主流にあえて反旗を翻した「逆張りモデル」の魅力を考察する
&GP / 2018年9月18日 22時0分
主流にあえて反旗を翻した「逆張りモデル」の魅力を考察する
モノには時代が色濃く映し出されます。デザインや機能には流行があり、多くのモノが売れ筋を取り入れながら他にはない自分たちだけのポジションを築いてファンにアピールします。
これはクルマも同じ。現在の主流は軽自動車だとハイトワゴンと呼ばれる背を高くしてスライドドアを採用したモデルが、登録車ではクロスオーバーSUVが世界的なブームになっています。軽自動車だと過去にはワゴンタイプや2シーターオープン、馬力競争を繰り広げたボンバンタイプの軽スポーツなどがありました。登録車ではSUVブームの前はミニバンブーム、その前にはRVブームやハイソカーブームなどがありましたね。
そして、多くのクルマがその時の主流を取り入れる中で、あえて流行とは真逆の流れを打ち出して新たな方向性を提示するモデルもあります。それらには一定の支持を得たものももありましたが、人々の理解を得られずひっそりと消えてしまったモデルもありました。しかし強い意志をもって世間に価値を訴えたモデルなので、後々再評価させるものも少なくありません。
そこで、それら「逆張りモデル」の魅力を考え直してみます。
■スズキアルトラパン
かつて軽自動車は「小さくて安いのだし、狭くて当たり前」と考えられていました。それを根底から覆したのが1993年に登場した初代ワゴンRです。ワゴンRが大ヒットしてから、ダイハツはムーヴをデビューさせて軽ワゴンが一気に主流になります。そしてホンダはライフ、スバルはプレオでその流れに追随していきました。
軽ワゴンは幅広い層から支持されましたが、中心にいたのは子育て世代です。そこでデザインにこだわりたい若者に向けて押し出しを強くしたカスタムモデルを登場させました。
2002年1月に登場したアルトラパンは全高1500mmに満たないボンバンタイプで、丸四角い雰囲気を強調した「かわいい路線」で登場。この逆張りが大成功し、ファミリーっぽい軽ワゴンや悪そうな雰囲気のカスタムモデル、どちらも好みじゃなかったという女性を中心にヒットしました。
現行型は3代目で、エクステリアは初代からの流れを踏襲しつつ、インテリアはお気に入りの自分の部屋をコンセプトに、助手席前には小さなテーブル、ナビはフォトフレーム、メーターは置時計のようなデザインに。かわいいものが好きという女性から現在でも支持されています。
■スバルR1
軽自動車は規格でボディサイズに制限があるため、メーカーはその中でいかに空間を広く使うか知恵を絞ってきました。N-BOXやタント、スペーシアなどの軽ハイトワゴンはその集大成と言っても過言ではありません。
スバルR1が登場したのはタントが登場して軽自動車がスペース重視になっていった2005年1月(発表は2004年12月)。あえて軽規格よりも小さなボディサイズにすることで、多人数ではなくプレミアムな空間を2人で楽しもうと世の中に訴えました。
オプションでレザーとアルカンターラを使った豪華なインテリアも用意されます。また、当時の軽自動車では珍しかった15インチアルミホイールを履き、エンジンは4気筒でスーパーチャージャーをつけたグレードも用意するなど、スポーティ路線に振られているのも特徴でした。
スペース重視という世の流れを変えることはできず、またスバルが軽自動車生産から撤退することも重なって2010年に生産終了となってしまいます。しかし独特なフォルムと唯一無二のコンセプトを支持する人は現在でもいて、中古車市場では一定の人気を得ています。
■ダイハツソニカ
軽自動車は都市部よりも、ひとり一台クルマを持つことが当たり前の地方都市で需要が高くなります。そのためどちらかというとセカンドカー的な使われ方が多くなります。普段のお買いものは軽自動車で、みんなで出かけるときは大きなミニバンで、というファミリーが多くなっていました。
