“無風感”で攻める東芝エアコンの新戦略 #家電最前線
&GP / 2019年4月5日 23時0分
“無風感”で攻める東芝エアコンの新戦略 #家電最前線
【#家電最前線】
企業戦略から機能性・デザイン性に最新テクノロジーなど、日々革新を続ける白物家電業界から届く新製品を、記者独自の目線によるレポートで紹介。新たなライフスタイルやビジネス視点のヒントを探っていきます。
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東芝ライフスタイルは2019年4月3日、PM0.1レベルの微小粒子状物質に対応するプラズマ空清機能を搭載したルームエアコン「大清快」シリーズの最新モデル「DXシリーズ」を発表しました。
▲東芝ライフスタイルが2019年4月下旬に発売する「大清快 DXシリーズ」
「DXシリーズ」の売りは、風の質に着目した“無風感冷房”です。吹き出し口に新しく搭載した「風カットルーバー」によって冷風をほぼ感じないようにするというもの。冷房の風が直接体に当たるのが苦手という人に、かなり魅力的な機能になっています。
「DXシリーズ」はWi-Fi連携機能を標準搭載し、スマートフォンアプリを利用した遠隔操作や見守りなどに利用可能。
また、人の体表温度や部屋の輻射温度を感知する「温冷熱センサー」、温度センサー、湿度センサー、「明るさサーチセンサー」などを搭載し、人が暑いと感じているか、寒いと感じているかなどを検知しながら運転する自動運転機能も備えています。
▲スマートフォン連携機能も標準搭載する
大清快シリーズの大きな売りの一つであるプラズマ空清機能は、さまざまな汚れ物質に帯電させて熱交換器に吸着させることで、PM2.5を99%除去するというもの。
PM0.1レベルの微小粒子状物質まで除去できることを実証しているという。熱交換器に吸着した汚れ物質は冷房・除湿運転時に発生する結露水で洗い流す仕組みとなっています。
■ミドルレンジを高機能化し、フラッグシップとして売り出す
GfK Japan「2018年 家電・IT市場動向」によると、国内のエアコン市場は2015年から連続して右肩上がりの状況にあり、2018年は例年より早い梅雨明けや記録的な猛暑の影響もあって前年比12%増の約920万台になったとのこと。
2013年以来の900万台超えとなりましたが、平均価格は前年から横ばいの約9万8000円で、ここ数年続いた上昇が一服。
国内の家庭用エアコン市場で東芝はパナソニック、ダイキン工業、三菱電機などに後塵を拝する状況になっており、DXシリーズはその状況を打破する戦略的モデルという位置付けになっています。
2019年2月に発表した「DRシリーズ」が最上位モデルという位置付けになるものの、ミドルレンジモデルのDXシリーズに最上位モデルを超える機能を搭載することで、コストパフォーマンスを重視する消費者層を狙う目的です。
東芝ライフスタイル エアコン事業部長の鈴木新吾氏はエアコン事業に関する意気込みを次のように語りました。
▲東芝ライフスタイル エアコン事業部長の鈴木新吾氏
「昭和36年にセパレート型のエアコンを出して以来、日本初、世界初の商品を50年以上も届けてきました。2016年7月にマイディアグループに入り、マイディアの技術とスケールメリット、東芝の技術を融合させながら売り上げを拡大させていこうというところです」(鈴木氏)
親会社であるマイディアグループの中でもエアコン事業は非常に大きな事業で、昨年1年間で約4500万台を製造・販売し、世界第2位のシェアとなっているとのこと。
「2018年は東芝ライフスタイルのエアコン事業は単独で黒字になり、19年度はさらに売り上げ規模を拡大し、再成長事業にしようと取り組んでいます。本日の製品はマーケットを調査し、お客様の声を分析しながら新提案できる仕様、機能を開発しました。自信を持ってお届けできる商品です」(鈴木氏)
エアコン事業部 商品企画担当の下沢一仁氏はエアコン機能のトレンドとしてロング気流や垂直気流、分割ルーバーなど「快適性」、フィルター自動掃除や熱交換器のコーティング・洗浄などの「清潔性」、センサーなどを利用した「省エネ」、部屋の空気をきれいにする「空気清浄」の4つで形成されてきており、5つめとしてスマートフォンやスマートスピーカーなどを利用した「遠隔操作」が加わったと説明。さらに、昨年の記録的な猛暑によってエアコンの使い方が変化したと続けます。
▲エアコン事業部 商品企画担当の下沢一仁氏
▲下沢氏が説明する最近のエアコンのトレンド
