やはりコレが真打ち!「マツダ3」のプレミアムな走りはスカイアクティブXで完結する
&GP / 2019年8月4日 19時0分
やはりコレが真打ち!「マツダ3」のプレミアムな走りはスカイアクティブXで完結する
デビュー以来、何かと話題を集めているマツダの新型車「マツダ3(スリー)」。息を飲むほど美しいルックスや、上質なインテリア、そして、プラットフォームから一新されたメカニズムと、マツダ3の注目ポイントは多岐にわたります。
とはいえ、このクルマの一番のポイントは、やはり“HCCI(予混合圧縮着火)”という世界初の燃焼方式を実現したエンジン“スカイアクティブX”でしょう。そんな注目のパワーユニットを搭載するマツダ3をひと足先にドライブしたのは、モータージャーナリストの岡崎五朗さん。
世界の自動車メーカーやエンジン研究者たちが“究極の内燃機関”と位置づけながら、技術の壁にはばまれて実用化できずにいた“夢のエンジン”は、果たしてどんなフィーリングなのでしょうか?
■“ディーゼル以上”の遮音対策で驚きの静粛性を実現
ーースカイアクティブXのプロトタイプに試乗されたのは、2年前のことでしたね。このエンジンについて、改めて簡単に解説いただけますか。
岡崎:HCCIは高出力と省燃費を両立する究極の内燃機関として、昔から確立されていた理論。でも、1の燃料に対して30の空気を混ぜた超希薄混合気(一般的なエンジンの混合気は1対14.7の割合)を最適なタイミングできれいに燃やすことは難しく、どのメーカーも実用化できずにいたんだ。
マツダはその課題を、スパークプラグの火花でコントロールする独自の燃焼方式“SPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション/火花点火制御圧縮着火)”によってクリア。今回、ようやく実用化にこぎ着けることができたんだけど、何しろ世界で初めての技術。マツダの技術者にとってスカイアクティブXの開発は、苦難の連続だったんじゃないかな。
ーー今回、量産仕様のスカイアクティブXを積むマツダ3をドライブされたわけですが、どんなフィーリングでしたか?
岡崎:まずは、静粛性の高さに驚かされたね。コックピットのスタートボタンを押すと、スカイアクティブXは瞬時に目覚める。この時、インジェクターが高い圧力でエンジン内に燃料を噴射しているんだけど、それによる耳障りなノイズがほぼ聞こえてこないんだ。そうした静かさは車外にいても同様で、ボンネット周辺やリアの排気管近くに立っていても、ノイズはほとんど聞こえてこなかった。
その秘密は、“ディーゼルエンジン以上”の遮音対策にある。マツダは“スカイアクティブD”と呼ばれるディーゼルエンジンを開発する中で、ディーゼル特有のガラガラ音を軽減するノウハウを身に着けたんだ。スカイアクティブXでは、その技術をさらに発展。スカイアクティブXは前後、左右、上下といった具合にエンジン全体をカバーで覆い、フルカプセル化することで、遮音、吸音対策を万全にしている。
ーーアイドリング時だけでなく、走行中も静粛性は高いのですか?
岡崎:そうだね。スカイアクティブXを積んだマツダ3は、走っている時もまるで高級車のような静かさを実現していた。1.8リッターのスカイアクティブDや、2リッターのガソリンエンジン“スカイアクティブG”もかなり静かだけど、スカイアクティブXの静かさは、それらを完全に凌駕していたよ。
エンジンをフルカバー化するというのは、手間とコストが掛かる上に、重量面でも不利に働くけれど、スカイアクティブXはそうした対策によって、マイルドで上質な静けさを実現している。
しかも、前身の「アクセラ」時代に弱点とされていたロードノイズも、新しいプラットフォームの導入などで劇的に改善されている。メルセデス・ベンツの「Aクラス」やフォルクスワーゲン「ゴルフ」、そして、日本車のトヨタ「カローラ スポーツ」やスバル「インプレッサ スポーツ」といった同じCセグメントのクルマと比べても、静かさはナンバーワンだと思うな。
■望むだけの加速力を提供してくれるスカイアクティブX
ーー実際に試乗されてみて、スカイアクティブXの走りはどんな印象でしたか?
