【ルノー トゥインゴGT試乗】19馬力アップで不満なし!ちょうどいい速さが絶妙
&GP / 2018年7月15日 18時0分
【ルノー トゥインゴGT試乗】19馬力アップで不満なし!ちょうどいい速さが絶妙
キュートなルックス、手頃な大きさ、リーズナブルな価格、そして、マニアックなクルマ好きをもうならせるRRレイアウト(リアエンジン/リア駆動)。ルノーのコンパクトハッチバック「トゥインゴ」は、ユーザーの老若男女を問わず、今、最も注目される輸入車の1台なのではないでしょうか。
ただ、身の回りにいるトゥインゴを試乗した人から「もうちょっとパワーがあったら…」というフレーズを聞くことが多いんですね。いや、1010kgの車重に90馬力の最高出力ですから(「トゥインゴ インテンス」)、日常使いには十分。高速巡航だって、余裕です。それでも、魅力的なクルマを「もっとスポーティに走らせたい!」と思うのは、世のクルマ好きの常。習性みたいなものです。
ちょっとマニアックな話をすると、トゥインゴの走りに一抹の物足りなさを覚える一因として、RRというレイアウトが挙げられるかもしれません。最大の重量物であるエンジンが後ろに積まれますから、ステアリングが軽く自然なフィールになる一方、どうしてもオシリがドッシリする。エンジンをフロントに搭載した一般的なFFコンパクトカーのようには、スロットル操作が挙動に反映されない。そのため“軽やかさ”を感じにくいんですね。
トゥインゴは意外に重厚な…というといい過ぎですが“コンパクトハッチ”という車型から想像される軽快さとは、ちょっと異なるハンドリングの持ち主なのです。
しかし、エンジンのチューンを上げた「トゥインゴGT」がラインナップに加わったからには、そうした不満はもう口にさせません! GTモデルを駆ったなら、走り好きの煩型(うるさがた)も、峠で、山道で、きっと溜飲を下げることでしょう!! このクルマのサイドボディに貼られた“ルノースポール”のバッジは、伊達ではないんです。
前回は、限定版の6MTモデルをご紹介しましたが、今回は、レギュラーモデルにて選べるようになったトゥインゴGTの、デュアルクラッチ式6速ATの魅力を検証します。
■“過去の遺物”だったRRレイアウトが現代に復活!
日本で販売されるトゥインゴは、大きく分けて3種類。998cc直列3気筒エンジン(71馬力)を、いまどき珍しい(!?)3ペダル式の5速MTと組み合わせたベーシックなグレードが「ゼン」(177万円)。
897ccと排気量がわずかに小さくなるけれど、ターボチャージャーの過給を得て90馬力を発生するエンジンを使うのが「インテンス」。“EDC”ことデュアルクラッチ式の6速ATを備えます。素のインテンスが194万円。キャンバストップ付きが204万円。
そして注目なのが、ここでご紹介するトゥインゴGT。897ccと排気量はインテンスと同じながら、チューンを上げて、19馬力アップの最高出力109馬力、3.5kg-m太い最大トルク17.3kg-mのアウトプットを誇ります。増大したパワーに合わせ、燃料ポンプやウォーターポンプも強化されました。
トランスミッションは2タイプから選べます。坂道発進をサポートするヒルスタートアシスト機能を備えた5速MTと、6速EDCから。前者には229万円、後者は10万円高い239万円のプライスタグが付きます。
今回、試乗するトゥインゴGTのトランスミッションはEDC。奇数ギヤ、偶数ギヤ、それぞれにクラッチを備え、使われていないギヤは、あらかじめギヤを入れたままクラッチを切って待っているので、シフト操作した瞬間、次のギヤにつながります。操作が楽なオートマチックでありながら、エンジンと直結したダイレクトな感覚が素晴らしい。シフトが頻繁な、街乗りでもスムーズです。
オレンジのボディカラーに黒のストライプがうれしいトゥインゴGT。ノーマルグレードより2インチアップの17インチホイールが足元を引き締めます。左後輪の上に設けられたエアインテークが、GTの高性能ぶりを暗示します。
ドアを開け“RENAULT SPORT”と刻まれたスカッフプレートを跨いで運転席に座ります。シートは、黒地にオレンジのラインがひかれたレザー調×ファブリックのコンビネーションタイプ。シートヒーター付き。
