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キーマンが語るランクル開発の舞台裏(1)圧倒的な信頼は冒険家さながらの調査から生まれる

&GP / 2019年10月29日 19時0分

キーマンが語るランクル開発の舞台裏(1)圧倒的な信頼は冒険家さながらの調査から生まれる

キーマンが語るランクル開発の舞台裏(1)圧倒的な信頼は冒険家さながらの調査から生まれる

世界累計販売台数1000万台——。これは、トヨタの4輪駆動車「ランドクルーザー」、通称“ランクル”が、誕生以来、68年間に渡って築き上げた記録です。

ランクルは、日本国内はもとより、中東やアフリカ、南米を始めとする海外市場において、圧倒的な信頼性を武器に高評価を獲得。今もなお、販売台数を伸ばし続けています。

そんなランクルは、いかにして絶大な信頼を得るに至ったのでしょうか? 長年にわたりランクルの開発に携わられた、トヨタ自動車の小鑓貞嘉さんにうかがいました。

小鑓貞嘉(こやり・さだよし) 1985年にトヨタ自動車へ入社。「ハイラックス」や「ランドクルーザー プラド」などのシャーシ開発に携わる。その後、製品企画室へと異動し、2001年からランクルの製品企画へ。2007年にシリーズ全体を統括するチーフエンジニアに就任し、2018年まで従事。現在も製品企画の主査として、ランクル系の開発に携わる

■先輩エンジニアから受け継がれるランクル作りの掟

ランクルといえば、トヨタが世界に誇る4輪駆動車の雄。現在は、シリーズとしてランクルならではの本質を追求したベースモデル「70系」、販売の中核を担う「プラド」、シリーズの頂点に君臨する「200系」をラインナップ。さらに、トヨタのラグジュアリーブランド・レクサスからも、「LX」や「GX」といった派生モデルがリリースされています。

洋の東西を問わず、昨今のクルマ市場はSUV全盛の時代ですが、ランクルシリーズは屈強なラダーフレームシャーシや本格的な4WDシステムを備え、流行のクロスオーバーSUVとは一線を画す屈強さと悪路での走破力を実現しているのが最大の特徴です。

そのたたずまいや作りは「オーバースペックなのでは?」と感じる部分も少なくありません。しかしランクルは、脈々と受け継がれる開発思想に基づいて開発されていると、小鑓さんはいいます。

「ランクルは、初代モデルから数えて68年目を迎えました。その開発に対して、大先輩の技術者たちから受け継がれている言葉があります。それは『“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”の3つをおろそかにするな』というものです。

トヨタ車には、QDR(Quality , Durability , Reliability & Value)、つまり、品質、耐久性、信頼性に関するクルマ作りの基準があります。一方、ランクルには長い歴史があり、技術的な積み重ねもある。そのためランクルの開発では、トヨタ基準を守りながら、他のモデルとは開発の仕方や基準を変えているところがあります。

先代ランクルからの開発史において、さまざまな自然・使用環境と、お客さまからの期待に対し、『どうあるべきか』、『何をすべきか』ということを開発チームが議論して独自に決め、例えば、耐久強度などは、他のどのトヨタ車よりも高く設定しているところがあります」

長い歴史に裏打ちされた耐久性。筆者が生まれる前から存在するクルマについて、ひと口で語るのは気が引けますが、改めてランクルの歴史について、簡単に振り返ってみましょう。

ランクルの源流たる「BJ」、「FJ」型が誕生したのは、1951年のこと。警察予備隊(現在の自衛隊)への納入を目的として開発されましたが、実績に勝るライバルに敗れ、採用とはなりませんでした。しかし、その優れた悪路走破力から、警察組織などにパトロールカーとして採用されたほか、林野庁や電力会社にも納入されることになります。

トヨタ BJ

1955年にはモデルチェンジを行い、20系へと進化。20系は多彩なバリエーションが用意されただけでなく、トヨタの先陣を切って本格的に海外への輸出も行われるようになりました。

1958年、トヨタは「クラウン」とランクルで北米市場へと進出しますが、善戦むなしくその2年後には、クラウンが現地セールスから撤退することになります。そのような状況で、トヨタは次に導入される「コロナ」の投入まで、北米で唯一の車種となるランクルで、経営の維持に努めました。ランクルは高い信頼性と走破力を武器に、安定したセールスを記録。トヨタ海外進出の黎明期を支える立役者となりました。

その後、1960年には、40系へとモデルチェンジ、1967年には、より乗用車的な55/56型がデビューするなど、改良やバリエーションの拡充が図られます。

ランドクルーザー 40系

ランドクルーザー 55系

そして40系は、1984年に、現在も生産が続く70系へとバトンタッチ。55/56型はというと、後にステーションワゴン色を強めた60系、80系、100系へと進化を重ね、現在のシリーズ旗艦である200系へと成長を遂げています。

一方プラドは、元々は70系をベースとした派生モデルでしたが、現在は独自設計のモデルに。扱いやすいサイズに加え、シリーズ共通の優れた悪路走破力から、多くの国で販売の主力モデルとなっています。

ちなみに、ランクルはその長い歴史もあって、現在の販売は約170の国と地域に及ぶのだとか。ひと口に“ランクル”とくくってしまいますが、幅広いバリエーションもまた、シリーズの魅力であり特色といえるでしょう。

「日本市場だけでも、300万円台後半から買えるプラドから200系までラインナップしていますし、海外向けを含めると、モデルや仕様はさらに広がります。中東地域などでは、王族ファミリーや富裕層は200系やレクサスのモデルを、企業マネージャーや高所得層はプラドを、一般の人々は仕事の道具としてベーシックな70系を、といった具合に、市場やユーザーによって売れるモデルが異なっているのです」(小鑓さん)

