目指すは欧州トップブランド!“ミスターGT-R”が手掛ける台湾SUVに試乗
&GP / 2017年11月15日 21時0分
目指すは欧州トップブランド!“ミスターGT-R”が手掛ける台湾SUVに試乗
水野和敏。
クルマ好き、とりわけスポーツカー好きならこの名前を知らない人はいないでしょう。元日産自動車のエンジニアで、現行型GT-Rの開発責任者として企画から販売までをすべて統括。カルロス・ゴーン氏に「ミスターGT-R」と言わしめた人物です。
水野氏は2013年3月をもって日産自動車を退社。ファンは2007年から販売されている日産GT-Rを、開発者の名をとり、2013年モデルまでを「水野GT-R」、以降のモデルを「田村GT-R」と呼んだりもします。
▲水野和敏さん(左)とドライバーの鈴木利男さん
水野氏は2014年にHAITEC(華創車電技術中心)という台湾の自動車開発会社の副社長、そしてHAITEC JAPANの代表取締役、最高執行責任者に就任しました。HAITECは裕隆グループの一員で、グループはLUXGEN(ラクスジェン)という高級車ブランドを展開しています。
2017年11月2日、大分県のオートポリスでLUXGENを日本のメディアに公開する試乗会が開催されました。水野氏が開発に関わったモデルで、しかもサーキットを舞台に行われる試乗会となると、スポーツカーや高性能GTカーを連想しますが、目の前に並んだのはミドルサイズのSUV。なぜSUVなのか、そしてなぜオートポリスなのか。水野氏の言葉を交えながらひも解いていきましょう。
■自動車メーカーは、クルマが持つ楽しさを忘れていないか!?
▲LUXGEN U6 GT(手前)とU6 GT220
オートポリスに用意されていたのは、LUXGENのU6。サイズ的には日産エクストレイルの全高を低くしたものを想像してください(エクストレイルが1740mmなのに対し、U6は1620mm)。標準モデルとなるU6 GTと、スペシャルモデルのGT220がラインナップとなります。搭載エンジンは1.8Lツインスクロールターボで、最高出力と最大トルクははU6 GTが202ps/5200rpm、32.6kg-m/2000rpm、U6 GT220が222ps/5200rpm、33.6kg-m/2000rpm。駆動方式はFFのみの設定です。
U6は2013年にデビュー。2015年4月に最初のマイナーチェンジ、そして2017年に2度目のマイナーチェンジを行いました。水野氏は2015年のマイナーチェンジから関わっていますが、スケジュールを考えると本格的に関わっているのは今回のマイナーチェンジからと言えるでしょう。
水野氏は今回のマイナーチェンジで、フルモデルチェンジに匹敵する変更を行ったと言います。エンジン、トランスミッション、ブレーキ回り、シートやモニターなどを刷新。アクセルやサスペンションジオメトリーも大幅に変更されています。タイヤも今回、U6のために専用開発したものを履いています。なぜマイナーチェンジでここまでやるのか。水野氏は「楽しさ」を追い求めた結果だと話します。
▲U6 GT220のエンジン。レース用エンジンチューナーの東名エンジンと共同開発している
「僕がこのクルマで追いかけているのは日本車ではない。欧州のトップブランドです。自動運転や環境問題に直面したとき、多くの人はクルマに面白さを感じなくなっている。クルマを単なる道具としか見ていない。でも僕はそれは違うと思う。クルマは自由に、時間や場所を楽しめる商品でなくてはならないし、本来はライフスタイルの中でエモーショナルな道具だったはず。それがいつのまにか冷たい道具になってしまった。僕はそこに危機感を抱いている。LUXGENで僕が追いかけるのは“楽しさ”。走る楽しさをどうやって作るか。自動運転や環境問題に取り組むのは当たり前。その上でどう楽しさを盛り込むか。U6でそれを表現しています」
そして走る楽しさを追求するため、水野氏が開発コースとして選んだのがオートポリスでした。裕隆グループでは台湾に日産と同規模のテストコースを所有しています。なのになぜオートポリスなのか。水野氏はオートポリスこそがテストではなく市販のSUVを開発する場所としてもっとも適しているからだと言います。
アップダウンが激しく、ヘアピンやブラインドコーナー、さらに荒れた路面や山岳路に近い道もあるオートポリスは、SUVの開発に適しているというのが理由です。LUXGENの開発チームはオートポリス内に部品の加工場やショックアブソーバーのチューニングラボを設置。フィードバックをすぐさま車体に反映できる体制でテストに臨んだそうです。「U6の開発体制はGT-Rのとき以上ですよ」と水野氏は胸を張ります。そしてこれらは来るべき自動運転社会にとっても欠かすことのできないもの。自動運転には多くのセンシング技術や使われますが、それらが協調してクルマを正しく制御するためには、クルマの高い限界性能が求められると言います。
▲U6 GT220に装着されるビルシュタイン製ショックアブソーバー
「たとえばブレーキ。自動運転では機械が自動でブレーキをかけますが、もしブレーキがフェードしてしまったらどうするのか。クルマは人が命を預けるものです。だからこそ僕は機械に制御を頼れば頼るほど、限界域での運動性能が重要だと考えています」
