今年を逃すと復活はなかった!?トヨタ「スープラ」がBMWをパートナーに選んだ理由
&GP / 2019年6月29日 19時0分
今年を逃すと復活はなかった!?トヨタ「スープラ」がBMWをパートナーに選んだ理由
17年ぶりの復活が話題となっているトヨタ「スープラ」。
新型スープラに関しては、すでにサーキットで体験したプロトタイプの試乗レポートなどをお届けしているが、先日ようやく、公道で市販モデルをドライブすることができた。今回は新型スープラの旗艦グレードであり、同車のDNAである直列6気筒ターボを搭載する仕様「RZ」の印象を中心に、一般公道でのドライブで感じた新型スープラの魅力についてお伝えしたい。
■スポーツカーを取り巻く環境はまさに“逆風”
本題に入る前に、まずは昨今のスポーツカーを取り巻く環境と、自動車メーカーのスポーツカービジネスについて触れておきたい。それらを知っておくと、新型スープラ誕生の背景がよく分かるはずだ。
結論からいえば、今やスポーツカービジネスは、非常に厳しい状態といわざるを得ない。安全や環境(燃費)に関する規制は年々厳しくなっていて、それらはスポーツカーを手掛けるに当たって各社の大きなハードルとなり、その分、開発コストも上昇してしまう。
もちろん、安全性能や環境性能に優れることは正義だが、例えば、安全性能を向上させるにはデザインに制約が生じるだけでなく、スポーツカーにとって好ましくない、車体の重量増も招いてしまう。
一方、スポーツカーにおいて刺激的なエンジンは重要なエレメントだが、環境規制のために省燃費を追求すると、エンジンの牙が抜かれてしまう。その上、最近は特に、ヨーロッパにおいて走行時に生じる音の規制も厳しくなっていて、スポーツカーであっても“音”を楽しめない状況になりつつある。
こうしたことからも明らかなように、今という時代は、スポーツカーを開発・生産するのが難しい社会であり、それでも世に出そうとするならば、課題解決のために膨大な開発コストを必要とするのである。
さらに厳しいのは、ここへ来て世界的にスポーツカー離れが進んでいること。販売台数が激減し、苦労して開発してもビジネス的に成功しないリスクが高まっている。そのため自動車メーカーは、スポーツカー開発を敬遠。メルセデス・ベンツ「SLC(前身は「SLK」)」やアウディ「TTクーペ/ロードスター」といったよく知られたスポーツカーも、現行モデルを最後に(一旦)生産中止となる模様だ。
■トヨタのチャレンジ精神を具現した新型スープラ
そんな瀕死の危機にあるスポーツカーを、トヨタは復活させてきた。トヨタは今、カーシェアリングや自動運転による乗り合いサービスの提供など、未来に向けてクルマのあり方を見つめ直し、企業としての立ち位置や方向性を大きく変えようとしている。その一方で、自動車メーカーとして今後も生き残っていくために、同社はモータースポーツ活動も重要だと考えている。先頃、連覇を果たしたル・マン24時間耐久レースや、WRC(世界ラリー選手権)で世界の頂点を目指し、果敢に挑戦しているのは、その一環だ。
それらと並行し、トヨタはもう一度、スポーツカー市場を醸成し直し、育てていこうというチャレンジも打ち出している。新しいスープラは、そうしたトヨタの動きを具現したモデルなのである。
とはいえやはり、カービジネスとして捉えると、スポーツカーの開発・生産・販売は厳しい状況にある。そこでトヨタが採った手法が、BMWとの協業だ。具体的にいえば、新型スープラはBMWのオープン・スポーツカー「Z4」と基本メカニズムを共用する兄弟車であり、企画・デザイン・味つけはトヨタが、設計はBMWが担って誕生したのである。
BMW Z4
ちなみに生産は、トヨタでもBMWでもない、オーストリアのマグナ・シュタイヤーという企業が行っている。トヨタにとって、自社でも提携会社でもない企業に車両の生産を依託するのは、これが初めてのことだという。
トヨタにおけるスポーツカーの共同開発といえば、「86」とスバル「BRZ」の関係が思い出される。新型スープラの開発責任者であり、86の開発責任者も務めたトヨタ自動車の多田哲哉さんによると、「86とBRZは『(部品などを)できるだけ共用しよう』という考えから作られたクルマだったという。
トヨタ 86
