走りの質をさらに磨いた!最新の2020年モデルこそR35型で最良の「GT-R」
&GP / 2019年11月11日 19時0分
走りの質をさらに磨いた!最新の2020年モデルこそR35型で最良の「GT-R」
ワインやウイスキー、チーズといえば、熟成することで味に深みが増すというのはご存知の通り。
クルマもまたしかりで、フェラーリやポルシェといった名門と呼ばれるスポーツカーブランドは、世に送り出したモデルに絶え間なく細かな改良を加え続けることで熟成を図り、モデルライフを通じてパフォーマンスやフィーリングの向上を図っています。とはいえ、こうした名門も、以前と比べてモデルを刷新するペースが早くなっており、おおむね7~8年でフルモデルチェンジを図るケースが多いようです。
日本が誇るスーパースポーツの代表、日産自動車の「GT-R」は、2007年12月にデビュー。間もなく13年目を迎えようという超ロングライフモデルとなっています。そんなGT-Rも、ライバルの例に漏れることなく、毎年の改良を行っており、直近では2019年6月にマイナーチェンジを実施。2020年モデルへと進化しました。
最新の2020年モデルは、従来モデルから何が変わり、どのような進化を遂げているのか。また、今回の改良によって、スポーツカーとしての熟成は進んだのか。公道でチェックしてみました。
■2020年モデルで開発陣がこだわった“速さの質”
ひと口に熟成といっても、ワインやウイスキーとクルマとでは、その過程が大きく異なります。
ワイナリーであれば、貯蔵に適した環境を整え、温度や湿度を緻密に管理することで熟成を図ります。もちろん醸造所は、ベストな状態をキープすることに心血を注ぎますし、専門家は、素材をとりまく環境であるテロワールや醸造所の環境などから、飲み頃を提案してくれます。とはいえ、結局は開けてみないと分からない…というのが、事実なのでしょう。
対して、クルマはどうでしょうか。かつて、フェラーリやポルシェなどは、レースや各種テストを徹底して繰り返し、ユーザーの声を丁寧に拾うことで、ひとつのモデルを、時間をかけて成長させていきました。例えばドイツ車などが、モデル末期でも急激に人気が衰えることがなかったのは、こうした手法を知るコアなファンがいることも、大きな理由のひとつだったのです。
何しろクルマの場合、性能向上は運や天気に任せるものではなく、エンジニアが直接、手を下すことができます。正しい知見と優れた技術があれば、確実な熟成を望めるのです。とはいえ、昨今の欧州製プレミアムスポーツカーも生産台数が増え、年々厳しくなる安全基準や環境への配慮から、モデルチェンジの期間は短くなりつつあります。
少々前置きが長くなりましたが、世界的なスポーツカーリーグにおいていまだレギュラーメンバーとして君臨するGT-Rは、最新モデルにどのような手が加えられたのでしょうか。
前回、メカニズムにおいて大きな変更が加えられたのは、2016年にリリースされた2017年モデル。それに対して今回のマイナーチェンジでは、
・ターボ高効率化技術“アブレダブルシール”の採用(NISMO仕様には以前から採用)
・「Rモード」専用の“アダプティブシフトコントロール”の設定変更
・ブレーキブースターのチューニング変更
・新色“ワンガンブルー”の採用
・チタン製エキゾーストフィニッシャーの採用
・新デザインのホイール
…というのが、主な変更メニューとなっています。
また同時に、「スカイライン2000 GT-R」の誕生から50周年を迎えたことを記念し「GT-R 50thアニバーサリー」モデルも、2020年3月までの期間限定モデルとして設定されました。こちらは、専用のステッカーやホイール、内装色を採用しています。
一見すると「変更点はさほど多くない」と感じる人も多いかと思いますが、最新スペックのGT-Rで開発陣がこだわったのは、速さの質。日本を代表するスポーツカーですから、これまでも走りを疎かにしていたわけではありませんが、改めてアピールされると、その乗り味は要注目といえそうです。
実際、おぼろげな記憶をたどると、デビュー初期のGT-Rが搭載する3.8リッターV型6気筒ツインターボエンジン“VR38DETT型”は、最高出力480馬力でした。それが10年後の2017年モデルでは、570馬力にまで向上。しかし、乗り心地を含め、初期モデルの荒々しさは影を潜め、“扱いやすいのにパワー感も勝る”という具合に進化しています。そうした点を踏まえると、2020年モデルがさらに気になります。では、キーを受け取り、街中へと歩みを進めましょう。
■スポーツカーを操る上でのワクワク感が濃密に
光の加減や向きにより、鮮やかさや深みが変化する新色のワンガンブルーをまとった試乗車は、時に大人びて、時に若々しく目に映り、なかなかの好印象。職人がひとつひとつ手作りで加工するチタン製エキゾーストフィニッシャーも質感が高く、繊細なスポークデザインを採用したホイールや、シルバーの加飾が施されたフロントのサイドインテークと合わせ、プレミアムスポーツと呼ぶにふさわしいたたずまいを見せます。
