実際に泳いでわかった「ダイバーズウオッチ」が全天候型のタフさを誇る理由
&GP / 2019年8月21日 6時30分
実際に泳いでわかった「ダイバーズウオッチ」が全天候型のタフさを誇る理由
夏の水遊びに、ビジネスパーソンの腕元に、タフな相棒として愛される「ダイバーズウオッチ」。さまざまなブランドから数多くの人気モデルが登場し、その名の通り、水中での使用が想定されています。
つまり高度な防水性能を備えた時計のことを「ダイバーズ」と呼ぶのかと思っていたんですが…、実は正確ではありませんでした。今回、夏の海でシュノーケリング時に装着したインプレッションも交えながら、セイコーウオッチの商品企画担当・加藤さんに“ダイバーズウオッチの定義”について聞いてみました。
■優秀なムーブメントを持つ「プロスペックス SBDC083」をレビュー
▲インプレッション用に装着したのは、セイコー「プロスペックス SBDC083」(8万5000円/税別)。国内外では「SUMO(スモウ)」の異名で人気を博すモデル
まずは時計の紹介から。セイコー「プロスペックス SBDC083」は、日差+25秒~-15秒の自動巻き(手巻つき)機械式時計(キャリバーNo6R35)。日付け&カレンダー機能と200m潜水用防水性能を備えており、最大巻上時に約70時間持続する強力なパワーリザーブが特徴のダイバーズウオッチです。
ケース材質はステンレスで、美しく磨かれたデザインがラグジュアリー感を醸し出します。セイコーダイバーズの特徴である4時位置りゅうずは、ダイバーの海中作業の際、邪魔にならないよう設計されています。
▲りゅうずが3時より少し下にあり、手首への干渉を和らげる
針とインデックスには、暗闇で光るルミブライト加工が施されており、暗闇での視認性を高める効果も。このようにプロユースな機能を備えた逸品ですが、本来の目的通り海で実際に使ってみました。
■夏の日本海で優雅にシュノーケリング
ちょっと早めの夏休みをとって、日本海側の美しい海に潜ってきました。荒波のイメージですが、この季節は意外と穏やか。もちろん旅の間はずっとプロスペックスを腕にはめており、仕事用のジャケットでも、カジュアルなTシャツでも違和感なく使えるのはうれしいところ。ちゃんとしたオトナっぽくて素敵です。
▲青い海をバックにパシャリ。気分が上がってきた
さていよいよ、海に入ってみたわけですが、正直かなり戸惑いました(笑)。機能性はお墨付きとはいえ高価な腕時計を海につけていいものかと…。まあ悩んでいても意味がないので覚悟を決めて浸水!
ドボン! ああ、やってしまった~と最初は気が引けたものの、泳いでいるうちに不思議な感覚に…。海の透明度が高いために水中でも腕元がよく見え、ステンレスのケース部分が光でキラキラと輝いてすごくキレイ。泳いでいる魚より、時計に目を奪われます。
また、シンプルだと感じていた時刻を表すインデックスは、水面で濡れたり波で揺れたりしているときも見やすく、水中での使用を想定していることがはっきり分かります。
そして普段使いで感じる時計の重みが、浮力でなくなるのは意外な発見。やはりクォーツ式に比べると重みのある機械式ですが、海の中なら関係なく使えるのはいいですね。ベルトもステンレス製で濡れても気にならず、硬質なひんやり感が夏にぴったり。
▲海の中でちょくちょく時間を確認したくなる。りゅうずが4時位置にあるおかげで、手の甲に時計が当たらず見やすい
今回はシュノーケリングだったので、本来ダイビングで使用する逆回転ベゼル(潜水時間を図るための機能)などは使いませんでしたが、本格ダイバーズと共に海へ潜る魅力は十分に堪能できました。
また、機械式ならではというか、針を動かすトルクにパワーがあるので、太い針を採用していることで時刻の視認性がとても高く感じました。仕事に遊びに大活躍する、真に相棒感あるオトナのラグジュアリーアイテムだな、と。
そこで今回、ひとつ気になったことがあります。「200m防水」という仕様は、ちょっとオーバースペックなのではないかということ。シュノーケリングはもちろん、ダイビングで200mも潜ることはないし(せいぜい30~40m)、その設計思想を探るべくメーカーのセイコーウオッチさんに取材してきました。
■ダイバーズウオッチの定義とは?
▲数多くのダイバーズウオッチを取り揃える「プロスペックス」
1965年の誕生以来、世界中のプロフェッショナルダイバーや冒険家たちから、絶大なる信頼を得ているセイコーのダイバーズウオッチ。さまざまな人気モデルを有しており、国産メーカーとしてダイバーズを牽引する存在です。今回、ダイバーズを代表するブランド・プロスペックス担当の加藤秀明さんにお話を伺いました。
<聞いた人>
セイコーウオッチ・マーケティング一部
加藤秀明(かとうひであき)
2007年にセイコーウオッチ入社。営業部門を経て同社のプレス担当を長らく務め、2018年より現職。
ーー海で実際に「プロスペックス SBDC083」を使ってみたんですが、防水性はもちろん、高級感もあって自分のスペックまで上がったような気になれました(笑)。やはりダイバーズの機能性は抜群ですね。防水基準をクリアするための項目は当然厳しいんですか?
加藤:はい! ただ、おっしゃるとおりダイバーズウオッチって、一般的に防水性能が極めて高い時計だと思われているんですが、正確に言うと“いろいろな環境においてタフな機能を兼ね備えた時計”のことを指すんです。
ーーえ、防水性だけじゃない? そんなに複雑な条件があるんですか?