見かけはヘッドレスト一体型のシンプルなシートですが、これがイイんだ! 少し先走りますが、細かいカーブが続いて乗員が左右に振られるような時でも、上体が背もたれにぴったりとはまり、驚くほどホールド性が高い。さすがはルノースポールの手になるモデルです。ドライビングの基本が、いかにもしっかりしています。
いざ、山道、峠道でトゥインゴGTにムチを入れると、オモシロイですねぇ。絶対的にはハイパワーではないけれど、強化された足回りと併せて“ちょうどいい楽しさ”を提供してくれます。右へ、左へと、大いにハッスル(死語)しながら、夢中になってフレンチターボを走らせる。デュアルエキゾーストが発する迫力ある排気音も、ドライバーの高揚感を盛り上げます。
RRやミドシップのクルマ、つまり、エンジンを後輪周辺に搭載したクルマは、フロントタイヤを細くし、ハードコーナリング時に早めにドライバーに警告を与えるのが定石です。重量物が後ろにあるクルマの場合、後輪が滑ってブレイクすると、そうとう危機的な状況に陥りますから…。
トゥインゴGTもこの例に漏れず、フロント185/45R17、リア205/40R17と、前輪に細いタイヤを履かせます。この前後のサイズ選択が、もう絶妙! 前輪でアラームを鳴らしつつ、しかし、後輪の軽いスライドは許容するので、いわゆるFFのスポーツハッチとは異なる、RRスポーツのドライビングを堪能できます。
さらに、リアに駆動力を与えようとスロットルを踏み増すと「無茶をするな!」とESC(エレクトロニック・ スタビリティ・コントロール/横滑り防止装置)がすかさず介入し、それ以上の速度上昇を抑えます。この辺りのセッティングも、よく考えられている。セーフティネットを用意しつつ、スポーツ走行を否定しない電子デバイスの使い方に、心から感心します。改めて、ルノースポールに拍手! です。惜しむらくは、装着タイヤがエコタイヤ系ってこと、ですかね!?
ルノーがエライのは“過去の遺物”と見なされていたRRレイアウトを引っ張り出してきて、4人乗りコンパクトとして成立させたこと。個人的に「オモシロイなぁ」と感じるのが、その割り切り方です。エンジンを床下に収めているがゆえに、荷室はフロアが高く、容量は小さめ。リアシートはスペースこそ確保されていますが、コストを最小限に抑えるためでしょう、両サイドの窓は上下せず、後ろのヒンジを使って浮かせるだけ。ドアハンドルは、これ以上ないくらい簡素なL字型の樹脂部品です。
でも、日常において、ラゲッジスペースやリアシートをフルに使用する機会はどれほどあるでしょう? 後席は、例えば子供の短距離の送り迎えに使うくらい。日々の買い物なら、荷物は助手席や後席に置く、という方が多いはず。大きなモノを運ぶ際には、リアシートの背もたれを倒せばいいだけですし、そもそもコンパクトカーの搭載能力には、絶対的なスペースの制約があります。
他方、4.3mと軽自動車顔負けの回転半径の小ささや、駆動力による雑音がないステアリングフィール、小柄なボディを感じさせない落ち着いたハンドリングなどは、日々、愛車を走らせるたびに恩恵を受けられます。もちろん、一概に「RRバンザイ!」とはいえませんが、こうした根本から異なるコンパクトカーを生み出せるところに、ルノーという自動車メーカーの懐の深さを感じます。
結果的に、トゥインゴというモデルが、コンベンショナルなFFハッチバックたる「ルーテシア」より廉価なだけではない、独特の個性を持つコンパクトカーとなりました。こんなことをいうと笑われるかもしれませんが、ポルシェ「911」のオーナーの方が、セカンドカーとしてトゥインゴGTを所有すると粋なのではでしょうか? 「日常使いに便利だからさ」とかいいつつ、あまりに限界が高くなってしまった911では味わえない“RRスポーツ”の走り”をフレンチコンパクトで体験する。素敵じゃありませんか!?
<SPECIFICATION>
☆GT(EDC)
ボディサイズ:L3630×W1660×H1545mm
車重:1040kg
駆動方式:RR
エンジン:897cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:109馬力/5750回転
最大トルク:17.3kg-m/2000回転
価格:239万円
(文&写真/ダン・アオキ)
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