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長く付き合える機械式カメラvol.2 タフネスの証明 NIKON New-FM2 ー映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【11】

&GP / 2017年6月30日 17時0分

長く付き合える機械式カメラvol.2 タフネスの証明 NIKON New-FM2 ー映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【11】

長く付き合える機械式カメラvol.2 タフネスの証明 NIKON New-FM2 ー映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【11】

■ニコンというカメラ

僕が最初に使った写真用(僕の場合、本格的なカメラ体験は18歳の時の8ミリムービーカメラからだった)カメラは、20歳の頃入手した一眼レフ、キヤノンA-1だった。ひょんな事からいただいたもので、自分で選んだわけではなかった。

レンズは50mmと24mmのみで、特にレンズを増やしたり凝る事もなく、しばらくの間このセットで写真を撮っていた。その後、同じキヤノンの旧型F-1に変わり、さらに仕事の関係でニコンF4を入手した。確か、どなたかから格安でセットを入手した気がするが覚えていない。キャノンから鞍替えした理由は、ニコンはカメラのマウント(Fマウント)を変えておらず、古いレンズなども最新のボディに付くのが魅力的に思えたからだった。

たぶん僕は、この頃(90年代初頭)から長く使えるものへの興味が芽ばえていった気がする。

長い期間の使用を考えるなら、ニコンが最適に思えた。

キヤノンが悪かったわけではないが、同時期に存在したキヤノン旧型F-1とニコンF2を比べると、電気部品である露出計をニコンF-2ではファインダー交換式にして本体には組み込んでいない事が「長く使ってほしい」という設計思想が見え隠れしていて、自分的にはそちらの方が魅力的に思えたのだ。

そんなニコンも、1980年のF3からはバッテリー駆動になるわけだけど、基本的にニコンは長期使用を前提に考えているメーカーだと思う。

その証拠にF3の販売期間が1980年~2000年と、20年に渡る製造を維持させていた事が多くを物語っている。

また、デジタル時代になっても変わらずFマウント(制限はありつつも)を採用し、過去の顧客を切り捨てていない姿勢も同様だろう。

 

■NIKON New-FM2は「初心者向きカメラ」ではない。

そして90年代後半、以前の記事にも記したが、僕は自転車での長期旅が激化していき、新たな機材への要求も多くなっていった。

2000年代初頭に初のライカを入手したが、1998年だったか?99年だったか? その頃に、ニコンNew-FM2を入手した。当時はこのカメラも製造中止が決定し、新宿のミヤマ商会でギリギリのタイミングで新品を入手した。

それまで使っていたF4が、とにかく大袈裟で重すぎるのだ。

35mmフィルムの良さは小型軽量、機動力に最大の威力を発揮する。これでは本末転倒だ。

自分の自転車旅はサポートの車があるわけではない。誰かが付いて来るわけでもない。三脚も積んで、過酷な状況でも場合によっては自分を入れ込んで、全部一人でセルフタイマーを駆使して撮影しなければならなかった。

軽さは正義だったし、頑丈さだって必要だ。

キヤノンF-1は重い。ニコンのF3やF2も重い。金属の質感が…とか言ってる場合ではなかった。しかし、バッテリー駆動のAF機には触手が動かなかった。

もっとわかりやすく、シンプルで長持ちするメカニカルシャッターで、軽量な一眼レフが欲しかった。

当時、そんなカメラは現行品ではNew-FM2しかなかった。

僕は、連日もみくちゃにされる報道が目的ではないし、戦車のアーマーに毎日叩きつけられるような使い方ではないから、F3やF2である必要がない。

ハードな自転車旅とはいえ、軽量な事とメカニカル駆動による頑丈さがあればまずは大丈夫だろうと思った。

もし、これで問題が発生するようなら、F2などの導入を考えようと思った。実際、後年、New-FM2が壊れた時のためにと、ブラックのF2も購入した。しかし、その心配は皆無に終わってしまった。

僕のNew-FM2は約20年の間、ライカM6TTLと共に一度のトラブルもなく立派に作動してしまったのだ。

ライカなら総金属であるし、頑丈なのは想像がつく。しかし、プラスチック部品も多く、値段もその十分の一以下の普及機であるNew-FM2が、まさかこれほど頑丈だとは思わなかった。ライカと同じように、冬の北海道に4回も行き、そのたびに吹雪やらテント内の結露にやられ、長期間自転車に揺られ、フィルムは何本通したかわからないほど酷使された。

羊の皮を被った狼という言葉があるが、このカメラはまさにその言葉に当てはまる。
New-FM2は「写真学生の基本のカメラ」「初心者向けの普及機」というイメージの位置付けをされているが、とんでもない話である。

少なくとも僕は、このカメラによって「ニコンの血」をまざまざと体験したと言える。

せっかく、New-FM2の補欠にと用意した70年代のフラッグシップ機、ブラックのF2は活躍の場がないまま、空しく押し入れであくびをするハメになった。

 

■ブランド化されていないカッコよさ

自転車旅の間、ライカでも随分撮影したが、やはり使いやすいNew-FM2が楽なので通常はNew-FM2での撮影が圧倒的に多い。その時その時によって多少変わるが、ここぞと言う時はライカ。望遠効果や三脚で手際よく撮影したい時はニコン、と使い分けていた。

写真だと前回記事のライカほど使い込んでるようには見えないかもしれない。しかし、実際には同じか、それ以上に出番は多かった。

塗装がそれほどハゲてないのはニコンの塗装が伝統的に強いためだろうと思われる。ライカと同じ塗装なら、同じようにハゲていただろう。

レンズは、合理さとコンパクトさだけを考えて、当時のAF用ニッコール24-85mm F2.8-4D(アスフェリカルマクロ)と、AFニッコールED70-300 F4-5.6Dの2本とAIニッコール50mmF1.8のみで通した。

後年、ライカなどのレンズにハマった影響で、写真の、80年代フランスの新生ANGENIEUX(短期間で消えてしまった)のズーム 35-70 F2.5-3.3のニコンFマウントを入手。ここ10年はこのレンズを多用しているが、状況によって組み合わせを変えている。

これらを自転車のフロントバッグ、サイドバッグに振り分けて旅に出る。

前回の記事で旅の記録を書き込んだフロントバッグの写真を掲載したが、その後、バッグは崩壊寸前となり、2013年に修理した。このバッグも20年だが、まだまだ使えそうだ。

New-FM2は、素材や手触りの問題はさておいて、安い、頑丈、使いやすい、見た目もカメラらしくてカッコいい。また、普及機なのでブランドや伝説が付いてないのが、またカッコいい。本当のカメラのカッコよさとは、こんなカメラの事を言うのではないだろうか?

僕はまだまだこれからも使い続けるだろう。僕にはフラッグシップ機はいらない。

21世紀のひとりベトナム戦である。

 

(文・写真/平野勝之)

ひらのかつゆき/映画監督、作家

1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。

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