岡崎:日本仕様のスペックはまだ明らかにされてないけれど、今回乗ったヨーロッパ仕様のスカイアクティブXは、最高出力が180馬力、最大トルクは約22.8kgf-mという数値。2リッターのスカイアクティブGに対してはパワー、トルクともに上回り、1.8リッターのスカイアクティブDとの比較では、トルクこそディーゼルターボに軍配が上がるけれど、パワーはスカイアクティブXの方が1.5倍強力、といった感じだね。
ーースペックをうかがう限り、あまりスポーティなエンジンではなさそうですね。
岡崎:そうだね。スカイアクティブXはマツダ3の旗艦モデルに積まれるエンジンだけど、だからといって、ゴルフのスポーツグレード「GTI」に積まれる2リッターターボ(230馬力、35.7kgf-m)ほど、回転フィールや排気音は刺激的ではないし、スペック的にも見劣りする。スポーティさを期待すると、肩すかしを食うかもしれないな。
とはいえ、スカイアクティブXは、マツダ3に設定されるエンジンの中で、今のところベストの選択だと思う。スカイアクティブGやスカイアクティブDも決して悪いエンジンではないけれど、スカイアクティブGはキラーポイントがない上に実用域でのトルクが不足気味だし、スカイアクティブDは低回転域における応答の遅れが気になった。現状、6速のATが8速くらいに多段化されれば、そうしたフィーリングもかなり改善されるかもしれないけどね。
その点スカイアクティブXは、スカイアクティブGのトルク不足と、スカイアクティブDのレスポンスの悪さを、上手にカバーしている。低回転域から厚いトルクが遅れなく、しかもスムーズにわき上がり、ドライバーが望むだけの加速力を生み出してくれるんだ。
アクセルペダルを踏み込んでトルクがわき上がるのを待つもどかしさ、とか、想像している以上の加速力が生み出されて思わずアクセルを戻す、といったことがなく、とてもスムーズにドライブできる。そうした特性が、完成度の高いシャーシにとてもよくマッチしているね。
■マツダはクルマ全体でプレミアムな走りを演出
ーースカイアクティブX搭載モデルは、スカイアクティブGの同グレードと比べて70万円も高いんですよね。
岡崎:2年前は、20万円アップくらいかな、と予想していたんだけどね(苦笑)。でも、スカイアクティブXには“Mハイブリッド”と呼ばれるマイルドハイブリッド機構や、シリンダー内に大量の空気を送り込むためのスーパーチャージャー、そして、筒内圧センサーといった高価なパーツが使われているから、70万円アップも仕方ないのかな、とも思う。
ーーそれだけ価格差があったので、個人的には高回転域までビンビン回る、アドレナリンが湧き出るようなエンジンを期待していました(苦笑)。
岡崎:マツダは、エンジンだけを突出させるのではなく、クルマ全体で気持ちいい走りを演出しようとしているんだろうね。
ーーそういわれると、確かにこれまでのマツダ車も、ロータリーエンジン搭載車を除くと、エンジンだけが図抜けて魅力的、というクルマは、ほとんどなかった気がします。AE86型の「カローラ レビン」「スプリンター トレノ」に搭載されていたトヨタ“4A-G”エンジンや、EG型「シビック」、EF型「CR-X」に積まれていたホンダ“B16A”エンジンなど、他の日本車メーカーには、刺激的で今でも記憶に残る名機がいくつもありました。でもマツダには、そうしたエンジンが記憶になく…。
岡崎:つまり、マツダが考える気持ちのいい走りというのは、彼らがいうところの“人馬一体”に行き着くんだ。「ロードスター」はその最たる例で、そこそこ気持ちのいいエンジンに、軽くてコンパクトな車体を組み合わせ、重量配分なども吟味することで気持ちのいい走りを生み出している。その考えが、マツダ3にも継承されているんだろうね。
スカイアクティブXを積んだマツダ3は、アクセルペダルを踏むとスッとレスポンス良く、クルマが前へと押し出される感覚があるんだけど、これはスカイアクティブXの応答性の良さに起因したもの。このフィーリングが、実は運転していて「楽しいな」とか「気持ちいいな」といった印象に直結している。
確かにスカイアクティブXは、刺激という点ではイマイチだけど、上まで引っ張れば高回転域まできれいに回るし、それなりにスピードも乗る。でも、そうした使用頻度の限られる状況ではなく、普段の何気ないシーンでも気持ちいい走りを味わえる、ということに、このエンジンはフォーカスして開発されたと思うんだ。
フットワークについても同じだと思うよ。最近、多くの車種が、スポーティなハンドリングをアピールするために、ドライバーがステアリングを切った際、クルマが敏感に反応するようなセッティングを採用している。でもマツダ3は、前身のアクセラよりも穏やかな反応になるよう、設定を変えてきたんだ。
ーーその効果なのでしょうか、コーナーへ入っていく際、ハンドルを戻したり、切り足したりすることが少なくなったように感じました。
岡崎:ムダなアクションが減って、ねらったラインをよりトレースしやすくなっているよね。この“切れば切っただけ曲がってくれる”というコーナリング特性は、本当に走っていて気持ちがいい。
しかもマツダ3は、乗り心地も良好。路面からの衝撃に対し、まずはタイヤがしなやかにたわみ、そこからサスペンション、シートといった順に、それぞれが衝撃や揺れを効果的に軽減していく。それだけでも十分素晴らしいんだけど、スカイアクティブXはそこに抜群の静粛性が加わって、まさにクルマ全体で、プレミアムで気持ちのいい走りを実現している感じだね。
(文責/&GP編集部 写真/マツダ)
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