【運転上手への道②】同乗者に上手いと思われるブレーキとは?
&GP / 2018年6月27日 18時0分
【運転上手への道②】同乗者に上手いと思われるブレーキとは?
クルマを上手に運転するためのエッセンスを紹介する集中連載2回目は、安全に道路を走るためにぜひとも身に付けておきたいブレーキの操作。
普段、街中で運転していると、ブレーキを思い切り床まで踏み込むような操作をすることはほとんどないが、トヨタ交通安全センター「モビリタ」では、通常の路面と滑りやすい路面の両方でフルブレーキングを体験できる。その体験を踏まえ、“上手なブレーキ操作”をするために必要な要素をお伝えしたい。
モビリタの「交通安全体験プログラム」の中には、ハイスピードからフルブレーキを体験できる。60km/h〜100km/hの高速で、濡れた路面に進入。目印のパイロンを過ぎたらブレーキペダルを床まで踏み抜くつもりでフルブレーキ。段階的に速度を上げながら、普段はほとんど行わないフルブレーキで気付いたのは、速度が10km/h上がるだけで制動距離が伸びることだけでなく、進入時の車体姿勢によっても制動距離が大きく異なるということ。
同じ100km/hであっても、アクセルを踏んで車体が加速を続けている状態からブレーキを踏むのと、一定の速度を維持している状態からのブレーキングでは、前者のほうが制動距離が長くなる。加速状態にある車体は荷重が後ろにかかっているため、ブレーキを踏むとまず前輪に荷重が移動する。本格的に制動が始まるのは、前輪に荷重がかかりフロントサスペンションが縮んでからになるため、ブレーキペダルを踏んでから制動が始まるまでのタイムラグが発生するためだ。
【ポイント①】ブレーキの効きやすい車体姿勢を作っておく
写真を見ると、フルブレーキング時にフロントのサスペンションが大きく縮み、車体がノーズダイブしている(前側が沈んでいる)のがわかるだろう。通常の街乗りなどでここまで強くブレーキをかけることはないが、フロントのサスペンションが沈み込んでからブレーキが効き始めるという原理は変わらない。アクセルを踏んでいる状態では、荷重がリアにかかっており、そこからブレーキを踏んでも荷重がフロントに移り、フロントサスペンションが縮んでからブレーキがかかるためタイムラグが発生してしまう。
突然、子どもなどが飛び出してきたりした場合でも、この原理は同じ。危険が予想される場面では、いざという時にすぐ止まれるようにするためには、あらかじめアクセルを戻して、止まりやすい車体姿勢を作っておくことが大切だ。
【ポイント②】急ブレーキをかけずに済む運転を
ポイント①は、急ブレーキをかけなければならないシーンで制動距離を短くするための対処法だが、周囲の様子や交通状況を先読みして不測の事態に備えておけば、急ブレーキをかけずに済む場面も多い。急ブレーキをかけることはタイヤやブレーキパッドの寿命を縮めることにもつながり、同乗者に負担をかけ、乗り物酔いなどの原因になることもある。避けられるものなら、急なブレーキ操作をしなければならないようなシーンは避けておきたいものだ。
公道においては、目の前を走っているクルマだけでなく、2台3台先のクルマの動きや周囲の状況にも目を配ることで、急ブレーキをかけなければならないシーンを避けられる。
現代のクルマはABSが標準装備され、滑りやすい路面でもタイヤがロックしないようになっているが、それでも限界はある。モビリタのコースには氷った路面と同等のグリップとした滑りやすい低μ路が作られており、その路面での急制動も体験できる。いかにABSが装備されていても、一度グリップを失ってしまうとブレーキを踏んでもハンドルを切っても全く車体のコントロールが不可能となってしまう。そうした事態を避けるためにも雪や氷の上、それに雨の日などグリップが低下している路面では“急”のつく操作をしないことが大切だ。
【ポイント③】同乗者の頭が動かないブレーキングを心掛ける
ブレーキは何も急に危険を避けなければならないような場面だけで使用するわけではない。前走車や周囲の状況に合わせての速度調整や信号や交差点などで止まる際など、運転中は頻繁に操作している。そうした通常のブレーキ操作で気を付けたいのが、ブレーキをかけた際に同乗者の頭が動かないようにすることだ。
ここでもイメージすべきは車体の姿勢。クルマの車体はサスペンションを介してタイヤの上に載っている。サスペンションが動いてからブレーキが効力を発揮するという基本原理は低速走行時も変わらないので、ブレーキングの初期はやんわりとペダルを踏み、フロントサスペンションが沈んで前輪に荷重がかかるのをイメージしよう。荷重の変化が急に起こると、同乗者の頭が揺れてしまい乗り物酔いの原因となる。スイッチを押すようにペダルを踏むのではなく、ブレーキペダルを踏み始めたことが同乗者に伝わらない程度にやさしく踏み込むのがポイントだ。
【ポイント④】止まる直前にブレーキを少し戻す
実はブレーキング操作は、運転の上手い人を見分けるポイントでもある。運転上手な人は総じてブレーキ操作が繊細だ。どこで踏み始めたかわからないほど繊細な操作でペダルを踏み、停止まではほぼ一定の踏力で余計な荷重変化を起こさない。そして、停止する直前に少しブレーキを戻すことで、止まる瞬間のショックが乗員に伝わるのを和らげていたりする。ブレーキングによって沈み込んだフロントサスペンションが停止した際に戻る(伸びる)ため、その際にゆっくり戻すようにコントロールしているのだ。
逆に、乱雑にブレーキを踏み始めて、遠くから見えている赤信号で止まるのに何度もブレーキを踏み直すような運転や、予めアクセルを戻しておけば必要なかったような場面でむやみにブレーキを踏むような運転は、周囲のドライバーに不安を与えてしまうこともある。また、高速道路などでの不必要なブレーキ操作は渋滞を引き起こす原因となることも知られている。車間距離を適切に取ることで急なブレーキ操作は避けられる場合もあるので、速度に合わせた車間距離をあけることも有効だ。
車間距離の目安は、前のクルマが通過した場所を自分のクルマが通過するまでに約3秒かかる距離だとされている。普段の運転時から心がけて、同乗者や周囲のドライバーに“上手いな”と思われる運転を目指そう。
▼取材協力:トヨタ 交通安全センター モビリタ
(取材・文/増谷茂樹 写真/松川忍)
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