【ヒットの予感(3/3)】「究極のロボット掃除機とは?」アイロボット社CEOコリン・アングル
&GP / 2015年10月15日 18時0分
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【ヒットの予感(3/3)】「究極のロボット掃除機とは?」アイロボット社CEOコリン・アングル
2002年にルンバの1号機が発売されて以来、アイロボット社の経営は順調になり、それと同時に世の中にロボット掃除機というものが浸透していった。今回発表された「ルンバ980」はその延長線上であり、コリン・アングル氏自身も「ルンバの過去最高傑作品である」と宣言するほどの自信を覗かせる。今後アイロボットは、どんなことをロボットで実現しようとしているのか?
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ーー2014年に明治大学で講演された時に、アイロボットの次の事業部門として「リモートプレゼンス」に言及されていました。当時はまだテストはしていなかったということですが、大きなビジネスチャンスというお話もありました。もう少し具体的に教えてください。
コリン:「リモートプレゼンス」の事業部門からは現在、ふたつの製品が実際に実現しています。両方ともパートナーシップを通じての事業です。ひとつ目の製品は医療にフォーカスしたもの。遠隔の医療機関にいる専門医が、患者を診断できるロボットです。
例えば、脳卒中の発作がある患者が、まずは最寄りの小さな診療所のような医院に行き、ロボットがそこで診察をします。ただ、そのロボットは実は遠くの専門医が遠隔で制御しているというわけです。実際にアメリカで50台以上のロボットが、すでに医療機関で使われています。これは「インタッチヘルス社」という会社と協業で開発しました。
ーー著名な専門医は全国はおろか、全世界を巡って治療にあたっていると聞きます。そのロボットがあれば、一カ所に留まって、多くの患者を診られるわけですね。効率が良く、より多くの患者を助けることができますね。
コリン:ふたつ目は「Ava500」というロボットです。企業の幹部とエンジニアが協力して働けることを可能にしました。グローバル企業というのは、拠点が世界中のあちこちにあります。単なるビデオ会議ではなく、「Ava500」が遠くにいる人間の代わりに社内を移動し、会議に参加できるのです。このシステムを使えば、別のオフィスにいながら、遠くのオフィスを自由に移動することができます。
「Ava500」を複数台使うことで、世界から一カ所に集まって、直接みんなで顔を合わせて会議ができますよね。これがあれば国境を超えても、一緒にいるかのように仕事ができます。こちらは「シスコシステムズ」がパートナー企業です。今のところ、両方ともまだまだ規模は小さいですが、この先とても大きな可能性を秘めていると思います。
ーーたしかに、今後どんどんグローバル化する企業にとって必要になると想像できます。
コリン:そして、このふたつの事業はアイロボット社にとって、技術の面でも非常に重要だと理解しています。なぜなら、これらの技術がさらに発展することで、もっと低コストで家庭の環境で同じことが実現可能になっていくと思うからです。
今回発表した「ルンバ980」のナビゲーションシステムもまさに「Ava500」から生み出されたものです。家の中全体を把握するマッピングシステムは「Ava500」ではレーザーを使っていますが、非常にコストが高い。「ルンバ980」ではカメラを使うことで低コスト化を実現しました。こういうことがいろいろな分野で起きるわけです。
ーールンバは2002年の登場以来、どんどん進化しています。ルンバが目指す完成形は、どういうものをイメージされていますか? 今回、スマートフォンやネットワークと接続されました。その延長線上に、どういうゴールを考えているのでしょうか?
