【検証2018-2019年の注目車④】アレがなければ…大本命だった「ジムニー」は何がスゴい?:岡崎五朗の眼

&GP / 2019年1月6日 20時0分

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【検証2018-2019年の注目車④】アレがなければ…大本命だった「ジムニー」は何がスゴい?:岡崎五朗の眼

2018-2019日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)において、大賞に輝いたボルボ「XC40」と並んで注目を集めたのが、スズキ「ジムニー」と、その小型車規格である「ジムニーシエラ」のノミネート辞退。

完成検査に関わる不適切事案がその理由ですが、2018年7月の発売以来、大ヒットを記録。クルマ好きにとどまらず、多くの人々に注目を集めていただけに、「なぜ?」、「残念!」という声が多数聞かれました。

そんな、COTYの大本命と目されていたジムニーシリーズですが、果たして、その爆発的人気の源は、どこにあるのでしょうか? 2018年に最も注目され、2019年も引き続き目が離せない人気モデルの真価を、モータージャーナリストの岡崎五朗さんが深掘りします。

■何十年かに一度、斬新なクルマ作りに挑むスズキ

デビュー前からSNSなどでさまざまな情報が駆け巡り、クルマ好きだけでなく、多くの人から注目を集めていたジムニーシリーズには、個人的にも密かに期待していた。というのも、スズキは何十年かに一度、他社がやらないような斬新なことを、思い切ってやってくるメーカーだからだ。

例えば、1979年に登場した“47万円”の初代「アルト」は、ボディサイズの拡大や、それに伴う価格高騰などで存在意義を失いつつあった軽自動車を、再び復活させた立役者。それまでの軽自動車は、リッターカーに追いつけ追い越せと背伸びをしていたが、アルトは“庶民の足”という本来の立ち位置を見つめ直し、リッターカーではなく軽自動車を買う意味、価値を、改めて提示してみせた。

スズキ アルト(1979)

また、1993年に初代が誕生した「ワゴンR」は、軽自動車の世界にスペース革命をもたらした。初代のデビュー時点において、軽自動車のほぼすべてのモデルが、全長、全幅において軽自動車規格の最大サイズに達していて、それ以上居住スペースを拡大するのが難しい状況にあった。しかしスズキは、2mまで許されている軽自動車の全高に着目。ルーフの高さと乗員の座る位置をグッと高くすることで、軽自動車の居住性に新たなスタンダードを創り上げたのだ。

しかも、その斬新な発想と、道具感の強いプレーンなデザインとが相まって、それまで「女性向けの乗り物」というイメージが強かった軽自動車のイメージは一変。老若男女を問わず幅広い層から支持を集め、爆発的なヒットを記録した。

スズキ ワゴンR(1993)

しかし、そうして大ヒットを記録したワゴンRも、今やユーザーの平均年齢が60歳代に到達。自動車マーケット自体も、これまでのように右肩上がりの拡大が望めなくなった中、この先、どんな手を打てばいいのか、各メーカーはそうとう頭を悩ませている。そうした、次の時代の軽自動車を模索する中で誕生し、ヒットを記録しているのが、走り、燃費、スペース効率、使い勝手など、従来からのクルマの価値をリッターカーを超えるレベルにまで押し上げたホンダ「N-BOX」だ。N-BOXは、正常進化した軽自動車の理想形といえるが、クルマの魅力は決してそれだけにとどまらないということを、新しいジムニーシリーズは見事に証明してみせたと思う。

■プロお墨つきの機能性こそがジムニーが人を魅了する源

実は新しいジムニーシリーズは、「コレだったら乗ってみたいな」と、クルマ好きや輸入車オーナーの人たちにも見事に“刺さっている”。その最大の理由は、圧倒的なまでの悪路走破力に起因する、卓越した機能性に尽きる。例えば、オフロードでの走行性能に関しては、トヨタの「ランドクルーザー」が世界的に高評価を得ているが、ランクルがスタックして動けなくなってしまうような狭い極悪路や林道でも、ジムニーなら走破できてしまうケースは少なくない。また、万一スタックしても、ジムニーは車重が軽いため、男性数名で持ち上げて泥濘地を回避した、なんてエピソードも聞かれるほどだ。

そうした、異次元の悪路走破力にほれ込んでいるのは、趣味として悪路走行を楽しむ一部のマニアにとどまらない。例えば、林業に従事する人たちは、日々の森林パトロールのアシとしてジムニーを活用。荒れた林道でも苦にならず走破できる高い悪路走破力はもちろん、奥まった狭い林道でUターンする際には、ジムニー特有のコンパクトなボディが有効に働くという。

つまり、F1ドライバーがスポーツカーをドライブし、「コレはいいね!」と語るテレビCMを観て、そのクルマを買ったり、好きになったりする人がいるのと同様、その道のプロが認めた、プロお墨つきの機能性を備える点こそが、ジムニーが多くの人を魅了している源泉なのだ。

■見るからに高い機能性が伝わってくるスクエアなフォルム

2018年は奇しくも、ジムニーシリーズやメルセデス・ベンツ「Gクラス」、ジープ「ラングラー」といった、リアルオフローダーのロングセラーが相次いでモデルチェンジを果たしたが、それぞれのニューモデルを評価する際、ひとつの基準となったのが、過去の資産をいかにキープし、それをどこまで高めているか、という点だ。

過去の資産を投げ捨ててしまうようなモデルチェンジでは、「変わってしまったな…」とクルマ好きやオーナーたちを失望させてしまうし、進化の伸び代が小さければ、どこが変わったのか分かりにくく、人々の注目を集めることができない。その点、多くの人たちから注目を浴び、実際のセールスも好調な新型ジムニーシリーズのフルモデルチェンジは、周囲の期待を超えるものだったといえる。中でもスゴいと感じたのは、デザインと走りだ。

