手に汗握る緊張感がたまらない「スロットカー」【夢中になれる趣味時間。】
&GP / 2019年2月21日 19時0分
手に汗握る緊張感がたまらない「スロットカー」【夢中になれる趣味時間。】
溝(スロット)が彫られたコースを使い、模型自動車を走らせるスロットカー。そのコントロールはアクセルワークだけといういたってシンプルなものだが、それだけに奥が深い。レーシングドライバーである桂伸一さんだからこそ語れる、世界一手軽なモータースポーツの魅力に迫る。
■スロットカーはモータースポーツ
1960年代にイギリスからアメリカに渡り、プラモデルキットが爆発的ヒットした後、日本にやってきたスロットカー。これまでに何度もブームが訪れては去り、また訪れるという歴史があり、男子が一度は通った道ともいえる模型自動車の代表格だ。
それだけにクルマ好きや模型好きにとっては、憧れのホビーと言えよう。そんなスロットカーの第一次ブームが訪れた1960年代に幼少期を過ごし、スロットカーに夢中になったのがレーシングドライバーの桂伸一さんだ。
「僕は幼い頃からミニカーで遊んだり、プラモデルを作ったりしていた、クルマ好きの少年でした。いまでも覚えていますが、スロットカーが流行り始めた頃、近所の駄菓子屋がコースを設置し、そこで近所の子どもたちがスロットカーを走らせていたんです。それを見て『なんだコレ。おもしろそう』と思って。
そうしたらその後、当時僕が通っていた模型屋さんにもコースができたんです。そこに行くとスロットカーのキットがたくさんあって、箱を開けて中身が見えるように飾ってありました。クルマ好きの僕にとっては、それがすごく魅力的に映り、どうしてもスロットカーが欲しくなり、小学1年生の誕生日にホンダのS600を買ってもらったんです」
▲桂さんはCan-Amカーの他にも多数のスロットカーを所有。「現在のコレクシ ョンは20~30台くらい。本当は自宅に飾りたいけど、スペースがないんですよね(笑)」
趣味らしい趣味は昔もいまもスロットカーくらいという桂さんは、現在60歳。50年以上もの長きに渡りスロットカーを楽しんでいるが、そのやりがいや魅力はどういったところに感じているのだろうか?
「リアルに再現したマシンが実車のように動き、それを自分でコントロールしてレースすることが何よりも楽しいですね。“コントロールする楽しさ” をわかりやすく言うなら、操作がアクセルだけという単純明快なところでしょうか。
単純ではありますが、どのポイントでアクセルを緩めて減速すればいいのか? その後、どこからアクセルを開ければいいのか?といった操作だけでコーナーをクリアしていかなければならないところがスロットカーの難しさであり、おもしろさでもありますね。
長丁場のレースでも常に同じポイントで同じようにアクセルを開ける必要があるんですが、周りにライバルが来たりすると、どうしても焦ってミスをしてしまう。なのでどのような状況になっても、焦らず同じ操作を繰り返せるかが勝敗の分かれ目になるんです。これをレース中ずっと続けるのが大変で、とにかく長時間集中力が求められるんです(笑)」
▲「実車をリアルに再現したマシンを走らせるのも楽しい」と語るように、タイヤひとつとってもサンドペーパーで整形し、ロゴのレタリングも施すこだわりよう
スロットカーのコントロールはもちろん、レースで競り合うことにも楽しみを見い出している桂さん。小学生の頃、スロットカーでレースをしておもしろいと感じたことがきっかけとなり「将来は実車のレーシングドライバーになりたいと思うようになった」というが、その夢が実現してあらためて感じたのは、“スロットカーはモータースポーツ”ということだった。
「スタート前の緊張感であったり、マシンそのものの動きであったり、スロットカーがモータースポーツだと感じる瞬間は多々ありますが、そのなかでも一番はレース中の駆け引きですね。前方を走るマシンにくっついていけば、相手が焦ってコースアウトしたり、コーナリングでミスをする。ライバルとのバトルのなかで相手の強いところと弱いところを見極めて、一瞬のスキを突いてオーバーテイクをする。このような駆け引きは、実車のレースと何ら変わりません。これこそ、まさにモータースポーツなんです」
▲お気に入りのマイマシンを前にシャシーの整備を行う桂さん。お気に入りは1960年代のCan-Amカーで、その手の新製品には否が応にも目がいってしまうという
一般の人にとって実車のレースはあまりにも敷居が高い。しかしスロットカーであれば、手軽に始められる上に、手に汗握るモータースポーツの醍醐味を存分に味わえるのだ。
▲取材日当日に開催されたナイトレースにプライベート参戦した桂さん。「スロットカーでも何でも、やっぱり勝敗を決めないと(笑)。負ければ悔しいと思うし、勝てばその喜びをもう一度味わいたいと思いますから」
レーシングドライバー 桂伸一さん
アストンマーチンのワークスマシンを駆り、ニュルブルクリンク24時間レースで優勝するなど、輝かしい戦歴をもつレーシングドライバー。COTY(日本カー・オブ・ザ・イヤー)、WCA ワールド・カー・アワードなどの選考委員も務める。
■セットから組み立てキットまで楽しみ方は無限大!
