軽自動車の最高出力は「64馬力」!なぜ今もこの自主規制は残っているのか
&GP / 2017年11月29日 21時0分
軽自動車の最高出力は「64馬力」!なぜ今もこの自主規制は残っているのか
日本独自の自動車規格で、全国で多くの人の日常を支えている軽自動車。現在の規格は1998年10月から適用されているもので、
全長3400mm以下
全幅1480mm以下
全高2000mm以下
排気量660cc以下
となっています。この規格には含まれていませんが、もうひとつ、軽自動車には制限があります。それは「最高出力64馬力以下」というもの。これは軽自動車メーカーが設けている自主規制ですが、この自主規制が生まれた頃のホットモデルがにわかに盛り上がりを見せています。
今回は今乗ると熱い軽自動車を、64馬力自主規制が生まれた背景とともに紹介しましょう!
■パワー競争にブレーキをかけるため自主規制が誕生
1980年代は国産メーカーが自車のパワーを高めてライバルに差を付けるパワー競争が激化していました。これにより排気量が2Lを超えるエンジンを搭載するモデルは300馬力を達成するものも登場。
一方で世の中は第二次交通戦争の真っ只中。交通事故者の増加や若者の暴走行為など、深刻な社会問題に対処するため、当時の運輸相が日本自動車工業会(自工会)に馬力規制を要請します。これにより'89年に最高出力300馬力で登場するはずだった日産フェアレディZ(Z32)の出力が280馬力に抑えられることに。以降、他のメーカーも最高出力を280馬力に抑えることになりました。
▲二代目アルトワークス
この自主規制は登録車(普通車)だけでなく、軽自動車でも行われました。'80年代の軽自動車は排気量が550ccだったこともあり、スポーツモデルでも最高出力は50馬力程度でした。ところが'87年2月、スズキが軽ボンネットバンのアルトに3気筒4バルブDOHCインタークーラーターボエンジンを搭載したアルトワークスを発売。最高出力は一気に64馬力に達したのです。そしてこのアルトワークスの登場が軽自動車の馬力規制の発端となりました。自主規制が64馬力という中途半端な数値になっているのは、このアルトワークスの最高出力が上限に設定されたからなのです。
■64馬力に思いを馳せる。今こそ乗りたい'80~'90年代の軽スポーツたち
▼スズキアルトワークス(1987年~)-64馬力自主規制を生んだホットハッチ
ボンネットのエアインテークと大型のフォグランプが強烈な印象を与える初代アルトワークス。前述したとおり、このクルマの登場が軽自動車64馬力規制の発端となります。この伝説だけでも、手に入れる価値は十分!
しかしこの伝説にも裏話があります。実はスズキは当初、アルトワークスに搭載するエンジン(F5A)を78馬力で開発していたというのです。現在と比べると当時の軽自動車は驚くほど軽く、ターボモデルでも600kg前後です。そこにこれだけのハイパワーエンジンを搭載したらいったいどれほどの走りを見せるのか…。さすがに運輸省も「ちょっと待ちなさい!」と言わざるをえなかったのです。
初代アルトワークスはデビューすると同時に当時の若い走り屋から絶大な支持を受けることに。そしてサーキットやラリーなど、モータースポーツシーンでも活躍します。
現在流通している中古車は極めて少ないですが、あの時の伝説を手に入れたいなら根気よく探してみましょう!
