小さい子に受験をさせるのは本当に「かわいそう」なのか?小学校受験に向いている家庭とそうでない家庭の「違い」【令和の小学校受験】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月24日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
中学校受験に比べて受験者数が少なく、合格基準も明確には見えないため、まだまだヴェールに包まれている「小学校受験」。そんな世界の本質や、経験者としてのリアルな声をSNSで発信しているのが「狼侍」さんです。「小学校受験なんて一般家庭には縁がない」「高級車一台分の費用が必須」といった誤解や噂が飛び交うなか、令和の小学校受験の実情はどんなものなのでしょうか? 1月23日に初の著書『小学校受験は戦略が9割』(新潮社)を上梓した狼侍さんに3回にわたってお話を伺いました。
幼稚園・小学校受験は「育児の延長」
――狼侍さんは2人のお子さんがそれぞれ附属幼稚園、小学校受験をされて私立一貫校に通われているということですが、受験された経緯についてお聞かせください。
狼侍さん(以下、狼侍):我が家の場合、妻が私立小学校出身でこういった世界の存在を知っていたことがきっかけです。「自分たちの子供にも受けさせたい」と話してくれました。
一方で私は公立小中学校の出身でしたが、社会人になってから出会った私立小学校出身の方々の人柄に魅力を感じました。「人間的にこんなに魅力的な人たちがいるんだ」と感心し、その背景を聞くと私立小学校の教育が関係していると知りました。
それが頭の片隅に残っていて、妻の話とも一致したので、「まずはどういう世界か見てみよう」とすんなり決まりました。
――そうだったのですね。著書でも小学校受験の本質や本音について事実やデータを用いながら綴られていますが、幼稚園・小学校受験をどんなふうに捉えていますか?
狼侍:幼稚園・小学校受験は、基本的には「育児の延長」だと考えています。中学受験や高校受験のように、学力がメインになるわけではありません。そのため、無理をさせると子供を追い詰めることになりかねません。
たとえば、自転車に乗れない年齢の子供を自転車に無理やり乗せようとするようなものです。まだ発達が追いついていないのに、「これができなきゃいけない」と無理をさせても意味がありません。
でも、半年後には自然とできるようになることもあります。こうした成長のタイミングを見極めることが大切です。
だから、小学校受験はあくまで育児の一環であり、子供の発達を無視して過剰にやらせると本末転倒です。
――もし受けた学校に合格しなかった場合、「うちの子はダメなんだ」と思い込む必要もないということですね。
狼侍:そのとおりです。必要以上に悲観することはまったくありません。小学校受験は特別な世界ではなく、どんな家庭でもチャレンジできるものです。ですから、「うちは普通の家庭だから無理だ」と思い込む必要もありません。
小学校受験に向いている家庭、向いていない家庭
――そのうえで、一言でまとめることは難しいとは思うのですが、小学校受験に向いている家庭と向いていない家庭について教えてください。
狼侍:小学校6年間をどう過ごすかにフォーカスできるかどうかが、大きなポイントだと思います。偏差値や中学以降の進路ばかりを気にしていると、小学校6年間の教育が置き去りになってしまいます。この時期は人格形成において非常に重要な時期です。
その6年間をどのように過ごさせたいかという視点を持っていることが、小学校受験に向いている家庭の特徴だと思います。
そういう意味で、大学進学や中学以降の偏差値だけを気にしていると、小学校の教育とは目線が合わなくなってしまいます。特に初等教育では、6年間の時間を子供にどう与えるかを考えられる親御さんでないと、私立小学校の本来の魅力は伝わりにくいかもしれません。
一方で、初等教育の6年間が重要だといっても、小学校受験の段階では、将来的に中学受験をするのか、高校受験をするのか、さらには大学受験まで見据えて方向性をある程度仮説として立てる必要があります。
つまり、かなり先を見据えた判断が求められるわけです。中学受験を目指すなら、やはり偏差値や大学進学実績といったものに注目することになりますよね。そのため、長期的な視点を持ち、12年あるいは16年というスパンで子供の教育を考えることが必要になります。
