アートの域へ達したマツダのデザインに、日本のモノづくり精神を見た
&GP / 2015年10月10日 18時0分
アートの域へ達したマツダのデザインに、日本のモノづくり精神を見た
ヒット、ヒット、サイクルヒット!
ここへきて、ホームラン級の「ロードスター」をはじめ、立て続けにヒット作をリリースし続けているマツダ。その要因のひとつが“デザイン”にあることは疑いようもありません。マツダの今のデザインは、どこからやってきて、そして今後、どこへ向かうのか?
それを探るべく、ワタシはマツダが生み出した「クルマづくりにおける“アート”」を言語化する機会を目の当たりにするために、新潟県燕市で開催された「マツダデザイン取材会」へ向かったのです。
■デザインテーマ“魂動”とオールラインナップの完成
マツダ デザイン本部アドバンスデザインスタジオ部長 中牟田 泰さん
ここへきて、マツダのデザインテーマ“魂動(こどう)-Soul of Motion-”がジワジワと浸透してきました。ドイツの権威あるカーデザイン賞「オートモティブ・ブランド・コンテスト」においても、今年は、マツダのコンパクトSUV「CX-3」と、今春の「ミラノサローネ国際家具見本市」期間中に開催されたデザインイベント「ミラノデザインウィーク2015」にマツダが出展したトラックレーサー(自転車)「Bike by KODO concept」が、見事に受賞しています。
また、マツダのグローバルデザイン部門は、先のオートモティブ・ブランド・コンテストにおいて、“チームオブザイヤー”を受賞。日本、アメリカ、ドイツにデザイン拠点を置くマツダのグローバルデザイン部門が、デザインテーマである“魂動”をベースに、革新的で一貫性のあるブランドデザインを実現していることが高く評価されたのです。
では、そもそもマツダは、なぜ“魂動”というデザインテーマを掲げたのでしょう? デザイン本部アドバンスデザインスタジオ部長の中牟田さんは、こう説明します。
「デザイン本部長の前田育男から『もうそろそろ、デザイナーのひとりよがりの“遊びのデザイン”はいらないんじゃないか』といわれたことから、マツダのデザインテーマづくりがスタートしました。そもそもは、モーターショーに出展するコンセプトカーに関する議論だったのですが、決して実現することのない絵空事を提示するのではなく、よりリアルな、プロダクトにつながるものを提示すべきである、との結論に至ったのです。クルマは美しい道具であるべきです。美しい道具は生活を豊かにしますからね」
では具体的に、“魂動”にはどういった意味が込められているのでしょうか?
「マツダのデザイン哲学ですね。野生を駆ける動物のように、力強く美しい動きを表現しようというものです。それを追求する過程で、我々は日本独自の美意識の存在に気づいたのです。そこには、ムダな要素をそぎ落とすことで、研ぎ澄まされた“凛(りん)”という品格、そして“動(どう)”というマツダらしいダイナミックさ、そして、情熱に訴えかけるような“艶(えん)”が含まれています。それらのハーモニーは、欧米の自動車ブランドのカーデザインには、決して見られないものなのです」(中牟田さん)
マツダのクレイモデラーたちが作り出した、魂動のテーマオブジェ
そうして誕生した“魂動”というデザインテーマを元に、クレイモデラーたちがひとつのテーマオブジェを作ったといいます。その理由とは?
「どんなカタチが人の心を打つのかを追求するためです。そこで目指すべきカタチをつくりました。魂動デザインのマスターピースです。社内のデザイナーには『全員がアーティストたれ』と日頃からいい続けていますが、このマスターピースによって自分たちの目指すところがより明確になりました。そういった、美しさを作り出す独自のプロセスによって2010年にできたのが、魂動デザインをテーマにしたコンセプトカー『SHINARI 靱(しなり)』なのです」(中牟田さん)
デザインコンセプトモデルの4ドアクーペ「SHINARI 靱」
SHINARI 靱(しなり)からスタートした魂動デザインは、マツダの現在の商品ラインナップへどのように反映されているのでしょうか?
「SHINARI 靱の後に出た、すべてのモデル(編集部注:マツダは、2012年に『CX-5』、2012年に『アテンザ』、2013年に『アクセラ』、2014年に『デミオ』、2015年に『CX-3』『ロードスター』をそれぞれ発売)を目にしていただくと、すぐに『マツダのクルマだ!』ということが分かるデザインに仕上がっています。魂動デザインの完成です。魂動デザインによって、カーデザインをアートの領域まで高めたいと考えています」(中牟田さん)
■進化し続けるマツダデザイン、そのネクストステップ
オートモティブ・ブランド・コンテストで賞を獲得したトラックレーサー「Bike by KODO concept」
今年、マツダはミラノサローネに出展しました。出展作品と魂動デザインとの関係性は、どのようなものだったのでしょうか?