コリン:完璧なルンバというのは、実は人間が目にすることは一度もない、触ることもないルンバなのです。我々からすると、部屋が完璧に掃除されてさえいれば、それがロボットであろうと、別のなんであろうと関係ありません。とにかく目的は掃除されることなのです。
そのためにルンバは自立をしなければなりません。そのために、家の中の状況をより理解するために、マッピングシステムを搭載しました。このシステムは、実はロボット掃除機だけに限らず、ロボット工学全体に非常に重要だと思っています。なぜなら、この先、スマートホームの時代が必ずやってくるからです。
2002年に登場したルンバのファーストモデル
2015年10月発売の最新モデル「ルンバ980」
スマートホームは現在、家電とスマートフォンとの連携がいろいろなところで言われていますが、今後、我々はロボットが家電の代わりを担うと確信しています。真のスマートホームというのはシンプルであり、家全体を制御できるものです。そのためには、家の中にある各家電がロボットのように賢い知能を持たなければ、スムーズなやりとりはできないと思います。
そして、家全体が真のインテリジェンスな存在になるためには、それぞれのロボットが、なにより家の中に何があるかをしっかりと理解していなければならないのです。
ーーなるほど。たしかに現状、スマートホームはIoTと並んで、家電目線で話されているものですが、家電が人工知能を得るよりも、ロボットが家電の代わりをしたほうが、合理的な気がしますね。
コリン:分かりやすい例をひとつ挙げますね。現在、家の照明器具をWi-Fiを通じてインターネットに繋げている製品があります。でも、好評とは言えません。というのは、照明器具のスイッチは従来のものが非常に優れているからです。「パチン」とスイッチを入れるだけ、たった0.5秒で明るくなりますよね。
では、Wi-Fiでインターネットに繋がっている照明器具はどうでしょう? まずスマートフォンを取り出さなくてはいけません。そこからスマートフォンの電源をオン、さらにアプリを起動しなければなりません。アプリが繋がるまで待つ必要もあります。そしてやっとスイッチを押して電気がつくわけですね。
ーー照明を点けるだけのために、そこまで労力が掛かるなら使いませんよね。
コリン:電気のスイッチというのは、数多くのことを実現できるものではありませんが、実に使いやすくシンプルなものです。一方、Wi-Fiに繋がっている電気器具は、さまざまな用途に使えますが、使いやすくはありません。では、これに対する正しい解決というのは何か。
スマートホーム自体の制御システムがあって、家に入っただけで照明が点き、部屋から出ただけで照明が消えることが実現できればいいわけです。これは照明だけであれば人感センサーで可能かもしれませんが、それ以外の複雑な家電を考えるとそうはいきません。
家自体がスマートホーム化するというのは、それぞれの家電やロボットが、家全体がどのようになっているかを理解していなければなりません。ルンバは今回からマッピングシステムを搭載することにより、家全体を理解することができます。つまり、ルンバはどの部屋がどこにあり、どういう形状であるか理解できるのです。
ですから、完璧なルンバはどんなものかと聞かれたら、触る必要がない床のクリーナーでありながら、同時に接続している家全体が、適切に機能することを助ける存在であるものなのです。
ーーつまり、ルンバが一家に一台以上あり、スマートホーム自体を実現するひとつのパーツ。そこまで考えていらっしゃるのでしょうか?
コリン:そうですね、そこまで考えています。
ーー将来のスマートホームというのは、複数のロボットが活躍するような世界が想像できます。ルンバ以外にも、スマートホームのパーツになるであろうロボットを考えているのでしょうか?
コリン:いろんなアイデアやプロジェクトがありますが、企業秘密なのですべてはお答えできません(笑)。ただ、せっかくなのでひとつだけヒントを。マッピングの精度がさらに高まり、改良されることで、すべてのモノが家の中のどこにあるかを理解する技術が進むと思います。
ものを持ち上げたり運んだりすることは、我々もすでに開発中で、どんどん実現へと近づいています。ルンバ980の発表会のプレゼンでも、弊社の研究ロボットとして2本腕があるものを一瞬写真でお見せしましたよね。
ルンバ980は「マッピングシステム」により、家の中のすべての部屋の形や場所を認識。もちろん誰もいない外出時に掃除ができる
ーー最後にもうひとつ、経営についても伺いたいと思います。多くの経営者は、やりたいこととお金を稼ぐことは別のことだと考えているかもしれません。コリンさん自身はロボットを作ること=お金を稼ぐことと考えていらっしゃるのでしょうか?
コリン:利益が出ている、成功している事業が、私の場合は結果的に「クールなロボットを作る」ことですね。私のロボットビジョンは、果てしなく大きいのです。それはロボット掃除機をはるかに超えるビジョンです。一方、ロボットを開発するには、大きなお金が掛かります。
消費者が買うことのできる価格帯で実用的なロボットを実現するためには、莫大なお金が必要なのです。ロボット掃除機の市場は急成長中で、その業界をリードする立場を維持していくことで、我々はルンバ以外のロボットに投資する原資を得ることができるわけです。
MITの学生だった時は、私はものを作る情熱を持っていると思っていました。でも、結果的に分かったことは、一番作っていて楽しいものは、ロボットではなく会社自体だということです。会社を作ることが最も楽しいことだと気付いたんです。それによって、世界を変えられるし、さらに大きなものを作ることもできますから。
【END】
(取材・文/滝田勝紀、ポートレート撮影/下城英悟)
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