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日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月25日 7時0分

日本の少子化の原因と最近の財源に関する議論について

(写真はイメージです/PIXTA)

2022年の日本の出生率は1.26となり、過去最低を記録した2005年に並ぶ水準となった。日本の少子化はなぜ止まらないのだろうか。そこで本稿では、少子化の原因と、少子化対策における「財源」を確保する方法について、ニッセイ基礎研究所の金明中氏が詳しく解説する。

少子化の原因は?

合計特殊出生率(以下、出生率)の低下が止まらない。2022年の日本の出生率は1.26となり、過去最低だった2005年に並ぶ過去最低の水準となった([図表1])。韓国の0.78よりは高いが、OECD平均1.58(2020年)を大きく下回る数値だ。

なぜ日本では少子化が進んでいるだろうか。最初の原因として考えられるのが「未婚化や晩婚化の進展」だ。日本の場合も韓国と同じく、男女が結婚してから出産をするケースが多い。従って、未婚化や晩婚化が進むと、生まれる子どもの数に影響を与えることになる。25~29歳と30~34歳の男性の未婚率は1960年の46.1%と9.9%から、2020年には72.9%47.4%に上昇した。

また、25~29歳と30~34歳の女性の同期間の未婚率も21.7%と9.4%から62.4%と35.2%まで上がっている。国立社会保障・人口問題研究所が公開している『人口統計資料集(2022)』によると、50歳になった時点で一度も結婚したことがない人の割合を示す生涯未婚率は2000年の男性12.6%、女性5.8%から、2020年には男性28.3%、女性17.1%に、男性は約2.2倍、女性は約3.1倍も増加した。平均初婚年齢も夫、妻ともに上昇を続け、晩婚化が進んでいる。1975年に夫27.0歳、妻24.7歳であった平均初婚年齢は2020年には夫31.0歳、妻29.4歳まで上昇した。

少子化の2つ目の原因としては、若者の結婚及び出産に関する意識が変化していることが挙げられる。

国立社会保障・人口問題研究所が5年ごとに実施している「出生動向基本調査」によると、18~34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と回答した割合は1982年で男性95.9%、女性94.2%から、2021年には男性81.4%、女性84.3%に低下した。

また、結婚相手紹介サービスを提供する株式会社オーネットが成人式を迎える新成人を対象に毎年実施している「恋愛・結婚に関する意識調査」でも、「結婚したい」と回答した新成人の割合は、ピークであった1997年の89.5%から2023年には78.6%まで低下していることが明らかになった。

さらに、同調査では結婚したら「子供が欲しい」かを聞いているが、「子供が欲しい」と回答した割合は2019年の69.3%から2023年には64.1%に低下している。両調査から若者の結婚及び出産に関する意識が変化していることが分かる。

では、なぜ「結婚したい」若者は減少しているだろうか。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」では、結婚意思のある未婚者に、現在独身でいる理由をたずねており、その結果をみると、25~34歳では、「適当な相手にまだめぐり会わないから」と回答した割合が男性43.3%、女性48.1%で最も高いという結果が得られた。次いで,「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」(男性26.6%、女性31.0%)、「結婚する必要性をまだ感じないから」(男性25.8%、女性29.3%)の順であった。

財務省総合政策研究所が2015年に実施した調査では、「現在交際している人と(あるいは理想的な相手が見つかった場合)一年以内に結婚するとしたら、なにか障害になることがあると思いますか」をたずねており、男性も女性も「結婚資金(挙式や新生活の準備のための費用)」を最大の障害として、「結婚生活のための住居」を2番目の障害として挙げた。

少子化を加速させる要因は?

