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赤い彗星のディープシーク 格安AIが起こす「2つのディープインパクト」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年2月6日 16時30分

赤い彗星のディープシーク 格安AIが起こす「2つのディープインパクト」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】

(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

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【目次】

1.「赤い彗星」ディープシーク登場

2.赤い彗星のディープインパクト

3.赤い彗星が起こすAI株の主役交代

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中国発の生成AIディープシークの登場が、世界の金融市場に衝撃を与えています。米国の大手ハイテク企業が開発した従来の大規模言語モデル(LLM)と異なり、開発や運用のコストが極めて安価なディープシークは、これまでのAI開発の常識を覆す可能性があるとして大いに注目を集めています。

開発時のデータ不正取得や輸出規制の対象となっている先端半導体の利用疑惑などが報じられているディープシークですが、今後のAIビジネスにとって掛け値なしの衝撃(ディープインパクト)であることは間違いなさそうです。

1.「赤い彗星」ディープシーク登場

■中国のAIスタートアップ企業ディープシークが、エヌビディア製の最先端の半導体を利用せず、短期間・低コストで高性能の生成AIを開発したことが大いに話題となっています。これまで、高性能の半導体を買い集め、膨大な費用と時間をかけて開発することが当たり前であったLLMの開発に一石(隕石?)を投じた格好です。

■ディープシークの性能の高さや、アプリストアでのダウンロードが一時全米でトップとなったことなどが大きく取り上げられたことで、従来のAI開発のビジネスモデルへの疑念が高まり、株式市場を大いに揺さぶる結果となりました。

■特に、これまでAI開発に欠かせない高性能の画像処理半導体(GPU)をほぼ独占的に供給してきたエヌビディアの株価は1日で約17%下落し(図表1)、同社の時価総額は1日で約92兆円が吹き飛びました。また、ナスダック総合指数は1日で約3%調整し、大手ハイテク株は一時総崩れとなりました。

2.赤い彗星のディープインパクト

■大昔の彗星の衝突が地球の気候、生態系、そして大陸の形成などに大きな影響を与えたとする説がありますが、今回のディープシークについても、今後のAIの将来を大きく変えてしまいかねない「ディープインパクト」とすることができそうです。中でも影響が大きいのが、巨額のAI開発のコストを誰が負担するのか、という問題です。

■ディープシークについては、①「蒸留」とよばれる手法を使い、②不正に取得したデータを用い、③シンガポールなどの第三国経由で調達した先端半導体を使ってLLMを開発した、との疑惑が取り沙汰されています。しかし、仮にそうした疑惑が事実だったとしても、ディープシークの衝撃を否定することにはできないように思われます。というのも、利用規約に反する「蒸留」による格安AIの開発をやめさせることは、現実にはとても難しいからです。

■既存の大規模なLLMを「教師役」に使い、「生徒」となる小規模のAIを鍛え上げる「蒸留」とよばれる開発手法自体は非合法でも異例でもなく、スマホやパソコンなどに搭載されるAI(エッジAI)の開発などに使われる一般的な開発手法です。そして、米国の大手ハイテク企業自身も、自社のLLMをブラッシュアップ・高性能化させる過程で「蒸留」のプロセスを活用してきたとされています。このため、例えば、ソフトウェア、ゲーム、映像コンテンツなどの違法なダウンロードが後を絶たないように、ある国家が諜報活動の一環としてその国力を動員しLLMの蒸留に取り組むなら、これを防ぐことは並大抵ではないことが容易に想像できます。

〈ディープシークが実践する孫氏の兵法、「戦わずして勝つ」〉

■今回のディープシークのインパクトが米国にとって痛いのは、「蒸留」により開発された格安AIが「オープンソース」として世界中に無料で配られることです。高性能のAIを格安で手にすることができるとすれば多くの人から感謝されそうですが、巨額の費用、時間、ヒトを投じてLLMを開発した米国企業としては、たまったものではないでしょう。

■ディープシークはオープンソースで、しかもアプリのダウンロードは無料ですから、LLMで儲ける気はさらさらないようです。そう考えると、少々うがった見方かも知れませんが、ディープシークによる格安AIの開発・投入は、米国による巨額AI投資の成果を無力化させる、高度な戦略のように思えてきます。紀元前500年頃の中国春秋時代の軍事思想家である孫氏の兵法に、「戦わずして勝つのが最善の策(戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり)」という言葉があります。ディープシーク・ショックは、米国とのAI開発競争をガチンコで戦うのではなく、知恵を巡らせ相手の兵力を無力化させようとする「よく練られた一手」といったら買いかぶり過ぎでしょうか。

3.赤い彗星が起こすAI株の主役交代

■LLMを開発する企業にとっては厄介な格安AIの登場ですが、広くAIビジネス全般を見渡すと話は大きく変わってきます。というのも、ディープシークのような格安AIによりLLMが低価格化・コモディティ化することで利用のハードルが下がってくると、ソフト・ITサービスにおけるAIの活用が加速度的に拡大する可能性が高いからです。

〈「ハードからソフトへ」、格安AIの登場で加速するAIのビジネス実装〉

■これまでAI関連ビジネスはAIを開発するための半導体やデータセンターといったインフラが注目を集めてきました。まさにAIの産業としての「黎明期」を象徴する動きとすることができそうです。そして、今後はAIを活用したさまざまなソフト・ITサービスが付加価値を提供することで、広範なビジネスが立ち上がってくることとなりそうです。そして、新しいサービスやビジネスモデルが成功をおさめ、さらにその利益が再投資されることで、AIビジネスはダイナミックに成長していくことが展望できそうです。

■AIの「黎明期」から「発展期」への進化の過程で、業界の付加価値は半導体に代表される「ハード」から「ソフト」へと移行していく展開が想定されますが、そうした兆候はすでに株式市場の動きからも確認することができます。

■1月27日の株式市場ではディープシーク・ショックによりハイテク株が全面安の展開となりましたが、その後の株価の推移を見ても、AI関連のハードの代表格である半導体の株価は神経質な調整局面を続けています。一方、今後の活躍が期待されるソフト・ITサービスの株価は、大きな影響はなくすでにディープシーク・ショックの前の水準を取り戻しています(図表2)。ディープシークがもたらしたAIビジネスにおける2つ目のインパクトである「ハードからソフトへの付加価値シフト」については、今後のAI株投資の主要テーマとして注目していきたいところです。

まとめに

ディープシークの登場がAIビジネスに2つの「ディープインパクト」をもたらしています。開発過程にさまざまな疑惑が呈されているディープシークですが、今後も「蒸留」を駆使した格安AIの開発を根絶することは現実的ではないでしょう。そう考えると、今回の「ディープシーク・ショック」は米国の「ヒト、モノ、カネ」を大量に動員する従来型のAI戦略、物量作戦に修正を迫る転換点となる可能性があります。そして、より重要なのは、LLMのコモディティ化を通じて、ソフト・ITサービスがAIビジネスの主役に躍り出るきっかけになることではないでしょうか。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『赤い彗星のディープシーク 格安AIが起こす「2つのディープインパクト」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

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