コーヒーが直面する危機的未来を救う鍵と4つの証言[コスタリカコーヒーツアー後編]
&GP / 2019年2月23日 22時0分
コーヒーが直面する危機的未来を救う鍵と4つの証言[コスタリカコーヒーツアー後編]
スターバックスは世界中のコーヒー農家からコーヒー豆を購買しています。世界で3万店舗近くあるので、その量はかなりのものです。そしてその購買先は、ほとんどが小規模農家。世界唯一のスターバックス自社農園があるコスタリカでも、ほとんどは小規模なコーヒー農園です。
コスタリカコーヒーツアー2日目は、そんな小規模農家を訪ねました。
そして、それら小規模コーヒー農家の話に出てきたのは、やはり“C.A.F.E.プラクティス”でした。
[関連記事]世界唯一のスターバックス自社農園で知ったコーヒーの大問題[コスタリカコーヒーツアー前編]
約30年後には、コーヒーの主品種であるアラビカ種が、いまの半分しか取れなくなるかもしれないというコーヒーの2050年問題。世界中のコーヒー関係者が直面しているこの問題にいまできること、それがこのキーワードに隠されていたのです。
■証言1「自然にとって必要なこと」
▲コスタリカは国土の多くが山で覆われている。サンホセを少し離れただけでこの風景
マイクロバスに揺られること約2時間。コスタリカの首都サンホセから南へ約70km、標高1400mを超える山の中にLa Candelilla(ラ・キャンデリラ)という小さなコーヒー農園があります。
かなりワイルドなドライブの末にたどり着いたのは、急峻な地形の中にコーヒーの木が広がる、まさに小規模農園を絵に描いたような場所でした。
ここでは、サンチェス家の7つの家族が7ヘクタールの農地をシェアしてコーヒーの木を栽培しています。
▲周囲を山に囲まれた谷あいに農園がある
そしてここには、小規模農家では珍しいコーヒーの加工設備を持っています。自分たちの手で収穫したコーヒーチェリーは、自分たちの手で加工し、生豆として出荷しています。
▲土壌のチェック。定期的にサンプルを農学者に送り品質を確認
▲ウェットミルと呼ばれる加工場。コスタリカでは近年、このような小さなミル(マクロミル)による生産が行われるようになっているという
▲加工したコーヒーは天日干しに。この農園では、カトゥーラやゲイシャ、ティピカといった品種を栽培している。ここで作られたコーヒーは過去にスターバックス リザーブで「COSTA RICA LA CANDELILLA」という名前で販売されたことがある
農園主のひとりであるヒューゴさんは、高品質なコーヒー豆の条件を「良い木と良い農園が必要」と話してくれました。
▲Hugo Sanchezさん。ラテンアメリカで最も評価されているコーヒープロデューサーのひとり。コーヒーはブラック派。1日の最初の1杯は朝4時だとか。「1日中コーヒーを飲み続けてるよ!」
「そしてもちろん品質の良いコーヒーチェリーを摘むことだね。それを十分時間をかけて乾燥させる。そうすることで、品質の高いコーヒーになるんだよ。そうそう我々も“C.A.F.E.プラクティス”には参加しているよ。あれはエクセレントだね。これを満たせる農園にすると、自然にとって必要なことと自分にとって必要なことのバランスが取れるんだ。農園の土も、人間以外の生物も必要としているモノだと思うよ」
高品質なコーヒーには欠かせないかもしれないキーワード“C.A.F.E.プラクティス”。実は、次に訪れた小規模農園でも話に出てきたんです。
■証言2「小規模農家も社会的、環境的な責任を果たさなければいけない」
▲Felix Mongeさん。La Candelillaもあるタラズ地区でコーヒー農家を営む農場主。農園は3ヘクタールとコスタリカでは一般的な広さだ
フェリックスさんは、自分の農園の仕事の他に、農園があるタラズ地区のコーヒー協同組合の仕事もこなす、コスタリカコーヒー産業の次代を担う35歳の若き農園主です。
「タラズ協同組合の組合員は5000人以上います。そのうち30%が35歳未満で、平均年齢は45歳ぐらい。そして組合で収穫したコーヒー豆の60%はスターバックスが購買しています。もちろん“C.A.F.E.プラクティス”に参加していますよ。我々はフェアトレードの認証も受けているので、それほど多くのことを変えずにこのプログラムに対応できました。コーヒーの未来を考えると、我々のような小規模農家も社会的、環境的な責任を果たさなければいけないと思っています」
▲鬱蒼とコーヒーの木が生い茂るフェリックスさんの農園。低い木がコーヒーで、高い木は日陰を作るためのシェードツリー
やはりここでも“C.A.F.E. プラクティス”という言葉が出てきました。どうやら高品質のコーヒー豆を作るうえで重要なキーワードなのかもしれません。
▲フェリックスさんの農園近くで出会った牛たち。タラズ協同組合でも一農家だけになった、昔ながらの輸送法
▲「時間はかかるよ~。1回で済まないときは、2回めからはトラックを使ってるかな。ハハハ!」とのこと。コスタリカの農家の人々はみな明るい!
