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トランプ新政権を待ち受ける、深刻な経済的課題とは【マクロストラテジストが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月1日 8時0分

トランプ新政権を待ち受ける、深刻な経済的課題とは【マクロストラテジストが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、フィデリティ投信株式会社が提供するマーケット情報『マーケットを語らず』から転載したものです。※いかなる目的であれ、当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。

トランプ新政権が誕生

米国で新しい政権が誕生しました。トランプ新大統領は20日の就任演説で、米国民の1, 安全と健康(→国境管理の強化、治安の改善、ヘルスケア・システムの改善などによる)、2, 雇用(→関税の引き上げによる)、そして、3, 自由(→政府検閲の廃止、多様性に関する教育や強制の放棄、グリーン・ニュー・ディール政策の廃棄などによる)を保護することを強調しました。このほかに強調された点のひとつが、インフレの抑制です。トランプ大統領は就任演説で、

「私は、閣僚全員に対し、記録的なインフレを打破し、コストと物価を引き下げるために巨大な力を結集するよう指示します。インフレは、(政府による)巨額の過剰支出と、上昇が続くエネルギー価格によって引き起こされています」

と述べた後、原油とガスの産出拡大や政府効率化省(DOGE)の創設を宣言しました。笑顔を見せる裏側で、トランプ新政権の閣僚たちが「対処すべき課題」と捉えているのは、米国の財政赤字の拡大やインフレであり、それらがもたらす「金利の上昇」であるようです。

J・D・バンス氏の懸念

新副大統領のJ・D・バンス氏は、選挙前に行ったタッカー・カールソン氏とのインタビューで興味深い見解を示しています(→以下は、筆者による抄訳であり、補足も含まれます)。

「本当の戦いは、トランプ氏が大統領になって政策を実行しようとしたときに始まると思います。彼ら(訳注:トランプ氏が大統領になってもらっては困る人たち)は、非常に大がかりな方法でトランプ氏を引きずり下ろそうとするでしょう。そして、そこからが本当の戦いです。そして、それはいくつかの異なる方法で実行されるだろうと私は考えています。

第1に、私たちが不法入国者の国外退去問題で何かを始めた瞬間に起きることを私は心配しています。アメリカには2,500万人の不法滞在者がいます。それは我が国にとって最大の脅威だと我々は考えています。我々は不法滞在者を国外に追い出さなければなりません。

おそらくそのとき、メディアやテクノロジー・セクターからは、これまで見たことのないような反応が起きるでしょう。たとえば、「不法に入国した人々を強制送還するのはファシズムだ」といった反応です。不法滞在者は自国に帰らなければなりません。こうしたやりとりは大きな焦点になるでしょう。私が本当に心配しているもう一つのことは、債券市場です。」

債券市場の負債

「債券市場に関して私が本当に心配しているのは、この国では毎年1.6兆ドルから2兆ドルの新たな負債が政府債務に追加されている点です。

現状でこの債務を持続可能にしているのは、金利がまだかなり低いということです。現在の金利水準は4.5%程度です。もしも金利が8%になり、実際に債務返済に費やす金額が、政府が商品やサービスの購入、インフラに費やす金額よりもはるかに多くなると、この国の財政を破綻させるほどの大きなスパイラルになる可能性があります。

アメリカ合衆国が成立してから、200年超が経ちます。しかし、このようなことは一度もありません。この国で真の債務スパイラルが起こったことは一度もありません。

ですから、債券市場、国際投資家、グローバル化で金持ちになった人々、製造拠点を中国に移転して富を得た人々、多くの戦争で富を得た人々(訳注:トランプ氏が大統領になってもらっては困る人たち)が、債券金利を急上昇させてトランプ政権を倒そうとするのではないかと、私は本当に心配しています。

債券金利の上昇

私がよく考え、トランプ氏ともよく話し合っていることの一つは、財務長官に誰を選ぶかです。もちろん、それは大統領の専権事項ですが、最終的には、本当の危機の時にこの国を管理し、国の財政を軌道に戻すことができる人物を見つけなければなりません。

金利上昇は、彼ら(訳注:トランプ氏が大統領になってもらっては困る人たち)がトランプ氏を倒す方法の一つです。

我々は、彼ら(同上)が取りうる手段について考えなければなりません。彼らは有権者を操作するためにできることはすべてやっています。私はそれがうまくいくとは考えていません。

