【トヨタ カローラ プロト試乗】12代目はセダンではなく、ハッチバックが先陣を切る理由
&GP / 2018年6月3日 19時0分
【トヨタ カローラ プロト試乗】12代目はセダンではなく、ハッチバックが先陣を切る理由
正式発表&発売開始に先駆け、プロトタイプ(試作車両)をテストドライブする機会を得たトヨタの「カローラハッチバック(仮称)」。その試乗会場で、開発をまとめた小西良樹チーフエンジニアから衝撃的な話を聞いた。
「『カローラ』ユーザーの平均年齢は、セダンの『カローラアクシオ』で70歳代、若いと思われているステーションワゴンの『カローラフィールダー』でも、実は60歳代なのです」。日本におけるカローラブランドは、いつの間にかそんな位置づけになっていたのだ。
■ハッチバック復活から見えたトヨタの“カローラ若返り”戦略
カローラは50年以上の歴史を持つ、トヨタを代表するスタンダードカーだ。現在は日本を飛び出して国際戦略モデルとなり、154以上の国と地域で販売され、総販売台数は4600万台以上。昨2017年の世界販売台数は127万台で、計算するとおよそ“10秒に1台”が、ユーザーのもとへと届けられる超がつくほどのヒットモデルである。もちろん、トヨタにおける最量販車種であり、127万台という販売台数は、ちょっとした自動車メーカーの年間総生産台数(スバルは全車種で年間約100万台)をも超える。いやはや、とんでもないスケールである。
かつては日本でも、販売台数ナンバーワンというのがカローラの定位置だった。しかしそのまま時を刻み続けた結果、ユーザーの平均年齢はどんどん高齢化。これが、現在の日本における、カローラを取り巻く実情なのだ。過去にも何度か、トヨタはカローラの大改革を図ってきたが、それらは結果的に、ユーザー層の若返りという意味では成功とはいえなかった。
でもいよいよ、事態はひっ迫してきたのだろう。カローラのセダンとワゴンがフルモデルチェンジのタイミングを迎えつつある中で、ちょっとした異変が起きた。新型カローラのトップバッターは、定番のセダンでもなく、根強い人気を誇るワゴンでもなく、なんとハッチバックだったのだ!
ではなぜ、新型カローラのトップバッターはハッチバックなのか? そして、そもそも2006年に販売を終了した「カローラランクス」(兄弟車として「アレックス」というモデルもあった)を最後に、しばらく途絶えていたカローラのハッチバックが、なぜ今、日本市場で復活することになったのだろうか?
「私たちは、若い人たちにもカローラに乗って欲しいと思っているんです。セダンよりもハッチバックの方が若々しい雰囲気だし、デザインだって斬新。今回、カローラのイメージを大きく変えるために、新世代カローラシリーズのトップバッターにハッチバックを選んだのです」と小西氏はいう。
実車を目にすると、印象は確かにカッコいい。「これがカローラなの?」と思うほど、内外装ともになかなかチャレンジングなデザインだ。
「日本でも若い世代の方々に話を聞くと『カローラに対して年配の人のクルマというイメージはない』という反応が多いんです。それにアメリカへ行けば、カローラセダンも若者が乗るスポーティセダンという位置づけ。日本の若い人にも、どんどん乗って欲しいですね」(小西氏)。確かにカローラハッチバックのデザインなら、それだけで退屈ではないと断言できる。
さて、カローラハッチバックの車体や技術は、現在のトヨタにおけるメカニズムの基本理念である“TNGA”をベースとしている。つまり「プリウス」や「C-HR」と血縁関係の強いモデルなのだ。とはいえTNGAのメカニズムは、プリウスやC-HRのものがそのまま使われているわけではない。
エンジンは、1.8リッターの自然吸気エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッド仕様と、1.2リッターターボの2本立てで、C-HRと同じ。だが、カローラハッチバックでは、1.2リッターターボのトランスミッションに、CVTだけでなく6速MTも用意される(ハイブリッド仕様と4WDモデルはCVTのみとなる)。
1.8リッターハイブリッド
1.2リッターターボ
またショックアブソーバーは、C-HRがドイツの名門・ザックス社製のものを使っているのに対し、カローラハッチバックのそれは国内メーカー製ではあるものの、滑らかな乗り心地とハイレベルなハンドリングを実現する、新発想のチューニングを施したタイプを採用。実際に乗ってみると、これがとても感触がいいのだ。
そのほかステアリングフィール向上のために、各部の剛性アップや、ステアリングホイールを戻す際のアシスト制御を採用。また、電子制御サスペンションや、シフトダウン時の“自動回転合わせ制御”が入ったMTトランスミッションを用意するなど、TNGAが一段と進化しているのだ。
実際「走りが自慢。世界5大陸100万kmを走って作り込んだ」(小西氏)というだけあって、カローラハッチバックの走りは期待以上だった。
今回の試乗ステージは、一般公道ではなく、富士スピードウェイのショートコース。ここでは、ホームストレートでも最高速度は100km/h程度までしか出せず、コースレイアウト自体も峠道のような感覚。つまり、ワインディングロードを想定したテストドライブだ。
そんなコースでドライブしたカローラハッチバックの特筆すべき点は、ステアリングフィールのナチュラルさだ。コーナーへ進入する際、ステアリングの切り始めから旋回中の舵角維持、そして、コーナー出口でステアリングを戻していく時の感覚や、次のコーナーに備えての切り替えしのスムーズさは、特に素晴らしかった。新しいカローラハッチバックは、歴代カローラで最も旋回性に優れ、そして気持ち良く曲がれると断言できる。
動力性能に関しては、ハイブリッドでもアクセル操作に対して気持ち良く反応してくれるし、排気量だけを見ると「アンダーパワーかも」と感じる1.2リッターターボでも、十分な速さ。どうやら、車体の軽量化やアクセル制御の変更などが効いているようで、サーキットを走ってみても全く力不足は感じなかった。
そんな新型車=カローラハッチバックは、果たしてヒット作となり、カローラブランドの若返りに貢献するのか?
ここから先はあくまで予想でしかないが、日本市場ではCセグメントの5ドアハッチバックが人気ジャンルとはいいがたい点も含めて考えると、爆発的なヒットを記録するのは、たやすいことではないと思う。しかし、カローラの名が付いた若々しいクルマが増えることで、ブランドイメージの若返りを図ることは可能ではないだろうか。
“継続は力なり”という言葉があるが、少しずつでもキャラクターを変化させていくことが、今の日本のカローラにとっては大切なことであり、新しいカローラハッチバックは、そうした大きな役目を期待されての日本デビューとなりそうだ。
興味深いのは、実質的な先代モデルである「オーリス」が、トヨタディーラーのネッツ店とトヨペット店で販売されていたのに対し、新しいカローラハッチバックは、同カローラ店での取り扱いとなること。ヨーロッパ向けはオーリスの名を継承するが、日本市場向けはあくまで“カローラのハッチバック”という位置づけなのだ。
ちなみに、カローラハッチバックというのは現状、仮称であり、正式発表時の正式なネーミングは「カローラスポーツ」になるとウワサされている。正式発表・発売は6月27日の予定だが、その際には今回のプロトタイプ試乗会では明らかにされなかった“コネクテッド”機能についても詳細がアナウンスされる見込み。こちらも今から楽しみだ。
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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