お兄ちゃんとはもう関わらないで済むと思ったのに…3,000万円相続することになった65歳女性、亡き父の「自筆の遺言書」に頭を抱えたワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月29日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
家族間で起こる相続問題は、複雑なケースが多いものです。とくに、音信不通の相続人がいたり、遺言書に不備があったりするとトラブルが長引くことも…相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、相続トラブルを避けるためのポイントと、遺言書作成時の注意点について解説します。
浪費癖の兄
有紀さん(65歳女性)は結婚して家を離れたものの、母親が先に亡くなり、父親が一人暮しになったことから、家族で家へ戻り、ずっと同居をしてきました。有紀さんには兄がいるのですが、学生のころから家を離れており、長男だから親と同居という気持ちはなかったようです。
長男は結婚して2人の子供に恵まれましたが、若いころから浪費癖があり、独身の頃、消費者ローンの返済ができずに父親が肩代わりしたことが何度かあり、両親ももうこれ以上は面倒を見切れないと長男に申し渡していました。
離婚後、30年間音信不通に…
兄の生活態度は結婚しても変わらず、生活費まで使い込んでしまうようで、愛想をつかした義姉は二人の子供を連れて実家に帰ってしまい、離婚したといいます。
それでも懲りず、兄は生活態度を変えられなかったようで、両親にお金の無心をしてきたため、父親は激怒して兄の申し入れは聞かなかったことから、その後は実家にも、有紀さんにも連絡がなく、30年近く音信不通となっています。
その間、母親が亡くなり、父親も亡くなりましたが、知らせるすべがない状態になっていました。
父親は遺言書を残していた
有紀さんが相談に来られたのは、父親の相続手続きをしたいということでした。財産は自宅の土地、建物で評価は2,000万円ほどと預金1,000万円、合わせて3,000万円。相続人は兄と有紀さんの二人で基礎控除は4,200万円ですから、相続税の申告は不要と確認できました。
父親は自筆の遺言書を残していて、自宅の土地と建物と預金は有紀さんにと書いてくれています。父親の意思は、音信不通で、すでに何度も援助してきた長男に渡す財産はないということだったのでしょう。
家庭裁判所で自筆遺言書の検認手続きをするようにアドバイスをし、検認は終わりました。
土地が二筆あったのに…
父親の土地は二筆あり、二つとも記載しないといけないところです。けれども、父親は小さい土地のみ記載し、主たる土地は記載がなかったのです。司法書士に依頼して、遺言書で登記できる方法を法務局に相談してみましたが、やはり番地の記載がないと登記できないという結論に至りました。
財産管理人の選任
次は兄と遺産分割協議をする方法をアドバイスしました。兄の代わり遺産分且協議をする方法として家庭裁判所に兄の財産管理人を選任してもらい、代理人と有紀さんが遺産分割協議をする方法が現実的です。
財産管理人の候補は兄の相続人となる兄の子供が適任ですが、幼いころに離婚した父親のことは関わりたくないという結論となりました。そうなると登記を担当する司法書士が財産管理人になるという選択肢もあります。
兄は生きていた
司法書士を財産管理人として家庭裁判所に申し立てをしたところ、調査段階で兄は運転免許を更新している事実が発覚したのです。本人の生存が確認されたとなると財産管理人選任の申し立ては取り下げるしかありません。
なんとか兄に連絡をつけて遺産分割協議をしたいところですが、結局、兄とは連絡が取れず、いまだに遺産分割協議が進まない事態となっています。
自筆の遺言書は要注意
この事態を解決するには家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、兄に協力してもらうか、審判で有紀さんが相続できるようにするなどの方法となるのですが、時間も費用もかかります。
このように自筆の遺言書を書いても、無効だったり、不備だったりすれば、問題が解決しないということになります。
遺言書をつくるときには専門家に依頼し、問題がないかを確認して進めることが大事です。できれば公正証書にしておいたほうが確実で、安心だと言えます。
相続実務士のアドバイス
できる対策
●音信不通の相続人がいる場合、遺言書は必須
●不動産は確認して漏れがない記載をする
注意ポイント
自筆だと費用はかからず手軽ではありますが、無効になるケースもあるため、遺言書は専門家に相談して作成しましょう。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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