▼ダイハツミラ(1990年~)-ワークスのライバル、TR-XX
そもそもスズキがアルトワークスを開発したのは、ダイハツミラの存在が大きかったと言われています。1980年代の若者は免許を取ったら軽自動車で走りを楽しんでいました。当時人気だったのはダイハツミラに設定されたTR-XX。アルトにもターボ車はありましたが、イマイチぱっとしなかったそうです。そしてスズキはTR-XXを破るためにワークスを投入したのです。
もちろんダイハツはこの状況を指をくわえて見ていたわけではありません。'90年にフルモデルチェンジしたミラに、走りのモデルを複数投入しました。先代から続くTR-XXはアルトワークスと同じ自主規制いっぱいの64馬力に。さらに翌年にはTR-XXの装備をより豪華にしたTR-XXアバンツァートを投入。
また、ラリーやダートトライアルなどのモータースポーツシーンを見据えた4WDモデル、X4もラインナップに加えました。さらにX4は'91年、X4をベースにクロスミッション、装備の簡素化などで軽量化したX4-Rを投入。「X4」のネーミングはミラ以降もストーリアやブーンに使われており、ダイハツのラリー参戦車両の代名詞となっています。
この時代のミラのスポーツグレードも中古車流通量は極めて少なくなっています。欲しい人は根気よく探してください。
▼三菱ミニカ(1989年~)-4輪車世界初のDOHC5バルブエンジン+ターボのDANGAN
アルトワークスの登場以降、軽ホットハッチはアルトとミラの2強状態になりました。三菱はミニカにZEOというモデルを投入するも、若者からは振り向かれません。そこで1989年1月のフルモデルチェンジで、スペシャルモデルを投入します。4輪車世界初となるDOHC 5バルブエンジンに新開発のインタークーラーターボを搭載したダンガンZZです。
デビュー時、ダンガンZZは4WD専用モデルでしたが、'89年8月に貨物登録から乗用車登録に変更されたことにともない、2WDも登場します。そして'90年2月には軽自動車の規格改正が行われ排気量が660ccになりますが、64馬力のダンガンはしばらく550ccのまま販売されました('90年8月から660ccに)。
ほかにもダンガンには片側3連マフラーカッターが装備されるなど、独自の路線を貫いていました。そしてダンガンはかなりの暴れん坊で、パワーを腕でねじ伏せながら走るのはかなり大変だったという話も…。この時代だからこそありえたクルマのひとつだと思います。
▼スバルヴィヴィオ(1992年~)-スーパーチャージャーで武装したRX-R
1970年代~1990年代初頭まで、スバルはレックスというモデルでアルトやミラと競っていました。'89年にはVXというグレードで自主規制に3馬力だけ足りない61馬力を達成。VXは'90年の軽規格変更に伴う660cc化で64馬力に達します。
'92年、レックスは20年の歴史に幕を閉じ、新しくヴィヴィオとして生まれ変わります。そしてヴィヴィオには64馬力を発生するRX-Rが設定されました。スバルの軽自動車は昔から他社とは違う独自の進化をしています。代表的なものが、早くからATではなくCVTを搭載したこと。そしてターボではなくスーパーチャージャーで過給したことです。
ヴィヴィオRX-Rも過給機は低回転からハイパワーを発揮するスーパーチャージャー。また当時では珍しかったルーフの中央に配置されるセンターアンテナを採用しています。さらにヴィヴィオにはモータースポーツ参戦を意識したフルタイム4WDのRX-RAが設定されました。そして日本を飛び出し、海外で開催されるラリーに参戦したのです。
ヴィヴィオRX-Rは他のモデルに比べると探しやすい30台ほどの中古車が流通しています。しかもノーマル、またはノーマルに近いライトチューンで抑えられているものが多いのが特徴。今回紹介したものの中では、もっとも選びやすいと言えますね。
■軽自動車の64馬力自主規制はなぜ撤廃されないのか?
登録車にあった280馬力自主規制は2004年に撤廃され、現在では300馬力を超えるクルマも多く登場しています。ではなぜ軽自動車の自主規制は現在でも残っているのでしょうか。理由はいくつか考えられます。
ひとつは登録車の自主規制撤廃が競合する輸入車に対抗するためのものだったこと。日本独自の規格である軽自動車には競合する外国車がないため、規制撤廃の必要はありません。
また、軽自動車が64馬力規制を撤廃して70馬力、80馬力と出力を高めると、リッターカーなどと競合してくることになります。軽自動車はボディサイズや排気量に制限を設けることで税制上の優遇措置を受けていますが、現在はパッケージングの工夫によりリッタカーより室内が広い軽ハイトワゴンも登場しています。出力規制がなくなればますますリッタカーとの差がなくなり、登録車を作っているメーカーはたまったものではないでしょう。
そして軽自動車をはじめ、現在はやみくもにパワーを追い求めるのではなく燃費性能を高めたクルマの方がユーザーから支持されます。軽自動車にパワーを求める人も現在のターボモデルで十分。それよりも燃費がいいものに乗りたい。軽自動車の低燃費化はほぼ上限に達したと言われていますが、それでもメーカー各社は少しでも性能を良くするために努力しています。
こういう時代だからこそ、若かりし頃に憧れたハイパワー軽自動車で当時を懐かしむのもおもしろいカーライフなのではないでしょうか。
(文/高橋 満<ブリッジマン>)
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