少子化の3つ目の原因としては、育児に対する経済的負担が大きいことが挙げられる。特に、子どもの教育費が子育ての負担になっている。文部科学省の「平成30年度学校基本統計(学校基本調査報告書)」によると、小学校から大学まで、1人にかかる教育費は、幼稚園から大学まですべて公立校に通った場合は約800万円、すべて私立校なら約2,300万円もかかる(文部科学省「結果の概要-令和3年度子供の学習費調査」、「令和3年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」から計算)。

内閣府が2021年に発表した「少子化社会に関する国際意識調査」(調査期間:2020年10月~2021年1月、調査対象:子どもがいる20~49歳の男女))によると、2020年時点で子育てにかかる経済的負担として大きなもの(複数回答)は、「学習塾など学校以外の教育費」(59.2%)、「学習塾以外の習い事費用」(42.8%)、「保育にかかる費用」(39.0%)が上位3位を占めた。特に、「学習塾など学校以外の教育費」と「学習塾以外の習い事費用」と回答した割合は2010年の調査と比べてそれぞれ22.7ポイントと22.9ポイントも増加した。

少子化の4つ目の原因としては、依然として男女別賃金格差が存在していることが挙げられる。2021年の男性の賃金水準は女性と比べて22.1%高く、2021年の男性の賃金水準は女性と比べて31.1%高く、OECD平均12.0%を大きく上回っている([図表5])。

統計的差別や賃金格差がなくなり、女性が男性と同等に労働市場に参加することになると女性は男性に経済的に頼らなくなり、性別役割分担意識もなくなる。統計的差別とは、差別を行う意図がなくても、過去の統計データに基づいた合理的判断から結果的に生じる差別をいう。

つまり、まだ一部の企業は、「〇割の女性が出産を機に仕事を辞める」、「女性の〇割は専業主婦になることを望んでいる」といった統計データに基づいて採用を行っており、その結果統計的差別が発生している。そして、子育てに対する経済的負担が減り一人でも子育てができるという自信ができ、出産を肯定的に考えることになるだろう。

少子化の5つ目の原因としては、育児や家事に対する女性の負担が大きい点が挙げられる。OECDが2020年にまとめた生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)1によると、男性の1日あたりの有償労働時間(市場で労働力を提供して対価を得る時間)は日本が452分で最もながいことに比べて、無償労働時間(家事、育児、介護、育児、買い物、ボランティア活動など対価を要求しない労働時間)は41分で最も低いことが明らかになった。日本の男性の家事・育児時間は、主要先進国と比較するとまだ少なく、女性に家事や育児への負担が偏っていることがうかがえる。

さらに、日本では男性の育児休業取得率も低い。厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2021年における民間企業に勤める日本の男性の育児休業取得率は13.97%で過去最高を更新したものの、女性の85.1%とはまだ大きな差を見せている。


1 OECD(2020)「Balancing paid work, unpaid work and leisure」

解決すべきは「育児休業中の所得確保」…そのワケ

日本政府は男性の育児休業取得率を2025年までに30%に引き上げるという目標を掲げており、それを達成するために、2021年6月、男性の育児休業取得促進を含む育児・介護休業法等改正法案を衆議院本会議において全会一致で可決・成立させた。その結果、2022年10月には「出生時育児休業(産後パパ育休)」が新たに創設されることになった。

「出生時育児休業(産後パパ育休)」とは、男性労働者が子どもの出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度であり、原則として休業2週間前までの申し出により休暇取得が可能になった(既存の育休制度では原則1ヵ月前までの申し出が必要)。

また、育児休業4週間を分割して2回取得することと、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主で事前に調整して合意した範囲内で就業することもできるようになった。既存の制度では原則禁止とされていた育休中の就業が認められることになったのは当制度の大きな特徴だと言える。

一方、育児休業期間中に支給される育児休業給付は、育児休業開始から最初の6カ月間は休業前賃金の67%を上限(育児休業の開始から6カ月経過後は50%)としている。専門家の間では育児休業給付の引き上げを主張する声もあったそうだが実現までは至らなかった。

日本政府が男性の育児休業取得率30%の目標を実現するためには、もしかすると韓国で実施されている「パパ育児休業ボーナス制度」2と「3+3親育児休業制度」3が参考になるかも知れない。経済状況の改善や賃金の大幅引き上げの実現がなかなか難しい現状を考慮すると、育児休業中の所得確保は子育て家庭においてとても大事な部分であるからだ。

上記の原因以外にも育児政策が子育て世代に偏っていること、結婚に対する経済的負担が大きいこと、社会保障制度や税制において、二人の親とその子どもで構成される家族以外の同性婚や事実婚など家族の多様性が前提となっておらず、十分な恩恵が受けられないことが少子化の原因として考えられる。


