59歳・再婚男性「自分亡きあとも後妻の生活を守りたい、後妻亡きあとは〈先妻の子〉に全部継がせたい」…“遺言ではかなわない相続”の実現方法【行政書士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月1日 13時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「自分亡きあとも、後妻には経済的に困窮することなく今の自宅に住み続けてほしい。後妻亡きあとは、先妻との間で生まれた子に残りの財産をすべて渡してあげたい」。このような希望をかなえるには、どうすればよいのでしょうか。終活の一環として検討すべき対策を、行政書士・平田康人氏が解説します。
【事例】一次相続では後妻の生活を保証しつつ、二次相続では「先妻の子」に財産を渡したい
14年前に最初の妻と死別して以来、男手ひとつで1人息子(以下、長男)を育ててきた健夫さん(59歳・仮名)。健夫さんは50代最後の年に良縁に恵まれ、理子さん(57歳・仮名)と再婚を果たしました。
母を亡くした当時はまだ高校生だった長男も、今では社会人10年目の32歳になり、結婚して実家近くの賃貸マンションに住んでいます。
健夫さんが再婚を決めたきっかけは、先妻の13回忌が終わったこと、長男の結婚で父親業に一区切りつき、この先の自分の老後を考えるようになったことでした。男性も女性も平均寿命が80歳を超える長寿社会である現在、新たなパートナーと共に老後を過ごすことで、心身ともに健康でいたいと思ったのです。
ほどなくして理子さんと出会い、新生活のスタートを切った健夫さんですが、還暦目前ですから、終活を考え始めるタイミングでもあります。
理子さんには過去に婚姻歴があり、先夫と数年で離婚してから、健夫さんと再婚するまでずっと独身でした。理子さんに子どもはおらず、両親もすでに他界していますが、他に兄と妹がいて、それぞれ子どもがいます。
健夫さんの自宅は駅近くに建つ分譲マンションで、住宅ローンは完済しています。健夫さんの財産は、この自宅マンションのほか、預貯金などの金融資産があります。
現在、健夫さんと理子さんは自宅マンションで一緒に暮らしていますが、健夫さんは「将来自分が亡くなったあとも、理子さんには経済的に困窮することなく、自宅マンションに住み続けてほしい」と思っています。また、理子さんが亡くなったあとは、「理子さんに引き継がれた財産が残っていた場合、すべて長男に渡してあげたい」とも考えています。
希望をかなえるには、終活としてどんな準備をすればよいか。健夫さんは思案中です。
ポイント:遺言では「二次相続以降の資産承継先」を指定できない
「自分が亡くなったら後妻に財産を相続させるが、その後、後妻が亡くなったら、後妻が相続した財産は、先妻との間に生まれた子どもに相続させる」。
遺言では、このような二次相続以降の資産承継先の指定はできません。私法の基本法である民法には、基本原則の1つである「所有権絶対の原則」があるからです。
所有権絶対の原則とは、「所有権者は、その所有物を自由に使用・収益・処分することができ、これを侵害する者に対しては、その侵害を排除することができる」というものです。
つまり、相続で遺産を受け取った相続人は、その遺産(所有権)を消費することも、有償・無償で誰かに譲渡することも自由なのです。被相続人が遺言で指定できるのは、相続人等に相続させたり、遺贈したりするところまで。相続人が遺産を取得したその先の指定、いわゆる「後継ぎ遺贈」の遺言はできないということになります。
本事例の場合、理子さんの両親は他界していますが、兄と妹がいて、それぞれ家族を築いています。将来健夫さんが亡くなり、自宅マンションなどの財産を理子さんが相続すると、その後の理子さん自身の相続では、理子さんの相続発生前に健夫さんの長男と理子さんが養子縁組でもしない限り、長男は理子さんの相続人にはなれません。
法律上、理子さんの法定相続人は兄と妹であり、仮に相続時に兄と妹が亡くなっている場合は、その子ども(理子さんの甥や姪)が代襲相続することになります。もし健夫さんが何の対策もせずに亡くなると、自宅マンションなどの相続財産は、理子さん側の家系に渡ってしまうことになるのです。
家産を他家へ流出させない「後継ぎ遺贈型・受益者連続託」の活用
遺言ではできない「後継ぎ遺贈」、いわば「家産を他家に流出させない」ための対策は、民事信託を活用することで可能となります。民事信託では、承継する権利を所有権ではなく、「信託受益権」という債権に転換するので、財産の委託者が二次相続以降の資産承継先まで指定することができます。
その根拠法である信託法第91条には、次のように規定されています。
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【信託法第91条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)】
「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。」
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このような、二次相続以降の資産承継先まで指定する民事信託を「後継ぎ遺贈型・受益者連続信託」といいます。
本事例の場合、健夫さんが自宅マンションや金融資産などの遺産を他家(理子さん側の親族)へ流出させないためには、次のような信託スキームを組成することになります。
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<信託スキーム>
・委託者(財産を託す人):健夫さん
・受益者(最初に利益を受ける人):健夫さん
・第二受益者(受益者死亡後に利益を受ける人):理子さん
・受託者(財産を託される人):長男
・第二受託者(受託者死亡等において受託者に代わる人):長男の妻
・信託財産:自宅マンション、金融資産の一部
・信託終了事由:健夫さんおよび理子さんが死亡したとき
・帰属権利者(信託終了時に残存する信託財産を取得する人):長男
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この信託スキームでは、健夫さんの存命中は健夫さん自身が、健夫さん亡きあとは理子さんが自宅マンション等を使用します。理子さんが死亡したときに本信託は終了し、終了時に残存する財産は長男が取得することになります。加えて、長男の不測の事態(死亡、事故など)に備えるため、第二受託者として長男の妻など信頼できる身内を指定しておくとより安心です。
※万一、信託開始後に帰属権利者である長男が死亡した場合は、代わりの帰属権利者は委託者(健夫さん)となります。委託者が死亡している場合は委託者の相続人(理子さん、長男の子がいる場合はその子)が、委託者の相続人も死亡している場合は、信託終了時に清算を行った受託者(長男の妻)が帰属権利者となります(信託法第182条第3項)。
配偶者居住権より柔軟に適応できる「民事信託」
被相続人の亡きあとも配偶者の生活(自宅の居住権など)を確保する方法として、配偶者居住権を設定するケースも考えられます。配偶者居住権とは、令和2年4月1日から施行された制度で、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が、「亡くなった人が所有していた建物」に、自身が亡くなるまでまたは一定の期間、無償で居住することができる権利をいいます。
本事例の場合、健夫さんの相続時(一次相続時)に長男が自宅マンションの所有権を引継ぎ、理子さんには生涯無償で住み続けられる権利(配偶者居住権)を設定するといった生前対策でも、一見、健夫さんが希望する目的は達成できるように思えます。
しかし、実際には年齢を重ねて体も弱っていくので、理子さんが生涯元気なまま自宅マンションで暮らせるかはわかりません。もし理子さんが入院し、誰も住まなくなった自宅マンションを長男が売却すれば、配偶者居住権は消滅し、売却代金は所有者である長男が取得することになり、理子さんの財産と権利は不安定になってしまいます。
仮に、将来自宅に住めなくなった理子さんが施設に入所したり、入所費用を捻出するために自宅の売却が必要になったりすることを想定すると、配偶者居住権よりも受益者連続信託のほうが、健夫さんの「理子さんが経済的に困ることがないように」という希望に柔軟に適応できることにもなります。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
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