庶民をいじめて楽しいですか?…年収480万円・50歳“普通のサラリーマン”が「税務調査」を受けた結果〈追徴額300万円〉を課された“納得したくない”理由【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月26日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続税の税務調査というと、富裕層や多額の遺産を相続した人など、限られた一部の人が対象になるというイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、税理士の宮路幸人氏によると“ごく普通の家庭”であっても税務調査の対象になるケースがあるそうです。具体的な事例をもとに「なぜ」「どのような場合に」一般家庭が税務調査の対象となるのか、詳しくみていきましょう。
疎遠だった亡き父の「ほんとうの気持ち」
サラリーマンのAさん(50歳)には、疎遠にしている父Xさんがいます。昭和気質のXさんは口数が少なく、Aさんが子どもの頃から声をかけるのは叱るときだけ。褒められた記憶などありません。Aさんはそんな父が苦手で、就職を機に家を出てからというもの、長いあいだ実家に顔を出さずにいました。
このたび、母親から父が亡くなったと連絡を受け、久々の帰省を決心。実家に着くと、早々に「遺産分割」についての話し合いが行われました。
母親「お父さんの通帳を調べていたんだけどね、『孫のために』って、こっそりお金を貯めていたらしいのよ。Bちゃん名義の通帳を見つけて、私もびっくりしちゃった。Bちゃんが生まれた次の年から、Bちゃんのお誕生日にきっちり毎年110万円振り込まれていたの。ほら、見てよこれ」Aさんには現在15歳の娘Bさんがいます。どうやら父は、自身の孫にあたるBさんのために生前贈与を考えていたようです。
Aさん「は? なんで!? いや、ありがたいけどさ……」
母親「通帳にメモが挟まっていたんだけど、Bちゃんが将来、大学に行くときや結婚するときに使ってほしいんですって。あんたはお父さんを嫌って全然こっちに帰ってこなかったけど、いつもあんたやBちゃんを心配していたのよ。きっと自分では渡せないと思ったから丁寧にこんなメモまで残して、私に見つけてほしかったんでしょうね」
Aさん「……。で、でも、なんで110万円なの? なんかキリが悪い感じがするけど」
母親「お母さんも詳しくは知らないけど、メモには『これは非課税だから申告不要。全額Bに使えるお金』って書いてあったわ」
Aさん「なんだよ、それ……俺たちのことを気にかけているんだったら、なんでもっと素直に連絡くれなかったんだよ!」
亡き父の想いを知り「孫の顔をもっと見せてやればよかった」と後悔するAさん。思わず涙がこみ上げます。
「このお金は大事に使おう。Bが大学に進学したら、『じいちゃんがくれたお金だ』とちゃんと伝えてから、父の意向どおりまとめて渡そう」
そう心に誓ったのでした。
税務署は容赦なし…亡き父の想いを“一刀両断”
それから2年ほど経ったある日、Aさんのもとに税務署から連絡が入りました。聞けば「相続税調査に伺いたい」とのこと。
「どうしてうちに? 税務調査って、もっとお金を持っている富裕層や怪しい会社の社長が受けるやつだろ? 相続税の申告だってきちんと済ませたはずだし……」
疑問に思ったAさんでしたが、断る理由は特にありません。「なんだかドラマみたいだな」と少しだけワクワクしながら、素直に了承しました。
庶民をいじめて楽しいですか?…Aさんが思わず嫌みを吐いた調査官の“言い分”
そして調査当日。Aさんのもとに2人の税務調査官が来訪しました。和やかな雑談から始まり、徐々に警戒心もほぐれてきたころ、調査官はAさんに次のように尋ねます。
調査官「このお孫さん名義の通帳はなんでしょうか?」
Aさん「あぁ、これはですね……父が生前、私の娘のためにお金を貯めてくれていたみたいなんですよ。毎年110万円ずつ、生前贈与として貯めてくれていました。大学進学時や結婚時に使ってほしいそうで、このお金は父の意向どおり、ありがたく使わせてもらおうと思っています」
調査官「なんと、それは素晴らしいお父さまですね。では、娘さんもこの通帳の存在は知っていて、自由に引き出せる状況ということでしょうか?」
Aさん「いやいや、娘はまだ高校生ですよ? こんな大金があるなんて知ったら道を踏み外してしまうかもしれない。いまは私がきちんと管理しています」
調査官「……なるほど。んん、そういうことであれば、残念ながらこの通帳はお父さまの『名義預金』となるため、課税対象となってしまいますね」
Aさん「は? いやいや、え。なんで? 生前贈与は毎年110万円までなら非課税なんですよね?」
1ミリも納得できないAさんでしたが、結果は覆りません。今回の相続税調査によって、相続税本税と加算税を含めて300万円もの追徴税を課されることに。Aさんの年収は480万円ですから、年収の6割以上を納めなければいけない計算です。
「300万円!? 冗談だろ? 俺はなにもしていないのに、ふざけんなよ……。ねえ税務署さん、政治家たちは見逃してあげるのに、私たちみたいな庶民をイジメて楽しいですか?」
途方に暮れたAさんは、泣く泣く投資信託を解約して納税にあてたのでした。
納得できない気持ちはわかるが…「生前贈与」の注意点
そもそも、「贈与」とは当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって初めて成り立ちます。簡単にいえば「タダであげます」「もらいます」というお互いの意思表示が必要です。
今回のケースでいえば、Xさんは孫のBさんにも、その親であるAさんにも内緒で贈与を行っていました。よって、そこに合意はありません。
そのため、贈与を有効に成立させるためには、贈与の合意があったことを客観的に証明できなければならないのです。
合意は口頭と書面どちらでもかまいませんが、民法では「書面の契約書による贈与でない場合、実際にそれを実行しなければ、あとで取り消すことができる」とされています。
今回のように税務調査があった場合のことを考慮すると、書面による「贈与契約書」を作成しておいたほうがよいでしょう。そして、万が一税務調査の対象になった場合にお金の流れを明確に説明できるよう、口座振り込みによる贈与をおすすめします。
生前贈与を行う際は、「合意」と「証拠」を意識して
今回のように、入金している本人は贈与のつもりであっても、後日税務調査により「名義預金」であると指摘された結果、「受け取り手」が追徴税を支払うというケースは珍しくありません。
税務署は家族名義の口座残高も調べられるため、働いていない子どもや孫の口座に多額の預金がある場合、名義預金ではないかと疑われ、調査対象となる可能性が高まります。
生前贈与を検討する場合は専門家に相談するなどして、“本来納める必要のなかった税金”を納めることのないよう、「合意」と「証拠」を忘れずに行いましょう。
宮路 幸人
宮路幸人税理士事務所
税理士/CFP
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