2 「パパ育児休業ボーナス制度」は、同じ子どもを対象に2回目に育児休業を取得する親に、最初の3カ月間について育児休業給付金として通常賃金の100%を支給する制度である。1回目の育児休業は母親、2回目は父親が取得することが多い(90%)ので、通称「パパ育児休業ボーナス制度」と呼ばれている。

3 韓国政府は2022年から、育児休業制度の特例として「3+3親育児休業制度」を施行した。「3+3親育児休業制度」とは、育児休業を取得する親の中でも、生まれてから12カ月以内の子供を養育するために同時に育児休業を取得した父母に対して、最初の3カ月間について育児休業給付金として父母両方に通常賃金の100%を支給する制度だ。

6月13日に「こども未来戦略方針」を閣議決定

政府は少子化の問題を改善するために、児童手当の拡充等「お金」の面で子育てを支える制度を次々と打ち出している。2023年1月からは「出産・子育て応援給付金」を施行し、妊娠期に「出産応援金」として5万円分、出生後にお子さま1人あたり「子育て応援金」として5万円分のクーポンを支給している。また、2023年4月からは出産育児一時金を既存の42万円から50万円に引き上げた。

さらに、政府は6月13日、こども・子育て政策の強化に向けた具体策を盛り込んだ「こども未来戦略方針」を閣議決定し、「若者・子育て世代の所得を伸ばさない限り、少子化を反転させることはできない」ことを明確に打ち出した。

政府は、次元の異なる少子化対策の基本理念として、(1)構造的賃上げ等と併せて経済的支援を充実させ、若い世代の所得を増やすこと、(2)社会全体の構造や意識を変えること、(3)全てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援することを挙げており、今後抜本的に政策を強化する立場を明らかにした。

特に、すべてのこども・子育て世帯を支援する対策の一環として、来年度から児童手当を大幅に拡充することにした。改革の主なポイントは、(1)所得制限の撤廃、(2)支給期間の延長、(3)第3子以降の加算額の拡大だと言える。

現在、児童手当は0~3歳未満は月1万5,000円、それ以降は中学生まで月1万円が支給されている。また、第3子以降は「3歳~小学生」は加算され、月1万5,000円が支給される。但し、児童を養育する人(夫婦のうち所得が高い方)の所得が一定基準以上になると、児童手当は一律月5,000円に減り(特例給付)、養育者の年収が所得上限限度額以上の場合は児童手当が支給されないように所得制限が設けられている。

児童手当の所得制限に関しては、「所得制限を設けること自体が児童手当の制度趣旨に反している」、「世帯主の所得を基準とするのは不公平・不合理である」等の問題点が指摘されてきていた。そこで、「こども未来戦略会議」では「異次元の少子化対策」の一環として、児童手当の所得制限をなくすことにした。また、支給期間も現在の中学生までを高校生(18歳になった年度の3月31日まで)の年代まで延ばした。さらに、第3子以降は「3歳~小学生」は加算され、月1万5,000円が支給されているが、この期間を「0歳~高校生」に広げた上で、月3万円に引き上げることにした。

少子化が急速に進んでいる現状を考慮すると、所得の多い子育て世帯にペナルティになる「所得制限」の撤廃は妥当な措置だと考えられる。また、異なる少子化対策の基本理念のように、社会全体の構造・意識を変え、社会全体で子育て世帯を支援する「子育ての社会化」を実現するために努力する必要もある。

少子化対策の財源に対する最近の議論

「こども未来戦略会議」では児童手当の拡充等の子育て世帯を支援するための多様な政策を打ち出しているが、それを実現するためには安定的な財源を確保することが大事だ。政府は6月13日に「こども未来戦略方針」(以下、方針)を閣議決定したものの、今回の方針では少子化対策の費用をどう賄うか等の財源の詳細については明記していない。

少子化対策の財源確保案としては「消費税の引き上げ」、「国債の発行」、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」、「歳出改革」、「事業者が全額負担する子ども・子育て拠出金の増額」等が議論された。