しかし、21世紀に入った頃から都市部でも軽自動車に乗るファミリーが増えてきたように感じます。複数台所有ではないので近所の買い物から遠方への旅行まで軽1台でこなすことに。当時の軽自動車は街中での移動がメインなのでどちらかというと高速での長距離移動は苦手。そこで「軽で旅行も楽しみたい!」という人たちのために生まれたのが、ソニカです。
ソニカのコンセプトは「爽快ツアラー」。ホイールベースを2440mmまで伸ばして直進安定性を高めると同時に、疲労軽減のために高速走行時の静粛性が高められています。
ソニカがデビューしたすぐ後に同じダイハツから2代目タントが登場。ミラクルオープンドアと呼ばれるスライドドアが注目されて大ヒットしたことで軽自動車の主流は一気にスペース効率を高めた軽ハイトワゴンになりました。そのためソニカの販売台数は低迷、デビューからわずか3年で姿を消すことになります。しかしその走行性能は現在でも高く評価されています。
■ホンダオデッセイ(3代目)
スライドドアを採用したワンボックスのキャブオーバータイプは昔から家族で旅行を楽しむ人などから支持されていました。ホンダは1994年10月に乗用車ベースの3列シートミニバン、オデッセイを発売し大ヒット。世の中は一気に大人数で移動できる乗用車ベースのミニバンが主流になりました。
そして多くの人がスライドドアの利便性に気付いたこともあり、ヒンジ式ドアだったミニバンもスライドドアに変更され、全高も高めて快適さを重視した仕様になっていきました。
そんな中、2003年10月に登場した3代目オデッセイは低床プラットフォームを採用して全高を1550mmまで低くしました。
一般的な立体駐車場に入れられるというメリットもありますが、重心を低くしてスポーティな走りを楽しめるようにすることが真の目的です。そして「家族のためにミニバンを選ぶ。でも1人のときは走りを楽しみたい」というお父さんに選ばれました。標準モデル以外にスポーツグレードのアブソルートが設定されているのが象徴的。
オデッセイは4代目も同様のコンセプトで登場しますが、大空間+スライドドアというミニバンの流れには抗えず、現行型はLクラスミニバンのエリシオンと統合されて全高の高いスライドドアモデルになりました。
■トヨタヴェロッサ
1980年代後半からのクロカンブーム、’90年代にオデッセイが火を付けたミニバンブームで、クルマの主流はスペース効率だったり積載性を重視したものになります。これにより、かつて定番だったセダンは影を潜め、セダンを選ぶのは保守的な人たちが多くなりました。そのためデザインもどちらかというとコンサバティブなものが残っている雰囲気に。
ところが2001年7月に登場したヴェロッサは従来のセダンとはまったく違う官能的でアヴァンギャルドなデザインに。多くの人がこのデザインを見て、「なんだこれは……」と感じたことでしょう。
これは私見ですが、ヴェロッサの登場には’98年に発売されたアルファロメオ156のヒットも影響しているのではないかと思います。しかし156を選ぶ人は残念ながらそもそも国産セダンを選ばない。これが敗因だったのでしょう。ヴェロッサは約3年で姿を消してしまいます。
■登場時は異端だった逆張りモデル、今ならアリかも!?
あえて世の流れとは真逆の路線をついた逆張りモデル。もちろんこれらが主流になるのは並大抵のことではなく、ほとんどはニッチな需要を満たすものでした。
一方でコンセプトはとてもおもしろく、今だったら受け入れられたのではないかと感じるものもあります。たとえばコンサバが主流だった時代に登場したヴェロッサも、レクサスのスピンドルグリルやトヨタのキーンルックなど攻撃的なスタイルが受け入れられている現在なら人々の見方は変わったのかもと思います。もしかしたら登場が少し早すぎたのかもしれないですね。
(文/高橋 満<ブリッジマン>)
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