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「実家だけは、同居している長男家族に遺したい」…不仲の長女を抱える〈77歳・父〉の相続対策【行政書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月22日 12時15分

「実家だけは、同居している長男家族に遺したい」…不仲の長女を抱える〈77歳・父〉の相続対策【行政書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

相続を見据えて終活を検討するべきは、一部の富裕層だけではありません。行政書士・平田康人氏が、事例を基に揉めないためのポイントや具体策を解説します。

【事例】実家だけは長男に遺したい

妻亡きあと、長男家族と実家で同居する利夫さん(77歳・仮名)。利夫さんは、自分亡きあとも長男家族が実家に住み続けられるよう、遺言の作成を考えています。

長男から同居の提案があったのは、利夫さんが70歳を目前にした年の冬のこと。妻を亡くしてから8年が経っていた当時、食事や身の回りのことが十分にできていなかった利夫さんを見かねてのことでした。

長男家族と一緒に生活できるのは嬉しいが、築40年を過ぎた実家はあまりにも古く、狭すぎるのではないか。そう考えた利夫さんは、同居前に自身の預貯金から1,800万円ほどかけて実家を増改築しようと長男と話し合いましたが、結局「ある心配ごと」を理由に断念しました。

「ある心配ごと」とは、利夫さんのもう1人の子どもである長女の存在です。

長女は早くに実家を離れて家庭を築いていますが、長男は長女とも、また長女の夫とも折が合わず、疎遠な兄妹関係が何年も続いています。そのことを利夫さんは知っていましたし、長男と同居することを伝えたときの長女の怪訝な顔や、長女を通じて口を挟みそうなその夫の顔が頭に浮かびました。そんななか同居のためのリフォーム費用を利夫さんの預貯金から賄ったとなれば、兄妹間に争いの火種を作るようなものです。

そこで今回は、増改築にかかるリフォーム代金全額を長男が払い、そのうえでリフォーム部分が贈与にならないように、実家の建物を利夫さんと長男の共有名義としました。

ポイント:「もし、今相続が発生したら」を想像してみる

長男と同居したのち、利夫さんが何の生前対策もせずに相続が発生した場合、利夫さんが所有する実家の土地と建物(共有持分)は遺産分割の対象となります。そして、兄妹による遺産分割の結果、土地と建物が長男・長女との共有名義になれば、長女は実家に住む長男に対して、自身の持分に応じた地代や家賃相当分の金銭の支払いを請求することができます。また、もし換価分割となれば、長男家族は現在の住まいを退去せざるを得なくなってしまいます。

ちなみに類似ケースとして、実家近くの「親の所有地」上に、推定相続人である子どもが自分名義の家を建てて家族で住み、親の世話をするということもよくあります。その場合でも、親の相続が発生すると建物の敷地は遺産分割の対象となり、本事例と同様の懸念は拭えません。

対策:特定承継遺言を作成し、実家を「遺産分割の対象外」に

裁判所に持ち込まれる遺産分割争いのうち、約8割近くが遺産額5,000万円以下。つまり、一般的な家庭で起こっています(令和4年度司法統計)。また、相続発生後に相続人の配偶者が口を出すことで揉めるケースも少なくありません。

この実情を踏まえると、利夫さんは自分亡きあとに長男と長女が争うことのないよう、自身の判断能力が低下する前に有効な生前対策を講じておく必要があります。具体的には、「実家の土地と建物の持分は長男に相続させる」といった内容の特定財産承継遺言を作成し、遺言のなかで遺言執行者を指定しておくことです。

特定財産承継遺言とは、遺産の分割方法の指定として、特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言をいいます(民法第1014条2項)。

以前は、このような遺言を「相続させる旨の遺言」と呼んでいましたが、令和元年施行の改正民法により「特定財産承継遺言」という呼称に変更されました。

特定財産承継遺言が作成されているときは、相続させる特定の財産の所有権は当該相続人にただちに帰属することになりますので、その特定遺産(本事例の場合、実家の土地や建物の共有持分)は遺産分割の対象にはなりません。

また、有効な遺言書がある場合でも、遺言内容に不満を持つ相続人の協力が得られず、相続手続きが進まないということが少なからず起こります。そんな場合でも、遺言で遺言執行者を指定しておくことで、相続手続きをスムーズに進める有効な手段となります。

遺言執行者とは、相続人を代表して、遺言の内容を実現するために必要な一切の手続きをする人のことです。遺言執行者は、相続手続きを単独で行う義務と権限を持っており(民法第1012条①)、相続人でも遺言の執行を妨げることはできません(民法第1013条①)。

遺言執行者になれる条件は「未成年者および破産者以外の人(民法第1009条)」で、法人でも、相続人のうちの1人でも、専門家(税理士や行政書士など)でも、遺言執行者に指定することはできます。

ただし、相続人のうちの1人が遺言執行者に指定されて相続手続きをする場合、他の相続人から公正さを疑われたり、金融機関によっては預貯金の解約や名義変更に応じてもらえなかったりする場合もあるため注意が必要です。

特定承継遺言を作成するうえでの注意点

特定財産承継遺言をする際には、4つの注意点があります。

第一は、相続人の遺留分に配慮することです。遺留分とは、相続人に保証されている最低限の遺産の取得割合のことをいいます。仮に、遺留分を侵害する内容の遺言であっても法律上は有効と扱われますが、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることで、遺留分侵害額に相当する金銭を取り戻すことができます。

本事例で遺留分侵害が想定される場合、長男は長女への金銭支払いを想定しておくか、利夫さんが生前に生命保険に入っておくなど、揉めないための準備は必要となります。

第二は、形式不備による遺言書の無効リスクに注意することです。

特定財産承継遺言による遺言書を作成する場合、主に「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかが選択されます。自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文を自筆で作成し、費用もかからない方法ですが、形式面の不備によって無効になるリスクがあります。

他方、公正証書遺言は、作成費用はかかりますが、2人以上の証人が立ち会って公証役場の公証人が作成するので、形式面の不備によって遺言が無効になるリスクはほとんどありません。したがって、本事例の場合でも、公正証書遺言を作成しておくと安心です。

第三は、代襲相続も想定しておくことです。例えば特定財産承継遺言を作成したあと、受益相続人の長男が遺言者より先に死亡した場合、長男の子(遺言者の孫)が、長男に代わって特定財産を代襲相続できるか?という問題があります。

判例では、「長男の子やその他の者に相続させる旨の意思など特段の事情がない限り、代襲相続できない」としています。そうなると、特定財産は代襲相続されず、遺産分割の対象となります。

この対策としては、遺言書のなかに「遺言者〇〇(利夫さん)の死亡以前に受益の相続人△△(長男)が死亡したときは、その代襲相続人■■(孫)に相続させる」とする一文を記載しておくことです。

第四は、特定財産相続後の登記を迅速に完了させることです。特定財産承継遺言がある場合、特定財産の受益相続人は単独で相続登記をすることができますが、その承継した権利が自身の法定相続分を超える場合、登記の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとされています。

本事例の場合、長女が長男に無断で、法定相続分での相続登記(単独でできます)をしたあと第三者に持分を譲渡してしまったら、長男は第三者に対して所有権を主張できないということになります。

平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

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