しかし、我々が勝利する場合も、今後の4年間は、順風満帆とはいかないでしょう。彼ら(同上)は、あらゆる手段を使って、トランプ氏を大統領職から引きずり下ろそうとするでしょう。

金利を急上昇させることが、おそらく彼ら(同上)が、トランプ氏を大統領職から引きずり下ろす最も重要かつ影響力のある方法だと思います。

債券市場に課題

イギリスのリズ・トラスが首相に就任したときに何が起きたかを覚えているでしょう。(中略)彼女は首相に就任し、政策のプランを持っていましたが、イングランド銀行は多くの間違いを犯したと思います。それは意図的だったかもしれません。金利は急上昇し、トラス政権は数日で崩壊しました。

もちろん、米国の政治システムは英国のそれとは異なります。しかし、債券市場が負のスパイラルに陥れば、それはトランプ氏にとって壊滅的な打撃となるでしょう。そして、それは私たちが就任したときに戦わなければならないことの1つです。」

J・D・バンス氏の憶測が正しいかどうかはわかりません。

ただ、新政権が決して勝利に浮かれたり、明るい未来を描くだけではなく、債券市場という課題を見出している点を我々は投資家として知っておくべきでしょう。

ベッセント氏の市場観を外挿すると…

前節のとおり、J・D・バンス氏は「最も重要な人事」として財務長官を挙げました。その財務長官に指名されたのがスコット・ベッセント氏です。彼はいまなにを考えているでしょうか。昨年2024年の1月に、ベッセント氏率いるファンドが投資家向けに書いたレターから考えてみます(→本レターで示されたベッセント氏の見解は、その後、彼自身を財務長官に押し上げる根拠のひとつになった可能性があります。以下は、筆者による抄訳であり、補足も含まれます)。

財務省とFRBの政策選択

「(前略)金融環境は過去3ヵ月間で大幅に緩和しており、この緩和的な環境は2024年も続く可能性が高いと考えています。なぜ、継続するのか。簡単に言えば、現下の緩和環境は、今年の選挙を前にイエレン財務長官とパウエルFRB議長が意識的に行った政策選択であり、市場はまだそのメッセージを完全には理解していないと我々は考えています。以下に、その理由を説明します。

米国財務省

まず、米国財務省から始めましょう。11月1日に行われた四半期定例入札見通しの公表(QRA; quarterly refunding announcement)は、市場に重要なシグナルを送ることを意図していたと考えています。

発表の日まで、債券市場はGDP比6%近い財政赤字によって生じた大量の国債発行を吸収するのに苦労し、長期ゾーンの金利はほぼ一直線に上昇していました。この発表に先立ち、(市場参加者で構成される)財務省借入諮問委員会(TBAC; Treasury Borrowing Advisory Committee)は長期債の発行をさらに増やすことを推奨しており、市場は予定されていた長期利付国債の発行が続くと予想していました。

しかし、意外なことに、11月1日、財務省は利付債の発行をわずかに増やすだけで、代わりに短期の財務省短期証券(Tビル)で赤字をより多く埋めると発表しました。 

なぜ、財務省はプランを変更したのでしょうか。財務省は、それまでの債券市場の下落とそれに伴う金融環境の引き締まりに不快感を覚えていたと我々は考えています。米国債のイールドカーブが大きな逆イールドであることを考えると、財務省短期証券(Tビル)による資金調達はより高コストになりますが、財務省はそれを支払う価値のある代償と判断しました。

短期的には、この発行戦略の変更は望ましい効果を発揮し、11月1日の発表以降、金融環境は大幅に緩和しました。しかし、中期的には、これはリスクの高い戦略であり、多大なコストを伴うと考えています。支払利息の増加に加えて、短期債の発行を集中させると、米国債は借り換えリスクを通じてより大きなボラティリティにさらされ、金融市場にアクシデントを起こす可能性が生じます。 」

FRB

「次に、FRBに目を転じると、パウエル議長は12月13日のFOMCで意図的にハト派的な方向転換を行い、『長期にわたって高金利を維持する』(higher for longer)戦略を事実上放棄したと我々はみています。重要なのは、賃金の伸びが依然として5%を超え、失業率が史上最低に近い水準にある中、FRBはインフレ予想をわずかに下方修正しただけで、しかも来年と2025年のインフレ予想は目標を上回ったままであったのに、2024年中に0.75%もの利下げを示唆したという点です。