加藤:はい、実はあるんです(笑)。防水性以外で言うと、「視認性・耐磁性能・耐衝撃性」の3つになります。
■言わずもがなの「防水性」について
ーーではまず、防水性の基準から教えて下さい。名前がダイバーズウオッチですから、「防水性」について厳格な検査を通過しているのはわかります。正直、「200m防水」も必要なのかと思うくらいです(笑)。
加藤:確かにそこまで潜られる方は稀かと思います。しかし、正確にはその深さに達さなくとも、水中(水圧のかかる場所)で時計を動かせば、かなりの水圧が時計にかかります。水深30mの場所で作業をされる方がいたとして、水流などが加わると圧力は高まります。例えば、水道の流れに時計をさらすと大体「7気圧」程度の水圧と言われています。
ーー水の流れや動きって、そんなに大きいんですね。確かにタフな構造でなければ、故障の原因になってしまいますね。どのような検査が行われているのでしょうか?
加藤:代表的なものですが、以下が試験項目になります。
・潜水時計を水中に完全に水没させ、1分以内に目標深度水圧の1.25倍まで加圧し、数時間保持 ・その後、段階的に減圧して、初期の加工なしの状態に戻す ・試験の後に結露試験を行い、ガラス内部の表面に結露がなければ合格
ーーこれで一例なんですか?
加藤:はい、他にも水中でのボタンなどの操作部における防水性など、さまざまな項目があります。また、先ほどお話したとおり、水中では水の流れによって深度以上の水圧がかかることも想定し、標示している防水性能の1.25倍の防水試験を行っています。
ーーもうこれでダイバーズウオッチの定義を満たしている気がしますが(笑)。
加藤:いえ! まだ他にもいっぱいあるんです。
■時刻の見やすさを定義するのは「視認性」
ーー続いて「視認性」について教えて下さい。というか、暗闇で針やインデックスが光るのは、この視認性を高めるためということですか?
加藤:そのとおりです。もう少し細かく言うと…
・500ルックスの照度で時刻の判別が可能 ・暗所では25cmの距離からの肉眼による目視でも時刻が読み取れる ・回転ベゼルによって時刻の経過がわかる
のほか、「時計が動いているかどうか」という項目もあります。なので、基本的にダイバーズウオッチに「2針」というものは存在せず、必ず動いていることを示すために秒針が必要です。これはスポーツウォッチにない、特徴的な機能とも言えます。
ーーダイバーズウオッチのベゼルってそういう理由だったんですね。3針じゃないといけないのも、初めて知りました。確かに、今回のシュノーケリングでも時刻は見やすかったです。
加藤:ただ、これは他のメーカーさんでは必ずしも準拠するものではありません。それぞれのコンセプトがあり、デザイン性を重視している場合もあります。
■あらゆるシーンでの利用を想定した「耐衝撃性」
ーーでは耐衝撃性についても同じく試験があるんですね。
加藤:はい、縋衝撃試験(ヘッドのみ)や自由落下試験を行っています。
ーー海では岩場なんかもありますし、そう考えると山でも木にぶつけたりする可能性はありますよね。
加藤:そうですね。ですからプロスペックスは登山家の方にも愛用されています。
ーーまさに「全天候型」というわけですね!
■磁界の影響を受けにくい「耐磁性能」とは?
ーー最後になりますが、“耐磁性能”ってそもそも何なんでしょうか? 要するに磁力への耐性があるということですよね。なぜダイバーズウオッチに、そんな機能が…
加藤:これはですね、ダイビングする際に船上で磁石を利用した機材が多いのが大きな理由です。磁気を発する機材などにうっかり時計を近づけてしまうと、磁気を帯びてしまい狂いが生じる原因になります。JIS規格の1種という項目になるのですが、4800A/m以上の磁界に耐えられなければなりません。
ーーなるほど! 最近ではスマートフォンなどの身近な電子機器も磁力を発していますしね。
加藤:磁性体(磁気を帯びたもの)については距離で検査する仕組みになっていまして、セイコーが準拠しているJIS規格の場合…
・磁力を発するものから5cmの距離(4800A/m)で性能を維持できる時計は1種 ・磁力を発するものから1cmの距離(16000A/m)で維持できる場合は2種
に分類されます。
基本的には、10cmも離してもらえば磁力の影響はほぼ受けません。クォーツ式なら針を再調整すれば大丈夫ですが、機械式時計の場合はテンプなどの金属部分に帯磁すると、狂ったり止まったりしてしまいます。
ーーそれで機械式時計は耐磁性能が大事なんですね。
加藤:そうなんです。これだけの項目の試験をクリアして初めてダイバーズウオッチを名乗ることができます。だから全ての時計の中で、最も信頼の置ける腕時計というのがダイバーズなのです。
ーーとても勉強になりました。ありがとうございます!
* * *
今回は海で使用しましたが、入る前にはりゅうずがしっかりと閉まっているかチェックしてください、とのこと。また海水に浸けた後は真水で洗い流すのも重要。数時間は浸けて、砂などの細かい汚れも落とすために、柔らかめの歯ブラシなどで軽くこすってあげるとベターです。
海でも山でもビジネスでも、まさに全天候型のダイバーズウオッチ。メンテナンスをしっかりとして、あらゆる場所に連れて行きたくなる逸品でした。
(取材・文/&GP編集部 三宅隆、写真/松山勇樹、田口陽介、&GP三宅隆)
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