日本の匠が手がける「宮内庁御用達」の傑作品【CRAFTSMANSHIP】
&GP / 2019年4月5日 19時0分
日本の匠が手がける「宮内庁御用達」の傑作品【CRAFTSMANSHIP】
【特集】CRAFTSMANSHIP
現在「○○御用達」という言葉が一般化しているが、本来「御用達」とは、江戸時代の幕府や大名らと取引のあった特権的な御用商人を指す。明治24年には認可制となり、認可を受けた業者のみが「宮内省御用達」と名乗れた。
しかし昭和29年に制度が廃止されてからは、「宮内庁御用達」を自称する単なる出入り業者も増えたという。ただ今回は、確かな実績と実力のあるホンモノだけを紹介する。やはりそこには匠の技があった。
【「鞄」という文字を発案した「銀座タニザワ」のダレスバッグ】
明治7(1874)年、初代・谷澤禎三が鞄の輸入販売する谷澤商店を開いたことがタニザワの始まり。初代は鞄の製造も手がけ、明治10年の第一回内国勧業博覧会で出品した鞄が受賞、その賞状には『堤囊(つつみふくろ)』と書かれていた。
▲タニザワの創業者である、初代・谷澤禎三氏。日本で初めてネオンサインを店舗に導入するなどアイデアマンだったという
このとき初代が、かばんに対する呼称の一つだった『革包(かくほう)』の文字を横に並べて、『鞄(かばん)』と読ませることを提案したという。その後、明治23年に現在の銀座に移転した際、『鞄』の文字を書いた大看板を店頭に掲げた。
「これが銀座をお通りになった明治天皇のお目にとまり、侍従職を通し“何と読むか?” との御質問を受け、“かばんと読みます” と応えたそうです。これをきっかけに『鞄』の字が全国に広まったと伝えられています」(銀座タニザワ常務取締役鈴木政雄さん)
▲「鞄」の文字を発案し、店頭に大看板を掲げていたが関東大震災により焼失。この写真の字体も当時のものではないそうだ
また、タニザワの2代目はダレスバッグを考案。昭和26(1951)年、サンフランシスコ対日講和条約締結のため来日したジョン・F・ダレスが持っていた口金式の鞄に感銘を受け、試行錯誤の末に完成させ、ダレスバッグと名付けたという。
▲左がダレスバッグを生み出した2代目・谷澤甲七氏。タニザワのダレスバッグはたちまち人気となり世に広まった
そんな歴史を持つタニザワは以前より皇室御用を賜っており、昭和28年に英国エリザベス女王の戴冠式に出席する皇太子殿下(現在の天皇陛下)の旅行鞄を納入。また昭和34年には、御成婚にあたり旅行用など鞄一式を宮内庁に納入している。
▲皇太子殿下(現・天皇陛下)が英国に渡る際に納品された御調度品
▲旅行用鞄の一つとして納品された大容量の手提げ鞄。牛革を使用した丈夫な作りで、そのデザインからは品格が漂う
歴史と実績に裏打ちされたタニザワのバッグが、傑作品であることは言うまでもない。
▲銀座の店舗には、菊の御紋の勲章が飾られている。しかし賜った経緯など詳細は、今では不明なのだとか
▲甲冑に使われていた黒桟革の鞄や、型押しが美しいブルシリーズなど、ラインナップも豊富
▲御用鞄として納品した旅行鞄のデザインを踏襲したモデル。納品したものは牛革だったが、これは豚革を使用。(11万1240円)
▲御用鞄はすべて一点モノ。このブリーフは以前、皇太子殿下がご使用された鞄に近いデザインなのだとか。(7万4520円)
タニザワ
「ダレスバッグ(左)053-038/(右)053-025」(27万円/19万4400円)
この形状の口金式の鞄は「ダレスバッグ」と呼ばれ一般化しているが、実はタニザワが元祖。左は栃木レザー製、右はブライドルレザー。高品質レザーを贅沢に使いながら価格を抑えた逸品。
【今上天皇のお召し物を仕立てる「金 洋服店」のオーダースーツ】
大正2(1913)年に創業した金洋服。ハンドメイドの服作りに専念した初代店主・服部金生氏は、その技術を買われて当時の華族方に引き立てられる。特に徳川家からの信頼を得て、久邇宮家に推薦され、昭和10年頃から秩父宮家より受注。終戦後の昭和25年からは、皇太子殿下(現・天皇陛下)を始め常陸宮家など各皇族方の注文依頼を受け、昭和39年には昭和天皇の御用命をいただく。
そんな父に10代半ばから師事していた2代目・服部晋さん。皇族で最初に仕立てた方は天皇陛下だったという。
▲金 洋服店2代目店主・服部普さん
「今上天皇の明仁様が18歳のとき、立太子礼のお召し物を製作させていただきました」。
