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身内なのに遺体も遺留品も引き渡されない⁉︎ 独居だった80代叔母の遺産…「死亡届」も出せない“異例の相続事態”【司法書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月3日 8時15分

身内なのに遺体も遺留品も引き渡されない⁉︎ 独居だった80代叔母の遺産…「死亡届」も出せない“異例の相続事態”【司法書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

独居高齢者の増加が進む現代社会では、一人暮らしのまま亡くなる「孤独死」が重大な社会問題となっています。今回の事例は、80代で亡くなったA氏の相続手続きにおいて、死亡届を提出できず遺体が「身元不詳者」として扱われたという衝撃的な内容です。以下、司法書士法人CKリーガル所長の竹下洋一氏が、法律や手続きの壁が浮き彫りとなったこの問題を通じて、孤独死の現実とその社会的な課題について解説します。

通常の相続手続きではなかった……死亡届が提出できない“事情”

令和5年某日、被相続人A氏(80代女性)の相続人X氏から依頼を受けた事件の備忘録です。

さて、本備忘録の内容は、叔母であるA氏の相続人であるX氏から、A氏の相続手続きをしてほしいとのご依頼を受けたものでした。これはよくある相続手続きの依頼に見えますが、通常の手続きとは決定的に異なる事情がありました。

その事情とは、被相続人A氏について「死亡届を役所へ提出できていない」という点です。

死亡届が提出できないと、A氏の死亡が記載された戸籍謄本が取得できず、相続人X氏は相続手続きに進むことができません。では、なぜ死亡届が提出できなかったのでしょうか。以下に関係者の証言をまとめました。

1.隣家住人B氏の証言

①A氏は一人暮らしであり、友人が訪れる気配もなく、普段は自宅にいるか、または仕事に行っているかのどちらかだった。

②7月30日16時頃、玄関先でA氏と挨拶を交わした。その際、A氏は「仕事に行く」と言って外出したが、それ以降、姿を見ていない。

③同日23時頃、A氏がいつも仕事から帰る時間帯に、A氏宅から玄関を開ける音がした。その際、台所にいたB氏は自宅の窓越しに、A氏宅2階の部屋の電気がついたのを確認した(A氏が帰宅したのだと思った)。

④その後、A氏宅2階の部屋の電気はずっと点灯したままだった。

⑤普段、A氏が在宅している場合は聞こえるはずのテレビやラジオの音が聞こえないことから、A氏の安否を心配し、8月2日に福祉関係者に相談の電話をした。

2.福祉関係者C氏の証言

①B氏からの連絡を受け、8月2日にA氏宅を訪問。しかし、呼びかけに応答がなかったため、その日は引き上げた。

②8月18日に再度訪問するも、やはり応答がなかったため、その日も引き上げた。

③8月26日、B氏から「A氏宅から異臭がする」との連絡を受け、所轄警察署へ通報した。

④同日17時30分頃、警察職員2名とともに現場に向かい、警察職員がA氏宅に突入した。C氏は玄関先で待機していたが、その後救急隊員も到着し、2階でA氏の遺体を発見したとの報告を受けた。救急隊員の確認では、瞳孔反応がなく死亡が確認されたとのことであった。

⑤その後、警察職員より、「2階で腐乱した遺体を発見した」との説明を受けた。

3.所轄警察署への確認

①A氏の遺体付近にあった財布や通帳など、A氏のものと思われる遺留品を警察が押収している。

②A氏の相続人であるX氏のDNA鑑定が実施されたが、サンプルが少ないこと、血縁関係が遠いこと(X氏はA氏の甥)などの理由により、遺体とのDNA一致が確認できなかった。そのため、A氏宅内の遺体は「身元不詳者」として扱われることとなった。

③このような事情から、A氏の死亡届に通常添付すべき死体検案書を作成することができなかった。

死体検案書が交付されない理由と“その影響”

死亡届の提出には、戸籍法86条2項に基づき、死亡診断書または死体検案書の添付が必要です。しかし、上記の理由により、所轄警察署はA氏の死体検案書を交付できない状況でした。この結果、死亡届の提出ができず、A氏の遺体は「身元不詳者」として扱われることとなったのです。

警察の捜査が完了した後、A氏の遺体は所轄警察署内で安置され、その後役所に引き渡されました。その後、役所の委嘱によって火葬される、というのが一般的な流れだとされています。しかし、相続人X氏は、役所に対してA氏の遺体や遺留品の引き渡しを求めましたが、役所側は「身元不詳者の遺体」として処理せざるを得ないとの結論を伝えました。X氏にとっては非常に困惑する状況だったと言えます。

解決策としての「戸籍法86条3項の適用」

このような状況の中、何か方法はあるはずだと、知り合いの弁護士に相談してみたところ、戸籍法86条3項の規定は使えないだろうかという話になり、その可能性に賭けてみることにしました。

戸籍法86条3項:やむを得ない事由によって死亡診断書または死体検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面をもってこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書または検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

具体的には、前述の証言や状況を報告書形式でまとめ、A氏が自宅で死亡していたことに間違いない旨を記載した書類を「死亡の事実を証すべき書面」として死亡届に添付しました。

本件は前例がなく、役所内で受理の可否を判断できなかったため、法務省に確認を要しました。提出後、正式に受理されるまでに3ヵ月を要しましたが、最終的に無事に受理され、A氏の相続手続きを完了させることができました。

増え続ける孤独死──法的課題と社会的影響

独居高齢者の孤独死は、すでに深刻な社会問題となっており、今後もその増加が懸念されています。今回のA氏のように、自宅で一人亡くなった結果、身元不詳者として扱われる事態が起こることは、亡くなった方にとっても、残された家族にとっても不幸なことです。

このような状況を少しでも防ぐために、社会全体で孤独死の問題や法的な課題について考え、必要な支援や仕組みを整えていくことが求められています。誰もが安心して暮らし、人生の最期を迎えられる社会の実現を心から願っています。

司法書士法人CKリーガル所長

司法書士

竹下洋一

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