【モノづくりのヒント】一家に一台ロボットがある暮らし。ユカイ工学・青木俊介
&GP / 2016年1月23日 11時52分
【モノづくりのヒント】一家に一台ロボットがある暮らし。ユカイ工学・青木俊介
ひと昔前は映画や小説、アニメーションの中でしか描かれなかった「ロボット」。これまでも工業用では多く存在していたものの、近年「Pepper」に代表されるように、家庭用ロボットが一気に普及の兆しを見せ始めました。
そんな中、自社開発によるロボットのプロダクトを数多く手掛け、最近では家にいる家族とメッセージのやりとりができるロボット「BOCCO」を手掛けた「ユカイ工学」のCEO・青木俊介氏にお話を聞かせてもらいました。
■ロボットと普通に暮らす時代がやってくる?
青木俊介(あおきしゅんすけ)2001年東京大学在学中に、チームラボ株式会社を設立、CTOに就任。その後、ピクシブ株式会社のCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。ソーシャルロボット「ココナッチ」、脳波で動く猫耳「Necomimi」、フィジカルコンピューティングキット「konashi」などIoTデバイスの製品化を多く手がける。 2015年7月より、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発売、2015年度グッドデザイン賞を受賞した。
ロボット制作と会社を起ち上げるまで
――これまで手掛けられたロボットを教えてください。
目玉おやじのロボット
青木:本当に試作品なんですけど、最初に作ったのは「カッパノイド」という河童の形のロボットです(笑)。その次に、「目玉おやじのロボット」というのを作りました。これは実際に「水木しげる記念館」で、アトラクションとして使用していただいたものです。それから2010年に脳波で猫の耳が動く、「necomimi(ネコミミ)」という開発プロジェクトに参加させてもらいまして。そのときに海外でも話題になったりして、そろそろきちんと独立しても大丈夫かなぁ、ということで。ちゃんと独立したのが2011年でした。それまではネット企業に在籍しながら、ロボットの開発をやっていましたね。
ネコミミ
――なるほど、「ユカイ工学」を起ち上げたのは、最初からではなかったんですね。
青木:私はずっとインターネットのサービスの開発をやるような会社にいました。やはりいくら頑張っても、自分の作ったものが画面の外に出られないという、フラストレーションがあったんです。毎日、真っ黒い画面でコマンドを叩いているような、そんな生活だったんですけど、“もっと世の中、現実世界の方が面白いよね”というふうに思いまして……。
もともと、すごくロボットを作りたいという気持ちがあったので、2005年くらいに「愛知万博」ですとか、「ROBO-ONE(ロボワン):二足歩行ロボットの格闘競技大会」というのが始まったりですね、いろいろなロボット関係のことが話題になって。そのときにベンチャー企業みたいなものも出てきたりしていたので、自分で会社をつくることにしました。実際に会社をつくったのは、2007年の年末だったと思います。
――「ユカイ工学」はスタートアップからメンバーはそのままですか?
青木:そうですね。最初は2人でした。最初の会社は、チームラボという会社でしたが、そこにアルバイトに来てくれていた後輩の学生と、「ロボットやろうよ~」ということで始めました(笑)。
ものづくりのコンセプトやこだわり
――ロボットを作るときは青木さんも製作に加わるのですか?
青木:「BOCCO」に関しては、僕も最初の試作機の製作は一緒にやっていました。コンセプトを作るというだけではなく、実際に試作機を作って動かすところまでやっていましたね。
それをCEATEC(シーテックジャパン)で発表したら、思いのほか反響があって。すぐに量産が決まりました。それ以降、僕は開発の方はほとんどタッチしていなくて、むしろ製造がメインになっています。
外出先からスマートフォンを使って、自宅に置いてある「BOCCO」にメッセージを送ることができる。アプリに録音した音声と、テキストのメッセージを送ることができ、BOCCOがそのメッセージを可愛い仕草で読み上げてくれる。BOCCOからも音声で返事が送れるので、家にいる子どもと簡単にコミュニケーションが取れる
文字の他、音声を直接送ることもできる
――これまでを含め「ロボット」のコンセプトやテーマはありますか?