「マツダのデザインの本質を伝えるために、クルマ以外のプロダクトからコンセプトを伝えることも有効だと考えたからです。ひとつは、ソファとテーブル。革と金属を組み合わせたデザインは、ミラノの家具職人にも『コレはクルマのデザイナーにしかつくれないね』といわしめました。これは褒め言葉だと思っています(笑)。また、トラックレーサーも製作しました。新型ロードスターのキースケッチを描いたデザイナーが、このトラックレーサーのスケッチも描いたんですよ」(中牟田さん)
伝統技法により銅の塊からたたき出された玉川堂の「魂銅器 KODOKI」
この写真にあるオブジェ「魂銅器 KODOKI(こどうき)」も、ミラノサローネに出展されたものです。
「魂動デザインと、そこから生まれたラインナップが完成した今、マツダはネクストステップを示す必要がありました。新たなるマスターピースの作成ですね。そこで、江戸時代創業という老舗の鎚起銅器ブランドで、新潟県の無形文化財にも指定されている玉川堂さんとコラボし、『魂銅器 KODOKI』を作成していただいたのです」(中牟田さん)
どのようなきっかけから、マツダと玉川堂はコラボし、このような作品を創り上げることになったのでしょうか?
「デザイナーたちの学びの場として、さまざまな方をマツダにお招きし、講習していただきました。その中の1社が玉川堂さんだったのですが、そのお話に、ウチのデザイナーがいたく感動したのです。私もすごく刺激を受けました。そこで、マツダのデザイナーや金属加工の担当者を玉川堂さんへ送り込み、より深く学ばせていただく機会を設けていただいたのです。それがコラボのきっかけですね」(中牟田さん)
玉川堂 代表取締役社長 七代目当主 玉川基行さん
「ウチの職人たちも、とても刺激を受けました。魂動デザインに共鳴したのです。その共鳴からビジネスは抜きに、魂銅器 KODOKIの創作に着手しました。完成まで、半年くらいかかったでしょうか。魂銅器 KODOKIの創作に関しては、他の商品と技法を変えていて、非常に手間が掛かっています。技法がカタチをつくった、といった方がいいかもしれません」(玉川さん)
急須やぐい呑は、1枚の銅板をたたき伸ばしてつくられるが、魂銅器 KODOKIは全く逆の工法でつくられた
技法がカタチを作った、とはどういうことなのでしょうか?
「意外に思われるかもしれませんが、1枚の銅板から急須をたたき出すにしても、ぐい呑をたたき出すにしても、実は銅の板をたたいて伸ばしていくのではなく、たたいて縮めていくのです。ところが魂銅器 KODOKIに関しては、その逆。銅の板ではなく、銅の塊からたたき出し、伸ばして作ったものなのです。この造形をつくるために技法を編み出したのではなく、技法そのものがカタチを生んだわけです」(玉川さん)
出来上がった作品をご覧になり、中牟田さんは何を感じられたのでしょうか?
「モノづくりの深い精神の中に、玉川堂さんとマツダに共通するものを感じました。マツダは自動車メーカーとして、グローバルを目指さなければいけないのは当然ですが、やはり我々は日本のブランドです。クルマは元々、欧米の文化。なので欧米の自動車ブランドと同じことをしていては、デザインでも負けてしまいます。日本のブランドとして、ジャガーとかアルファロメオにはない、マツダのデザインを育んでいきたい。モノづくりの精神の中から、それを表現していきたいと思っています」(中牟田さん)
オートモティブ・ブランド・コンテストを受賞したCX-3やトラックレーサーのBike by KODO concept、そして魂銅器 KODOKIなどは、10月16日(金)〜25日(日)に“デザインを五感で楽しむ”ことをテーマとして開催される「東京ミッドタウンデザインタッチ2015」に出展予定。日本のモノづくり精神が息づく新しいマツダデザインに触れられる、絶好の機会となりそうですね。
テーマ“魂動”に基づいてデザインされた「アクセラ」
<SPECIFICATIONS>
◎アクセラ XD スカイアクティブ-D 2.2(6MT)
ボディサイズ:L4460×W1795×H1470mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2188cc 直列4気筒 ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:175馬力/4500回転
最大トルク:42.8kg-m/2000回転
価格:306万7200円
(文&写真/ブンタ)
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