「機械式時計」とは、人間の技術力の結晶である【時計百識001】
&GP / 2019年9月23日 20時0分
「機械式時計」とは、人間の技術力の結晶である【時計百識001】
腕時計を紹介する記事のなかに、結構な頻度で登場する「機械式時計」という言葉。これを見て(聞いて)、多くの人はどう感じるのだろう? 「機械式時計=高い」「機械式時計=難しい」なんてイメージを持つ人は少なくないはず。
かくいう私自身も、腕時計の記事を担当するまでは、そんな先入観を持っていたひとりだ。しかしその一方で、機械式時計は多くの男性を魅了し続けているプロダクトのひとつでもある。いったい、機械式時計って何がそんなにいいの!?
■プルバック式のミニカーで考えるとわかりやすい
そもそも、機械式時計って何なのか? 一般的に返ってくるのは「ぜんまいで動く時計」という回答だと思う。もちろん間違いではないのだが、機械式時計にはもうひとつ重要な要素がある。それが「脱進機」と呼ばれるもの。ぜんまいがほどけることによって生まれる力が一気に放出されないように制御し、歯車(輪列)を一定のスピードで動かすための装置だ。
いまいちピンとこない人は、子どもの頃に一度は遊んだであろうプルバック式ぜんまい駆動のミニカーを思い浮かべてほしい。タイヤを接地させた状態で車体を後方に引き、手を離すとクルマが勢いよく走り出すアレだ。
その仕組みは至ってシンプル。プルバックさせることでぜんまいが巻き上がり、手を離すとぜんまいがほどけ、その力が歯車に伝わってタイヤを動かし、クルマを走らせる。簡単に言ってしまえば、機械式時計もこのオモチャと仕組みは同じなのだが、このふたつには決定的な違いがある。
それは、ミニカーは手を離した直後は勢いよく走り出すもののすぐに減速して止まってしまうのに対し、時計は一定の速度をキープしながら2日以上も動き続けるという点だ。
これを実現させるのが脱進機の役割。一般的に脱進機はガンギ車(イラスト中央のカギ型の歯を持つ歯車)とアンクル(ガンギ車にかみ合っているT字型のパーツ)から成り、このガンギ車とアンクルの動作を一定のリズムにして、正確な時刻を示すのが「調速機」(イラスト左下の輪っか=てん輪と渦巻き状のパーツ=ひげぜんまいが組み合わさった装置=てんぷ)だ。
つまり、脱進機がないと腕時計はぜんまいが一気にほどけてあっという間に止まってしまうし、調速機によって一定のスピードをキープできないと、時間を表示することなんて到底できない。脱進機(+調速機)こそが機械式時計を構成する条件であり、重要な要素というわけだ。
■機械式時計の基礎となる「手巻き」と「自動巻き」の違いとは?
さて、この機械式時計はぜんまいの巻き上げ方式によってふたつに分けられる。ひとつが「手巻き」、もうひとつが「自動巻き」だ。
▲グランドセイコー「SBGW235」(50万円+税)
手巻き式とは、ユーザーが自分の手でりゅうずを回してぜんまいを巻き上げて駆動させる機械式時計の基本的な方式。
一般的には、一度ぜんまいフルにを巻き上げると40〜50時間持続可能な力を蓄えられるとされるが、写真のグランドセイコー「SBGW235」のように、最大巻き上げ時約72時間という持続時間を実現するモデルも存在する。
しかもこのモデルは37.3mmという小径サイズに加え、クラシカルなブレスレットが実現する快適な装着感も魅力的だ。
▲「SBGW235」のムーブメント「キャリバー9S64」/手巻き
▲グランドセイコー「SBGR315」(48万円+税)
一方の自動巻きは、ユーザーの腕の動きによってムーブメントに取り付けられた回転錘(ローター)が回り、ぜんまいを自動的に巻き上げる仕組み。メリットは時計を着用し動かしていれば、毎日ぜんまいを巻き上げる必要がなく安定したトルクを得られることだが、反面、機械式時計の基本機構に自動巻きの機構がプラスされるため、どうしても時計本体の厚みが増してしまう。
「SBGR315」(48万円+税)はケース径40mm、ケース厚13mmだが、グランドセイコーならではのクリエイションによって端正なルックスと良好な装着感を併せ持つ1本。持続時間も最大72時間と実用的だ。
▲「SBGR315」のムーブメント「キャリバー9S65」/自動巻き(手巻つき)
* * *
さて、肝心の「機械式時計の魅力」とは何か? 先に脱進機の仕組みを説明したとおり、つまり、わずか40mm程度のスペースに1日数秒ほどの誤差しか発生させずに時間を正確に示すメカニズムが組み込まれているという点に尽きる。
それも、一部はオートメーション化されているものの、大半は人の手によって作られているのだから驚異というほかない。機械式時計は人類の知恵と技術力の結晶。それこそが最大の魅力なのだ。
(取材・ 文/竹石祐三)
<プロフィール>
竹石祐三(たけいし・ゆうぞう)
モノ情報誌の編集スタッフを経て、2017年よりフリーランスの時計ライターに。現在は時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に、編集・執筆している。
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