▲タラズ協同組合の加工場。組合員は収穫したコーヒーチェリーをここに運び込む。手前に停まっているのはトヨタ「ランドクルーザー」の40系(通称ヨンマル)のトラック。コスタリカではこのトラックタイプのヨンマルが数多く走っていた! 実はコスタリカは日本車が多く走っているのだ
■証言3「生産者のためにある制度です」
コスタリカコーヒーツアーの最終日となる3日目は、スターバックスの自社農園、ハシエンダ アルサシアです。ここで、コーヒーのエクスポーター(輸出業者)であるエリックさんから、気になっていた“C.A.F.E. プラクティス”についての説明がありました。
▲コスタリカでコリ・カフェというコーヒー輸出業を営むエリックさん(写真右)。コーヒー生産者組合と購買者(スターバックスなど)を結ぶ役割を担っている。もちろんコーヒー豆の品質を見極める目はたしかだ
「購買者側の目となり、コスタリカの最高のコーヒーを調達したり“C.A.F.E. プラクティス”に従って農園を支援したりしています。やはり最も重要なのは品質です。またコスタリカは政府認証である“Café de Costa Rica”があるおかげで、価格の85%が生産者に渡るようになっています。50%未満という国もある中でこれは素晴らしいことです」
「ちなみに“C.A.F.E. プラクティス”は、とても評判がいいんですよ。これはスターバックスのためにあるのではなく、やはり生産者のためにある制度だといえますね。レインフォレスト・アライアンスの認証と同じくらい厳しい。多くの生産者に認証を受けてほしいですね」
レインフォレスト・アライアンスとは、カエルのマークで有名なコーヒーの認証機関です。コーヒーショップで見たことがある人もいるのではないでしょうか。地球環境保護や農家の持続可能な生活を確保するために作られた認証で、森林や生態系の保護、土壌や水資源の保存、労働環境の向上など、厳しい基準を満たした農園にのみ与えられ、そこで生産された作物をもとに作られたものだけ認証マークが付けられます。
そして“C.A.F.E. プラクティス”はこの認証と同じくらい厳しく、そして質がいい。そう、これも認証のひとつなんです。
▲熟したコーヒーの実=コーヒーチェリーは、赤く粒が大きいほど高品質とされている
レインフォレスト・アライアンスと同じくらい厳しい基準が設けられていて、スターバックスは99%のコーヒー豆を、この認証を得た農園から調達しているといいます。
実はこの認証、1998年にスターバックスが国際環境NGOの協力のもと、コーヒー豆の購買に関するガイドラインとして作ったものだといいます。これを満たすことにより、コーヒー農家は品質の高いコーヒーの生産が可能になり、そして高品質の豆だから高い価格で売れる。結果、収入も上がり農園を続けていけるということになります。
その支援をリードしているのが、スターバックスの自社農園、ハシエンダ アルサシアにある“ファーマーサポートセンター”です。
■証言4「10年後や20年後に高品質なコーヒーがあってほしい。そのために研究開発している」
世界に9カ所あるという、スターバックスのファーマーサポートセンター。各地の小規模コーヒー農家を支援しているというこのセンターですが、中米は自社農園であるハシエンダ アルサシアとメキシコ、グアテマラにあります。
そして、このセンターを率いるのが世界的なアグロノミスト(農学者)であるカルロスさんです。
▲Carlos Mario Rodoriguezさん。世界中のファーマーサポートセンターで働くアグロノミストを率いる。病気に強く収穫量の多いコーヒーの研究や開発のリーダーでもある
「スターバックスのファーマーサポートセンターは、世界中の生産者のコーヒーの木が、より高い生産高になるよう支援をしています。サステナビリティ(持続可能)という意味でも、10年後や20年後に高品質なコーヒーがあってほしい。そして生産者家族の生活の質も上がってほしいと思って活動しています」
カルロスさんによると、いま中南米では、サビ病が広がっているとのこと。これはまさに2050年問題につながります。そのために、病気に強い品種の開発を続けている場所、それがハシエンダ アルサシアなんです。
「コーヒーの品質を保つためには、品種や土壌、天候、運営、加工法などさまざまなことに注意を払わなければなりません。これはワインの生産にも似ています。そのために生産者がどう農園を運営するかは重要です。それをサポートしていきたいと考えています」
“C.A.F.E. プラクティス”というガイドラインは、スターバックスのサイトによると、「労働環境の改善」や「児童労働の規制」、そして土壌侵食や汚染防止といった「生物多様性の保全」に対する取り組みを含めた基準となっています。スターバックスは、これを満たした生産者からのみ購買するとのことです。
なんだか難しい言葉ばかりですが、簡単に言ってしまえば“C.A.F.E. プラクティス”を満たした農園のコーヒー豆は高品質だということ。そして、その農園自体もちゃんと収入を得られているということ。だからこそ、この基準を満たすコーヒー農家が増えてくれることで、コーヒーが直面している2050年問題を解決するひとつの鍵になるのです。
まさかスターバックスの自社農園を見学させてもらうだけのつもりが、日々愛飲しているコーヒーの厳しい現実と、それに抗うべく日々奮闘している人たちの話を聞けるとは思ってもいませんでした。
▲2018年に完成した、ハシエンダ アルサシアの加工場(ミル)。これができたことによって、すべての工程を自らの手で行えるようになった
いま飲もうとしているそのコーヒーが30年後には飲めなくなるとしたら、困りますよね。世界中のコーヒー産地がいま直面している問題を知っておくだけでも、コーヒー1杯の楽しみ方は変わってくるのではないでしょうか。
これからもおいしいコーヒーを飲み続けられるためにも、ちょっと世界のコーヒー生産地に思いを馳せてみませんか。
>> スターバックス コーヒー
(取材・文/&GP編集部 円道秀和 写真/田口陽介)
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