手放し運転はできないけれど…洗練された走りのターボ仕様こそ日産「スカイライン」の本命
&GP / 2019年10月22日 19時0分
手放し運転はできないけれど…洗練された走りのターボ仕様こそ日産「スカイライン」の本命
世のクルマ好きにとって「スカイライン」という響きは、胸がときめく、気持ちが高ぶるというものではないでしょうか。そんな日産自動車のスカイラインが、2019年7月、大規模なマイナーチェンジを実施しました。
すでにテレビCMなどでもご存じの通り、新型における話題の中心は、一定の条件下でのハンズオフドライブ(ステアリングから手を離しての運転)を可能とした“プロパイロット2.0”搭載車の登場でしょう。
しかし「まだまだ自分でステアリングを握りたい」、「クルマとの対話を心ゆくまで楽しみたい」という熱血ドライブ派にとっては、新たにラインナップに加わったV6ターボエンジン搭載車の方が気になるはず。果たして、このV6ターボモデルは“ハンズオン”ドライブ派の期待に応えてくれるクルマなのでしょうか?
■スポーティサルーンらしいスカイラインのキャラが明確に
“羊の皮を被った狼”といえばスカイライン、というのも、今は昔の話。そのたたずまいも羊で示されるような牧歌的な雰囲気ではなく、キリッと二枚目で知的。動物でいえばサラブレッドのような…というと、クルマの話題から遠ざかってしまいますね。
ともあれ、クルマ好きにとって、二枚目で都会派になったスカイラインがどのような変化を遂げたのか、気になるのは間違いないでしょう。
今回のマイナーチェンジにおける注目点といえば、ひとつはハイブリッドモデルに採用された最新のADAS(先進運転支援システム)である、プロパイロット2.0。そして、メルセデス・ベンツ製2リッター直4ターボに代わり採用された、日産自動車製のV型6気筒ツインターボエンジンだと思います。今回はその後者、V6モデルについてご紹介します。
日本仕様には初搭載となるV型6気筒ツインターボエンジン“VR30DDTT”ユニットは、海外向けのスカイラインにはすでに搭載されていたもので、日産自動車のV型エンジンとしては最新スペックとなります。そのスペックは、排気量2997ccの60度V型6気筒で、水冷式インタークーラーとふたつのターボチャージャーを備え、最高出力は304馬力、最大トルクは40.8kgf-mを発生します。組み合わされるトランスミッションは、マニュアルモード付きの7速AT。駆動方式はFR(後輪駆動)のみの設定となります。
ちなみにターボ仕様のグレードは、装備やトリムレベルによって3種類を展開。ベースグレードとなる「GT」(435万3800円)、中間グレードの「GT Type P」(463万8700円)、上位グレードの「GT Type SP」(490万8200円)というラインナップとなります。
内装などの快適装備は、ハイブリッド仕様に準じた設定となりますが、ターボ仕様ではパーキングブレーキが足踏み式になるほか、メーターの意匠も異なるなど、若干の差異があります。とはいえ、ハイブリッド仕様と比べ100万円以上手頃なプライスを掲げているのは、見逃せないポイントといえるでしょう。
話題のプロパイロット2.0は、ハイブリッド仕様のみに装備であり、V6ターボモデルでは選ぶことができません。しかし、前方車両との車間距離を保って走行する“インテリジェントクルーズコントロール”、危険を検知すると衝突回避を支援する“インテリジェントエマージェンシーブレーキ”といった先進運転支援システムが備わります。
ただし、ハイブリッド仕様とは中身が異なり、ブレーキに関しては、歩行者検知機能は備わりません。とはいえ、車線逸脱防止支援システムや後側方衝突防止支援システムといった安全装備はターボ仕様も全グレードに標準装備されており、イマドキのプレミアムサルーンに求められる安全装備はクリアしている、といえるでしょう。
また、現行のV37型スカイラインといえば、ステアリングの動きを電気信号に置き換え、アクチュエーターによって操舵を行う、いわゆるステアリングバイワイヤの採用も話題となりましたが、V6ターボモデルではハンドリングに専用のチューニングが施されています。
具体的には、切り始めのレスポンスやライントレース性の向上を図っているとのこと。また、GT Type SPにはメーカーオプションとして、速度や操舵角といった車両情報を集約し、クルマの挙動を最適化する電子制御ショックアブソーバー“インテリジェントダイナミックサスペンション”もメーカーオプションとして用意されています。
