自宅で暮らしたがる78歳母を説得、新築ピカピカの「サ高住」に〈前払い700万円〉〈利用料月13万円〉で入居させたが…。まさかの事態勃発で54歳息子が下した“苦渋の決断”【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月29日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
再開発で生まれ変わる街に建てられた、新しいサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。母に安心して過ごしてほしいと、前払い賃料700万円を工面して入居を決めた息子ですが、予想以上にかさむ費用に苦しむことに……。今回の事例では、高齢者施設選びで陥りやすい「お金の落とし穴」と、後悔しない選び方について、FPの三原由紀氏が解説します。
母のためを思って提案した「サ高住」への入居
不動産投資で副収入を得ている会社員の田中誠司さん(仮名、54歳)は、地元の駅前再開発に強い関心を持っていました。新しいショッピングモール、公共施設、そして最新設備を備えたサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の建設。
誠司さんは、この開発が母親の新しい生活の場になるかもしれないと期待を寄せていました。というのも、年末年始の帰省で実家を訪れた誠司さんは、78歳の母・和子さん(仮名)の様子に衝撃を受けたからです。
3年前に実父が他界してからの独居生活。月15万円の年金で何とか暮らしていた和子さんでしたが、昨年の外反母趾の手術以来、足腰が急速に弱っていたのです。
「毎日のように電話で『まだ自分でできる』と言い張る母でしたが、実家に着くなり、台所に使用済みの食器が山積みになっているのを目にしました。シルバーカーを使っても、近所のスーパーまでの往復がやっとの様子で……」
和子さんは、施設入居を頑なに拒んできました。「私の友達は皆、自分の家で暮らしているのよ」と譲らない母親に、誠司さんは新しくできるサ高住のパンフレットを見せます。
「自分の部屋があって、好きな時に友達を呼べる。困ったときだけ助けてもらえる。それなら……」と、ようやく重い口を開いた和子さん。
誠司さんは、これが最後のチャンスだと思いました。
前払いで一安心も、入居後に待ち構えていた想定外の落とし穴
「ここしかない!」と思った誠司さんは、さっそくサ高住の見学に向かいます。新築で設備も整っており、特にフィットネス設備や運動プログラムの提供があることで母のQOL(生活の質)も改善すればと希望を抱きました。
一方の和子さんも、駅前という立地の良さやショッピングセンターが目の前で街の活気を見て、気持ちも前向きになってきました。ただ、月々24万円(別途、敷金35万円)という利用料に驚きを隠せません。
「前払い賃料制度を利用すれば月額を13万円に抑えられる」という営業担当者の提案に、誠司さんはすがる思いで同意。母のなけなしの貯蓄に、誠司さんの不動産投資でプールしていた収益から700万円を工面し、入居を決めました。
国土交通省が2022年8月末に実施した調査(参考)によると、サ高住の入居費用は平均で月額12万6,000円(大都市圏)、9万1,000円(地方圏)、10万9,000円(全国)です。しかし、これらは家賃・共益費・必須サービス費(生活相談・見守り)などの基本料金に過ぎません。
入居後、誠司さんを待っていたのは、想定外の出費の数々でした。
「食事は別料金で、全て利用すると月4万5,000円。入浴介助は60分4,000円のオプション。電気代も別払いで、エアコンの使用で月1万円以上かかることも……。母の年金では全く足りない状況でした」
結局、誠司さんは半年後、母親を年金で賄える別の施設に移すことを決断することになりました。
FPが指南する「後悔しない」施設選びのポイント
この事例から、高齢者施設選びで重要なポイントを紹介します。
1)基本料金以外の総費用を必ずチェック
サ高住の提供サービスは施設によって大きく異なります。国土交通省の統計(参考)では、状況把握・生活相談は必須サービスで全ての施設が提供していますが、食事の提供は96.2%、入浴等の介護は49.5%、調理等の家事は52.9%、健康の維持増進は63.1%と、施設によって様々です。基本料金だけでなく、実際に必要となるサービスを全てリストアップし、総額を把握することが重要です。
2)契約の細部まで確認を
前払い制度を選択する場合、契約期間終了後の更新条件や、中途解約時の返金条件を必ず確認しましょう。「5年後は月額が上がる可能性がある」といった重要事項も、契約書に明記されているはずです。
3)複数の選択肢を比較検討
サ高住以外にも、自立型の有料老人ホームであれば食事の提供が含まれているので持ち出しが少ないなど、様々な選択肢があります。介護が必要になった場合の対応や、医療機関との連携体制なども含めて比較検討しましょう。
4)家族で収支計画を立てる
入居者の年金額、預貯金、家族からの支援可能額を明確にし、長期的な収支計画を立てることが重要です。介護度が上がった場合の追加費用なども想定に入れておく必要があります。
「今の施設は、確かに以前のサ高住ほど豪華ではありません。でも母は、同年代の入居者と将棋仲間ができて、毎日を楽しく過ごしています。施設選びで大切なのは、ハード面の充実よりも、入居者が安心して暮らせる環境かどうか。そして何より、家族の経済力に見合った選択をすることなのかもしれません」
と、誠司さんは今回の経験を振り返ります。
参考:国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅について -高齢者の住まいについて-」
三原 由紀 プレ定年専門FP®
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