【検証2018-2019年の注目車⑤】21年ぶり復活のアルピーヌ、初代オーナーはどう見た?
&GP / 2019年1月7日 19時0分
【検証2018-2019年の注目車⑤】21年ぶり復活のアルピーヌ、初代オーナーはどう見た?
ボルボ「XC40」の2018-2019日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞、おめでとうございます! 一方、今回は思わぬ事情で最終選考の舞台に立てなかったスバル「フォレスター」とスズキ「ジムニー」、誠に残念でした。
さて、全く個人的な視点で2018-2019年の注目車に挙げたい…というより、すっかり夢中になった1台が、アルピーヌ「A110(エー・ワンテン)」です。今となっては“オリジナルの”と呼ぶべきなのでしょう、1973年製のA110(メキシコ製)と四半世紀をともにした自分としては、古豪ブランドの復活はうれしいと同時に、なんだか悔しいような複雑な気分です。
■新生アルピーヌの標的はケイマン&ボクスター
身もフタもないいい方をすると、新しいA110は、ルノーがミドルクラスのスポーツカー市場に参入するために開発されたクルマです。専用のシャーシに、FF車用エンジンの搭載位置をフロントからキャビン背後に移してミッドシップレイアウトを成立させ、歴史とロマンを分かりやすく表現した“ワンテンルック”のボディスタイルが与えられました。新しいカテゴリーへの新規参入モデルとして、ある意味、非常に手堅くまとめられています。
かつては、アルピーヌブランドでポルシェ「911」に挑戦していたルノーですが、911が超一流の実力を保ちつつも、今やラグジュアリーなグランドツアラーになっている、いい換えると、純粋なスポーツカーというよりもブランドアイコン的なポジションに就いているため、アルピーヌ(とルノー)は、新たなターゲットをポルシェの「ケイマン」、「ボクスター」に定めました。自身のブランド力を冷静に判断した結果、でもありましょう。
ちょっと話はズレますが、日産自動車のカルロス・ゴーン“追放”事件の際、違和感を覚えたことがあります。それは「新車の開発能力に欠けるルノーが、日産自動車の技術力に全面的に依存している」といった報道が相次いだことです。確かに、電気自動車(EV)や一部のハイテク分野に関しては当てはまる部分があるのかもしれませんが、ルノーの歴史に親しみ、さまざまなモデルを試乗し、その都度、感心してきた身としては、「あまりに一面的に過ぎませんか?」と、歯ぎしりのひとつもしたくなります。新型アルピーヌのように、ハンドルを握って、アクセルを踏んで、「サイコー!」と世界の中心で叫ぶような(←中途半端に古い!?)クルマは、20世紀に置いてくるべきものだったのでしょうか?
■フルアルミ製の車体にアルピーヌの本気を見た
ニュー・ワンテンの本気度は、フルアルミ製のボディ構造に現れています。スポーツカーは、クルマ好きの間(や、うまくいくと世間)で話題となり、企業イメージを上昇させる効用がありますが、何しろ、実際に売れる数は限られますからね。商業的に成功させるのは、至難の業。新生アルピーヌに専用シャーシと専用ボディを与えたルノーには、だから文句なく“拍手喝采!”です。
アルピーヌのA110というと、軽量・コンパクトが枕詞となっていますが、カタログ上の車重は1110kg(「ピュア」グレード)。「アレ!? 意外に大したことなくね?」と思った貴方は、我が国に255万4200円〜で990kgのグレードがラインナップされる大名車、マツダ「ロードスター」があることに感謝しなければなりません。
ニュー・アルピーヌが総アルミという贅沢な仕様ながら、1トンを切れなかった理由は、ロードスターよりひと回り大きな車体寸法にあります。全長4205mm、全幅1800mm、全高1250mmというのは、いうまでもなく、ケイマンをベンチマークにしたサイズ感ですね。ウエイトの面では、ジャーマンスポーツに対して300kg近く軽量と、圧倒的なアドバンテージがあります。
大きくなったボディは、駆動方式をRR(リアエンジン/リアドライブ)から、MR(ミッドエンジン/リアドライブ)に変えながら、なおかつオリジナルのイメージを上手に投影したボディを載せるデザイン代(しろ)の確保に役立っています。もちろんそれだけでなく、新しいアルピーヌは、現行のスポーツモデルとして常識的な室内空間を持っています(かつてのA110ときたら、ペダルレイアウトに有利な左ハンドル車にして、左足の置き場に困ったほど車内が狭かったですからね)。その上、な、なんと! 21世紀のワンテンには、右ハンドル仕様が用意されるのです!!
