ケインズの名言「株価は美人投票」は真理だが…信じてはいけない投資局面とは【経済評論家が助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月1日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
株の価格変動はまるで〈美人投票〉のようなもの。みんなが上がると思えば上がり、下がると思えば下がる――。投資家がよく知る、経済学者ケインズの名言。まさに真理だといえますが、実際の投資においては、当てはまらない場合もあります。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
株価と為替は「噂」と「思惑」で動く
株価は理屈通りに動かないことが多く、投資初心者は何が起きているのか理解できない場合も多いでしょう。為替レート(ドルの値段など)についても同様です。それは、株価等は人々の噂と思惑で動くからです。皆が上がると思えば皆が買い、注文を出すので実際に上がるのです。
経済学者ケインズはこれを「株価は美人投票のようなものだ」と表現しました。なにが真実かを知ることより、人々がなにを考えているのかを知るほうが株式投資で儲けることに役立つ、という意味です。もっとも、それを理解するには、ケインズ時代の美人投票の仕組みを知っておく必要があるでしょう。
ケインズ時代の美人投票を知ろう
当時の美人投票でも、最も得票の多かった候補者が優勝してトロフィーをもらったわけですが、いまと違うのは、優勝者に投票した審査員も景品がもらえた、ということです。そうなると、審査員の行動が変わってきます。
自分は候補1が美人だと思っても、候補2が登場したときにほかの審査員が拍手をしていれば、候補2が優勝する可能性が高いので、自分も候補2に投票したほうが得でしょう。自分の判断より他人の判断を優先するほうが儲けに繋がるのであれば、壇上の候補者を見つめるよりも、ほかの審査員の間の噂に耳を傾けるほうが有利なのです。
そんなとき、候補3が審査員に賄賂を贈っているという噂を耳にしたとします。そうなると、候補3が優勝する可能性が高いと思われますから、候補3に投票したくなりますね。「なぜ、自分には賄賂をくれないのだろう?」と考えるか否かは別として(笑)。ほかの審査員も同様に考えるとすれば、本当に3が優勝するでしょう。
問題は、噂が誤りであっても関係ない、ということです。多くの審査員が誤った噂を信じて3に投票すれば、誤った噂を信じた人が得をするのです。噂の真偽は関係ないのです。
審査員のなかに、噂が誤りであることを知っている人がいたとしても、その人は「自分だけが真実を知っている」などと自己満足に浸るのではなく、「皆が誤った噂を信じているなら、3が勝つだろうから、自分も3に投票しよう」と考えるほうが儲かる確率が高いのです。
黒田日銀総裁は「名医」だった
黒田氏が日銀総裁になったとき、「大胆に金融を緩和します。これによって世の中に資金が出回り、株やドルは値上がりするでしょう」と自信満々に記者会見をしました。
それを見た多くの投資家たちは、株やドルの値上がりを予想して買い注文を出し、それによって株やドルが値上がりして景気が回復したのです。金融緩和が景気を回復させたわけです。
筆者は元銀行員ですから、世の中に資金が出回らないことを知っていました。銀行から借りる企業が増えなければ、日銀から銀行に出ていった資金は日銀に戻ってくるだけですから。
しかし、筆者は「自分は銀行員だから真実を知っている」などと自己満足に浸るのではなく、「一般投資家は銀行員でないから、誤った噂を信じているようだ。それなら皆が株などを買うだろうから、株などが値上がりするだろう。自分も買おう」と考えて買いました。
結果として儲かったので、何度も飲みに行きました。そのたびに「黒田総裁、ありがとう」と乾杯したのですが、それは誤りでした。「ケインズ先生、ありがとう」と乾杯すべきだったのです。黒田総裁が金融を緩和しても、筆者がケインズの教えを知らなければ株を買わずに、儲け損なっていたでしょうから。
講演で上記の話をしたところ、「黒田総裁は世の中に資金が出回らないことを知っていたのですか?」という質問を受けたことがあります。これは答えに困りました。「知らなかったでしょう」と答えると「黒田総裁は愚かだ」ということになりかねませんし、「知っていたでしょう」と答えると「黒田総裁は詐欺師だ」ということになりかねません。そこで筆者は、「効くはずがない薬で患者を治したのだから、名医です」と答えました。
医学の世界では、患者に「よく効く薬だ」といって小麦粉を飲ませると病気が治癒することがあるそうで、「偽薬効果」と呼ばれているようです。黒田総裁は、まさにそれを利用したわけです。薬がない奥地で発熱した患者に小麦粉を渡して病気を治した医師のことを、愚か者だとか詐欺師だとかいうべきではありません。名医と呼ぶべきでしょう。
長期では、噂より「真実」が重要
ケインズの美人投票の話は、短期の投資に関しては大いに役に立ちますが、長期の投資に際しては役に立たないので、注意が必要です。10年間保有し続けるつもりで株を買うなら、真実の見極め(10年後も利益をあげている会社か否か)が重要です。
他人の噂は、気にする必要はありません。悪い噂が流れているとすれば、その銘柄は安値で放置されているでしょうから、むしろ買う材料でしょう。「人の噂は75日で消えるから、割安分が修正されるはずだ」と期待しましょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義 経済評論家
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