ドアパネルに埋め込まれたスティック状のオープナーを引き、キャビンへ収まると、ダッシュボード回りの意匠こそ2017年モデルから継承していますが、新たに設定されたライトグレーのレザーインテリアが新鮮な印象です。
エンジンを始動させて走り出すと、なるほど、走りに関しても改良が加えられていることが市街地でも分かります。
最新スペックのVR38DETT型は、最高出力570馬力、最大トルク65.0kgf-mというスペック、発生回転数とも、従来モデルから不変。しかし、首都高速でじわじわと進む流れからの加速時はもちろんのこと、都市部で見られる低中速で加減速を繰り返すようなシーンでも、反応がスムーズで扱いやすくなっています。
2017年モデルとの違いといえば、レース用ターボチャージャーに多く使用され、吸入する空気の漏れを最小限にすることでドライバーの「加速したい!」という意図に即座に応えるターボ高効率化技術、アブレダブルシールの採用が挙げられますが、フルスロットル時やサーキット走行でなくても、少なからぬ効果があるようです。
またGT-Rといえば、VDC(ビークルダイナミクスコントロール)やサスペンション、トランスミッションのモードをスイッチひとつで切り替えられますが、それで「Rモード」を選択した際のシフトスケジュールも変更されています。
例えば、コーナー侵入時の減速時には、積極的に低いギヤが選択されるようになりました。また同時に、弾けるようなエキゾーストサウンドがキャビンに響くような演出も追加されています。いずれも大きな変更ではありませんが、パフォーマンス面はもちろん、スポーツカーを操る上でのテンポやワクワク感という意味においては、効果的な変更といえるでしょう。
その他、2020年モデルでは、ハンドルを切った際の応答性や乗り心地の向上を図るなど、サスペンションセッティングが見直されたほか、ブレーキもブースター特性を見直すことで、踏み始めの効き感を向上させながら、高いコントロール性も実現しています。
■これまでの熟成の知見が次世代GT-Rの開発に役立つ
今回の試乗では、ワインディングや超高速域を試す機会はありませんでしたが、2020年モデルは街中や高速道路といった一般的な用途でも「あぁ、進化しているな」と十分に実感できました。実は2017年モデルへ進化した際も、「随分と乗りやすくなったなぁ」と感じていたのですが、市街地での乗り心地や騒音の面においては「500馬力級のスポーツカーにこれ以上の“何か”を望むのは酷というもの」と、目をつぶっていた部分もあります。
それらは例えば、舗装の荒れた道でフロント255、リア285という太いタイヤが拾うザラザラとした感触や、極低速域から加速や減速を繰り返す時のエンジンの反応、そして、リアシート下に収まるトランスミッションが発する、かすかなメカニカルノイズなど。いずれも、スーパースポーツとしては決定的なネガではありませんし、「それもまた味のひとつ」といい切っても問題ないレベルでした。しかし2020年モデルでは、特にアナウンスこそされてはいませんが、こうした小さなトゲのような部分にもしっかり対策が施されていて、扱いやすいさや走りの質感が向上しています。
筆者の感想としては、こうした些細な部分に改良を加えることで、GT-Rはプレミアムスポーツカーとしての価値がさらに向上したと思いますし、こういう改良こそまさに、熟成と呼ぶにふさわしいものだと思うのです。
また、デビューから10余年を経て、こうした改良に応えることができるというのは、いかにオリジナルの設計が素晴らしかったかの証拠でもあるでしょう。フルモデルチェンジを望む声も多く聞こえる昨今ですが、一流プレーヤーであり続けるべく、じっくり改良を加え、育てることで得られた“熟成の知見”は、きっと次世代GT-Rの開発にも役立つのは間違いありません。
最新スペックの2020年モデルは、ワインでいうところの“ビンテージ”、すなわち、現行のR35型を代表する最良のGT-Rとなる資質を秘めています。
<SPECIFICATIONS>
☆プレミアムエディション
ボディサイズ:L4710×W1895×H1370mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3799cc V型6気筒 DOHC ツインターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:570馬力/6800回転
最大トルク65.0kgf-m/3300~5800回転
価格:1232万9900円
(文&写真/村田尚之)
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