“自己肯定感の低い人”が“人を助ける仕事”を選びやすい理由【精神科医が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月7日 15時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
「愛着障害」とは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態です。そのため小児に限られた病名ですが、昨今は「大人の愛着障害」も増えていると、精神科医・村上伸治氏は指摘します。現代社会の病「大人の愛着障害」を抱える人には、特徴的な思考法がみられます。本記事では、同氏監修の書籍『大人の愛着障害:「安心感」と「自己肯定感」を育む方法』(大和出版)より一部を抜粋・再編集し、愛着に問題を抱える人の思考法について解説します。
子どもの成長を急かす子育てを社会が強いている
現代はスピードが重視される時代です。「タイバ」という言葉が流行るように、誰もが時間をかけず効率よくものごとを片づけようとしています。子どもの心の成長にもその影響が出ているように思えます。
早く大人になることは、突貫工事で家を建てるようなもの
共働きの両親と核家族が増えたせいなのでしょうか、家事や育児にも時間や気持ちの余裕がなくなってきています。ますます子どもも「早く大人になってほしい」と成長を急かす親御さんが増えた印象です。仕事や家事を効率化するのは合理的かもしれませんが、子どもの成長は違います。数十年やそこらで人間の成長スピードが変わるはずもなく、子どもの心も体も一人前に成長するにはある程度の時間がかかります。
人の精神構造は建築のようなもので、突貫工事でつくればいろいろな問題が生じます。後から補強もできますが、それにはとても大変な労力と時間がかかってしまいます。だから、時間をかけて基礎工事をすることが大切なのです。「まだやってるの」と言われるぐらい時間をかけたほうが建物は安定します。
誰もが愛着の問題を抱えやすい世のなかになった
いつの時代も、親と子がじっくり向き合う時間がとれれば理想的なのです。しかし、家族関係、人間関係は社会の影響を大きく受けます。個人の努力だけではどうしようもない部分もあるのです。さまざまな精神疾患で受診する患者さんと話をしていると、最初は気づかなかった生育の問題に気づくことがよくあります。本人も意識してこなかった自己肯定の問題が浮かび上がり、それが主題になって診察が進むこともあります。毎回ほんの10分程の診察でも愛着の問題に目をやり、改善していくこともできると感じています。
自分の愛着の問題に気づいた人が、ほんの少し愛着に留意して他人に、とくに子どもに接することができれば、愛着形成を社会全体で支えることができるのかもしれません。
地縁社会の喪失で愛着形成は危機的状況?
かつて日本社会は地縁が深く、近所のおじさんおばさんと家族ぐるみのつき合いがありました。子どもたちは親や家族と愛着を形成した後、愛着を身近な大人に広げながら社会性を育むことができました。
ところがいま、地縁社会は失われ、子どもは親や先生以外の大人と交流する機会はほとんどありません。子どもに社会性が失われてきたのは、愛着形成が困難な社会背景にも一因があると考えられています。
自己否定的、自責的であることでかろうじて生き延びてきた
愛着に問題を抱える人には、特徴的な思考の歪みが見られます。そのひとつが自己否定的思考または自責思考です。
「自分がわるい」と思うことで、状況を受け入れられた
患者さんのなかには「5歳から死にたいと思っていた」という人もいます。極端なケースですが、このような場合愛着にトラウマも関わっていると見られます。愛着とトラウマは併存することがよくあるのです。このようなトラウマは記憶のフラッシュバックだけではなく「ものごとをすべて否定的に捉える」という症状もともないます。
背景に考えられるのが、幼少期のつらい体験です。子どもはつらいことがあると「自分がわるかった」と考えることがあります。つらさを誰かに一緒に受け止めてもらい「よしよし」と安心させてもらわないと、自分ひとりで気持ちを処理するために自責思考へと至ります。いわば、生きるための手段でもあるわけです。
家族が病死したり事故にあったりしても、すべて「自分のせい」と思い込んでいる子どもは意外に多いのです。いったんそれで説明がつくと、その自責思考はずっと心に棲み続けます。
外から入ってきた思考だと気づくことが大事
こうした自責思考は生まれつきのものではありません。「5歳から死にたいと思っていた」という人はそれほど多いわけではありませんが、その患者さんも小さいときは普通に素直な乳幼児だったはずです。
それなのに、知恵がついてきたどこかのタイミングでなにかつらい体験があり、それを乗り越えるために自己否定的な思考をするようになったのでしょう。つまり、自責思考はもともと心にあったものではなく、外部から入ってきた異物なのです。
私はそうした思考を「寄生虫のようなもの」と患者さんに伝えます。このような思考パターンは外から侵入して毒をまき散らす「異物」なのに、本人はそれを自分自身だと思い込み、苦しみ続けているのです。まず自責思考は自分ではなく、異物なのだと認識してください。そうすれば、自分を苦しめる異物を叩き出すことができるでしょう。
対人援助が自分のケアの代替行為になっている人もいる
愛着の問題から生じるもうひとつの思考の歪みは「人を助けなくてはいけない」という思考パターンです。
あえて対人援助の仕事につく人が多い
愛着の問題を抱える人は優しい人が多く、よく「医療者になりたい」「介護の仕事をしたい」など、対人援助職を希望します。「人を助ける仕事以外は考えられない」という人もいます。人のためになる仕事を希望するのはわるいことではありません。ただし、背景に自己肯定感の乏しさがあるなら注意が必要です。
対人援助の仕事をしたいという人の中には、自分を大事にする気持ちが弱く、自分より人のためになにかをしたいという人がいます。そういう人は、本来自分が援助を必要としているのに、自分を助けようとせず他人ばかりを助けています。自分と他人は均等ではなく、自分に厳しく他人に優しくするのが当然と感じています。これでは自己虐待しているようなもので、よけいに自分が苦しくなります。
「人を助ける仕事以外は考えられない」などと自分を追い詰めるよりは自分本位でものごとを考えてみましょう。「役に立つかどうかわからないけど、これが好きだからやっています」程度の気持ちで働いている人も、みんな人の役に立っているものです。
つらい人に寄り添えることも稀有な才能
もちろん、自分と相手を均等に助けることができるようになってからであれば、対人援助の仕事は向いているかもしれません。そういう仕事は、つらい経験をしたり悩んだりした人でないとできないこともあるからです。
いま愛着に問題を抱えている人も、まずは周囲の人と、そして場合によっては医師やカウンセラーとの関係を通して愛着形成のサイクルが回せるようになるはずです。最終的には愛着を抱くべき存在を内在化させ、自分自身の心のなかで愛着サイクルを回していけるようになるでしょう。そうすれば、あなたの共感力や人に寄り添う能力は、必ず誰かの役に立ち、あなた自身の人生も豊かにしてくれるに違いありません。
村上伸治
精神科医
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