スロットカーのプロショップ・バン・プロジェクトの代表、伴野正之さんによると、始めるにあたって最初に決めたいのは “サイズ” だという。
「スロットカーは大別すると1/32と1/24スケールがあるんですが、これらは単にサイズが違うだけではないんです。完成品で買ってすぐ走らせられる1/32スケールに対し、1/24スケールは組み立てキットのシャシーに、別売りのプラモデルボディを装着して完成させる本格モデル。
ですので入門者には、まず1/32スケールをオススメします。1/32は走行中のマシンを下側に押し付けるマグネットが付いているので、走らせやすいですしね」
▲スロットカーの走行には別売のコントローラーが必要だが、ブレーキ&レスポンス調整可能なボリューム付きから、調整機能がないシンプルなものまで多種多様
とは言え、その後は1/24スケールにステップアップする人がほとんどだという。
「ウチでは1/32用と1/24用のコースを併設していますが、1/32スケールで遊んでいる方にとっては、隣で凄いスピードで走る1/24スケールのマシンが気になるようです。で『だったら俺も1/24をやる!』と(笑)。
1/24スケールは組み立てが必要ですが、その分、趣味性がより高いので、モノ作りや機械イジリが好きな方にとっては、こちらのほうがハマりやすいようです」
▲1/24スケールのシャシーは真ちゅう、アルミ、ステンレスなどを適材適所で使用した本格的なもの。走行性能を高めるための細かいセッティングも可能だ。
▼買ったその日にすぐ遊べる
Carrera
「1/32 スロットカー カレラ Digital132 High Speeder (スロットカー2台入り)」(4万4064円)
メルセデスAMG GT3とポルシェ 911 GT3 RSRの2台に全長7.3mのコースとコントローラーを同梱した、買ったその日に遊べるフルセット。
「セット品であれば、自宅でも親子や家族とスロットカ ーが楽しめます」(伴野さん)
▼ポルシェでドリフトを満喫!
SCALEXTRIC
「1/32 PORSCHE POWER-SLIDE SLOT CAR SET」2万7000円
ブルーとオレンジのポルシェ 997 GT3 RS各1台、コントローラー2台、コースのフルセット。商品名が示すようにドリフトが楽しめる。
バン・プロジェクト代表・伴野正之さん
スロットカー好きなら知らない人はいない、日本スロットカー界の草分け的存在。「近場のコースでいいので、まずはスロットカーを見て楽しさを知ってください」
バン・プロジェクト
住所:神奈川県横浜市港北区新羽町412-2
営業時間:15時~ 22時(水・木)15時~ 23時(金)14時~ 23時(土)14時~ 22時(日)
休日:月・火
■走らせずともニヤニヤできる名車5選
飾るだけでも満足感の高いリアルなボディを持つ1/32スケール。それらの中からオススメの5台をピックアップ。人気の中心は1960~1970年代のレーシングカーだ!
▼巨大なウイングを持つ “白い怪鳥”
MRRC
「Chaparral 2F #1Brands Hatch 1967」(5290円)
独創的なアイデアと革新的なテクノロジーをいち早く導入してアメリカのスポーツカーレースシーンを席巻した、奇才ジム・ホールが率いたシャパラル・レーシングが手がけた2F。 “白い怪鳥” とも呼ばれた、巨大なハイマウントリアウイングはいま見ても斬新すぎる!?
▼コスワースの緻密なV8エンジンに注目
POLICAR
「March 701 2nd Spa 1970」(8640円)
マーチ701は英国のレーシングコンストラクターであるマーチ・エンジニアリングが開発したF1マシン。写真は、1970年のF1世界選手権第4戦でクリス・エイモンが2位を獲得したNo.10号車。見事なまでに立体化されたフォード・コスワ ースV8エンジンにも注目!
▼ル・マンでポルシェに初の栄光をもたらす
Flyslot
「PORSCHE 917 LH 24H Le Mans 1971」(6750円)
スティーブ・マックイーンの主演映画『栄光のル・マン』でスクリーンを賑わしたポルシェ917Kは、1970年のル・マン24時間レースでポルシェに初の総合優勝をもたらした1台としても知られる。写真は1971年の同レースに参戦したロングテール仕様の917LH。
▼日本車で初めてル・マンを制覇!
MR SLOTCAR.CA
「MAZDA 787B JSPC 1991 #202」(1万690円)
日本車として初めてル・マン24時間レースで総合優勝を果たした伝説の名車、マツダ・787B。写真の1台は、グリーンとオレンジの配色がル・マンを制した55号車と逆パターンになっている全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)仕様のNo.202号車だ。
▼トリコロールカラーのアメ車の代表格SCALEXTRIC
SCALEXTRIC
「AMC Javelin 1972 Trans Am Championship」(7560円)
「かっこいいアメ車の代表格といえばコレでしょ!」と伴野さんが語るのが、アメリカのトランザム・レースで活躍したAMCのジャヴェリン。写真はジョージ・フォルマーのドライブにより1972年のシリーズ優勝を獲得した、トリコロールカラーを再現した1台だ。
>> 夢中になれる趣味時間。
本記事の内容はGoodsPress3月号44-47ページに掲載されています
(取材・文/加藤文晶 写真/阿部昌也 撮影協力/バン・プロジェクト)
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