それに対し新型スープラは「BMWと互いにベストなスポーツカー像を考え、『共用できる部分は共用しよう』という開発プロセスの上で誕生した」と語る。結果として、車体の基本骨格やパワートレーン(エンジンやトランスミッション)こそスープラとZ4は共用しているが、車体はデザインだけでなく、クーペとオープンカーというカテゴリーからして全く異なる。また、ボディの剛性配分、サスペンションやエンジンのフィーリング、トランスミッションの変速ポイント、電子制御デフのセッティング、そして音の演出なども両車は別物。さらに多田さんよると、内外装の9割は部品が異なり、開発チームもそれぞれのクルマで異なっているため「完成間近まで互いの細かい部分は全く知らなかった」そうである。
しかも多田さんによると「両社で共用する基本要素が決まって以降は、BMWから『共用化するためにスープラのココを変えてくれ』といったオーダーは、驚くほど出てこなかった」という。素材こそ共通だが、両社それぞれ全く異なる料理に仕上げたというわけだ。
そうして誕生した新型スープラに対して、一部では「トヨタが作ったクルマじゃない」とか「トヨタにはスポーツカーを開発する能力がない」といった厳しい声も挙がっている。確かに新型スープラは、トヨタだけで開発・製造したクルマではないものの、それは今や、スポーツカーの世界では一般的に行われていること。
例えば、アストンマーティンの最新作「DB11」のエンジンは、同社のテクニカルパートナーであるメルセデスAMG製だし、軽量スポーツカーとして名高いロータス「エリーゼ」のエンジンは、なんとトヨタ製だ。つまり、メーカーが責任をもって味つけをしさえすれば、素材は何であろうとこだわる必要がない。これがスポーツカー作りにおける、世界的な流れなのである。
■スープラの復活は2019年しかあり得なかった!?
トヨタは、スープラの伝統やDNAを「後輪駆動であることと、直列6気筒エンジンを搭載していること」と定義している。しかしトヨタは、現在、直列6気筒エンジンを生産しておらず、(今のところ、)この先も具体的な開発予定はない。そう考えると、メルセデス・ベンツがそれを復活させたつい最近まで、世界唯一の直列6気筒エンジンを手掛けるメーカーだったBMWと手を組むのは、スープラ復活に向けての最適解であり、唯一の方法でもあったといえる。
多田さんによると、トヨタが自ら新しい直列6気筒エンジンを開発するという判断を下す可能性は低く、もし仮に判断が下されたとしても「そのエンジンができるのを待っていたら、少なくとも数年先までスープラの誕生を先送りしなければならなかった」という。そして重要なのは「今のタイミングでスープラを復活させなければ、2020年からさらに厳しくなるヨーロッパの排気音規制の制約を受ける。そうなると、現在のクルマ作りの延長上では、スポーツカーらしい刺激的な音を放つスープラを作れなくなってしまう」(多田さん)ということだ。
つまり、ビジネス的にも規制の面においてもスポーツカーに対して強い逆風が吹く中、「今やらなければ」というトヨタの危機感と攻めの姿勢が、2019年という年に新しいスープラを生み出したのである。
■直列6気筒ターボを積むRZこそスープラの真骨頂
そうした誕生背景を持つ新型スープラには、4気筒エンジンを搭載するグレードもラインナップされているが、今回はスープラのDNAともいうべき6気筒エンジンを搭載するトップグレード、RZの印象をお届けしたい。
走り始めてまず驚いたのは、乗り心地の良さだった。
今回の試乗ルートは一般道で、路面に凹凸があるなど、舗装の荒れた場所も少なくなかった。しかも新型スープラは、サーキット走行までも視野に入れたバリバリのスポーツカー。それだけに「乗り心地が悪そうだな」という先入観を抱いていたのだが、決してそんなことはなかったのである。
そこにはもちろん、ドライバーが切り替えることでショックアブソーバーの減衰力(硬さ)を変えられる、RZに標準装備される電子制御サスペンション“アダプティブバリアブルサスペンションシステム”の効果もある。しかし、標準モードはもちろんのこと、手元のスイッチで「スポーツ」モードに切り替えても、新型スープラの車体はフラットに保たれ、ドライバーはもちろん、助手席に座っていても不快感がなかったのだ。