青木:一家に1台、ロボットが一緒に住んでいる世界を実現したいというのが、僕たちの一番大きいテーマです。家族には人がいて、ペットがいる。ペットって、ほぼ家族だと思うんですよね。
多分、ロボットはペットより上にはいけない。そうすると「妖怪」的な、“なんとなく近くにいる気がする”くらいのポジションじゃないかと思っています(笑)。それで「妖怪」をテーマにしたモノが多いのです。
「ココナッチ」も、映画『もののけ姫』に出てくる「コダマ」的なものをイメージしています。“コロコロコロ”と言いながら、SNSの通知やメールの通知をお知らせしてくれるというロボットです。
これは、「現代の座敷童」がテーマなんです。1台家にいると、なんとなく家族が円満に、幸せになる守り神みたいな存在なんですよ(笑)。
ココナッチ
――青木さんの考えるロボットの機能性やデザインとは?
青木:ロボットの一般的なイメージは犬型の「AIBO(アイボ)」のように歩き回ったり、動くモノだと思います。僕たちは極力、機能をシンプルに留めています。その代わりに“コミュニケーション”“通信の機能”が、実際に世の中で必要とされているロボットなんじゃないかな、と思っています。
だから、コミュニケーション用途に絞ったロボットということで、パッと見も「ロボットだね」というのが分かりやすい、伝わりやすいデザインを心掛けました。
弊社のデザイナーがデザインしたのですが、彼はもともとインテリアのプロダクトデザインを手掛けていました。それもあり、インテリアにマッチする違和感のないデザインをテーマにしてもらいました。
やはりロボットというと、結構メカメカしかったり、無駄にピカピカするようなイメージですが、なるべく素朴な感じにしたかったのです。
――青木さんが影響を受けた、原点となるロボットはありますか?
青木:最初に作りたいと思ったのは「ターミネーター2」です(笑)。それを見てからロボットにすごく興味を持ち始めましたが、実際に家の中で活躍できるロボットというと、「ドラえもん」や「アラレちゃん」のように、親しみやすくて、柔らかいロボットのイメージが多いでしょう。
だから、僕もそういった方向性の方が、おそらく世の中の人が欲しいモノだと思いますし、実際に役に立つモノが作れるんじゃないかと思っています。
ロボットの未来はどうなる?
――ヤフーのIoTアプリ「myThings」などとの連動サービスも始まりましたね。
青木:はい。「myThings」を皮切りにして、いろいろな企業とコラボレーションを進めています。つまり、アプリをどんどん更新していくことでBOCCOに機能を追加していきます。
例えば、お年寄りの見守りに使っていただいたり。音声認識の機能を増やして、ハウスメーカー、プロバイダーのサービスの一部に使っていただく方向で進めています。
――規模を大きくして総合メーカーにするなどユカイ工学の将来像はありますか?
青木:「バルミューダ」さんを見ていると、「会社が成長していくにはこういうステップがあるんだな」と感じますが、基本はメーカーとして、自分たちの製品を世に出すということをメインでやっていきたいと思っています。
もちろんバカ売れする商品が出れば別だと思いますが、人を増やしてしまうと、何をやりたい会社かボヤっとしてしまいますし。バルミューダの社長・寺尾さんのお話を聞いていると、なるべく必要ない人は置かず、最小限の力でやっていこうとされていて、我々もその方が向いているんだろうなと思っています。
――ものを作っていく中で、今後AI(人工知能)をベースにした製品は考えられていますか?
青木:何をもってAIというかは別にして、BOCCOがスマホと近い構成になっているので、スマホと同じようにどんどんアプリを追加しくことをイメージしています。
iPhoneのsiriのように、「明日8時に起こして」と話しかけるとアラームをセットしてくれるなど、音声認識の機能をこれからどんどん出していく予定です。
一番目標にしているのは、センサーの情報やマイクの情報を使うことで、“お姉ちゃんと弟がケンカしている”というのが家の外にいても分かったり、“奥さんが機嫌悪いから早めに帰った方がいいよ”と分かったり(笑)。そういう、人の気持ちや状況までわかるような機能をどんどん進化させていきたいですね。
現在開発中の、音楽に合わせてダンスをする「iDoll(アイドール)」 http://www.ux-xu.com/product/idoll
今の世の中を見ると、本当の意味でのAIはまだ実現されていないと思います。例えば人とロボットが会話するのは、まだ技術的にもかなりハードルが高い。「会話を楽しむ」レベルには届いていないですし、それをロボットに載せたとしても、製品として上手くいくか分かりません。
基本的には、ロボットをユーザーインターフェースとして利用するという使い方を提案していきたいと思っています。
【企業データ】(2016年1月時点)
会社名:ユカイ工学
事業内容:ロボット、およびロボット関連部品のプロダクト
事業開始時期:2007年
取り扱いアイテム数:約20種類(2016年1月)
人数:約20人
http://www.ux-xu.com
(取材・文/三宅隆)
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