トランプ関税に身構える金融市場 「大国の特権」を駆使するトランプ政権【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月4日 17時5分
(※写真はイメージです/PIXTA)
※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
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【目次】
1.トランプ関税に振り回される金融市場
2.「大国の特権」を振りかざすトランプ政権
3.第一次トランプ政権時代の教訓
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トランプ大統領がカナダとメキシコに対して25%、中国に対して10%の追加関税を課す大統領令に署名したことで、今週の金融市場は大きく動揺して始まりました。しかし、その後の首脳間の合意を経てカナダとメキシコに対する関税の発動は1ヵ月延期されることとなり、さらに、トランプ大統領が中国とも協議を持つことを表明したことで、市場は落ち着きを取り戻しつつあります。まさに、世界がトランプ大統領の一挙手一投足に「一喜一憂」している格好ですが、こうした市場の反応には少なからず違和感を感じずにはいられません。
1.トランプ関税に振り回される金融市場
■トランプ大統領によるカナダ、メキシコ、中国への追加関税に関する発言に、市場が大きく振り回される展開が続いています。週末のトランプ大統領による関税発動の大統領令への署名を受けて、市場は大きくリスクオフに傾き、週明け月曜日のアジア時間にはカナダドルやメキシコペソが急落し、株式市場も大きく値を下げるなど「リスクオフ」の動きが広がりました。
■しかし、身構える市場をあざ笑うかのように、トランプ大統領はカナダやメキシコへの関税発動の1ヵ月延期を発表しました。また、中国とも協議の場を持つと発言したことを受けて、2月3日のニューヨーク時間を境に市場は一変し、株式などのリスク資産は大きく買い戻される展開となりました。まさに、自国の利益追求に邁進するトランプ大統領の世界への影響力を見せつけた格好と言えそうです。
2.「大国の特権」を振りかざすトランプ政権
■市場は関税発動の延期を受けていったんは落ち着きを取り戻しつつありますが、依然として報復合戦のエスカレートによる世界経済への影響や、米国のインフレへの警戒感がくすぶっているように思われます。しかし、足元の市場の乱高下の背景には、関税についての誤解や世界経済の先行きについての行き過ぎた警戒感があるように思えてなりません。というのも、トランプ政権がこうした関税を武器として利用する背景には、米国のような国にのみ許される「大国の特権」があるからです。
■関税に関する経済学の基本をおさらいすると、通常は輸入品に関税がかけられた場合、その分①価格が上昇して消費者は損失をこうむり、②政府は税収が増加し、③生産者は安い輸入品の流入が減って利益を得ることとなります。そして、価格の上昇で輸入国の消費量が減少することにより、この①~③の合計がマイナスになることで、「関税は経済全体にとってマイナスになる」とされています。
■しかし、米国のような「大国」が関税をかける場合、普通の国とは事情は少なからず変わってきます。なぜなら、貿易相手からすれば米国のような大国は「大のお得意様」なので、関税を課された周辺国は輸出価格を下げて販売数量を維持しようとします。また、米国で売れなくなったものが大量に国際市場に流れ出すことで、商品価格が下落する事態も想定されます。
■つまり、大国が関税を導入する場合、通常とは異なり輸入価格はあまり上昇しないため、①消費者は損失を免れ、②政府は税収が増加し、③生産者は大きな影響を受けず、消費される数量にも大きな変化が生じないため、経済全体としてプラスとなることが少なくないのです。さらにトランプ政権は、関税により手にした財源を法人税や所得税の減税に使うことで、経済活動をさらに押し上げることができます。
■このため、「大国による関税は周辺国・小国とは異なり経済にマイナスになるとは限らず、適度な関税はむしろ経済全体にとってプラスになる」とされています。こうした「大国の特権」をフル活用して、自分の懐は痛めることなく周辺国に効果的にプレッシャーをかけようとしているのが、トランプ大統領にとっての関税とすることができそうです。
3.第一次トランプ政権時代の教訓
■先に見たように米国が関税に関する「大国の特権」を有していると仮定すると、仮に関税を発動した場合でも米国の輸入価格が大きく上昇する可能性は限定的といえそうです。加えて、関税を課された周辺国の通貨は、今回のカナダドルやメキシコペソのように、経済への悪影響が相対的に大きいこともあって下落圧力にさらされることとなります。当然、通貨が下落すればカナダやメキシコからすれば輸出競争力が増しますので、関税による米国内での需要減少を回避するため、為替差益を活用して輸出価格を下げようとします。
■このため、たとえ米国がカナダやメキシコからの輸入品に関税をかけても、①輸出国による値下げ、②国際市場での余剰・価格下落、そして③周辺国の通貨安から、米国のインフレ圧力の高まりは限定的なものに留まる可能性が高そうです。
■こうした推測の背景には過去の関税にまつわる経験、記憶があります。それは、第一次トランプ政権下で実施された中国に対する大規模な関税措置です。当時のトランプ政権は2018年7月から計4回にわたり段階的に関税の引き上げを実施し、合計約3,600億ドル(当時の為替レート、1ドル=110円換算で約39.6兆円)分の中国からの輸入品に10~25%の追加関税を課しました。
■しかしこの間、人民元は中国経済への懸念から対ドルで大きく下落し、米国の輸入物価もまったく上昇しませんでした(図表2、3)。もちろん、今後の関係国との交渉如何では「報復関税合戦」や「貿易戦争」がエスカレートする可能性がなくなったとは言い切れないことも事実でしょう。とはいえ、こうした経験則に照らせば、仮にトランプ大統領がカナダ、メキシコ、そして中国に対して追加関税を発動したとしても、米国への影響は限定的なものに留まる可能性が高く、足元の市場の乱高下はいかにも「やり過ぎ」に思えてなりません。
〈まとめに〉
トランプ大統領の関税についての発動を受けて、金融市場が乱高下しています。もちろん、今後の交渉によっては「報復合戦」がエスカレートする可能性はありますが、ここもとの金融市場の反応は冷静さを欠いているように思えてなりません。
米国が持つ「大国の特権」を考えると、関税措置により輸入品の価格が上昇する可能性は限定的で、米国のインフレや個人消費への懸念は行き過ぎと思われます。さらに関税収入を財源とした所得税や法人税の減税により景気浮揚が図られるようなら、米国経済や米国に依存する世界経済にとっても、そのネガティブな影響は限定的なものに留まる可能性が高いのではないでしょうか。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『トランプ関税に身構える金融市場 「大国の特権」を駆使するトランプ政権【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。
白木 久史
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフグローバルストラテジスト
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