これは、ハイレベルな走りを求めた結果、車体の骨格がしっかりしたこと(車体剛性はレクサスが2010年に送り出したスーパーカー「LFA」より高いという)と、サスペンションがスムーズに動いていることの賜物だろう。新型スープラは意外にも、乗る人に優しいスポーツカーだったのだ。
もちろんRZには、シリーズ中、最も高出力なエンジンに物をいわせての、絶対的な加速力という武器もある。BMW謹製の3リッター直列6気筒ターボエンジンは、340馬力(多田さんによると「この数字は本当の実力よりも低めの値」だという)を発生。停止状態から100km/hまでの加速力を示す“0-100km/h加速”のタイムは、北米仕様の参考値で4.1秒と、スーパーカーやスーパースポーツカーを別格とすれば、なかなかの俊足だ。
そして、スポーツカーらしさを何よりも感じさせてくれたのは、エンジンの回転フィールや音といった、五感を刺激する官能的な部分。ひとたびアクセルペダルを踏み込めば、快音を響かせながらレスポンスよくエンジン回転計の針が跳ね上がり、そのさまは、ドライバーの快楽を誘う刺激となる。そして、回転が上がるほどパワーが沸いてくるというダイナミックな味つけと、その時の爆発力がすさまじく、さらに、シフトアップ/ダウン時に「バババッ!」、「パン!」といった破裂音がマフラーから響き、ドライバーを楽しませてくれる。
速さだけではない、こうした味つけこそが、直列6気筒ターボを搭載するRZの真骨頂。新型スープラのRZは歴代モデルの中で、最も官能的だといえる。そして、その“感覚”を味わうために、4気筒エンジン搭載車に対してプラス100万円のエクストラコストを払う価値は、絶対にあると思う。
もちろん、直列6気筒エンジンは4気筒エンジンに比べて車体の前端部が重くなるので、物理の法則からすれば、曲がり始めが鈍く感じられる。確かに、4気筒ターボを搭載するグレードに比べると、RZのそれはわずかに鈍いものの、その差は最小限。ドライバーの意のままに軽快に曲がってくれるから、乗り比べて子細にチェックしなければ、直列6気筒のネガな部分は気づかないレベルにある。
ところで、スープラの開発初期において、トヨタはBMW「2シリーズクーペ」をベースに改造を施し、ホイールベースやトレッド、そして重量や重心高を新型スープラと同じに調整した「フルランナー」と呼ばれる試作車両を制作し、研究を重ねたという。今回、BMW「2シリーズクーペ」の高性能仕様であり、スープラのRZと同出力のエンジンを搭載する「M240iクーペ」を比較試乗してみたが、両車の違いは歴然だった。
BMW M240iクーペ
M240iクーペもシャープなハンドリングが美点で、一般的に見れば、かなりの運動性能を誇るクルマに仕上がっている。しかし、新型スープラの挙動はそれよりもはるかに鋭く、音も格段に刺激的。その上、意外なことに、乗り心地もスープラの方が良好だった。
これこそが、リアルスポーツカーと、一般的な車両をベースにスポーティに仕立てたモデルとの違いなのだろう。例えば、M240iクーペは、乗り降りのしやすさを考慮し、ドアを開けた際に見える“サイドシル”があまり太くない。そして重心高も、新型スープラに比べると高くなっている。そうしたクルマ作りの根本や、新型スープラの開発陣がこだわった“短いホイールベースと幅広いトレッド”という車体の基本要素こそが、スープラを世界一級のスポーツカーに仕立てているのだと、改めて実感させられた。
<SPECIFICATIONS>
☆RZ
ボディサイズ:L4380×W1865×H1290mm
車両重量:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc 直列6気筒DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:340馬力/5000回転
最大トルク:51.0kgf-m/1600〜4500回転
価格:690万円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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