マン島公道レース王者から学んだ安全ライドの基本となる5つのポイント
&GP / 2019年9月23日 9時0分
マン島公道レース王者から学んだ安全ライドの基本となる5つのポイント
公道をもう少し速く走りたい。でも、危険な状況に陥ることは回避したい。ちょっと矛盾しているようですが、ライダーであれば誰もが望んでいることだと思います。サーキットと違い、路面状況などが一定でない公道では難しいテーマでしょう。そんな公道を“速く、なおかつ安全に”走るためのライディングテクニックを、マン島で行われる公道レースの現役チャンピオンに学べるイベントに参加することができました。そこで学んできたエッセンスをお伝えします。
■公道レースの王者は公道を最も安全に走れるライダー
イギリスのグレートブリテン島とアイルランド島の間に位置するマン島は、公道を凄まじいスピードで走る「TTレース」が有名ですが、ほかにも多くの公道レースが開催されています。公道レースは、サーキットのレースとは全く違った技術や走り方が求められるもの。“世界で最も危険なレース”と言われることが多いですが、一歩間違えば命に関わるコースを走るだけに、ライダーたちはセーフティーファーストを徹底しており、その意味でこのコースのチャンピオンは“公道を最も安全に走れるライダー”でもあるのです。
今回、来日したのはその中でも「Southern 100」や「マンクスGP」でチャンピオンとなったエイドリアン・カーショー氏。「PRE-TT CLASSIC SOUTHERN 100 RIDING EVENT」と題したこのイベントの目的は、セーフティーファーストなライディングを伝授すること。また、このイベントに参加すれば、今後開催予定のチャンピオンとともにマン島のレーシングコースをツーリングするイベントへの参加資格も得られるとのこと。主催はトライアンフ東京と一般社団法人CSA(Cyclist Safety Association)です。
レクチャーは共催に名を連ねる埼玉県の小鹿野町で、ワインディングの周回コースを利用して行われました。
まずは、参加者を5人ほどのグループに分けてカーショー氏の後ろについて走ります。始めはかなりゆっくりだったペースも徐々に上がりますが、上手いライダーの後ろについていると普段よりハイペースで走れるもの。なんだか自分も上手くなっているように感じられます。
続いて、同じくらいの技量の人と2人1組となって、またカーショー氏に引っ張ってもらいながらコースを周回。この辺りで、自分が得意な部分や苦手としている箇所が浮き彫りになってきます。
そして、最後は参加者1人ずつが自分のペースでコースを走るのに、カーショー氏が後ろから追走し、それぞれのクセを見極めたうえでアドバイスをしてくれるという個人レッスンのようなメニュー。充実した内容で、1日走っただけで自分の技量が格段に上がったように感じられました。
実際にマン島チャンピオンと一緒に走って体感したことやアドバイスしてもらった内容を5つのポイントにまとめましたので、参考にしてください。
【Point 1】マシンを立てた状態で十分に減速
サーキットと公道が大きく違うのは、公道は路面のグリップが一定ではないこと。舗装の状態が悪かったり、砂や落ち葉が浮いていることも珍しくありません。そこでサーキットと同じようなブレーキングを遅らせるような走り方はリスクが非常に高い。そのため、コーナーの手前ではマシンが直立した状態でしっかり減速するのが基本だとカーショー氏は強調していました。
実際に一緒に走っても、コーナーの手前では「ここまで減速するんだ」と思うほどしっかりブレーキをかけていました。ついついオーバースピードで突っ込んでいく参加者に対して「もっと減速すれば、もっと速く走れるよ」とアドバイスしていた姿も印象に残っています。スローインファーストアウトはコーナリングの基本と言われますが、それを突き詰めることが公道ライディングのポイントのようです。
【Point 2】アクセルを開けるのもマシンを立ててから
路面のグリップが一定ではないので、マシンが寝た状態で大きくアクセルを開けるのもリスクの高い走り方です。マシンがバンクした状態はタイヤも滑りやすいので、いっきに後輪に大きなパワーをかければタイヤがグリップを失ってしまう可能性は高まります。だから、公道を走る上では、アクセルを大きく開けるのは車体をしっかりと直立させてからというのが、グリップの不安定な公道を走る上での基本です。
そして、一気にアクセルを開けるのではなく、小さくアクセルを開けて後輪のトラクションの変化を自分で感じた上でそこからアクセルの開度を上げる。一緒に走っているとカーショー氏は、常にコーナーの手前でしっかりと減速し、短時間で向きを変えてマシンを立ててから加速に移っていました。
【Point 3】見通しのいいコーナーではラインをできるだけワイドに
もう1つカーショー氏の後ろを走っていて気付いたのは、コーナーの入り口ではしっかりとアウトからワイドなラインで進入していたこと。コーナーリングスピードを上げるためというより、アウトに出ることでコーナーの先まで見通せるようにし、できるだけバイクをバンクさせないことが目的です。
実際、筆者の後ろに付いて走ってくれた後には「見通しのいいコーナーでは、もっとラインをワイドに取ったほうがいい」とアドバイスされました。曲がりくねった峠道では、ついついセンターラインに沿って走ってしまいがちですが、狭い道幅の中でもアウト側からワイドなラインで走ることが大切なようです。常にできるだけ先の見通しを確保する事が安全性を保つ方法だという事ですね。
【Point 4】回転するホイールの慣性を感じながら操作を
車体を寝かせる際のポイントについても尋ねてみました。タイトなコーナーなどで素早く車体を倒すためには「コーナーの手前で一瞬、曲がる方向とは逆にステアリングを切る」のが有効とのこと。バイクは直進状態でわずかにハンドルを切ると、切った方向とは逆側に車体が倒れる特性がありますが、それを利用した操作です。
その感覚を掴むために、ちょっとした体験もさせてもらいました。自転車から外したホイールの軸を両手で持ち、回転させた状態で傾ける操作をする、というものです。「高速で回転するホイールは慣性が働いていて、傾けるのは大変なんだ。でも、少しだけ逆ステアを切ると自然と傾くのを感じられるはず」という言葉の通り、回転するホイールをそのまま傾けようとすると、結構な力が必要でしたが、片側の車軸を一瞬だけ前に押すようにすると、ホイールが逆側に傾きます。回転するホイールの慣性力の大きさと、それを操るためのコツが少しだけ体感できました。
【Point 5】クルマや歩行者を見たら飛び出してくると思え
最後にカーショー氏自身がレースではなく公道を走る際に気を配っていることも聞いてみました。「走っているときにクルマや歩行者を見かけたら、“たぶん止まるだろう”ではなく“常に飛び出してくる”と考えて、どんな状態でも回避できるように減速するようにしている」というのがその答え。教習所で言われた“かもしれない運転”と共通する内容ですが、公道レースのチャンピオンが言うと重みが違います。
長くバイクに乗っている人なら、今回紹介している内容は耳にしたことがあるかもしれません。でも、実際に走りながらアドバイスされると、基本的なことが実はどれほどできていなかったか、ということに気付かされます。そして、レースで凄まじいスピードで走っているライダーも、こうした基本を積み重ねた結果、速く走れるようになっているのだと改めて感じさせられました。
(取材・文/増谷茂樹)
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