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ワイン発祥地のひとつアルメニアで秋のワイン祭りを堪能【アルメニア訪問記】

&GP / 2019年5月26日 22時0分

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ワイン発祥地のひとつアルメニアで秋のワイン祭りを堪能【アルメニア訪問記】

古くからのワイン産地として、また、独自の醸造方法で造るオレンジワインで近年人気急上昇中なのが、旧ソ連のジョージア。

そのジョージアの南に隣接するアルメニアにも、6000年を超える独自のワイン文化があります。アルメニアは、今後要注目のワイン生産国です。

秋の収穫時にアルメニアのワイン産地の中心地で開催されるワインフェスティバルに合わせて、アルメニアのワイン産地を回ってきました。

 

■6000年超の歴史を持つアルメニアワイン

アルメニアは紀元前4~3世紀に成立したエルヴァンド朝以来の歴史のある国家です。1922年から旧ソビエト連邦に入り、ソ連崩壊の1991年に独立し、アルメニア共和国となりました。

アルメニアの現在の面積は日本の約1/13、人口約300万人と、国としては小規模ですが、国家として世界で最初にキリスト教を受容した国(301年)として知られています。

アルメニアやジョージアなど、黒海、カスピ海周辺は、ワイン発祥の地とされるエリアです。

アルメニアでは、首都エレバンから約100km南東のヴァヨッツゾール地方にあるアレニ村の洞窟で、6100年前のワイン醸造の遺跡が2007年に見つかり、ニュースになりました。

一般公開されていないこの洞窟「Areni 1 Cave」に、特別に許可をもらい、入ることができました。外からは洞窟があるとはわからない巨岩の陰に、隠れるように入口があります。

ちなみに、この巨岩地帯は、大昔は海の底だったようです。

内部は天井が低く、奥まで細長い通路が広がり、外は寒いのに中は意外と暖かかったです。

ここは住居でもあり、キッチンエリアには、クレイポット、オーブンが見られます。
ワインを醸造していたと思われる区画にあったアンフォラ(壺)からは、ブドウのオリが見つかり、成分分析から、ジュースではなくワインだったことがわかりました。
この洞窟では、世界一古いとされる5500年前の革靴(スリッパみたいな形)も発見されていて、周辺の土産物店では、その靴をモチーフにした小物類も売られていました。

このアレニ洞窟で見つかったブドウが「アレニ・ノワール」という黒ブドウで、名前からわかるように、アレニ周辺の地場品種になります。

アレニ・ノワールの特徴は酸が高く、ポリフェノールは中程度で、アロマは違うがピノ・ノワールと似ている、といわれているそうです。

アルメニアは、アレニ・ノワールをはじめとした地場ブドウ品種の宝庫で、なんと500品種もあるとか! 近年は、アルメニアでもカベルネなどの国際品種のブドウを使ったワインも造られていますが、主流はやはりアレニのようなアルメニアの固有品種のワインです。

▲アレニ・ノワールのブドウ。アレニのクローンは10くらいあるそう(OLD BRIDGE WINERY)

 

■道端ワインは必飲です

▲大きなペットボトルに自家製ワインが!

アレニ村周辺を車で走っていると、道端に大きなペットボトル入りのワインを並べて売っている農家のおじさんがいました。アレニから造った自家製ワインとのこと。

ブドウ畑が販売所の裏手にあると聞き、見に行くと、浅い川に面した河川敷にブドウが植えられていました。

ブドウの房がまばらで、OLD BRIDGEで見たアレニとかなり異なりますが、これもアレニだそうです。

おじさんの自家製アレニワインを試飲すると、フルーティーでやさしい甘みがあり、酸味がジューシーで、とてもおいしい! せっかくなので、日本に買って帰りたかったのですが、さすがにこの巨大ペットボトルは飛行機の預け荷物にしてもダメらしいので、ホテルで飲みました。

こうした農家の自家製ワインは、アルメニアではとてもポピュラーなものです。駐日アルメニア大使のグラント・ポゴシャンさんから話を聞く機会があったのですが、大使が若い頃、よく友人数人と車でアレニ地域に出かけ、農家を回って自家製ワインを買い込んだそうです。この農家自家製のワインがとてもおいしかった、と仰っていたので、私も現地で飲んでみたいと思っていました。たしかにおいしいし、しかも安い! オススメです!

