吉田由美の眼☆Mr.スカイアクティブが激白!マツダの夢のエンジンは悪魔のエンジン⁉
&GP / 2017年11月25日 11時0分
吉田由美の眼☆Mr.スカイアクティブが激白!マツダの夢のエンジンは悪魔のエンジン⁉
2010年、マツダは新たな自動車技術群として“SKYACTIV(スカイアクティブ)テクノロジー”を発表しました。
その一環として、翌2011年には、世界一の高圧縮比を誇る新型ガソリンエンジン“スカイアクティブ-G”を発表し、「アクセラ」に初搭載。さらに翌2012年には、「CX-5」に初搭載した世界で最も低圧縮比のディーゼルエンジン“スカイアクティブ-D”で、高価な排ガス浄化装置を使わなくても高い環境性能と力強い走りの両立を実現しました。
そんなスカイアクティブ-G、スカイアクティブ-Dに続く第3の存在が、2017年夏に技術発表したガソリンエンジン“スカイアクティブ-X”。このエンジンの特徴を簡単に説明すると、高回転まで回り暖房性能が高く、そして排気ガスもクリーンというガソリンエンジンの美点と、好燃費で高トルク、そして、レスポンスの良さというディーゼルエンジンの美点を融合したもの。双方の美点をクロスオーバーしていることから、スカイアクティブ-Xと名付けられました。
■スカイアクティブ-XのCO2排出量はEVと同等!?
スカイアクティブ-Xは、世界初の燃焼技術の実用化に目処をつけたことから、自動車業界などでは“夢のエンジン”とも呼ばれています。
内燃機関は、空気とガソリンの混合気を燃焼させて動力を得ますが、その空気の割合を大きくした“リーン”の状態で燃やす(=リーンバーン)と、燃費が良くなります。かつてのリーンバーンエンジンでは、省燃費と引き替えにNOx(窒素酸化物)の発生が指摘されていましたが、それは空気の割合がまだまだ小さかったため。実は、そこからさらに空気の割合を増やした“スーパーリーン”の状態で燃焼させると、NOxは出なくなるのです。
とはいえ、その領域までリーンにしてしまうと、当然、燃費は大幅に向上しますが、今度はスパークプラグで点火させることが難しくなってしまいます。
もちろん、高圧縮比化やシリンダー内の温度を高める手段などを用いれば、スーパーリーンの混合気でも圧縮着火を起こさせることができ、燃焼させることは可能です。でもそれだと、爆発音がとても大きく、また、安定して燃焼させられる範囲が非常に狭くて制御が難しいため、どの自動車メーカーも商品化までは至っていませんでした。
そこでマツダが着目したのが、スパークプラグの点火を制御因子とした“SPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション/火花点火制御圧縮着火)”です。
この方式では、スパークプラグの点火で生じる膨張火炎球で、まだ燃えていないところを圧縮してあげることで、シリンダー内を高温/高圧の状態にし、圧縮着火を思いどおりのタイミングで起こさせることができるのです。その結果、安定した燃焼の範囲が拡大し、大幅に燃費が向上させる一方、NOxがほとんど出ないスーパーリーン状態での燃焼を実現しました。
そんな、いいこと尽くめのスカイアクティブ-Xのアイデアは、どのようにして浮かんできたのでしょうか? マツダで“スカイアクティブの父”、“Mr.スカイアクティブ”と呼ばれているエンジン開発責任者、人見光夫さんにお話をうかがいました。
人見さん「純粋な“HCCI(Homogeneous-Change Compression/均質予混合圧縮着火)”は、空気と燃料をあらかじめ均質に混ぜて燃焼させるため、少しでも温度が想定からズレてしまうと、激しい音が出たり、燃焼が不安定になったりして、商品として使えるようにするのはとても困難です。もし仮に実用化できても、低いトルク領域だけの使用に限られるでしょう。
また、HCCIを使える範囲は狭い割に、複雑な可変機構などが必要になることもあり、コスト的に成立しませんでした。その点、SPCCIのようにスパークプラグで制御してやれば、かなり思いどおりに燃焼させられることが分かったので、商品化に向けて進められると判断したのです。
でも、実際に開発を進めてみると、スーパーコンピュータでも1回燃やすだけで3日くらい解析に時間が掛かってしまいますし、テストが成功かどうかを判断するのに数日間を要することもあります。まさにエンジニアたちを苦しめた“悪魔のエンジン”でしたね(苦笑)」
ーー業界などでは“夢のエンジン”とも呼ばれていますよね? スカイアクティブ-Xは人見さんが思い描いていたとおりのエンジンなのですか?
人見さん「どんなエンジンでも、完成した時に心残りのないエンジニアなんていません。燃費規制に合わせて対応させるなど、商品化には時間の制約がありますし、それを区切りとして商品化せざるを得ませんからね。常に『もっとこうしたい!』という思いを抱いていますから、なかなか思いどおりとはいきません。
ここへきて、ヨーロッパを中心に“エンジンは悪者”という見方が出て来ており、電動化を急激に推進するメーカーもありますが、マツダはそれと同時に、エンジン自体も改善していくことが、総合的には環境に対して正しい対応になると考えています。
EV(電気自動車)は走行中、CO2(二酸化炭素)を排出しませんが、実は電気をつくる際にCO2を排出しているのが実情です。そのため、燃料の製造過程まで含めた“Well-to-Wheel”(井戸から車輪まで)の観点から見ると、省燃費性能がさらに向上するスカイアクティブ-Xは、EVと同等のCO2排出量に収まります。つまり、エンジンもまだまだ進化させていかなくてはいけないのです」
ーースカイアクティブ-Xはスパークプラグを使っているため、純粋なHCCIではないという意見も一部では聞かれますが、その辺りはどのようにお考えですか?
人見さん「要は『なんのためにやるのか?』ではないでしょうか。NOxも出ないくらいの領域で薄い燃料を燃やし、燃費を大きく改善させるというのがマツダの狙いです。SPCCIでその狙いをほぼ達成できそうなので、私はこれで良いと思っています。
SPCCIで行こうと決めてからも、なかなか思いどおりにいかない状態が続いていましたが、たまに良い結果が出た時は、ファンである広島東洋カープが優勝した時と同じくらいうれしかったですね。スカイアクティブ-Xを早く商品化し、カープが優勝した時に匹敵するような喜びを味わいたいですね(笑)」
スカイアクティブ-Xは、東京モーターショー2017の会場でも、真っ赤なソウルレッドのコンセプトカー「魁(カイ)コンセプト」の横に展示されていたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。魁コンセプトは、次世代のアクセラと見られているクルマ。どうやらマツダでは「重要な技術はまずアクセラから」というのがお決まりになっているらしく、スカイアクティブ-Xも、2019年に発売予定の次期アクセラから導入されるとのこと。
人見さんと開発チームの皆さんにとっては、もうしばらく“悪魔のエンジン”状態が続くのかもしれませんが、天使のような夢のエンジン=スカイアクティブ-Xを街でドライブできることを、楽しみに待ちたいと思います。
(文/吉田由美 写真/村田尚之、マツダ)
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