いずれ西側諸国では“利用禁止”の可能性も…?中国発の「ディープシーク」、市場への影響は【マクロストラテジストが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月8日 8時0分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
本記事は、フィデリティ投信株式会社が提供するマーケット情報『マーケットを語らず』から転載したものです。※いかなる目的であれ、当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。
「ディープシークの衝撃」
中国のスタートアップ企業、ディープシーク社が開発した生成AI(人工知能)に金融市場の注目が集まっています。
まず、1.「DeepSeek-R1」は、大規模言語モデル(LLM;自然言語処理に特化した生成AI;言語テキストを学習して、言語テキストを返す生成AI)であり、なおかつ推論モデル(答えだけでなく、「なぜそう考えたのか」も合わせて返してくれる、より高度な能力を持つ生成AI)です。この「R1」や米OpenAI社の「Open AI o1」、米Google社の「Gemini 2.0 Flash Thinking」といった推論モデルは、PhD(博士号)取得者並みの知能を持つとされます。
われわれ一般ユーザーにとってなじみのあるLLMは、対話型のLLMである米OpenAI社のChatGPTです。これは、答えを返しますが、「なぜ、その答えに至ったのか」という根拠は示しません。根拠が得られることのメリットは、ひとつには、根拠を確かめられるということであり、もうひとつは、人間の側が推論の方法や考え方そのものを学べるという点です。
もうひとつ、金融市場にインパクトを与えたのが、②「Janus-Pro-7B」です。これは、ディープシーク社が1月27日にリリースしたマルチモーダル・モデル(→言語テキストのみならず、画像などを入力して言語テキストを返す;言語テキストを入力して画像などを返す生成AI)です。たとえば、ある画像とリクエストをもとに、その画像の背景にあるストーリーを生成したり、逆に、文字でのリクエストをもとに、画像を生成したりします。
ディープシーク社製の生成AIのポイントを3つ挙げます。
1.高性能である(→米OpenAI社や米Google社などの競合モデルと同等か、それらを上回る能力を持つことが示されている)、2.オープンソースである(→PythonやLinux、Javaなどもそう;ソフトウェアの構成基本要素であるソースコードへのアクセスとプログラムの使用・編集・共有に制限がなく、世界中の開発者が改良に携われる。結果、開発のコストが下がったり、スピードが上がることが期待される。
ただし、その分、管理のリスクも高まる;ソースコードに隠された情報収集や追跡の仕組みがあるか、脆弱性の問題がないかなどを利用前に検証できる;これに対し、米OpenAI社や米Google社の生成AIはクローズドソース≒ブラックボックスである代わりに、開発や安全性管理などは同社が責任をもって行う)、
3.個人利用や商用利用のコストが低い(→現時点では、米OpenAI社のChatGPT Plus/Proは月額料金があるのに対し、ディープシーク社の「R1」は無料。商量利用のための従量制課金も米OpenAI社の「o1」に比べて大幅に低い。現時点では、米Google社のGemini 2.0 Flash Thinkingも無料)
ただし、たとえば、ディープシーク社は中国の企業ゆえ、中国の歴史や政治に関する特定の回答ができないといった問題点や、情報を取得・利用される可能性がある点が指摘されています(→後者は西側企業の生成AIでも同様でしょう)。
今後、競争相手の西側企業はそうした「信頼性の低さ」を強調するかもしれません。また、今後、米中対立が激化すれば、西側諸国では利用が禁止される可能性も全くないとは言い切れないでしょう。
金融市場にとっての影響について、よりわかりやすいポイントは、
1.ユーザーの利用コストが低いという点と、
2.ディープシーク社が自社の生成AIを低コストで開発した(と主張している)点です。
DeepSeek-R1のひとつ前のモデルである「DeepSeeK-V3」は、米OpenAI社のGPT-4oや米メタ・プラットフォームズ社のLlama 3.1を凌ぐ能力があるとディープシーク社は示していますが、同社はDeepSeeK-V3の開発費用がわずか550万ドルであったとしています。
以下にユーザー側と開発側のそれぞれのコスト削減をリストしてみます。
ユーザー側の企業にとってのコスト削減
まず、ユーザー側の企業にとっては利用の費用が下がります。したがって、ユーザー企業の利益や業績にとってはプラスに作用する可能性があります。