インテリアは、軽量スポーツカーを視覚的にも表す質素な作り。ドアの内張りなどに、オリジナルのイメージが反復されています。メーター類のポップな色使いが、なんというか、ちょっと懐かしい未来感を醸し出していますね。
また、エアコン標準装備とは、オリジナルの元オーナーとしては夢のようなことです。個人的には、全体の簡素さに好感ですが、700万円超のクルマとしては不満を抱く(潜在)顧客もいそうです。もしかしたら、装備充実の「リネージュ」グレードが、今後さらなる豪華版に発展するかもしれません。
■ドライバーが意思を通わせられるピュアスポーツ
キャビン背後に横置きされた1.8リッターの直列4気筒ターボエンジンは、最高出力252馬力、最大トルク32.6kgf-m。かつての国内自主規制値“280馬力”という数字を見慣れているためか、スペックそのものにはあまり感銘を受けません。そんなところも、いかにもフレンチスポーツらしい!?
ところが、新世代のA110に試乗した人たちは、文字通り、軒並みこのクルマにほれ込んでしまう。その秘密は、ニューA110が、タイムを削るためのレーシングマシンではなく、公道で楽しむためのスポーツカーに徹しているところにあります。
過給器を得た4気筒ユニットは、ターボエンジンらしく、わずか2000回転で最大トルクを発生するという使いやすさにして、スロットルペダルの操作、オン/オフにいちいち反応し、タービンやリリーフバルブが楽しげに歌います。ドライバーは運転中、クルマと会話できるんですね。
さらにハンドリングが、正確にいうと、その調律が素晴らしい。エンジンを背負っているがゆえの過剰な緊張感に脅かされることなく、コーナリングを楽しみ、タイトなカーブでは、時にテールスライドにトライすることさえ可能です。抑えられた車重を前提としての、良好な前後バランス。柔らかめのサスペンションでクルマの挙動を分かりやすくし、腕自慢には積極的に活用しやすくしてある。タイヤのサイズ選択が絶妙で、なおかつ専用コンパウンド(!)によって、スライド時の過程が穏やか。ステアリングホイールを握りながら、ひと昔前のラリーカーを想い起こし、ニヤリとするドライバーも多いことでしょう。
生まれたばかりの新生アルピーヌA110は、今後、マイナーチェンジを重ねることでモデルライフを延ばすことが予想されます。エンジンはさらにパワーアップされ、スポーツカーの性能アップ=サーキットでのタイム短縮を目指して足回りが硬められ、より太いハイグリップタイヤを履く日が来るかもしれません。
それでも、新生フレンチスポーツの、初期型の魅力が色あせることはないはずです。このクルマより速いクルマや、高いコーナリング速度を誇るスポーツカーは少なくないかもしれません。でも、新しいA110ほど、息づかいが身近に感じられ、あたかも、意思を通わせられるかのようなスポーツカーは、そう見つかるものではありませんから。
<SPECIFICATIONS>
☆ピュア
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:252馬力/6000回転
最大トルク:32.6kgf-m/2000回転
価格:790万円
<SPECIFICATIONS>
☆リネージ
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1130kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:252馬力/6000回転
最大トルク:32.6kgf-m/2000回転
価格:829万円
(文&写真/ダン・アオキ)
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