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開発リーダーが明かす!ロードスター30周年記念車“レーシングオレンジ”採用の秘密

&GP / 2019年2月26日 19時0分

開発リーダーが明かす!ロードスター30周年記念車“レーシングオレンジ”採用の秘密

開発リーダーが明かす!ロードスター30周年記念車“レーシングオレンジ”採用の秘密

1989年2月に開催されたシカゴオートショーにおいて、世界初公開されたマツダ「MX-5ミアータ」こと、初代「ロードスター」。ライトウエイトスポーツカーを渇望していたアメリカはもちろんのこと、ヨーロッパや日本でも、その登場は大きな話題となりました。

眺めているだけでワクワクしてしまうキュートでコンパクトなボディ、まさにドライバーの“意のまま”に操れる軽快な走りを併せ持ったロードスターは、瞬く間に世界中のスポーツカーファンを魅了。今日へと続くライトウエイトスポーツカーの傑作となったのは、皆さんご存知の通りです。

あれから30年。今年2019年は、ロードスター誕生30周年というアニバーサリーイヤー。それを祝し、マツダから世界限定3000台の記念モデルが発表されました。お披露目の舞台となったのは、初代がデビューを飾ったのと同じシカゴオートショー。

ちょっと意味深なデビューとなったこの記念車は、どんなクルマなのか? そして、そこにはどんな思いが込められているのか? ロードスターの開発主査であり、チーフデザイナーでもあるマツダの中山 雅さんにうかがいました。

【プロフィール】中山 雅(なかやま・まさし) 1965年、広島県生まれ。ロードスター開発主査、兼チーフデザイナー。1989年にマツダへ入社。デザイン本部に配属され「RX-8」などを手掛けた後、マツダ欧州R&Dセンターへ赴任。帰国後、初代「CX-5」やロードスターのデザインを担当。2016年に、ロードスターの開発主査に就任。初代のNA型と現行のND型、2台のロードスターを所有する生粋のクルマ好きとしても知られる。

■ヒントは30年前のコンセプトカーにあった

2015年にフルモデルチェンジし、ND型と呼ばれる現行の4代目へと進化を遂げたロードスター。これまでND型にも、いくつかの(期間)限定車が設定されてきましたが、今回のアニバーサリーモデルは、“レーシングオレンジ”と名づけられた鮮やかなオレンジのボディカラーはもちろん、装備もかなり特別な仕立てとなっています。

* * *

ーー今回の30周年記念車は、どのような経緯により開発されたのでしょうか?

中山さん:歴史を振り返ってみると、ロードスターにはこれまで、数々の限定車が存在してきました。中でも、2代目のNB型には10周年記念車が、3代目のNC型には20周年と25周年を記念した限定車が設定されています。そのため、誕生30周年という節目も、新たな限定車を登場させるひとつのきっかけにはなったのですが、実は25周年と30周年の間には、もうひとつ大きな出来事がありました。累計生産台数100万台の達成です。なので今回のモデルは、30周年と100万台達成の双方を記念した、特別なクルマといえます。

その開発に当たって、私たちはふたつのテーマを掲げました。ひとつは30年、100万台を支えていただいたことへの感謝。もうひとつは、ロードスターの今後や未来を感じさせるような気持ち、決意を込めたいと考えました。“感謝”と“決意”が今回のクルマの開発テーマです。

ーーそんな特別な意味が込められた30周年記念車の特徴は、なんといってもボディカラーだと思います。この色は、どのような理由から選ばれたのでしょうか?

中山さん:初代がデビューを飾った30年前のシカゴオートショーでは、メインステージにレッド、その下にブルーとホワイトのMX-5ミアータを配置していました。それは、アメリカ国旗に使われる3色です。

1989年シカゴオートショー

でも実は、会場にもう1台、MX-5をベースとするドレスアップカーを展示していたのです。それが、“クラブレーサー”と呼ばれるイエローのコンセプトカー。イマ風にいうと、“モノづくり”と“コトづくり”の展示、とでもいいましょうか。モノづくりとしてレッド、ブルー、ホワイトの市販車を、コトづくりの一環としてイエローのクラブレーサーを展示していたのです。

MX-5ミアータ クラブレーサー(手前中央)

今回のシカゴオートショーでは、そんな30年前の様子をリスペクトし、それらの立ち位置をひっくり返した展示を行いました。つまり、30年前のクラブレーサーをそのまま量産化したのが今回の30周年記念車、という位置づけにし、メインステージに展示したのです。「当時は夢のコンセプトカーだったクルマが、ついに具現しましたよ」というストーリーですね。

そして、レッドの初代モデル、ブルーの10周年限定車、ホワイトの20周年限定車といった具合に、レッド、ブルー、ホワイトの歴代車をメインステージの下に並べ、30年前の様子を再現したのです。つまり今回は、モノづくりが30周年記念車、コトづくりが歴代車という位置づけですね。

今回のショーで30年前の情景を再現したのは、先ほどお話した“感謝”の意味を込めたかったから。そして、未来への“決意”を示すために、記念車のボディカラーには、夜明けや朝焼けを感じさせる鮮やかなオレンジを選択しました。

ーーオレンジは、これまでロードスターでの採用例はありませんし、なかなか衝撃的で鮮烈なイメージです。昔から温められていたアイデアだったのでしょうか?