たとえば、業務効率化のために企業のシステムにさまざまな生成AIを接続し、企業が持つデータなどに対する作業を指示し、加工や要約、文書化、メール送信といったアウトプットを返すときには(⇒生成AIをビジネスに用いるときには)、インプットとアウトプットの両方に課金されます。先に述べたように、ディープシーク社の生成AIは、たとえば米OpenAI社の生成AIに比して、この料金が大幅に低く設定されています。
この接続コストが削減されると、その分、利用費そのものを削減できたり、あるいは(接続コストが下がった分)利用を拡大することで、たとえば人件費や作業時間をさらに削減して、利益や売上高を高められる可能性があります。
ユーザー側の企業にとって費用が削減できるということは、開発・提供側の企業の利益が減ることを意味します。今回の出来事は、部分的には「開発側の企業から、ユーザー側の企業への利益移転が実現する」ことを意味するでしょう(→ただし、インフレや人件費の上昇に沿って、利用料金はやがて引き上げられる可能性があります)。
開発側の企業のコストも下がり、参入が増え、中長期的にはイノベーションが促されることで(⇒1, イノベーションが加速する、②パターンが増える)、ユーザー側の企業は、より便利で、コストが低い生成AIを利用でき、利益や売上高をさらに高められる可能性もあるでしょう。
開発側の企業にとってのコスト削減
とくに巨大テクノロジー企業にとっては今後、開発のための費用が削減されることで、これまでコミット(確約)している研究開発や設備投資を減らすことができると考えられます。
(競争力のある製品やサービスを開発できると仮定すれば)研究開発費の削減は利益を押し上げます。設備投資が減ることは「成長期待が減る」と捉えられるかもしれませんが、その分を(それが良いかどうかは別として)競合他社の買収に充てたり、自社株買いに利用することも可能でしょう。
他方で、巨大テクノロジー企業による投資の削減は、画像処理半導体(GPU)を供給するエヌビディアや、(「ハイパースケーラー」と呼ばれ、AIの開発企業などに膨大な計算能力を提供する)クラウドサービス・プロバイダーのアマゾンやマイクロソフト、グーグル、基盤やサーバーラック、空調設備、建物、電力などを提供する企業の業績や株価には悪影響が出る可能性があります。
ただし、逆に今回の出来事によって、さまざまなAIサービスの利用コストが低下したり、利用が拡大することで、これらの製品やサービスへの需要は増えると考える向きもあります。
「マグニフィセント7」での関係性を考えると、子会社や出資先を利用してAIを開発しているマイクロソフトやアマゾン、メタ、グーグル、アップル、テスラは「画像処理半導体(GPU)を購入する顧客」であり、エヌビディアは「そのサプライヤー」(納入業者)です。
エヌビディアは、これまでは画像処理半導体(GPU)の独占的な供給主体として利益率が非常に高かったわけですが、仮に、これから「顧客」が「もはやそんなに必要ない」と考え始めれば、同社の利益率は下がる可能性があります。
もちろん、大手テクノロジー企業を含む他社も自社製の画像処理半導体(GPU)の開発を急いでいますので、今回の出来事があろうとなかろうと、エヌビディアは潜在的なライバルとの競争にさらされています。
加えて、米中対立のなかで、エヌビディアを含む、西側の半導体企業や半導体製造装置企業の製品輸出に関する規制がさらに強化されたり、出荷が厳格に管理される可能性も考えられるでしょう。
やや先に目を転じると、前節で触れたとおり、開発側の企業のコストも下がることで、今後はさまざまなAIの開発に新たに参入しようとする企業が増えると考えられます。
中長期的に考えると、開発コストの削減は「次なるGAFAM」や「第2のOpenAI」(→OpenAIがこの先、成功するかどうかはわかりませんが)のような企業が生まれる素地を作るでしょう。
他方で、それは競争が激化することを意味しますので、既存の企業で淘汰される企業も出てくると考えられます。それは、OSやインターネット・ブラウザ、検索エンジンの歴史が証明するところです。
ディープシークが教えてくれること
今回の件は、
●(独占的な地位や利益の獲得、あるいは企業そのものが永続的ではなく)あくまで企業は競争しているということ、●新しい企業が出てきて、われわれの生活における利便性の向上や経済の成長を促してくれるということ、また、投資家に機会を与えてくれること、
●したがって、投資家は投資家の本分として、しっかりと投資先や競合環境、規制などを精査して、銘柄選択をする必要があること、
をわれわれに教えてくれていると思われます。
年初のエントリーでも述べたとおり、銘柄選択や分散投資は重要でしょう。
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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