■ランクルが“働く場所”を開発者自ら確かめる

日本においてランクルといえば、多くはアウトドアレジャーの相棒、というのが一般的なポジショニングだと思います。一方、近年、主要な輸出先となっている中東地域では、ランクルはアラビア人たちによるレジャー、砂漠移動や観光客ための砂漠ツアーなどを中心に活躍する一方、働く人々の生活にも欠かすことのできない道具となっています。

「現地のランクルオーナーたちは『砂漠のどこかに集合』となれば、そこまでランクルで向かい、砂漠の丘を掛け上がるなどして楽しんでいます。一方、働く人たちや都市から離れた場所に住む人々にとっては、ランクルは必需品であり、家族のような存在となっています。

実は以前、総走行距離が200万km、300万kmという現地ユーザーの20系や40系を見せてもらったことがあります。当然、それだけの距離というのは、ひと世代で走れる距離ではありません。まずは首長が購入し、それが代々受け継がれて…といった具合に、歴代のファミリーが綿々と所有してこられたクルマでした。

しかも、ホントかウソか分かりませんが、そのランクルは一度もエンジンをオーバーホールしていないというのです。そのため、走るというよりは動くといった状態で、さすがに上り坂では、まるでロバのようにヨタヨタでした(笑)。でも、それ以外はまだしっかり動いていて、とても驚かされました」(小鑓さん)

こうしたエピソードからもお分かりの通り、実際に世界各地のユーザーの元を訪ね、ランクルの使用状況を日々チェックするのも、ランクル開発者にとっては重要な任務。辺境の地では、先輩技術者から受け継がれる“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”という3つのキーワードの意味、そして、ランクルが存在する意義や使命を改めて確認できるのだそうです。

「ランクルというクルマには使命があります。それは“人の命と荷物、そして、夢を運ぶ”というもの。また、夢とは“移動の自由”であり、人も荷物も運ぶけれど、夢がないと“愛車”と呼べる存在にはならないと思っています。

先ほどお話した“ヨタヨタ”のランクルもその一例ですが、例えば、次のガソリンスタンドまで900kmも走らなければならない、なんていう辺境の地が、地球上にはまだまだたくさんあります。どこかへ行くと帰れない、そんな命を守れないクルマでは、仮に荷物を運べても意味がありません。そういう場所においては、クルマは移動手段というよりもライフライン。だから“信頼性”、“耐久性”、“悪路走破性”がとても重要なのです。行きたい時に行きたいところへ必ずたどり着けて、しかも、無事に戻って来られる。このクルマなら行ける! という安心感や信頼をオーナーの方々に提供することが、ランクルの大きな役目なのです」(小鑓さん)

世の中には、本格的なクロスカントリー4WDであることを謳うクルマが少なくありません。とはいえ近年では、そうしたモデルも高級志向が強まり、生活に密着したクルマといえば、ランクル70系くらい、といっても過言ではない状況にあります。

「アフリカの奥地へ行くと『トヨタのことは知らないが、ランクルのことは知っている』という人も少なくありません。私たちは40系、70系のことを、BJ型や20系といった始祖の血を引く“直系・根幹モデル”と呼んでいるのですが、これらはランクルの骨太の部分、本来、果たすべき役割を担っているモデルです。プラドや200系は、そこに、人々を快適に運ぶという目的が付加されたモデル、といったところでしょうか」(小鑓さん)

こうした開発に携わる皆さんの“世界行脚”は、中東やアフリカといった灼熱の地域だけにとどまりません。

「近年、ロシアもランクルにとって大きなマーケットとなっています。近代化が進むロシアですが、ロシアの伝統的文化で、モスクワのような大都市の住人でも、週末は郊外にある“ダーチャ”と呼ばれる別荘的な山小屋で過ごす人が多いようで、そこへの足として、ランクルを選ばれる方が増えています。

ロシアといえば、ツンドラや降雪地帯といった泥濘地が多く、万一、そこでスタックすると、皆さんなんとか脱出しようと、ぬかるみの中でもがきます。その時の運転操作が少々荒っぽいのか、駆動系パーツに相当な負担が掛かるのです。他のマーケットでは、特に大きな問題は生じていないのに、ロシア向けのランクルでは、駆動系にトラブルが発生する事例があるのです。また、マイナス45℃を下回ると、ゴム部品がガラスのように硬化してしまうのですが、ロシアではマイナス50℃を記録する極寒エリアも少なくなく、その対策が必要となります。

そのほかでは、パプアニューギニアも驚きの多い市場のひとつですね。首都のポートモレスビーから飛行機で1時間ほど離れた田舎街から、標高3500mを超えるガス鉱山まで、設備の保守などで70系が活躍しているのですが、なんとそのうちの1台に、フレームに亀裂が入るというトラブルが発生しました。それまで70系では起こったことのないトラブルで、開発時も強度を重視している部分ですから、最初は『本当か?』と思いました。

でも、実際に現地を訪れてみると、私たちの想像をはるかに超える使用環境でした。道はあるにはあるのですが、雨が降れば土砂崩れ、といったような場所。道路の勾配や凹凸もすさまじかったですね。こうした過酷な路面も、ランクルにとっては“日常道路”なのかもしれません」(小鑓さん)

このように、ランクルの開発に携わる皆さんが実際に現地へ足を運び、市場調査を繰り返すのは、よほどの辺境好きでも訪れないような過酷な土地ばかり。もはや冒険家さながら、といった業務ですが、そこで得られる知見は少なくなく、ランクルの開発にも大いに役立っているのだそうです(Part.2へ続く)。

(文/村田尚之 写真/村田尚之、トヨタ自動車)

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