中山さん:レッドやブルー、イエローはすぐ思いつく色なのですが、実はオレンジというのは、なかなか思いつかない色でした。実際、イエローやブルーはすぐ候補に挙がってきてきましたが、オレンジは3番目くらいの存在でしたね。

そんな中、オレンジを選んだ理由のひとつは、次の時代を感じさせるというコンセプトを体現できるから、です。例えば、なぜイエローなのか? なぜレッドなのか? なぜマツダはブルーが好きなのか? と問われても、それらをしっかりと語れるストーリーがないと、採用してはいけないと思うのです。また、イエローやブルーはいつでも出せる色なので、今回はあえて選びませんでした。

ーー装備面もかなりこだわった内容ですが、これは初代クラブレーサーの影響を受けての選択なのでしょうか?

中山さん:30年前のクラブレーサーは、ボディもホイールもイエローに塗装されていました。今回はフロントにブレンボ製、リアにニッシン製のブレーキキャリパーを採用していますが、これをボディと同じオレンジに塗装しています。

もちろんその他の部分にも、クラブレーサーらしく走りを意識したアイテムを満載しています。ショックアブソーバーはビルシュタイン製、シートはレカロ製、ホイールはロードスターのワンメイクレース“グローバルMX-5カップ”でお馴染みのレイズ製「ZE40」を選んでいます。レイズのホイールは、1991年にル・マン24時間耐久レースで優勝した「787B」にも採用していましたので、「マツダといえばコレだろう」ということでセレクトしています。

また、シートのステッチなど、インテリアのディテールもオレンジでコーディネートしています。そのほか、ホイールのセンターキャップをマツダのロゴ入りとするなど、細かい部分にもこだわっています。

ーーカラーコーディネートの楽しさもロードスターというクルマの魅力だと思うのですが、初代と現行モデルとの間で進化した部分、変化した部分はありますか?

中山さん:一部例外はありますが、初代は基本的に「外装が明るい色でも、内装は黒で統一」といった感じで、エクステリアとインテリアの考え方が、昔ながらのスポーツカーの伝統に基づいていました。

ロードスター(NA型)

ロードスター(NA型)

その点、現行のND型は、モダンな考えに変化しているのが最も大きな違いでしょうね。「昔のスポーツカーはこうだったから」という既成概念にとらわれることなく、自由に発想しています。

また初代には、タン色の内装がありましたが、上下で色を切り分けてツートーンカラーにしています。これは最初から想定していた組み合わせではありますが、あくまで内装だけのコントラストで完結しています。

ロードスター(NA型)

一方、現行モデルは、ドアインナーの上部にまでボディカラーをあしらっていて、内装と外装のコントラストを強調しています。

ファッションに例えるなら、かつてはジャケットだけで色を考えていたのが、最近ではジャケット、パンツ、靴…といった具合に、コーディネートする範囲が広がった、ということです。クルマも内装、外装という狭い範囲の色だけでなく、広い範囲でコーディネートを考えるようになったというのが、時代の変化といえるでしょうね。

ーーロードスターはすごくパーソナルなクルマですが、やはりそうしたコーディネートは重要なんですね。

中山さん:ロードスターをお求めになる方は、ボディカラーで“自分の色”を表現したいという思いが、他のクルマに比べて大きいのだと思います。「おすすめは何色ですか?」と聞かれることもありますが、流行っている色だから、とか、市場で少ない色だから、といった理由で選ばれると後悔しますよ、とお答えしています。ロードスターはせっかくパーソナルなクルマなので、大いに自己主張して乗っていただきたいのです。また、ロードスターは長くお乗りいただけるクルマなので、カラーにもこだわっていただきたいですし、好きな色に乗っていただきたいと思っています。

■次期モデルは、より軽く、より小さく、より低く…

ーーロードスターといえば“走り”も重要な要素ですが、初代との共通点や、開発に当たって重視されていることなどはありますか? 今回の記念車も、かなり走りを意識したセットアップのようですが。

中山さん:もちろん走りは、ロードスターが最もこだわっている部分です。ドライバーとクルマが“人馬一体”の状態となり、走る歓びを感じられるというのは、初代から共通する美点。近年、この“人馬一体”はすべてのマツダ車に共通するテーマとなり、ロードスター特有のものではなくなってしまいしたが、強いて挙げるなら、ロードスターはクルマが軽いことがファクターとなり、“人馬一体”を表現しているクルマ、といえるでしょう。

“意のままの走り”という点については、モーターなどの電気デバイスに頼っても実現できるとは思うのですが、現状のままでも、軽さによってそれを体現できているのが、ロードスターならではの美点だと思います。電子デバイスに頼らなくてもいいというのは、まさにロードスターらしい生き方、ですよね。

また、走りの基本的な部分は変えず、グレードによって少しずつキャラクター分けができる点も、初代から現在まで続くコンセプトです。初代にも、ビルシュタイン製のショックアブソーバーを採用するモデルを用意していましたし、2代目からは、モータースポーツ向けのベース車両である「NR-A」というグレードを設定しています。ロードスターというしっかりとしたベースがあった上で、「このグレードはこういった方向性にしよう」というアレンジができるのも、現行モデルにまで受け継がれるロードスターのDNAでしょうね。

ーー中山さんといえば、初代と現行モデルの双方を所有されているロードスター愛好家、という一面もありますが、開発に当たって感銘を受けられたクルマや、意識されたクルマというのはありますか?