開発には、鈴木利男選手や田中哲也選手など、全日本GT選手権で活躍したドライバーも参加しています。
■FFで4WDに引けを取らないコーナリング性能を実現
▲U6 GT200の走りはとにかくパワフル。SUVというよりGTカーのような乗り味
今回の試乗では、オートポリスのメインコースと荒れた路面で構成されるレイクサイドコースが設定され、ベーシックモデルU6 GTとスポーツグレードU6 GT220のほかに、マイナーチェンジ前のU6、そしてアウディQ3とBMW X1が用意されていました。冒頭で欧州のトップブランドを追いかけていると話した水野氏。U6のマイナーチェンジで、それらと遜色ないものに仕上がったという自信がうかがえます。
U6の2015年モデルは、アクセルを踏み込むとスポーティなエンジン音が室内に響きます。ワインディングなどを走るときはワクワクする感じになりますが、街中で加速する際や高速道路ではやや耳触りに感じるかもしれません。エンジンは1.8Lながら十分すぎるほどのパワー。高速コーナーではロールの大きさにやや不安を感じる場面もありますが、全体的にスポーティで走らせて楽しいという印象です。ただ、荒れた路面のレイクサイドコースでは路面の凹凸をかなり拾うのが気になります。
続いてレイクサイドコースではQ3、メインコースではX1に乗り替えます。どちらもさすがドイツのプレミアムブランド。乗り味は上質の一言! Q3は荒れた路面からの入力を適度にいなし、プレミアムカーらしい乗り味を演出します。X1はさすがBMW。SUVでもストレートからタイトなコーナーに入る手前の強いブレーキングでも怖さを感じさせず、旋回中も滑らかなロールでクリアしていきます。アクセルを踏み込みエンジン回転数がレッドに近づいた場面でも耳障りではなく心地良さを感じるサウンドを聞かせてくれます。今回はメインストレートの入り口に100km/hからのフルブレーキングを試せるセットが用意されました。ここでも安定した挙動で無理なく止まることはできるのはxDriveの恩恵でしょう。
そしていよいよ水野氏が手掛けたU6の試乗。まずはスポーツグレードのU6 GT220から。「4000rpmを境に別物になるようセッティングした」と水野氏が語るように、アクセルを踏み込んですぐにやってくる圧倒的な加速力に驚きます。しかもレスポンスの良さが秀逸。GT220には足回りにビルシュタイン製ショックを採用。このショックアブソーバーもオートポリスのテストで随時エンジニアがドイツと連絡を取りながらセッティングを煮詰めていったと言います。高速コーナー、タイトコーナーともに車高の高いSUVに乗っていることを意識させない、左右に振られる怖さを感じさせずにクリアしていきます。そして下りの直線から一気にブレーキを踏んで減速しステアリングを切っても、挙動が乱れないことに驚きました。
▲U6 GT220のコックピット。黒と赤でスポーティさを高めている
乗り味こそGT220比べてマイルドになりますが、標準モデルのGTでもこの感覚は基本的に変わりません。驚きなのは、今回比較試乗したQ3やX1が2Lターボの4WDだったのに対し、1.8LターボのFFでライバルモデルと遜色ない走りを実現していることです。
水野氏はLUXGEN U6で欧州プレミアムSUVに追いつくと話しましたが、Q3やX1、さらには日本のSUVとは目指す方向性の違いを感じました。Q3やX1は文字通り上品でプレミアムな乗り味。日本の同クラスのSUVは機敏さとしっとり感が大きい(C-HRが象徴的)のに対し、U6には優雅さとダイナミックさを強く感じました。まさにグレード名にあるGTという雰囲気です。
試乗終了後、水野氏は我々の前に2本のタイヤを持ってきました。1本はX1、もう1本はU6 GTのもの。サーキットを全開走行したX1のタイヤにはフラットスポットやひび割れが出ているのに対し、U6のタイヤがそれらがほぼ見られません。「僕が目指している限界性能とはこういうことだよ」と水野氏は言います。
▲U6 GT(左)とX1のタイヤ。タイヤにも耐久性を持たせている
ただ、水野氏は自分が作ったクルマの性能をこれ見よがしに我々に見せているのではありません。彼が目指しているのは、世界規模でのクルマの新たな開発圏の構築だと言います。
「台湾はAR技術が進んでいて、その基盤が出来上がっている。今後はARを使ったクルマの開発が一層進む。これからはひとつの国のひとつの会社という閉ざされた世界で開発するのではなく、それぞれ得意分野をもった会社が手を組んで開発圏を構築していくべきだと思います。そうすることでもっとおもしろくて楽しい商品が生まれるはずだから」
GT-Rをはじめ数々の名車を世に送り出し、日産退社後は新たな場所でおもしろいクルマを生み出した水野氏。そしてこの先、クルマ業界の常識を破り、これまで見たことも体験したこともないような楽しいクルマをつくってくれるかもしれません。
>> LUXGEN(台湾)
(取材・文/高橋 満<ブリッジマン>)
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