 

■ローカルブドウ品種とKarasがアルメニアワインの二大特徴

アルメニアの伝統的なワイン造りの道具のひとつに「KARAS」(カラス)と呼ばれる土製の壺があります。一般的には「アンフォラ」、隣国のジョージアでは「クヴェヴリ」と呼ばれるものです。

壺の底が平らではなく、尖っているので、土になどに埋めて使っていました(Tushupa Winery)。

非常に古いカラスもあるようで、Tushupa Wineryでは、「父が1992年にセラーを建てた時、100年前のカラスを買いました。醸造の時にのみ使います」と言っていました。

近代醸造設備を整えたワイナリーでも、自分たちの伝統的道具である「カラス」を見直す傾向があり、今回の訪問した多くのワイナリーが、カラスを使ったワイン造りにもチャレンジしていました。

▲そのまんまの名前を付けた「KARAS Winery」

ここは大手で、エレバン空港のラウンジでもカラスワインが置かれていました。

「アルメニアのワインの品質の良さを示したい」と言う「Zorah Winery」では、大小さまざまなカラスを使ってワインを仕込んでいました。

アレニを何種類も栽培し、2000年から10年かけてアレニのDNAを調査してきました。当時は周りから馬鹿者と言われたそうですが、今はエレバン大学でアレニのDNAリサーチが始まっています。

アルメニアワインの伝統は「ローカル品種」と「Karas」で、これは独自の魅力でもあるので、この2つをポイントに探していくといいでしょう。

現在、アルメニアには50のワイナリーがありますが、残念ながら、アルメニアのワインは、まだそれほど多くは日本に入ってきていません。

アルメニアワインを色々と飲み比べてみたい、という方は、アレニ村で10月第一土曜日に開催される「アレニワインフェスティバル」に参加してみてはいかがでしょうか? 2009年から始まったお祭りで、2018年が10回目の開催でした。

 

■アレニ村のワイン祭りへ

アレニ村は、首都エレバンから車で2時間ほどかかる場所にあります。移動手段は車のみ。旅行会社が首都エレバンからツアーバスを出しますので、これを利用するのが便利です。

ちなみに、日本で取得できる国際免許(ジュネーブ条約)では、アルメニアで車を運転することはできません。ウィーン条約の免許を持っていればOKですが、日本在住の日本人が取得するのは難しいので、バスツアーなどを利用することになります。

▲ワインフェスティバルに行く様子の人がゾロゾロ歩いているので、その流れについていく

▲会場に向かう道すがら、食べ物や土産物などを並べ販売している人がたくさん

▲自家製ワイン、ブドウを販売している人も多かった

会場には出店の白いテントが並び、ワイナリーはもちろん、フード関係のブースもあります。

受付でワイングラスを買い、いざ、ワインブースへ。

グラスを購入した人は、どのブースでも無料でワインが試飲できます。

ブースはたくさんありますので、ひとつ飲んで気に入らなければ、サッと次に移ると効率よく試飲できます。

民族衣装に身を包んだ美女たちからワインを注いでもらうと、よけいにおいしく感じるかもしれません(笑)。

▲お祭りに華を添えていた、10代の若いワイン娘たち

昨年、東京での展示会に続き、海外の展示会で再会した際に、アレニ村のワインフェスティバルのことを教えてくれたのが、OLD BRIDGE Wineryのアルメンさんでした。アルメンさんからの情報がなかったら、ここには来ていませんでした。

この日はOLD BRIDGEのB&Bに泊めていただき、翌日にはワイナリーも訪問してきました。

OLD BRIDGEの名前は、13世紀にマルコ・ポーロが通った橋からで、その橋が近くにあるそうです。

2018年夏に完成したテイスティングルームでは、一般ツーリストも受け入れているので、試飲が楽しめます。

「アルメニアはマーケットが小さいので、他の国に輸出しないといけない。アルメニアのワインメイキングは大きく変わってきていて、消費者もだんだんと品質本位のワインを選ぶようになってきた」と、アルメンさん。

 

■個性豊かなアルメニアのブドウ品種&ワイナリー

▲アルメニアの人々が愛するアララト山を望むブドウ畑

アルメニアは、夏は暑く冬は寒さが厳しい大陸性気候で、昼と夜の寒暖差が大きいのも特徴です。ただ、気候変動で、ここ5、6年は冬場が暖かくなってきているようです。それでも、雪は降ります。

雨は年間200~300mlと少なく、乾燥しているため、ブドウ栽培には灌漑が必要です。

現在、アルメニアのブドウ畑は1万7200haで、各地方それぞれの固有品種から、多彩なワインが造られています。

 

■アルメニアの主な固有ブドウ品種

[白ブドウ]

▼カングン(Kangun)
アルメニアの土着品種で、大衆的なワイン、カジュアルな白ワインに多く用いられます。主な産地はアララト盆地。

▼ヴォスケハット(Voskehat
アルメニアを代表する白ワイン用品種。シャルドネと似た特徴を持つといわれ、果実味と酸のバランスがよく、エレガントで余韻に複雑味のある高品質ワインになります。主な産地は、ヴァヨッツゾール地方、アララト盆地。

[黒ブドウ]

▼アレニ・ノワール(Areni Noir)
古くから存在する、アルメニアを象徴する黒ブドウ品種で、原産はヴァヨッツゾール地方アレニ地区。カジュアルワインから樽熟成させた高級ワインまでつくられます。

▼カルムラヒュット(Karmrahyut)
アルメニア土着の交配品種で、主な栽培地はアララト盆地。非常に濃い色と濃密なタンニンを持つスパイシーなワインになり、バラの花のような香りが特徴。

