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「クチャクチャ食べる子ども」が増えている理由…大人になって命を危険に晒す可能性も【歯科医師が警鐘】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月12日 13時15分

「クチャクチャ食べる子ども」が増えている理由…大人になって命を危険に晒す可能性も【歯科医師が警鐘】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「うちの子、食事の音が気になる……」そう感じている親御さんはいませんか? 子どもの「くちゃくちゃ食べ」は、叱るだけでは解決しません。しかし放置すれば、健康リスクを著しく脅かすだけでなく、将来的な医療費負担の増加にも繋がることから厚労省も注視している大きな問題なのです。本記事では幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出氏が、口腔機能低下がもたらす弊害について解説します。

子どもがくちゃくちゃ食べをするのは、親が叱らないから?

筆者が育った昭和の時代は、音を立てて食べると「お行儀が悪い」と酷く注意されたものでした。最近、音を立てて食べる子どもが増えているのは、親が叱らないからでしょうか? 筆者はそうは考えません。

実は背景にはライフスタイルの変化があります。柔らかい食べ物の普及やスマートフォン、タブレットの長時間使用による姿勢の悪化、さらには口呼吸の増加が主な原因として挙げられています。その結果、口腔機能が十分に発達していない子どもが増加。治療しないで放置すると、生涯に渡り影響をおよぼすことから、厚労省はその重要性を認め、2018年に「口腔機能発達不全症」として新たに保険治療適応の疾患に指定しました。

日本歯科医学会が行った「子どもの食の問題に関する調査」では、未就学児の保護者の54%が「子どもの食事について心配事がある」と回答しています。子どもに対しての心配事の上位は「偏食する(41%)」「食べるのに時間がかかる(32%)」「ムラ食い(29%)」「遊び食い(28%)」と、子どもが食事に集中しない傾向が見られます。また、保護者自身の悩み事も「子どもの食べやすい食事の作り方がわからない(17%)」「忙しくて手をかけられない(17%)」「食事を作るのが苦痛、面倒(12%)」と、悪戦苦闘の様子が伺えます。

お口の機能には「食べる」「飲み込む」「話す」「味わう」「潤す」などがありますが、発達不全症といってもこれらの機能がまったく働いていないわけではないので、保護者が見抜くのは容易ではありません。

特に年齢が低いときには、各お子さんで成長の度合いが異なり、また機能不全の差も大きくないので、判別するのは特に難しいです。年齢が上がれば、不全症のお子さんもそれなりに機能が向上するので(それでも十分な機能ではありませんが)、無難に食べたり話したりできているように見えます。

しかし、年齢が上がれば上がるほど、正常な口腔機能の人と不全症の人との差は大きくなります。つまり、日常生活を送っているだけでは正常な機能を身につけることができません。いかに早い時期に専門的な治療を受けるかが、口腔機能においては重要になります。

給食の安全性に関する議論と新たな視点

口腔機能と窒息リスクの関連性

昨年2月に福岡県で給食のうずらの卵を喉に詰まらせた事件がありました。その際には、  

「うずらの卵の大きさが大き過ぎるので小さくすべきだ」

「給食の時間が短く、ゆっくりと食べる時間がないからだ」

「生徒が給食を食べている状況を先生が観察できる環境にないからだ」

といったさまざまな議論がなされました。確かにこれらを議論し、より安全な給食環境を築くことは大切だと考えます。一方、うずらの卵が給食に出るのは昭和の時代からです。給食の時間も以前とさほど変わらず、先生の給食時間の環境にも大きな変化はないように感じています。

この件で我々歯科医療界の立場から伝えたいのは、「口腔機能」に着目してほしいということです。食べる機能、つまり「咀嚼機能」が十分でないと食べ物を噛んで細かくできずに、丸呑み状態になります。さらに飲み込む機能である「嚥下機能」が不十分だとしっかりと飲み込めません。これらが重なり、食べ物を喉に詰まらせる可能性があるのです。

口腔機能の発達不全がもたらす影響

筆者がオーストラリアのアデレード大学時代に行った研究のなかで、咀嚼機能が弱くなると顎の骨の発達が悪くなることを発見しました。また顎の成長に左右で差が出て、顔が歪んでしまいました。日本での研究においては、顎の骨の大きさを左右で変えると、上手く食べられず、食事が口から漏れて十分な量を摂取することができないことも証明されました。つまり顎は、機能することで発達していくのです。

口腔機能の発達不全は顎の成長に影響をおよぼすだけでなく、歯並びも悪くします。歯並びが悪くなれば歯磨きが上手にできずに磨き残しが出て、むし歯の原因になり、大人では歯周病の原因にもなります。

また、食事も固いものが食べにくくなるため、自然と柔らかいものを好んで食べるようになりますが、柔らかい食べ物はビタミンとタンパク質が少ない傾向があり、栄養が偏りやすくなります。