なぜ、FRBは、よりハト派的な反応関数への転換を示唆したのでしょうか。FRBは、特に2024年の選挙を前に、景気後退のリスクよりもインフレ再燃のリスクを冒すことを決定したと我々はみています。FRBが明確に政治的な機関であるとは思いませんが、ワシントンDCのほぼ全員が、ドナルド・トランプ氏の復活を阻止したいという気持ちで一致していると我々はみています。

実際、ワシントンDC(FRBスタッフの大部分が居住する場所)では、前回の選挙でバイデン氏が93%対5%で勝利しました。(中略)政治的な観点から離れると、バイデン氏が任命した(3名の)FRB理事は、最近の課題を踏まえて、よりハト派的な人事としてバランスを傾けた可能性が高いとも考えています。 

バイデン政権の金融緩和政策

このFRBの政策転換は市場にとってどのような意味を持つのでしょうか。米国債の四半期入札発表に続いて、長期の実質金利は直ちに反応し、4年先1年物の実質金利は1%近く低下しました。 この金利の低下は株式市場にも波及し、PERは上昇しました。

バイデン政権は、バイデノミクスを成功させるために、全力で(政策、そして景気や金融市場を)プッシュしています。彼らが成功するかどうかはわかりませんが、彼らの取り組みは米国株式市場にとって非常に強気となる流動性と経済のサポート材料を提供しています。」

ベッセント氏の見立てどおりだったかどうかはわかりませんが、1, 財務省による短期証券(Tビル)の発行増は(2, 昨年6月に約20年ぶりに再開された米国利付債の買い戻しプログラムとともに)長期金利の頭を押さえたでしょうし、また、3, リバース・レポ・ファシリティからの資金引き出しによってFRBの量的引き締め(QT; quantitative tightening)が一部相殺されたことや、4, 大統領選挙の直前に1%もの大幅な利下げが実行・コミットされた点を含め、これらはすべて、2024年の株式市場を下支えしたでしょう。

景気拡大の見通し

また、ベッセント氏の見立てを外挿すれば、①バイデン政権の大幅な財政赤字がもたらした債務増加や、インフレ・政策金利・市場金利の高止まり、②イエレン氏の財務省短期証券(Tビル)に偏った国債調達構造がもたらす今後数年の巨額の資金調達ニーズや、いびつな構造の解消に伴う長期債の発行増といった点は、前節のJ・D・バンス氏の懸念と重なります。

良い点があるとすれば、FRBが今後、引き締め方向への転換を示唆する可能性があることでしょう。それは、長期金利の上昇を抑制することで、政府債務と債券市場を支える可能性があります。ただし、金融環境の引き締まりや(前向きに検討されるべき)歳出の削減は、株式市場にとってはプラスとは言えない動向として考えておく必要があります。ただし、米国景気は(戦争や不法移民の支援といった)無駄な歳出なしでも拡大していくと考えられます。

トランプ氏が気にする債務上限の金利への影響は?

トランプ氏は、昨年12月末に自身のソーシャル・メディア・アカウントで、今年1月2日に上限停止の期限を迎えた債務上限問題について、バイデン政権(当時)と民主党を批判しました。債務上限問題はトランプ新政権に引き継がれます。

すでに財務省は、債務を増やさずに政府の業務を継続するための「特別措置」を開始しており、財務省が手持ちしている資金(TGA; Treasury General Account)の取り崩しや、政府職員の年金基金に充当するための国債発行の停止、為替安定化基金の再投資停止、そして税収などによって歳出に充てる資金をねん出しています。

エコノミストの見立てによれば、こうした措置によって、今年6月頃までは資金繰りが継続できるようです。

債務上限に達したということは、借り換えは別として、新規の資金調達ができなくなります。また、財務省が手持ちしている資金(TGA)の取り崩しは、流動性の純供給にあたります。

結果として、(リバース・レポ・ファシリティ残高が枯渇した後の)QTの本格稼働にも関わらず、債務上限が停止または引き上げられるまでのあいだ、長期金利には抑制圧力が生じるとみられます(TGAの直近残高:6,412億ドル vs. 1ヵ月あたりのQT:600億ドル)。

今後、半年程度、米国債の需給面による金利の大幅な上昇は避けられる可能性があるでしょう。ただし、インフレの動向や予算の動向に加えて、日本や英国など他国の債券市場の影響を受ける可能性がある点には注意が必要です。

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

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