代わりを見つけてきたら、辞めてもいいよ?…退職代行業者大繁盛の背景に見える、令和ニッポンの「企業」「就労者」あまりに大きい意識の差
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月29日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
上司と顔を合わせることなく退職したい…。そんな労働者の思いをかなえる「退職代行サービス」。お金さえ払えば退職手続きを丸投げできる手軽さがウリですが、社会的な視点からみれば、メリットばかりとはいいきれないようです。特定社会保険労務士の山本達矢氏が解説します。
退職代行業者の利用「多くは若年層」のワケ
「退職代行」というサービスが登場したのは2000年代後半頃ですが、近年、再び注目を集めています。労働者が上司と顔を合わせずに退職できる利便性の高さが評価される一方で、社会的に見ると、功罪両面があるといえます。
まず退職代行サービスが支持を得ている背景として「働き方の多様化」と「辞めにくい企業文化」が挙げられます。@DIMEの記事『会社を辞める際、スムーズに退職できなかった人の割合は?』(2024年7月5日)によると、「退職時に18.9%の社会人が強い引き留め、退職時期の先延ばしなど労使でトラブルに遭った経験がある」との記述があります。
筆者が社労士として受けた相談のなかにも「退職を半年も引き延ばされた」「だれか代わりを探してきてくれたら退職を認めるといれた」といった、労働者に大きな精神的負荷を強いるケースがありました。実際、日本の企業には「仕事を途中で投げ出すのは無責任」という意識が、労働者には「周囲に迷惑をかけたくない」という意識が根強く、それらが就業者に退職をためらわせる大きな要因となっています。
こうした環境下にあると、意を決して退職しようとしても、上司から説得や圧力がかかったり、手続きにかかる手間や煩雑さが精神的負担になったりと、スムーズに退職できないケースが少なくありません。
マイナビキャリアリサーチLabの記事『退職代行サービスに関する調査レポート』(2024年10月3日)によると、直近1年間に退職代行を利用した割合は50代が4.4%である一方で、20代では18.6%となっており、そこから、若年層や新卒社員などキャリアのスタート地点で会社に対する遠慮や不安が大きい人ほど、この傾向が顕著であることが読み取れます。
厳しい上下関係、新人にガマンを強いる会社の多いこと…
筆者が相談に乗っていて痛感するのは、いまなお「徒弟制度的な上下関係が根付いている企業」が多く存在するということです。
そのような職場には強固なヒエラルキーが見られ、それそこそ新人は「石の上にも三年」とばかりに、長期間にわたる上下関係のなかで仕事を学び、成長することが期待されます。
社内における上司や先輩の力は強く、部下や後輩の立場の人たちは、自由な発言も容易ではありません。また、「調和」という名の同調圧力も見られることが多く、空気を読むことを強いられます。
そのような環境下での突然の退職の申し出など、まさに職場の和を乱す行為であり、うかつにそんな申し出をすれば、「裏切り者」として攻撃対象とされてしまいます。
退職代行会社は、そういった苛酷な環境に置かれた労働者にとってはありがたい助け舟です。「業者が間に入ってくれる」「職場の人間と対面せずに辞められる」といった点が、なによりも需要が高まる理由でしょう。退職の意思を伝えにくい環境やパワハラなどの問題を抱えているケースでは、退職代行会社が第三者として介入することで大きな役割を果たしているのです。
退職代行業者の利用、労働者・企業の双方にリスクあり
一見すると退職代行業者の恩恵が大きく見えますが、そこに潜むリスクや社会的課題にも意識を向ける必要があります。
まず懸念されるのは法律的な問題です。退職代行業者の多くは労働組合や弁護士事務所と連携していますが、なかには十分な法的知識や資格をもたないまま営業を行う業者も存在します。
労働条件や給与、残業代未払いなど、職場とトラブルになった際に正しく交渉できず、結果的に労働者が不利益を被るケースも起こり得ます。
そして、退職代行を利用することで、労働者本人が折衝の機会を喪失することも大きな懸念点です。生きていれば、今後も折衝や交渉が必要な場面に遭遇することがあるでしょう。心身に危害が及ぶようなパワハラがあるなら別ですが、そうでない場合、「苦痛だから」「面倒だから」という理由で安易に人任せにする姿勢はよろしくありません。
また、一度でも利用すれば、退職代行業者の利用履歴のデータ流出の懸念や、退職先から過去の退職代行サービスの利用歴が伝わるのではないかといった不安もついて回ります。
退職代行を利用された企業側にも、「問題解決の機会」を失うリスクがあります。本来なら、労働者の声を真摯に聞くことで職場環境の改善の機会にできるところ、肝心な部分が退職代行によってスッポリ抜き去られてしまえば、今後も同様の問題を繰り返すことになりかねません。
自社の従業員に利用があったら、経営者は組織運営を見直して
以上のことから、退職代行会社には社会のニーズを汲む意味で大きな存在意義がある一方、利用には労働者や企業のコミュニケーションの断絶を深めるリスクがあるといえます。
従業員に退職代行の利用増加があるなら、企業側は自社の労働環境を真摯に見直す契機とするべきでしょう。パワハラ防止策を強化するだけでなく、上司と部下の意思疎通が円滑に行われる制度や風土の見直しが求められます。さらに、労働者側も「退職する際のストレスを軽減する」「自分が不当に扱われないようにする」という観点から、日頃から適切な法的知識を身につける、社内に信頼できる相談者を見つけるといった行動が必要だといえます。
急な退職を抑止するために会社が検討したい措置
●慰留の話し合いの場に時間的・回数的な制限を設ける
●冷静な話し合いを成立させるために、上司と本人の2人での話し合いでなく、顧問弁護士や顧問社労士など第三者に立ち合いを要請する
●上司や同僚から無理な慰留や圧力がかかった場合に備え、退職者本人が相談できる相談窓口を設ける
※上記以外も対策はありますので、弁護士や社労士にご相談ください
退職代行サービスが普及した背景には、現在の日本社会の構造的な労働問題があるといえます。過重労働や上司からのハラスメント、無意識の同調圧力といった根源的な課題がある限り、退職代行は一定の需要を保ち続けるでしょう。
しかし、その利用がさらに拡大すれば、正規・非正規を問わず労働者にとって「退職しやすさ」というメリットが増す半面、勤務先との対話の希薄化、本質的な問題の先送りといったリスクも拡大していくといえます。
「退職代行」への評価は人によってさまざまです。就労者からみれば、勤務先との関係を円満に終わらせる潤滑油としてありがたく思うこともあるでしょうし、経営サイドからみれば、自社の従業員とのコミュニケーションを断絶させる、歓迎せざる介入者と映るかもしれません。
もし経営者の方が、自身の会社で退職代行利用の退職者が発生したなら、「不誠実だ、無責任だ」などと退職者を責めるのではなく、その原因が組織内にもあるのではないか、何か話しづらい環境や部署内にハラスメントがあるのではないかと組織を見直してみてください。それによって、人手不足の折の急な退職といったリスクや、労働者間のハレーションが少しでも改善するのではないでしょうか。
山本 達矢 社会保険労務士法人WILL 代表社労士 特定社会保険労務士
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