクリン・ルーズベルト打倒を目論んだ裕福な実業家たちが起こしたとされるクーデターが勃発した。
スメドリー・バトラーという海兵隊大将が独裁者として君臨したが、その行動は当時ヨーロッパを席巻していたファシストに通ずるものがあった。
こういう出来事は、人々がお腹いっぱいに食べられ、安定した仕事につけているときには起こらない。人々は人生がひっくり返され、希望が打ち砕かれ、夢が不確かなものになって初めて、こう言うのだ。
「前に聞いた突拍子もないアイデアはなんだったかな?今、やってみるのはどうか。どうせ何もうまくいっていないんだ。やってみてもいいんじゃないか」
コメディアンのトレバー・ノアは、母国である南アフリカのアパルトヘイトについて、かつてこう述べた。
「絶望と恐怖の絶妙なバランスがわかる人は、人々になんでもさせることができる」
渦中にいない限り、このことを理解するのは非常に難しい。また、リスクや恐怖や絶望に自分がどう反応するかもわからない。
1930年代のドイツほど、このことを強く痛感させる場所はない。当時、ドイツでは世界恐慌を前にして凄まじいハイパーインフレが起こり、紙幣による富がすべて無と化した。
『What We Knew(私たちが知っていたこと)』(未邦訳)という著書は、第二次世界大戦を経験したドイツ国民へのインタビューを中心に、どこよりも先進的で文明的な文化を誇っていた国が、いかにして急激に変化し、人類史上最悪の残虐行為を犯すに至ったかを解き明かそうとしている。
[聞き手]:インタビューの冒頭で、ほとんどの大人はヒトラーが講じた措置を歓迎したとおっしゃいましたね。
[ドイツ国民]:ええ、それはもう。1923年に起こったインフレを思い出してみてください……(通貨が)一兆倍に暴騰したのです……そこにアドルフ・ヒトラーが新しいアイデアを持って権力を握った。それで多くの人の暮らし向きが実際によくなったんです。何年も失業していた人も仕事につけるようになった。そりゃあ、国民みんなが賛成しますよ。自分を緊急事態から救いだして、よりよい生活に導いてくれる人がいたら、その人を支持するようになるものです。そんなときに、人々がこう言うと思います?
「これはまったくのでたらめじゃないか。そんなの反対だ」
いや、言わないですよ。
強いストレスがかかると「3週間で人は獣になる」
強制収容所(グラーグ)に15年間にわたり収容された、詩人のヴァルラーム・シャラーモフはかつて、ストレスと不安にさらされたごく普通の人々が、いかにあっという間に正気を失ってしまうかについて書いた。
善良で正直で愛情深い人も、基本的な生活必需品を剝奪されたら、生きるためならなんだってするような、モンスターに変わり果ててしまう。
強いストレスがかかると、「3週間で人は獣になる」と、シャラーモフは書いている。
歴史家のスティーヴン・アンブローズは、第二次世界大戦中の兵士たちの変化について記録している。基礎訓練を終えた兵士たちは、自信と虚勢に満ちあふれ、前線に加わることや戦うことを熱望した。しかし、いざ銃撃されると、すべてが変わった。
アンブローズはこう書いている。
「訓練で戦闘に備えられるわけがない」
銃の撃ち方や命令への従い方は教えてもらえるかもしれない。しかし、「機関銃の砲火が飛び交う戦地で、銃弾の破片の雨が降りしきる中、無力に横たわる方法を教わることはできない」。実際に経験するまで、誰も理解できないのだ。
これらは極端すぎる例である。しかし、ストレス下にある人々が、ストレスのかからないときなら決して受け入れないようなアイデアや目標に飛びつくことは、歴史のそこかしこで起こっている。
第二次世界大戦後、94パーセントの税率が適用された。
1920年代までは低税率が最も人気のある経済政策であり、増税を提唱する者は片隅に追いやられていた。しかしその後、世界恐慌と戦争の二重苦ですべてが崩壊した。
1943年、フランクリン・ルーズベルトは年間40万ドル相当までを実質的な所得の制限とし、それ以上の所得には94パーセントの税を課した。翌年、ルーズベルトは圧倒的大差で再選を果たした。
第40代アメリカ大統領レーガンが行なった社会福祉支出の抑制、規制緩和と大幅減税である「レーガン革命」も同じだ。
1964年の時点では、アメリカ国民のほぼ80パーセントが政府に高い信頼を寄せていた。だが、1970年代に入り、高インフレと高失業率が何年も続いたことで、政府こそ問題の原因であり、解決策になっていないと糾弾する政治家に、国民は耳を傾けるようになった。
ここでの大きなポイントは、たとえば5年後や10年後に、人々がどんな政策を求めるようになるかは、まったくわからないということだ。予期せぬ苦難は、平穏なときには想像もしないようなことを人々にさせ、考えさせる。
著者:モーガン・ハウセル 翻訳:伊藤みさと
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