こうした視点を持っていないと、私立小学校の本当の魅力にはなかなか気づけないかもしれません。特に今の都心部では、中学受験が当たり前という風潮があり、「5年生から始めたら遅い」といわれ、3年生や4年生から受験準備を始める家庭も多いです。
そうした状況のなかで、多くの家庭が最初に見るのは偏差値などの数値的なものです。ですが、本来、初等教育はそういった数字では測れない部分が大切です。
小学校受験においては、各学校が持つ「個性」や「教育方針」を重視する必要があります。初等教育の段階では偏差値はなく、子供の可能性やその学校の教育方針を中心に考えるべきです。長期的な視野を持って、その学校で過ごす6年間をどのように考えるかがポイントになります。
――小学校受験と中学校受験はまったくの別物なのですね。
狼侍:結局のところ、小学校受験では「偏差値を忘れられるかどうか」が鍵になります。これについては、偏差値が頭の片隅でチラついてしまう、どうしても気になってしまうという親御さんにとっては、小学校受験は難しいといえるでしょう。
また、たとえば「早慶に入れなかったから、中学受験でリベンジする」というような考え方を持っている場合、そもそも小学校受験には向いていないかもしれません。そういった“リベンジ精神”が前提になっていると、小学校の教育環境や方針を本当に理解するのが難しくなってしまいます。
小学校受験は単なる中学受験へのステップではなく、初等教育としての本質を見据えた判断が必要です。
小学校受験で子供が幸せになれる条件とは?
――著書でも「小学校受験を幸せな選択にするために」と書いていらっしゃいますが、子供が6年間過ごして幸せになれる条件や特徴はありますか?
狼侍:専門家もおっしゃっていることですが、やはり子供は環境によって育ち方が変わります。その学校の「カラー」や教育方針にも影響を受けるため、どのような環境で育てたいかを親がしっかり考えることが大切です。
――本でも「見元確認の次に大切なのが本人の考査でなく、親の資質である」と書かれていましたが、やはり親の意識がなによりも大事なのですね。
狼侍:子供がその学校に「合う」「合わない」というのは確かにあると思いますが、基本的には親が「この学校の方針に共感し、この環境で子供を育てたい」と思えるかどうかにかかっていると思います。だからこそ、親の意識なにより重要だと考えています。
小学校受験をさせるのは「かわいそう」?
――「かわいそう問題」に関してお聞きしたいのです。ひと昔前は中学校受験についてもいわれていましたが、よく「そんなに小さいころから塾に通わせるなんてかわいそう」という声を聞きます。親としてどのように意識を持つべきでしょうか?
狼侍:「かわいそう」と言われることに対しては、冒頭でもお伝えしたとおり、「育児の延長」だと捉えれば、それほど気にしなくてもいいと思います。
小学校受験で言えば、たとえばペーパーをガリガリやる姿が異様というか目立つかもしれませんが、それ以外にも工作をしたり、体操で体を動かしたりする時間も多いです。全体としては、育児に組み込まれたさまざまな活動を、受験という目標に合わせて体系的に整理しているだけなんですよね。
だから、受験をしない家庭でも、英語の習い事やタブレット学習など、似たようなことをしていますよね。やっている内容はそれほど特別なものではなく、「育児の一環」という視点で見れば、むしろ当たり前のことが多いです。
ただし、やりすぎは問題です。発達に合わないタイミングで無理をさせると、結果的に子どもを追い詰めてしまいます。それが本当の「かわいそう」で、半年もすれば自然にできるようになることを、無理に今やらせる必要はないんですよね。
――具体的なカリキュラムの内容についてはどのようなものがありますか?
狼侍:小学校受験のペーパーの内容は、意外と「常識的」なものが多いんです。たとえば、季節の行事や果物の名前、理科的な知識として「なにが沈むか」「なにが浮くか」といった問題、空間認識を養う図形の問題などですね。また、数の概念や簡単な計算など、公文で扱うような内容も含まれています。
一見すると「勉強している」という印象を受けるかもしれませんが、実際には育児や遊びの延長に近いです。それが体系的に行われているだけで、「負担が大きい」と感じるような内容ではありません。むしろ、先取り学習のほうが負荷が高い場合もあります。
THE GOLD ONLINE編集部
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