子に同じ苦労をさせたくない…娘の奨学金返済を肩代わり、世帯月収42万円・40代両親の「苦渋の決断」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月4日 10時45分
内閣府によると、2024年の春季労使交渉で賃上げ率は33年ぶりの高水準となった。しかし、物価上昇の影響で日本の実質賃金はこの30年間ほぼ横ばいであるため、多くの人が賃上げの恩恵を受けられていない。さらに、大学の学費高騰や社会保険料の増加、扶養控除の縮小といった要因が重なり、子育て世代の家計はより厳しくなり、子どもの進学には奨学金に頼らざるを得ないという家庭も多い。実際、出生率は減少の一途をたどる一方で、奨学金の年間貸与人数や貸与額は増加傾向にある。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金返済の現状とその解決策についてアクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
奨学金返済中の男女が結婚
地方都市在住のAさん夫妻は、ともに大学進学時に奨学金を利用し、それぞれ月約2万7,000円、約2万2,000円を15年かけて返済した。同い年の二人は28歳で結婚し、2年後に一人娘となる子どもが誕生。経済的な余裕はなかったため、正社員として働いていた妻は産休・育休を経てすぐに復職した。奨学金を完済するまでの期間、夫妻は合わせて毎月約5万円の返済は家計に大きな負担を与えたと振り返る。
「子どもにはできる限り不自由な思いをさせたくない。習い事や進学など、やりたいことはすべてやらせてあげたい」と考えていたAさん。その一方で、月5万円の返済が重荷となっていた時期には、親として不甲斐なさを感じることもあったという。
返済が続く子育て世代への影響
Aさん夫妻のように、奨学金の返済と並行して子育てに取り組む家庭は決して少なくない。奨学金の平均返済年数は約14.5年、年齢でいえば23歳~37歳であり、子育て世代とも一致する。子育て世代にとってこの期間は、教育費や住宅ローンなどほかの支出と重なることも多く、家計への影響は大きい。奨学金制度が進学機会を広げる一方で、返済期間の長期化が生活設計に影響を与えるという状況は、多くの家庭に共通する。
子どもに奨学金を借りさせる親の思い
Aさんは奨学金を借りていなければ、大学進学は叶わず、いまの自分もなかったと振り返る。アルバイトに明け暮れる日々もあり、決して楽ではなかった。しかし、希望する地元の製菓会社に入社することができたAさんは、「奨学金制度には本当に感謝しています」という。
一方で、娘にも同じ負担を背負わせることには葛藤を抱えた。娘が東京の私立大学を志望した際、入学金と授業料を合わせた初年度納入金だけでも約120万円かかることがわかった。上京して一人暮らしすることも考えると、現在の家計で賄うことは非常に難しい。娘とも相談のうえ、自分たちと同じく奨学金を利用してもらうという苦渋の判断を下した。結果的に娘は志望校に合格し、卒業後はそのまま東京で就職し、今年で社会人2年目になる。都会で活躍する娘の姿を見て、「ひとまずは安心している」と語るAさんは現在、娘に代わって奨学金を返済している。
親による奨学金の肩代わり
娘の大学入学時の世帯月収(賞与を除く)は約42万円だった。娘の卒業を間近に控えたタイミングで、Aさんは昇格し収入が増加した。学費や生活費の支払いが終わると余裕ができることがわかり、娘の奨学金を自分が返済することを考えるようになった。
実は、全額負担することは叶わなかったが、学費の一部はAさんが支払っていたため、Aさんの娘は奨学金を全額使わずに卒業した。残高は繰り上げて返済金額に充当し、残りはAさんが月々返済している。Aさんの娘は、父から奨学金を代わりに返済すると聞いたときのことを、「本当にありがたいと思った。手取りがいくらになるかもわからないなかで、30代後半まで奨学金を返済し続けることはとても不安でした」と語る。
独立行政法人日本学生支援機構(以下、JASSO)では、奨学金を借りた本人以外の口座を返還口座として指定することができる。Aさんの娘は無利子であるJASSOの第一種奨学金の貸与を受けていたため、Aさんはこのまま自分の口座から月約1万5,000円の返済を続け、当初の返済期間を大幅に短縮し、娘が30歳になる6年後には完済する見込みだ。Aさんの妻も、「娘には自分のような経験をさせたくない。結婚や子育てでなにかとお金がかかる前に、返済の目途が立ってよかった」と安心している。
肩代わりによる贈与税
JASSOの「令和4年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」によれば、約15%※1が「本人の親」による返還、つまり親が奨学金返済を肩代わりしているケースであることがわかる。
しかし、親の肩代わりには税制上の注意が必要だ。贈与税の基礎控除額の範囲内であれば問題ないが、奨学金の一括返済のためまとまった金額を贈与する場合には、課税対象となる可能性がある。奨学金は教育終了後の返還義務であるため、直系尊属(親や祖父母)からの教育資金の一括贈与に適用される非課税枠の対象外となり、基礎控除額の年間110万円を超過した分は課税対象となる点に留意しなければならない。
奨学金の返済支援策
奨学金の返済支援策としては、JASSOが2021年4月に開始した「奨学金返還支援制度」がある。本制度は、奨学金を貸与されていた従業員の奨学金返還残額を、企業等がJASSOへ直接送金するものだ。企業からJASSOへの直接送金となるため、従業員の給与所得とはみなされず、所得税が非課税となる点がメリットとなり、従業員の定着支援にもつながる仕組みである。JASSOによれば、本制度の導入企業数は2024年10月末時点で2,587社※2に達しており、支援の輪が広がっている。
学費の高騰、物価上昇、しかし賃金は横ばいという状況で、奨学金を利用せざるを得ない学生は増加している。JASSOの奨学金だけでも、大学生の約3人に1人が奨学金を利用している※3状況である。
Aさんのように子どもの奨学金を肩代わりできる親は多くない。奨学金の返済が学生や若手社会人の経済的・精神的負担となり、キャリア形成やライフイベントへの積極性を阻害することのないよう、社会全体での支援が不可欠といえるだろう。
〈参考〉
※1 「令和4年度 奨学金の返還者に関する属性調査結果」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-08
※2 「若手人材に選ばれる企業へ!企業等の奨学金返還支援制度」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-10
https://dairihenkan.jasso.go.jp/
※3 「若手人材に選ばれる企業へ!企業等の奨学金返還支援制度」独立行政法人 日本学生支援機構 2024-10.
https://dairihenkan.jasso.go.jp/
大野 順也
アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長
奨学金バンク創設者
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