「消費税の引き上げ」については、世論の反発を受けやすいとの意見があり、早々に選択肢から外された。

岸田首相は5月22日の記者会見で、少子化対策を巡る予算の財源について「消費税を含めた新たな税負担は考えていない」と言い切り、方針にも「消費税などこども・子育て関連予算充実のための財源確保を目的とした増税は行わない」と明記した。

一方、内閣総理大臣の諮問機関である税制調査会は6月30日に岸田首相に手渡した「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」で、「日本の社会保障制度においては、社会保険制度が基本であり、それを賄う財源は、原則として社会保険料になりますが、それを補完する財源としては、特定の世代に偏らず幅広い国民が負担を分かち合うことができ、税収の変動が少ない消費税がふさわしいものと言えます。

さらなる増加が見込まれる社会保障給付を安定的に支える観点からも、消費税が果たす役割は今後とも重要です。」と社会保障給付における消費税の重要性を強調した。報告書では消費税の引き上げについては特に言及していないが、消費税を引き上げて少子化対策の財源にすべきだと主張する専門家等が少なからず存在していることを考慮すると、今後も消費税引き上げやその活用に関する議論は続くと考えられる。

次は「国債の発行」であるが、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準であることを考慮すると、少子化対策のために国債を追加的に発行することはなかなか厳しい状況である。

このような状況のなかで、「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」が有力な財源確保案として浮上した。日本政府は2024年度から「こども・子育て支援加速化プラン」を段階的にスタートする予定であり、児童手当の拡充、育児給付金の引き上げなどを実現するための予算として毎年約3兆円の追加予算が必要だと見込んでいる。「支援金制度」はこの必要な財源の一部を社会保険料に上乗せして、社会全体で子育て費用を負担していこうという考えだ。政府の試算では社会保険料への上乗せ額は国民1人あたり月500円程度になると推計された。

今後少子化対策として「社会保険料への上乗せ」が予想される理由

しかしながら「社会保険料への上乗せ」に対して国民は冷たい反応を見せている。日本経済新聞社が5月26~28日に実施した世論調査によると、政府が調整している医療保険料などに上乗せする案について「反対」が69%で「賛成」の23%を大きく上回った。また、専門家や経済界、さらに自民党内でも「社会保険料への上乗せ」について反対する声が出た。

予想以上に反対する人が多いこともあり、「こども未来戦略方針」では、「2028 年度までに徹底した歳出改革等を行い、それらによって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用しながら、実質的に追加負担を生じさせないことを目指す。」と、「社会保険料への上乗せ」については直接的な言及をしていない。

しかし、小倉将信内閣府特命担当大臣は7月4日の記者会見で、少子化対策の財源を巡り企業を含めて幅広く負担を求める新たな支援金制度を検討する準備室を設置したと発表した。

年末までに結論を出し、来年には法案を提出する方針であり、今後は「社会保険料に上乗せした支援金制度の創設」を中心に少子化対策の財源が議論されていく可能性が高い。

むすびにかえて

今後、少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用と賃上げが必要であると考えられる。特に、男女間における賃金格差、出産や育児による経歴断絶、ガラスの天井4など結婚を妨げる問題を改善し、女性がより安心して長く労働市場に参加できる環境を作ることが大事だ。

また、若者が結婚して子育てができるように負担が少ない公営住宅や民間の空き家を活用する支援も欠かせない。さらに、多様な家族を認めて社会保障制度の恩恵が受けられる社会をより早く構築する必要があると考えられる。政府、企業、個人が一つになり、少子化の危機を乗り越えていくことを望むところである5


4 「ガラスの天井」とは、英語のGlass Ceilingの訳で、組織内で昇進に値する十分な素質や実績をもつ人材が、性別や人種などの要因により昇進を阻まれてしまう不当な状態を意味する。キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現である。

5 本稿は、金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(5)日本でも進む未婚化・晩婚化/子育て世帯への給付拡充(達人が伝授)」『日経ヴェリタス』2023年7月9日と金 明中(2023)「日韓比較でみる少子化対策(6) 財源確保、負担増に反対多く/意識改革や賃上げが重要に(達人が伝授)終」『日経ヴェリタス』2023年7月16日を加筆・修正したものである。

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