▼ハフタナック/タナック(Haghtanak/Tanak)
アントシアニンが多く、タンニンが強い、長期熟成に向くブドウ品種。酒精強化ワインにも使われます。主な産地はアララト盆地。

 

アルメニアのワイナリー数は約50あります。2010年前後に設立されたところが多いようです。そうしたワイナリーでは、国際コンクールで入賞する高品質ワインも多く生産されています。

色々な国際コンクールで受賞している「Golden Grape ArmAs」(アルマス)。007年設立の大きなワイナリーで、フード付きのワイン試飲コースがあります。お土産ショップも充実していました。

アルメニア最大のワイン会社「Armenia Wine Company」は、2008年に設立されました。2009年が初ヴィンテージで、2010年からローカルマーケットへ販売しています。

Armenia Wine Companyでは、美しくペイントされたKarasがディスプレイされていました。

「Voskvaz」(ヴォスケヴァズ)は1932年設立の歴史あるワイナリーですが、ツーリストのための設備やショップも完備しています。3年ほど前から、Karas古代を使ったアルメニアのワインメイキングを始めました。

マッチョな3兄弟が、祖父、父から引き継ぎ、2013年に商業化した「Alluria」(アッルーリア)。新しいセラーが2017年に完成し、いよいよ本格的に活動がスタートしました。新しいセラーでの初ヴィンテージは2017年。現在の商品は、まだ3アイテムのみ。

祖父、父はアルメニア出身で、自身はロサンゼルスからアルメニアに移ってワイン造りを始めた「Van Ardi」(ヴァン・アルディ)。シラーという黒ブドウ品種にこだわり、2013年が初ヴィンテージ。長期熟成できる赤ワイン目指しているブティックワイナリーです。

エレバンの町はずれ、工場跡地のような建物の中に「365 wine」の醸造所とラボがありました。2006年の設立で、自社畑はなく、農家から買っています。カワイイラベル&ボトルデザインのフルーツワインもありました。

「KOOR」ブランドは日本にも輸出しています(Highland Winery)。エレバンのレストランのテラスでここのワインメーカーと話していたら、ワイナリーの顧客というロンドンの酒商の紳士が乱入。ここのワインはロンドンでもよく売れているそうですよ。「KOOR」は、古代バビロンにワインを運んだボートの名前とのことです。

 

■伝統と国際進出

ザクロはアルメニアのシンボルのひとつ。ザクロを使ったワインもポピュラーで、ザクロワインを生産しているワイナリーは、今回の訪問先にもいくつかありました。

結婚式の際に父親からもらったザクロを1日一粒食べると子宝に恵まれる、という縁起物だそうです。

▲エレバン空港の免税店には、アルメニアのブランデーがたくさん販売されていた

実は、アルメニアはブランデー市場の方がワインよりも大きいそうです。というのも、旧ソ連体制の下、ジョージアはワインを、アルメニアはブランデーを造ることを指示されたからです。

ブランデー製造に最適な、アルコールが低く酸が高いブドウ(カングン)がアルメニア北部の標高の高い森林地帯で栽培されていたことも、ブランデー生産に向いていた理由のひとつです。バニラやドライフルーツのフレーバーが強く出るアルメニア産の樽も、ブランデーの熟成に向いていました。

ブランデー市場は世界的にはダウンしていますが、アルメニアでは年配層を中心に根強い人気があります。

アルメニアの一人当たりの年間ワイン消費量は3.6リットルで、日本とほぼ同程度。年配者にはブランデーやウオツカが人気ですが、若者はワインを好む傾向にあり、人と会う時といったシチュエーションなどで、アルメニアでもだんだんとワインは飲まれるようになってきたようです。

エレバンの街中を歩いていたら、賑わっているワインバーを発見しました。地元の人だけでなく、観光客もいたようです。

アルメニアのワイン生産、消費推進においては、農水省のプロジェクトがあります。アルメニア産のワインが国際市場に進出するようになり、2018年の段階では、輸出は55%だそうです。

2016年にVine and Wine Foundation of Armenia(VWFA)が設立され、アルメニアの新ワインプロジェクトは、ようやく始まりました。

「ツーリストも増えてきた。ワイン文化はまだ大都市のみなので、地方にも増やしたい」と、VWFAのスタッフの談。

日本にもすでにいくつかの生産者のワインは輸入されていますが、今後はもっと多くのアルメニアワインが日本でも買えるようになるかもしれません。

アルメニア滞在中は、アルメニアの伝統食もいろいろと食べてきました。その話は、またいずれ。

(取材協力: Vine and Wine Foundation of Armenia)

Special thanks to Mr. Shinta Nishino

 

(取材・文/綿引まゆみ

わたびきまゆみ/ワインジャーナリスト

わたびきまゆみ/ワインジャーナリスト

ワイン専門誌や料理系雑誌での記事執筆をはじめ、日本ソムリエ協会webサイトのコラムなどを執筆。ワインセミナー、トークショー、海外のワインコンクール審査員など、幅広い活動を行なっている。チーズプロフェッショナル、ビアソムリエ、コーヒー&ティーアドバイザーの資格も所有。スイーツ好き。

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