「お口ポカン」の子が多い理由

当院のスタッフから友人の子どもの誕生日に録った動画を観せてもらったことがあります。

4歳の子どもが誕生日ケーキのロウソクを口で吹いて消そうとするのですが、火は一向に消えないどころか揺らぎもしないのです。

それでも子どもは一生懸命に吹き続け、周囲の大人は笑って見ています。しかし、筆者はこの動画を観て愕然としました。子どもの口腔機能が悪いのもその理由ですが、それ以上に見ている大人が子どもの口腔機能の発達不全にまったく気がついていないからです。

口腔機能のなかで口周りの筋肉(口輪筋)が弱くなると、口を窄めることができなくなり、息が漏れる様になります。子どもの口腔機能は口周りの筋肉に発達不全が顕著に出る傾向があり、口腔機能検査では唇の力の測定が重要です。

口周りの筋肉が弱いと、日常的に口が半開きになります。幼稚園児や学童期の子どもたちの口元を注意して見ていると、いわゆる「お口ポカン」状態になっている子どもが多くいることに気づきます。お口ポカン状態では、先述したように顎の成長や歯並びに悪影響を与えますが、それ以外にも口臭やイビキ、寝言の原因にもなります。

舌の位置・形も悪くなります。通常、舌は上顎に付いた状態です。唾をゴクンと飲み込んだときの舌の位置が正常といわれています。しかしお口ポカンでは、舌は下の歯のなかに収まった状態です。その結果、通常、丸い形の舌が歯型の跡でガタガタした形になります。

口呼吸の弊害

またお口ポカンの子どもは鼻ではなくお口で呼吸をするのですが、口呼吸はさまざまな弊害をもたらします。鼻で呼吸をするより口呼吸の場合は、酸素の吸入量が約10%低下します。

すると脳への酸素供給量が不足し、集中力の低下や眠気を引き起こします。口呼吸は口のなかを乾燥させるので、唾液の免疫力が弱まることから、インフルエンザや風邪などの感染症に罹りやすくなります。

子どもの健康寿命をのばすのは環境次第

個体寿命(いわゆる寿命)と健康寿命(健康で自立した生活ができる寿命)との差を「不健康な期間」といいます。男性で約9年、女性で約12年あり、その期間は日常生活に制限があるため、場合により支援や介護を受ける期間になります。

急にこの状態に陥るわけではなく、その前段階が全身の虚弱する「フレイル」といわれる状態です。そしてフレイルの予兆はお口の劣えから始まり、この状態がいわゆる「オーラルフレイル」です。つまり健康な状態の次に来るのがオーラルフレイルなので、早期にこの段階で食い止めれば、フレイルや介護状態に進行する危険性を下げることができます。

オーラルフレイルは些細なお口の衰えを表すキャッチフレーズであり、実はその状態により口腔機能が衰える「口腔機能低下症」という病気である場合があります。

病気ですから治療が必要なのですが、治療をせずに放置すると2年後にはフレイルや介護状態になっているリスクが(オーラルフレイルでない人に比べ)2.4倍になります。さらに2年後には、高齢者死因第3位の「誤嚥性肺炎」を含めて総死亡率リスクが2.1倍になることが知られています。つまり口腔機能低下症は命を危険に晒す可能性がある病気なのです。

全国に先駆けてオーラルフレイル事業に取り組んでいる志木市のデータによると、口腔機能が低下している市民を対象に測定会・指導会・講演会を行って口腔機能対策を図っても、93%の人は「自分は口腔機能(特に飲み込み機能)に悩みはない」と回答しています。このことから口腔機能の衰えは命を危険に晒す可能性を含んでいるにもかかわらず、自覚するのはとても難しいことが浮き彫りになっています。

日本老年歯科医学会の調査によると、口腔機能が低下している人の割合は40歳代36%、50歳代48%、60歳代62%、70歳代83%。若い世代からすでに口腔機能は低下し、50歳代では約半数が低下しています。この原因は、小児期に口腔機能が十分に発達しなかったことによって成人になっても機能は未熟のままで推移し、衰えが始まると早期に口腔機能に兆候が現れるからです。

これらのことを考慮すると、小児期の口腔機能は非常に重要で、人生後半の健康寿命にも影響を与える可能性があります。子どもの健康を考えるなら、生涯に影響を与える口腔機能について最優先で取り組んでください。

既述しましたが、本人や周りの人が口腔機能の異常に気付くことは難しいので、歯科医院で専門の検査を受けて状態を確認することをお勧めします。検査は保険が使え、検査内容も痛みやダメージを伴わず、短時間でできるので、時間の取れる春休みなどに歯科医院を受診してみてください。

宮本日出 幸町歯科口腔外科医院・院長 歯科医師・歯学博士

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