年金19万円で暮らす79歳父を襲った突然の病。献身的に介護を続けた52歳・1人息子だったが、重すぎる負担に吐血…親子共倒れを決定づけた「致命的な判断ミス」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月25日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、日本は「超高齢化社会」に突入しました。高齢化が進むと要介護者が増え、必然的に介護をする人も増えていきます。場合によっては「介護離職」という選択をする人も出てくるでしょう。そこで、今回は突然父の介護をしなければならなくなった村田敏也さん(仮名)の事例と共に、介護離職する前に活用すべき「介護支援制度」についてCFPの伊藤寛子氏が解説します。
仕事中心の生活を送っていたが、母親からの電話で事態が一変
会社員の村田敏也さん(仮名・52歳)は独身で、実家から片道2時間程離れた東京で1人暮らしをしています。システムエンジニアとして働いており、プロジェクトによって激務や長時間労働が続くことがたびたびある、仕事中心の生活を送っています。
仕事のストレスから同僚との飲食や趣味などにお金を使うことも多くありましたが、貯蓄は2,000万円まで貯まりました。定年退職まで頑張れば、あとは1人で悠々自適に暮らせるかな、と頭をよぎるような年齢に差し掛かっていました。
実家には年金暮らしの79歳になる父と、76歳の母がいます。2人でいるから大丈夫だろう、と特に心配をすることもなく、実家とあまりやりとりをすることがなかった村田さんでしたが、あるとき母親からかかってきた電話で事態が一変したのです。
父親が脳卒中で倒れ、病院に運ばれた、との連絡で村田さんは実家の近くの病院へ駆けつけました。父親は一命を取り留めましたが、手足に麻痺が生じたことで、話したり書いたりする機能が低下し、歩行や日常生活動作も制限される状態になりました。日常生活を送るためには介護が必要です。
退院後は村田さんの母親が父親を介護していましたが、高齢とはいえ男性の体を介助するには村田さんの母親だけでは厳しく、一人息子である村田さんは、休日や必要に応じて仕事を休んで実家に通い、介護を手伝っていました。
父親はリハビリを受けましたが、高齢のせいもあり筋力や回復力が低く、なかなか効果が現れません。リハビリへのモチベーションが上がらず、回復の兆しがないまま介護生活が長引いていきました。
やむを得ず退職を決断、介護に専念するも重なる負担
当初は仕事をしながら実家へ通い、介護をしていた村田さんでしたが、介護をしていることは、上司や同僚にも理解が得られないだろうと思い、打ち明けることはありませんでした。
なんとか両立しようと頑張ってきた村田さんでしたが、仕事を休まざるを得ない日が増え、疲れて仕事に集中できずミスをしてしまう、ということが続いたことで限界を感じ、仕事を辞めて父親の介護に専念することにしました。
両親の年金は月あたり19万円程度です。この少ない年金だけでは、介護にかかる費用と生活費を賄うことはできません。そのため、村田さんが貯めてきた貯蓄も切り崩しながらの介護生活になりました。
2,000万円もあるなら大丈夫だろう……。そう感じるかもしれませんが、実際には驚くほどのスピードでお金は減っていきました。
築40年の古い自宅を介護しやすいようリフォームするのに数百万円。車椅子を使うこともある父親のために、大型の車を購入しました。さらに介護用品を揃え、自分の生活費も捻出しなくてはなりません。
村田さんは東京で分譲マンションを購入して住んでいたため、介護のために実家に戻ってきてからもローンの支払いを続けていました。もし介護が終われば東京に帰るという選択もできるよう、すぐに売る判断はできなかったのです。
この生活がいつまで続くのかという不安と、仕事を辞めてしまったことによる自身の老後に対する不安は、どんどん強まっていきました。実家の近くでの再就職も試みましたが、介護による制限があることもあり、なかなか仕事は決まりません。
父親は思うように動けないことへのストレスや、社会的な孤立感から、すぐに機嫌が悪くなり、村田さんや母親に反抗的な態度を取ったり、暴言を吐いたりすることが増えていきました。
精神的にも追い詰められていた影響か、あるとき村田さんは吐血してしまったのです。驚いて病院へ行くと、ストレスによる胃炎を起こしていました。
一人息子である自分が両親を支えるしかない、との責任感で献身的に介護をしていた村田さんでしたが、金銭的・体力的・精神的にも消耗しきっていました。
他人事ではない介護離職問題
厚生労働省の雇用動向調査によると、2023年に離職した人は約798.1万人です。そのうち、「介護・看護」を理由に離職した人は0.9%、約7.2万人います。10人に1人は介護を理由に退職している、という数字は決して少なくない数でしょう。「介護・看護」を理由に退職した人のなかでは、男性よりも女性のほうが割合が多く、男女ともに50歳代が最も多くなっています。
2025年には、日本の人口構成のなかで最も大きなボリュームゾーンを占めている団塊の世代(1947年~1949年ごろの第1次ベビーブームに生まれた世代)のすべてが75歳以上の後期高齢者となります。日本社会は国民の5人に1人が後期高齢者という「超高齢化社会」を迎えることで、「2025年問題」といわれています。