まずデザインは、オフロード性能を始めとする高い機能性を、先代よりもさらにストレートにカタチにしてきた。丸みを帯びたフォルムを採用したり、ルーフを傾斜させたりといった、「昨今のSUVブームに乗っかりたい!」という媚びた要素は、新型のデザインには一切見当たらない。一見しただけでオフロード性能の高さが感じられる、いさぎよいまでのスクエアフォルムは、道具感が強く、周囲に丸みを帯びたSUVが増えた今となっては、際立った存在感を放つ。

とはいえ、歴史や伝統のない他のモデルが、スクエアなデザインを採用しただけで、これほどの評価を得られただろうか? 機能を常に追い求めてきたという伝統があるからこそ、新型ジムニーのデザインはこれほどまでに、人々の心をつかんだのだ。

もちろん、スズキに「ハスラー」がなければ、新型ジムニーももう少し丸いフォルムを採用していたかもしれない。しかし、ハスラーはSUV、ジムニーはリアルオフローダーという棲み分けがスズキの中でしっかりできているからこそ、ジムニーは割り切って、デザインにおいても機能性を訴求できたのである。

スズキ ハスラー

しかも、一見、流行なんて追いかけていないように見えるジムニーのスクエアフォルムが、次の流行になる可能性もある。ファッションにおいて、時代ごとにネクタイの太さが変わってきたように、クルマのデザインも時代ごとに変化する。新型ジムニーの四角いフォルムは、もちろん機能の現れだが、丸みを帯びたカーデザインが全盛の今、ひょっとしたら次の時代を先取りする存在になるかもしれない。

■伝統の構造が“らしく”ない上質で現代的な走りを生み出す

新型ジムニーシリーズは、走りにおいても高い評価を与えられる。そのカギとなっているのが、新しい要素を盛り込んだ伝統のラダーフレーム構造だ。

かつて、ラダーフレーム構造を採用するリアルオフローダーといえば、オフロード性能は高いものの、舗装路などでの乗り心地は粗い、というモデルが多かった。しかし新型ジムニーは、新たにラダーフレームの中央にXメンバーを配し、さらに、従来モデルに対して2本のクロスメンバーを追加することで、ねじり剛性を約1.5倍に強化。その上に、「縦方向には柔らかいけれど横方向には硬い」、新開発の“ボディマウントゴム”を介し、スクエアなボディを載せている。

その結果、手にしたのは、アンダー200万円から買える軽自動車とは思えないほどの、上質な乗り心地だ。一般的に、舗装の表面がザラザラと荒れた道を走ると、車内には「ゴー」というノイズが聞こえてくるし、細かな振動によって路面のザラつきも伝わってくる。しかし新型、特に軽自動車仕様のジムニーでは、そうしたロードノイズや振動がほとんど感じられず、まるで400万円クラスのクルマに乗っているかのような、快適な乗り心地を実現している。

また、ラダーフレーム構造のリアルオフローダーは、ゴムを介してフレーム上にキャビンを載せている分、ハンドルを切った時の反応が鈍いというのが過去の定説だった。しかし、新型ジムニーではその辺りが改善されていて、大小のコーナーが続くルートにおいても、背の高いスポーツカーといった感覚で、きれいにクルマの向きを変えていく。

さらに、強化されたラダーフレームの効果か、リジッドサスペンションの採用で“バネ下”が重いにもかかわらず、段差を乗り越えた際のブルブル感が残らないというのも新型の美点。ラダーフレーム構造というと過去の技術のように思えるが、各部を可能な限りアップデートすることで、決して軽自動車っぽくない、実に上質で現代的な乗り味を実現しているのである。

■専用のメカニズムを満載したとても贅沢なクルマ

縦置きに搭載されたエンジンとドライブトレーン、悪路走破力を重視して継承したリジッドサスペンションとラダーフレーム構造…。これらのメカニズムを採用するクルマといえば、トヨタのランドクルーザーやメルセデス・ベンツのGクラス、ジープのラングラーなど、今となっては限られている。しかも、スズキにとってこれらの機構と構造は他のモデルに転用できないため、開発や生産は高コストとなるのは必然だ。そんな、専用のメカニズムを満載したジムニーがアンダー200万円から買えるというのは、ものすごく贅沢なことだと思う。

「プロのためのクルマ」という、ターゲットユーザーを真っ直ぐ見据えた明確なコンセプトと、それをしっかり落とし込んだクルマ作り。新型ジムニーシリーズは、「世界のプロに使ってもらいたい」、「プロの役に立ちたい」というクルマ作りの目的がハッキリしていて、その目的の実現に対し、一切の妥協がない。そうしたスズキのピュアなクルマ作りが、軽自動車という枠を超えたジムニーの魅力につながっているし、多くの支持を集める要因にもなっているのだ。

<SPECIFICATIONS>
☆ジムニー XC(MT)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1725mm
車重:1030kg
駆動方式:4WD(パートタイム式)
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:5MT
最高出力:64馬力/6000回転
最大トルク:9.8kgf-m/3500回転
価格:174万4200円

<SPECIFICATIONS>
☆ジムニーシエラ JC(AT)
ボディサイズ:L3550×W1645×H1730mm
車重:1090kg
駆動方式:4WD(パートタイム式)
エンジン:1462cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:4AT
最高出力:102馬力/6000回転
最大トルク:13.3kgf-m/4000回転
価格:201万9600円

(文責/&GP編集部 写真/村田尚之)

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