「昨年は昼間の暑さだけでなく熱帯夜が長く続いたことで、冷房を使う時間が長くなりました。(東芝ライフスタイルの調べによると)『就寝時に冷房を付けっぱなしにするのが増えた』という人が約28%、『就寝時に切タイマーの設定時間が長くなった』が約23%といったように、エアコンと寝るときまで密接に関係しているのが調査で分かりました」(下沢氏)
▲猛暑の影響でエアコンを使う時間が長くなったという(東芝ライフスタイル調べ)
篤くて寝苦しい夜をより快適に過ごすために、エアコンを使わないわけにはいかないが、それには弊害もあったと言います。
「冷房を長く使うことで『体調を崩したことがある』、『手足のむくみが発生した』、『自分の温度環境あるいは湿度環境に設定できない』など、約33%が困ったことがあると答えています。
『冷房の風はできるだけ当たりたくない』と答えた人は約76%に上っており、エアコンを使う時間は増えたものの、体が冷えるのは困るというのが分かりました。そこで冷房の風の質に着目し、涼しさだけを届ける。体に風を感じにくい『無風感冷房』で居心地のよい毎日を提供したいと考えたのです」(下沢氏)
▲エアコンを使う時間が延びたことで悪影響もあるという
■約350個の穴を開けた「風カットルーバー」で“無風感冷房”を実現
“無風感冷房”とは先ほども紹介したとおり、人の体に感じにくい風を実現する冷房のこと。
「風がルーバーの穴を通ることで乱流に変わり、いわゆるジェット気流のような気流を起こします。それがストレートな気流と合わさって風を巻き込み、砕かれた風になる仕組みです」(下沢氏)
仕組みはこう。各種センサーで部屋にいる人の温冷感を検知し、中の人が暑がっていると判断すると、まずは強めの冷房風で一気に涼しくしていく。快適と判断したら、冷風を感じにくい「無風感冷房」に自動で切り替えるというもの。
▲約350個の穴が空いている「風カットルーバー」
吹出し口には約350個の穴を開けた「風カットルーバー」を搭載していますが、通常の運転時にはルーバーは閉じており、風カットルーバーを通らずに勢いよく風を吹き出す。センサーが快適と判断すると、吹出し口上部をふさぐようにルーバーが開き、約350個の穴が風を細断して乱気流を生み出しています。
吹出し口下部からは通常の冷風が出るようになっており、その風と乱気流がぶつかることでさらに風が乱れ、感じにくい冷風を作り出すという仕組み。
▲こちらが通常の風。まっすぐ奥の方まで風が送られている
▲こちらが無風感冷房の風。通常の風に比べて渦が多く広がっているのが分かる
ちなみに14畳タイプの「RAS-F402DX」で風カットルーバー作動時、エアコン本体から2.5m、床上60cmの地点で風速が0.2m/s以下であることを確認したとのこと。また、無風感冷房は快適モード(全自動運転)のほか、通常の冷房運転時でもリモコンの「風ケア運転」ボタンを押すことで、室内環境に合わせて作動します。
■ミドルレンジながら一部ハイエンドというものづくりは成功するか?
東芝の大清快シリーズは前出の通り、2月に発売したDRシリーズがハイエンドモデルで、今回発表したDXシリーズはミドルレンジモデルという位置付け。とはいえ、DRシリーズにはない「スマホ連携機能」を標準搭載し(DRシリーズはオプション品が必要)、さらには「無風感冷房」という新たな試みを搭載しており、“一部ハイエンド”といった仕上がりになっています。
それでいて予想実勢価格は6畳タイプの「RAS-F221DX」で12万円前後(税抜き)、18畳タイプの「RAS-F562DX」で18万円前後と、比較的リーズナブルな価格帯になっている。DRシリーズが6畳タイプの「RAS-F225DR」で18万円前後、18畳タイプの「RAS-F566DR」で24万円前後なので、かなりコストパフォーマンスがいい印象。
「スマホ連携」と「人感センサー」と、機能を絞りに絞り込んでコストパフォーマンスを重視したモデルを投入する、アイリスオーヤマのような新規参入メーカーが現在ヒットを飛ばしています。いくら生活の中心であるリビングとはいえ、「適度な省エネ性と必要十分な機能を備えていればミドルレンジで十分」という考え方もあり、これには十分合致しそう。
また、「人生の約3分の1を過ごす寝室こそ快適なエアコンが欲しいけど、複数の部屋なのであまりお金をかけられない」という人にもピッタリの選択肢と言えるでしょう。スマホ連携機能は離れて暮らす祖父母宅の“見まもり”にも便利で、猛暑の時には命の危険から身を守るツールにもなる。多機能・高機能よりもコストパフォーマンスを重視する多くの消費者に訴求するシリーズになりそうです。
(取材・文/安蔵靖志)
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