その後も、皇太子殿下(現・天皇陛下)がエリザベス女王戴冠式に出席される際の礼服を手がけるなど、現在に至るまで御用命を賜っているそう。そんな服部さんにテーラーの極意を伺った。
▲初代店主の服部金生氏がデザインした「宮内庁新宮殿職員用礼装」。昭和43年、完成間近で急逝した父の後を受け継ぎ、晋さんが製作。現在も使用されている
「父から受け継ぎ、心がけていることは、まずはお客様の好みに合わせる、ということ。次に、長く安心して着られること。同じスーツを50年間、手直ししながら着られているお客様もいます。そして、私が大切にしていることは、着心地が良く、見た目もスッキリとバランスが取れた服を仕立てることです」
▲1975年、寛仁親王殿下が受賞されたベスト・ドレッサー賞の賞額。「君がもらったようなもの」と賜ったという
長い歴史で培われたテーラーの技術をもっと良いものにしたいと、今もなお新たな製法を試行錯誤しているという。今年で御年89歳となる服部さん。後進の教育にも力を入れるなど、“先生” と慕われるテーラー界の重鎮の服作りに終わりはない。
▲オーダーは、まず要望をヒアリングすることから始まる。デザインの意向はもちろん、デスクワークが多いか、歩くことが多いかなど細かな質問をして、着る人に合った服を作っていくという
▲用意されている生地も豊富
▲オーダー主が通される応接室は、聖域である工房の奥にあり、立ち入り禁止
【1本1本ミリ単位の手作業で作られる「前原光榮商店」の洋傘】
1948年創業。昔ながらの製法を受け継ぎ、1本1本丁寧にハンドメイドされる「前原光榮商店」の洋傘。「生地織り」「骨組み」「手元作り」「生地の裁断・縫製」を、それぞれ専門の職人が行っている。
▲伝統的な機で、染め糸をゆっくりと丹念に織り上げた生地。やや凹凸のある質感で気品があふれる
特に生地の裁断・縫製は、数ミリの誤差が生じるだけで、傘を広げたときの張りや音、フォルムに影響が出るため、正確さはもちろん針の落とし方にも気を遣っているという。こうした職人技により完成した傘は、美しいフォルムと心地良い使用感を備えている。
▲宮内庁に納品した傘のレプリカ。古いサンプルなので、曲木による手元が経年で開いている「レプリカモデル(受注生産)」(16万2000円)
▲由緒ある十六花弁の菊の紋章に見立ててデザインした「16間雨傘」。「PinStripe-16」(2万160円)
▲使うのがも ったいないほど生地が美しい折り畳み傘。「Urok-TU」(1万6200円)
【イギリス王室御用達の英国老舗ブランド「Lock & Co.」のハット】
1676年以前に創業されたJames Lock & Co. Hattersは、世界最古とされる格式ある英国の帽子ブランド。英国王室御用達のブランドとして知られ、日本においても宮内庁への納品実績を持つ。山高帽とも呼ばれるボーラーハットを最初に作ったとされ、ロンドンでは「ロック」「ジェームスロック」などの愛称で親しまれている。
チャーチル元首相やジョン・レノン、チャーリー・チャップリンなど名だたる人物を顧客に持ち、世界中のジェントルマンに愛されている。
▲同社で最も有名な形状で、くぼみアリ・ナシで被れる「ホンブルグ」。光沢のある上質なラビットファーフェルトを使用。高級感が漂う「Hombrug」(各6万9120円)
【熟練職人が手がける精緻でクラシックな「宮本商行」の銀製品】
1880年に創業、銀製品の専門店「宮本商行」。皇室や宮家からの御用命を賜り、現在に至るまで宮内庁御用達として支持されている老舗。カトラリーを始め、酒器や茶器、さらにはファッションアイテムまで、銀素材を使った数々の製品を手がける。
▲御用命により納品された銀製品の一部。菊の御紋がデザインされている
江戸時代に発達した銀加工の伝統技法を受け継ぎ、職人の手で丹念に作られている。ハンドメイドなので磨き直しや修理も可能で、代々使い続けられる逸品なのだ。
▲宮中晩餐会に使用されたというカトラリー。唐草模様のデザインも美しい。デザート用だがサイズが大きいため、普段はディナーに使いたい。「デザートナイフ/デザートフォーク/デザートスプーン」(各3万240円)
本記事の内容はGoodsPress4月78-81ページに掲載されています
(取材・文/津田昌宏 写真/宮前一喜<APT>、野町修平<APT>)
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