前期型のガソリンターボ仕様は、ハイブリッド仕様に対し、装備を簡略化した…といったイメージがあったのは否めませんが、今回のマイナーチェンジで誕生したV6ターボモデルは、スポーティサルーンというキャラクターを明確に打ち出しています。
■スカイラインらしい軽やかなハンドリング
では、実際に走るとどうなのか? その第一印象は“爽快”のひと言に尽きます。
テストドライブに出掛けたGT Type Pは、車格にふさわしく1710kgと重量級。コンパクトカーのような軽い動きではないものの、右足に力を込めれば、その分だけスムーズかつリニアに加速が立ち上がります。これは、レスポンスに優れる小径タービン、コンプレッサーからなるターボチャージャーによって生み出される40.8kgf-mという豊かなトルク、無粋なショックなど感じさせない7速ATの高い完成度によるところ、でしょうか。また、ともすれば古典的と受け取られそうですが、エンジンが奏でる音も、日産のV6らしい金属的なサウンドで、なかなかの好印象です。
交差点での右左折や、都市高速のような低中速コーナーが続くシチュエーションでも、ノーズの動きはきわめて軽快。“専用セッティングのハンドリング”もさることながら、これは、人間でいえば足腰など、体幹のバランスが整っていてこそ具現したもの、といった乗り味です。シーンを問わず、拳ひとつの動きでノーズがインを向くというカミソリタイプではなく、街中ではスムーズでなめらか、ハイペースなワインディングではそれにふさわし応答性、といった具合に、ドライバーの心理状況にうまく寄り添う、とても自然な感触なのです。
というと、いささか神がかった表現に見えるかもしれませんが、電子制御、つまり“バイワイヤ”であることを意識させることは一切ありませんし、この軽やかなハンドリングこそが、スポーティサルーンを標榜するスカイラインらしい部分といえるでしょう。
また、乗り心地についても、明確に進化を遂げています。従来モデルは、荒れた舗装路やちょっとした段差を通過した際に、腰から下でややザラザラした感触や小さな振動を感じることがありましたが、そうした荒さがかなり抑えられています。タイヤはランフラットタイプではありますが、いわゆるゴツゴツ感や重さを感じることもありませんでした。これは、225/50R18という車体に対して程良いサイズと扁平率あってのものだと思いますが、乗り心地の自然さという部分でも、ひと役買っているのは間違いなさそうです。
あいにく今回は、ワインディングやサーキットをガンガン攻める機会はありませんでしたが、市街地や高速道路、そして、都市高速をちょっとハイペースで流すという使い方においては、徹頭徹尾、上質で爽快。そして、ちょっと刺激的な走りを体験させてくれました。
また、難解で奇天烈な電子制御を感じさせない、いえ、実際には、緻密な制御がされているのでしょうが、その雑味の少ない乗り味、バランスの取れた走りは、やはりメカニズム配置に無理のないFRレイアウトによるところも小さくないのでは、と感じました。とはいえ、今や日本車のFRサルーンといえば、トヨタ「クラウン」や日産「フーガ」、レクサス「IS」、「GS」、「LS」など、その存在はもはや数えるほど。手頃な価格帯で走りを楽しめるモデルとなると、もはや絶滅危惧種といったところです。ですから、今回V6ターボモデルを新設定した日産自動車の英断は、あっぱれ! ですね。
V6エンジンが奏でる金属的でハイトーンなサウンドに耳を傾けながら、(ちょっとだけハイペースで)スポーティなドライブ。クルマとの対話を楽しみたいという方にとって、新しいスカイラインのターボモデルは、要注目の1台といえそうです。
<SPECIFICATIONS>
☆GT Type P
ボディサイズ:L4810×W1820×H1440mm
車重:1710kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc V型6気筒 DOHC + ツインターボ
トランスミッション:7速AT
最高出力:304馬力/6400回転
最大トルク40.8kgf-m/1600~5200回転
価格:463万8700円
(文&写真/村田尚之)
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