中山さん:私がロードスターの開発に携わるようになったきっかけは、デザイナーとしてでしたから、デザイナー視点からになりますが、まずはいい訳なしにカッコいい、美しいクルマを作りたいと思っていました。理由は、カッコ良さや美しさというのは、時の流れでは風化しないと思うからです。食べ物で例えれば、甘いとか辛い、濃いとか薄いといった“味の状況説明”ではなく、「美味しい!」という人類共通の価値の尺度で表現したい、といった感じでしょうか。クルマにおいても、「好き!」とか「欲しい!」という動詞で表現できるデザインを、カタチにしたいと考えていました。そういった視点で考えるなら、初代ロードスターには感銘を受けましたし、意識したクルマともいえるでしょうね。

また、クルマ好きの視点から見た場合に意識した1台といえば、ランボルギーニ「ミウラ」でしょうか。社内のとあるエクステリアデザイナーと初めて仕事をした時、彼も「ミウラのようなクルマを作りたいんです!」といっていたのですが、いつの時代も、皆が美しい、カッコいいと思うモノには、やはり理由があるのです。変わらない価値や、永遠の美とでもいいましょうか。本当にいいモノというのは、皆さんやはり、いいとおっしゃるはずです。なのでこれからも、そういったクルマを作っていきたいと考えています。

ーーちなみにロードスターには、歴代の開発者やデザイナーから継承されている“禁じ手”のようなもの、「コレはやってはいけない!」という決め事みたいなものはあるのでしょうか? また、中山さんご自身が「コレは絶対にやらない」と決めていることはありますか?

中山さん:そういったものは、特にありませんね。むしろ「ロードスターのデザインはかくあるべし」と皆さんが思っているものがあるならば、ND型ではそれを裏切っているかもしれません。

例えば、細かいことですが、歴代モデルのサイドマーカーは丸い形をしていましたが、ND型では三角形にしています。もちろん「ロードスターのサイドマーカーは丸に限る」というルールはありません。初代が丸形を選んだのは、当然、理由があってのことでしょう。現行モデルの場合、デザイン的に三角にする理由があったので、三角にしています。そういう意味では、一般的に“禁じ手”と思われていることを、ND型では結構、実践しているかもしれませんね。でも、工業デザインの基本として、カタチには意味があるわけです。必要があるから変えるわけで、歴代の開発者にも、そういった部分を指摘されたことはありません。まあもし、いわれていたとしても、やっていたかもしれませんけどね(笑)。

ただし、色に関していえば、現行モデルは立体的で深い造形なので、光の当たり方で極端に色味が変わるボディカラーは、不要だと思っています。彫りが深ければ自然に陰影がつきますから、光の角度で陰影がついたり、色味が変化したりすると不自然に見えてしまいます。なので、エフェクトが強過ぎるカラーは必要ないと思っています。

ーーさて、30周年記念車の開発テーマにある“決意”というキーワードからも、ロードスターの未来を感じることができますが、今後、ロードスターはどういう方向へ進むのでしょうか? また、中山さんにとって理想のロードスターとは、どんなクルマですか?

中山さん:次のロードスターをどのようにするか、というのは、難しい課題ですね。何しろ、ND型の出来がいいですから(笑)。

でも、真面目にお答えすると、いいクルマの次というのは、本当に難しいというのが本音です。もしも奇跡を起こせるならば、もうちょっと軽く、もう少し小さく、より低くしたい…とは思っていますね。

ND型よりも低く、軽くとなると、運転しづらいと思われるかもしれませんが、ゴーカートって低くて軽いじゃないですか。それが走る楽しさに結びついていると思うんです。現行モデルより低くて、前にエンジンがあって…いや、モーターでもいいかな。次はそういうクルマにできるのが理想ですね。

MX-5ミアータ 30th アニバーサリーエディション(北米仕様)特別装備一覧
レイズ社製鍛造アルミホイール/シリアルナンバー付き30thアニバーサリーオーナメント/オレンジをアクセントとしたカラーコーディネート/レカロ社製シート/ビルシュタイン社製ダンパー(MT車)/ブレンボ社製フロントブレーキキャリパー/ニッシン社製リアブレーキキャリパー/BOSEサウンドシステム+9スピーカー

(文/村田尚之 写真/村田尚之、マツダ)

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