【アルピーヌA110試乗】ポルシェより250kg軽量!軽快で痛快な走りがクルマ好きを魅了する
&GP / 2018年11月4日 19時0分
【アルピーヌA110試乗】ポルシェより250kg軽量!軽快で痛快な走りがクルマ好きを魅了する
試乗さえしなければ、欲しくなんてならなかったのに…。21年ぶりに復活したフランスのブランド・アルピーヌの新型車「A110」をドライブし、つくづくそう感じた。
正直にいって、A110に接するまで、アルピーヌというブランドに対しても、A110に対しても、個人的には「今、クルマ好きの間で話題のブランド」とか「新しいスポーツカー」といった程度の興味しかなく、特別な思い入れなど一切なかった。だから、ここまで欲しくなるとは、完全に“想定外”。ひと目ぼれ、ならぬ、ひと“乗り”ぼれ、してしまったのだ。
■スポーツカーらしい走りを実現するために軽量化を徹底
それほどまでにA110を欲しくなってしまった理由。それは、走りが楽しかったから、というひと言に尽きる。
アルピーヌというブランドのルーツは、1950年代にまでさかのぼる。ルノーの市販車をベース車とした競技車両を開発・製作し、モータースポーツ愛好家たちに販売。そうしたモータースポーツ活動と並行しながら、アルピーヌは独自のスポーツカーを開発・販売するようになり、1970年代にルノーの傘下に収まる。そうして、初代のA110や「A610」など多くの名車を生み出したアルピーヌだが、1995年を持って活動を休止。フランス・ディエップにあったアルピーヌのファクトリーは、その後、ルノーの高性能モデル「ルノー・スポール仕様」を生み出す前線基地となり、アルピーヌで腕を奮っていた人材は、ルノーのモータースポーツ活動や高性能車の開発、および(一部車種の)生産に尽力していた。
そんな歴史を持つアルピーヌが、先頃、完全復活を果たした。初陣を飾る新世代のA110は、アルミ製の専用設計プラットフォームに、1.8リッターのターボエンジンを搭載した小型スポーツカーで、エンジンをドライバーの背後に搭載するミッドシップレイアウトを採用する。
驚かされるのはその車両重量で、最軽量グレード「ピュア」の車重は、わずか1100kgしかない。スポーツカーにとって、車重は運動性能すべてを左右する重要なファクターであり、ある意味、命でもある。ちなみに1100kgというのは、ライバルと目されるポルシェのミッドシップスポーツ「ケイマン」の最軽量モデルより250kgも軽い数値、といえば、そのすごさをご理解いただけるだろう。
「楽しいスポーツカーを作るためには、軽く仕上げることが何よりも大切」というのが、アルピーヌのこだわり。そのため彼らは、アルミ製の車体に加え、1脚当たりわずか13.1kgしかないシート(ピュア)や、通常タイプに比べて片側で2.5kgも軽いリアのブレーキキャリパーなど、新世代のA110に徹底した軽量設計を施してきた。そのこだわりは快適装備でも同様で、スピーカーなどは素材から見直し、できるだけ軽く仕上がるよう工夫している。
1.8リッターのターボエンジンは、ルノーと日産自動車とのアライアンスにより共同開発されたもので、先頃上陸したルノー「メガーヌR.S.」にも搭載されるもの。ただしA110に積まれるそれは、エアインテークやターボチャージャー、エキゾーストシステム、そして制御系などのパーツに独自のチューニングを実施。最高出力252馬力、最大トルク32.6kgf-mというスペックこそ、メガーヌR.S.より控えめだが、絶対的な動力性能よりも、リニアリティや心地良さを求めての結果だという。
そして、そこに組み合わせるトランスミッションは、ゲトラグ社製の7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)一択。この辺りは、イマドキのスポーツカーらしい部分といえよう。
■よくできたスポーツカーは、日常でも楽しい
新しいA110のシートに座り、まず感じたのが、最新の市販車として不満のない、完成度の高さだ。リベットと接着剤で固定されるアルミ製のプラットフォームは、職人たちが手作りに近い手法で作り上げている。そんな少量生産のスポーツカーだから、どこか荒さを感じられるはず、と構えていたのだが、それは杞憂に終わった。気になる振動や異音などは一切なく、乗り心地も含めて快適そのもの。クルーズコントロールも付いているし、これなら500kmを超える行程のロングドライブでも苦痛に感じることはないだろう。
そして向かったのは、速度域がそれほど高くない峠道。そこでA110をドライブしながら、あふれ出る笑みを抑えられなかった。正確というよりも、ドライバーの意図をしっかり反映してくれるハンドリングに、思わずグッときた。グイグイと曲がる高い旋回能力はもちろん、S字コーナーの切り返しなどでも挙動が素直で、まるでドライバーとクルマが一体になったかのような感覚を味わえる。それこそ手足のように、思いどおりにクルマが動いてくれる感覚なのだ。
それは、軽い車重はもちろん、低い重心、フロント44対リア56という前後重量配分、そして、巧みなサスペンションセッティングのすべてが調和し、生み出される感覚といえるだろう。しかも、スピードを上げてコーナーを駆け抜けなくても、普通のスピードで交差点を曲がるだけで楽しく感じられるのだ。しばしば「よくできたスポーツカーは、日常でも楽しい」といわれるが、A110の走りは、その言葉を見事に体現していた。
■ミッドシップ車ながら、神経質な挙動は皆無
続いて、試乗ステージをミニサーキットに移し、サーキット用の走行モード「トラック」を試す。するとA110は、峠道とはひと味違う、新たな顔を見せてくれた。
気持ちいいハンドリングや、手足のように動く感覚にこそ変わりはないが、トラックモードはドライバーが思っている以上に、リアタイヤが滑る味つけだったのだ。さらに真骨頂は、リアタイヤがグリップを失っても、車体のコントロールが容易な点。その時のフィーリングは、まさによくできたFR車のようだった(もちろんこれは、走行モードでトラックを選択した場合の話で、他のモードでは、スリップする前にスタビリティコントロールが介入し、横滑りを抑えてくれる)。
ミッドシップスポーツは一般的に、限界は高いけれど、それを超えると一気にスピンする操縦特性を持つとされる。だがA110の場合、その理論は当てはまらない。限界自体をあまり高く設定していない代わりに、リアタイヤがグリップの限界を超えてからのスライドコントロールを、より楽しめるように調教されているのである。
レーシングドライバーでない人がミッドシップ車をドライブする場合、リアタイヤが滑り始めるとクルマがスピンしそうになったり、そのままスピンしたりするもの。でもA110は、幾度となくテールスライドしたにもかかわらず、結果として1度もスピンしなかったのだから、驚かずにいられない。
そうしたA110の走りに対し、アルピーヌの開発陣は「ラップタイムを削るのではなく、どんなスピードでもドライバーを興奮させ、魅了させるドライビングプレジャーを目指した」と語り、開発ドライバーは「誰でも安心して楽しめることもポイント」と付け加える。今回、ミニサーキットで限界を超える走りを試してみて、A110の走りは、彼らの目標を果たす仕上がりになっていることをしっかり体感できた。その結果、現代に甦ったA110の走りに、僕のハートはすっかり打ち抜かれてしまったのである。ああ、試乗さえしなければ、欲しくなんてならなかったのに…。
<SPECIFICATIONS>
☆ピュア(ブルー)
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:252馬力/6000回転
最大トルク:32.6kgf-m/2000回転
価格:790万円〜
<SPECIFICATIONS>
☆リネージ(ガンメタ)
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1130kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:252馬力/6000回転
最大トルク:32.6kgf-m/2000回転
価格:829万円〜
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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