エンジンむき出し!トヨタ「KIKAI」は市販されるのか?
&GP / 2015年12月9日 18時0分
エンジンむき出し!トヨタ「KIKAI」は市販されるのか?
2015年10月29日から11月8日まで11日間に渡り開催された『第44回東京モーターショー2015』。来場者数は81万2500人で、幕張メッセから東京ビッグサイトに会場を移してから最少だったと報じられました。
しかし今回のショーではマツダが次世代ロータリーを搭載する「RX-VISION」を公開したり、各社が自動運転に対するメーカーの方向性を打ち出すなど、大きな話題がいくつもありました。会場で興奮した人も多かったはずです。
そんな中、ひときわ異彩を放つコンセプトカーがトヨタブースに展示されていたのを覚えていますか? その名は「TOYOTA KIKAI」。「クルマは乗り物である前に、人の手が生みだした機械である」と題し、人とクルマの関係を再構築することをコンセプトに作られたショーカーです。
■エンジンが見える、パイプが露出!まるでロボット
トヨタブースは新型プリウスやコンパクトスポーツの「S-FR」、次世代コンパクトクロスオーバーの「C-HR Concept」がメインステージに置かれ、KIKAIは少し端のほうに展示されていましたが、メカと呼ぶに相応しいルックスは大人から子どもまで大人気でした。
ただ……筆者は披露されたKIKAIを見て、違和感というか、不自然さを感じました。どうでもいい細かいことなのですが。それはKIKAIに貼られた化粧プレートです。
化粧プレートとは、ナンバープレートの代わりに貼られるもの。これ、コンセプトカーだとそもそもナンバープレートがない形でデザインされたり、黒などで作られることが多いんです。
なぜならいわゆる街を走るクルマのナンバープレートとの混同を避けるため。メーカーはもちろんクルマ雑誌が撮影する際も、黒や赤などナンバープレートとは違う配色で作ります。
C-HR Conceptはナンバーがどこにつくか、まだわかりません
S-FRは黒いプレートが目立たないように付けられていました
ところが、KIKAIの化粧プレートは白地に緑色の文字。これって完全に日本のナンバープレートと同じ配色です。普通じゃあり得ないことをコンセプトカーで行っている。ここに何か意図を感じていました。
モーターショーが終わってしばらく経ったとき、『&GP』編集部から連絡が。
「KIKAIの開発担当者と話せる機会があるけれど、どお?」
こんな素敵なお誘い、断るわけないじゃないですか!! さっそく11月に某所で行われたKIKAIのイベントにお邪魔してきました。
コンセプトながら作り込みは製品化を睨んだ内容に!?
このイベントはKIKAIの企画・開発を手掛けたトヨタ自動車の陶山和夫氏と、ポストペットの開発者で、『風の谷のナウシカ』に登場するメーヴェの実機を作る「OpenSkyプロジェクト」でも知られるメディアアーティスト、八谷和彦氏の対談がメインの内容です。
トヨタ自動車株式会社 商品・事業企画部 未来プロジェクト室主任 陶山和夫氏
メディアアーティストの八谷和彦氏
「情報がクラウド化、ビッグデータ化され、モノはシンプルでブラックボックス化されていく裏で、生活はリアリティが低下し見えない不安が増えて、人と人、人とモノの関係は希薄になっているように感じる。KIKAIが持つ機械本来の魅力で人とクルマの関係を再構築したい」
「身のまわりのモノの成り立ちや今まで見えなかったことに気付くことで、モノに触れる暮らしの喜びを感じてもらいたい」
陶山氏はKIKAIに込めた熱い思いを語ります。その後、実車を見ながらKIKAIの詳細を解説します。
- 運転席からフロントサスペンションの動きが見えるよう、足もとに窓が設けられている
- エンジンから出るエキゾーストマニホールドは“工場萌え”的な要素も込められている
- アクセルペダルとブレーキペダルは運転する人の体型に合わせて高さを変えられる(上昇・下降させるスイッチをトグルスイッチにしてメカっぽさを表現している)
- 単にノスタルジーを追求するだけでなく、ハイブリッドモデルとすることで時代にマッチさせている(コンセプトカーにはアクアのハイブリッドシステムを使用)
「給油口には燃料を入れた際にタンク内の空気を抜くホースがついています。普通は隠す部分をあえて見せることで、こういう仕組みなんだと機械に興味を持ってもらいたい」
エンジン回りの造形は海沿いにある工場のよう。「そこでKIKAIではうっすらライトアップし整備時の効率を高めると同時に“工場萌え”な雰囲気を演出しています」
市販化できるかは、ファンの声の大きさにかかっている
陶山氏の説明を聞くうちにモーターショーで筆者がもやっと感じた疑問は、確信に変わっていきました。
「このクルマ、単なるデザインコンセプトではなく本気で市販化を目指している!」
そこで陶山氏の解説がひと段落したところで、思い切って声をかけてみました。
&GP:「陶山さん、的外れかもしれないですが、伺いたいことがあるんですが……」
陶山:「はい、なんでしょう?」
&GP:「KIKAIについている化粧プレートですが、あえてナンバープレートと同じ配色にしたのは特別な意図があるんですか? ありますよね」
陶山氏はニヤリと笑い、こう切り出しました。
陶山:「よくそんなところに目を付けましたね。トヨタ自動車では普通、化粧プレートは黒地にします。一般のナンバープレートと同じ色にするのはあり得ません。この色は私が無理矢理頼みこんで実現したものです」
&GP:「なぜ社内的にあり得ないことを無理に押し通したのでしょう?」
陶山:「KIKAIは既存のカテゴリーには当てはまらないクルマです。だからこそ既存のクルマとの共通点を作ることで、実生活の中にこのクルマがある光景を想像してほしかったからです」
&GP:「でもコンセプトカーを見た人は自然に街を走る姿を想像するものじゃないでしょうか。それにKIKAIは他のコンセプトカーに比べて作り込み方が具体的だと感じました。遠回しな聞き方はやめます。これ、市販化を視野に入れていますよね?」
KIKAIはアルミフレーム+カーボンボディで出来ている。このままだと高額なクルマになってしまうため、市販化が決まれば改良され手の届きやすい価格帯で登場するはず
すると陶山氏は真顔になり想いを語ってくれました。
陶山:「開発側としては自分が作ったものが街を走り、多くの人に愛されるようになるのは夢であり目標です。しかし現段階では市販化どころか、市販化するかしないかをジャッジする場にすら上がっていません。これは本当です。まずはKIKAIが世間で盛り上がり、その声を受けて市販化検討の場に上げられたらと思っているんです」
つまり世間の声が大きくなれば、いつかKIKAIが本当に世の中に出てくる可能性もあるということ。化粧プレートにナンバープレートの色を使ったのも、非現実的なコンセプトカーだからこそ現実感を盛り込み、多くの人に「これに乗ってみたい」と感じてもらうため。
KIKAIは未来を想像させるだけでなく、作り込み方などに“現実味”があるのが特徴。聞けば設計の法規的な部分もほぼクリアしているとか。
何よりKIKAIはデザイン提案のコンセプトカーでありながら、実際にエンジンがかかり走ることもできるようです。モノ好きのみなさんが本気で欲しいと思えば、いつかKIKAIはほぼこのままの形で出てくるかもしれませんよ!
(取材・文/高橋 満)
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