要介護者となる人が増加するに伴い、介護をする側の人数も増えていきます。50歳代は会社で管理職として活躍している方も多い年代です。仕事をしながら高齢の家族を介護する人が増えていくことが予測されており、どうやって仕事と介護を両立させていくかは個人だけでなく、社会全体の問題でもあります。
経済的基盤を守るための仕事と介護の両立支援制度
国としても、仕事と介護の両立支援に力を入れており、両立のための制度も拡充されています。当事者となった際には、どのような制度があるか把握して、活用することが欠かせません。仕事を辞めることなく、働きながら介護をするための両立支援制度について解説します。
介護休業
要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して休業を取得することができます。有期契約労働者でも要件を満たせば取得可能です。
介護休暇
通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなどを行うために、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で取得することができます。
介護休業給付金
雇用保険の被保険者が、要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合、一定要件(介護休業期間中の各1ヵ月毎に休業開始前の1ヵ月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていない、就業している日数が1ヵ月ごとに10日以下であるなど)を満たせば、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
終わりが見えない介護は、経済的な負担もかかり続けます。また、介護が終わったあとの、自身の老後や生活のためにも利用できる制度を活用し、可能な範囲で仕事を続けながら介護を続けることで、経済的基盤を守りましょう。
介護サービスを利用するには何から始めたらいい?
介護を担うのは、家族だけではありません。介護を社会全体で支え合う仕組みである、介護保険制度があります。
寝たきりや認知症などにより、介護を必要とする「要介護状態」や、家事や身じたく等、日常生活に支援が必要な「要支援状態」になった場合に、介護保険のサービスを利用することができます。具体的には以下のようなサービスがあります。
- 介護サービスの利用にかかる相談、ケアプランの作成
- 自宅で受けられる家事援助等のサービス
- 施設などに出かけて日帰りで行うサービス
- 施設などで生活(宿泊)しながら、長期間または短期間受けられるサービス
- 訪問・通い・宿泊を組み合わせて受けられるサービス
- 福祉用具の利用にかかるサービス
サービスを利用するには、要介護(要支援)認定を受ける必要があります。まずは、お住まいの市区町村の窓口で認定の申請を行いましょう。
要介護(要支援)度が判定されたあとは、受ける介護サービスの内容や、事業所選定についてケアマネジャーがケアプランを作成し、そのプランに基づいて適切なサービスが提供されるよう、事業者や関係機関との連絡や調整を行います。ケアプランの作成にあたって、利用者の負担はありません。
介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割(一定以上の所得者の場合は2割または3割)です。居宅サービスを利用する場合は、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。
一人で抱え込まずに、外部の力を借りて柔軟に対応していくことが大事
村田さんは一人息子である責任感、職場での責任感から、すべて一人で抱え込んでしまい、外部にうまく頼ることができませんでした。
一度離職をすると復職は簡単ではありません。職場での支援を活用するために、上司だけでなく、相談窓口や人事部に事情を伝えることで、解決の糸口が見つかったかもしれません。介護休業などの制度を利用する他にも、短時間勤務や在宅勤務など、柔軟な働き方を選択できる可能性もあります。
また、自宅で母親と何とか介護できていたこと、家族で介護することが当然との思い込み、他人に頼ることへの抵抗感から、積極的に外部のサービスの利用に動くことがありませんでした。
介護は家族だけで担わないといけないものではありません。病院や自治体の窓口など、相談できそうなところで話をしてみることから、サポートを得る道に繋がっていくことでしょう。
村田さんは、負担が積み重なっている介護状況について父親のかかりつけの病院で話したことで、まずは地域包括支援センターへ行き、利用可能な介護サービスについて相談するようアドバイスをもらいました。
相談したことから介護サービスの利用に向けて動き出し、デイサービスや訪問介護を受けられるようになったことで村田さんと母親の負担は軽減されました。時間的、精神的な余裕も生まれたことから、村田さんは再度求職活動を行い、条件に合う仕事を見つけることもできました。
介護のプロによる適切なサポートを受けることで家族の負担が軽減され、無理のない介護を続けることが可能になります。
介護と仕事の両立は簡単ではありません。一人で抱え込まず、周囲や専門家の力を借りながら、柔軟に対応していくことが大事です。
伊藤 寛子 ファイナンシャル・プランナー
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